子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン 作:千佳のはんぺん
「ケダモノなのはお前の方だよ八尋」
「はいウザイ〜」
家に帰ってきた八尋に用意した飯を出すと、珍しく八尋の方から話題を振ってきた。何かと思えばコイツ、友達の弟とヤっちまったらしい。
何があったか、その流れは聞いた。聞いた上で意味がわからんかった。なんでちょっとムラついた程度で手ぇ出すんだ? 本当に貞操観念どうなってるんだ。
「お前よ、前々からちょっと男に対して警戒心無いと思っていたが、それどころか男好きだろ。男漁りしてるだろお前」
「してねぇよ!」
「じゃあ説明してみろよ。保健室で寝てたら元カレとのセックスを思い出して少しムラつく。これはギリ分かる。いい所で止められたからずっと悶々としてる。これもミリ分かる。だから知り合いの弟とやる。ペタキチガイやんけ」
「キチガイじゃないやい!! シコってる最中に親が部屋きたら萎えるやろが!! ムカつくやろが!?」
「おうムカつくな。じゃあなんだ、お前は自分の父親誘ってセックスするんか? 遺伝子濃いのぉ。奇形児の誕生じゃ」
「着床させてんじゃねえよたわけが。違くて、その苛立ちで相手にちょっと意地悪してやろうって思っただけやろー!?」
「分からん分からん、ムカつくから意地悪してやろうは何故? そこでブレーキがかかるはずなんよ。車検通せよお前」
プンスコ怒る八尋にそれはおかしいと繰り返し伝える。コイツ、もう普通に痴女だろ。
「てかヤるつもりなんかなかったし!! ちょーっと胸触らせてビビらせて『あぁ、鹿狩さんの胸柔らかかったな。また触りたいな……』って悶々とさせる日々を送らせて思春期加速させてやろうとしただけやし!!」
「気持ち悪お前。年下にそんな十字架背負わせようとしたのかよ。てか、その流れでヤるに至らん男がおるわけないやろ」
「なんでじゃ! 胸触る程度でヤりたくなるか!? 猿やんけ!」
「お前な……なんつぅか、本当に自分を見直せ。まず容姿から見直せ。いつまでもその無自覚なままだと、本当にその内取り返しつかん目に遭うぞ」
「なんのこっちゃ」
「レイプ、セクハラ等々、女は本来もっと危機感持って生きてるものなの。お前はなんなん、危機感のきの字もないやん」
「あってたまるか。女々しいわ、舐めんな」
「男にヒィヒィ言わされてるのは女々しくないと?」
「……ぐう」
ようやく怒りではなくしゅんとした表情になった。全く、コイツには客観視する能力が欠けすぎているな。他人の嫌な事とか抉り出すのは得意な癖に、自分の事には無頓着かよ。性格悪すぎだろ。
「はぁ……これから、しばらくお前は性的な事を一切断ちなさい。ハニートラップも無し、いいな」
「よくない!」
「よくないじゃねえよぶん殴るぞ」
「よくない! 毎日ムラムラするんやもん! オナ禁は死ぬ!」
「そんな女おる? 聞いた事ないけど」
「マジなんやもん!!」
「えぇ……その性欲も、なんだ、運動とかで発散しなさい」
「だから運動してるんやろが」
「マット運動は禁止じゃアホ。そうじゃなくて、ランニングとか筋トレとか、そういうので発散しろや」
「はぁ〜? はいはい、出た出たそういう事を簡単に言う男。あーあ、嫌んなっちゃうわ」
「トマト鼻に突っ込むぞ」
八尋はアメリカ人のような仕草でやれやれ、と呆れた動作を見せた。コミカルなのがまた憎たらしい。
「私の胸で運動しろとかマジで言ってんの? ランニング? 靭帯逝くわ」
「スポブラしろよ」
「それでも揺れるんだよ。運動は嫌だ、私の完成された贅肉ボディが悲鳴あげる。死ぬ」
「いや時々してるやんけ。それを毎日に変えるだけやろ、何がそんなにダメなんだよ」
「そこまでガチりたくないだろ筋トレに〜! 体型維持のためにやってんの、それを超えるモチベーションは無いっつの」
「あっそ。なんにせよ性的な事は禁止しろ。1ヶ月でいい、とりあえず厳禁だ。お前の性欲はいらん騒動を起こす火種にしかならん」
「え〜……」
箸を進める。
ったく、なんなんだこれは。俺は父親か何かか? なんで自分を匿ってくれている少女にこんな説教をしなきゃならんのか、頭が痛くなるわ。
「……じゃあ、廻君がどうにかすればいいよ」
「はいその少し無言になった後に厳かな口調で相手を求めてる風な印象を抱かせるセリフも禁止。お前な、その手口俺に通じると思ってんのか?」
「うがーっ!!! なんだよー雰囲気壊すなよ!! いいだろ私可愛いだろー!!!」
「顔が良いからと言ってそういう事をしたくなるかは限らんだろ」
「そんなに嫌なのかよ! 前に一回したじゃんっ、何回やっても変わんないよ!!」
「変わるだろ。居候がJCとセフレ、この文面文字に書き起こしてみろ。新聞の一面記事やんけ」
「いいやん。私の肉便器なってや」
「俺が肉便器マジ? この場合お前じゃねえの? 男に便器は充てられんだろ。便所ブラシやろ」
「どうでもいいわ! 私特殊な出自してっから、多分それ関係で性欲狂ってんだよ!! なぁ頼むよ廻君!」
「俺はお前の専用ディルドじゃねえの。我慢なさい、見境ないケモノになったら人間お終いですよ」
「もう佐藤に処女膜ぶち抜かれてる時から終わってるよー!!」
「それはちょっと相手が可哀想だろ」
まあ、確かにコイツ、処女捨ててから何かが吹っ切れて止められなくなったとは言っていたが。
今まで抑圧してきた分、最初が予想以上に好みだったからハマってしまったみたいな話なのだろうか? まだ若いのにそれだったらかなり引くな……。
「で? その後どうなったんだよ、小刻くんとやらと」
「……付き合う事になっちゃった」
「………………はぁ〜?」
呆れてすぐに言葉が出せなかった。間の抜けた息しか出なかった。コイツ、本気で言っているのか?
八尋の方も八尋の方で、顔に手を着いて「うぅ」と唸っていた。
「どうしよ〜……小鞠とびみょいのに」
「本当だよ。今のお前、人と付き合う余裕ないやろが。なんでそんな流れになったんだよ」
「告られたんだよ……」
「振れよ」
「振れなかったんだよ!!」
「なんで。授業中だったんやろ? 面と向かって振ればよかったやん」
「……」
八尋は頭を振ったあと、コップの水を一気に口に流して溜飲を下ろした。表情は暗い、というか赤い。耳まで。
「……胸触られた後、押し倒されたんだよ」
「だろうな」
「そのまま、その……させられるやんか」
「だろうな」
「気持ちよくって……声とか、押さえてらんなくて……その前の事もあったから」
「初めてで女をヨがらせるとか弟くん凄いな」
「いや、多分私が弱いんだと思う」
「だろうな」
「だろうなじゃねえよ」
口を尖らせた言い方で怒られた。だろうなだろ。すぐ喘ぐしすぐ絶頂するしマゾやし、相手が年下だろうとお前が勝てるビジョン浮かばねえよ。保育園児とヤッたとしてもストレート負けするやろ八尋の場合。とは、言わないでおく。
「で、その、言っちゃったの」
「あん? 何を」
「……あぁああぁ、馬鹿みてぇ馬鹿みてぇ。くそっ、恥ずっ!!」
「おーおー勝手に1人で思い出し悶絶すんな。話の続きしろ。なんて言ったんだよ」
「よくエロ漫画とかAVとかで言ってんだろ! そのっ、この……好きぃ! みたいな!」
「あー。このちんぽ好きーみたいな?」
「なんでハッキリ言う!?」
「そういうの現実で言うやついるんやな」
「いるだろ! 俺じゃなくても言うやつ居たし、言った方が興ふっ……なんでもねぇ」
「言った方が興奮するんだな」
「死ね! ……で、その、それで、勘違いされちゃったっぽくて」
「ほう」
ちんぽが好きぃで勘違いするか? 自分の事ちんぽって呼ばれるのに抵抗ないのかその弟くんは。ぽとうとくんって事か?
「そこで、『俺も鹿狩さんの事好きです! 付き合ってください!』って言われて……勿論断るつもりだったんだけど、ズンズンしてくるから、うまく言えなくて」
「言えなくてというかなんというか」
またどーせひっくい嬌声で唸ってたんやろな。あのモードに入っても声は聞こえてはいるんだな、てっきり理性飛んでるのかと思ってたわ。
「でも授業もそんな長くないし、初めてなら弟くんやって長くは保たんかったやろ。終わったあと改めて断ればよかったやろ」
「……断ろうとしたら、乳首噛まれて。乱暴にアソコ混ぜられて、イッちゃって」
「うわぁ」
「もう一回断ろうとしたら同じように……で、なんか二回戦始まって」
「訂正するわ。弟くんも猿だな。二匹とも猿。猿の番」
「殺すぞ」
「おっ、意趣返し」
飯物を食い終えたので桃を齧る。美味いの〜、旬の桃は甘みの化け物だ。
「そんな感じで、断ろうとする度にぐちゃぐちゃにされて。でも今回は本当にダメやって思って、頑張って耐えてたんよ」
「お? 痛みと快楽に堕ちんかったと。ドMにしては珍しいな」
「ドMにしては珍しいな? ドM全体への風評?? つか私マゾじゃねえし!」
「言ってろ」
「やばコイツ。で、続き話すけど。私と付き合ったら絶対後悔するって言ったし、それでも食い下がるから、他の人とエッチしてるし、これからもするかもって言ったんだぜ?」
「残酷すぎるな。だがナイス判断だ。断り文句としてこれ以上ないくらい最低な宣言だな」
「……なんだけど、小刻くん私を抱きしめながら『最後に一緒に居てくれたら十分です。鹿狩さんが何してても、俺はずっと好きでい続けます』って言ってきて」
「口説き文句もこれ以上無いくらい本気だな……」
「その後……好き好き言いながら、愛してるみたいなこと言われながら……その、中に出されてまって」
「不穏な空気だぞ?」
「で、彼女なるって、言っちゃった……」
「あぁ快楽堕ち……」
ペチンっと自分の目から額に掛けてのラインに手を置き天を仰ぐ。この女は自制ひとつ出来んのか。将来で心配でならない。
その時の事を思い出しているのか八尋は顔を赤くし、手に頬を当ててニヨニヨと笑っていた。
女々しいだとか女みてぇだとか、女らしさみたいな物を軽視する言い方をよくする割にコイツそこらにいる女より余程尻軽い女ムーブするよな。自分で自分の事嫌になったりしないんだろうか。
桃も食べ終え、シンクに食べ終えた食器を運んでいく。八尋の分もついでに片してやると、俺の作業と並行して八尋はコーヒーを入れ始めた。
「どうすればいいと思う? 廻君」
「なにが」
「小刻くんの事。付き合うってなっちゃったわけやん?」
「知らねぇよ。他人の恋路に口を出しません。いいんじゃねーの、セックスきっかけとは言え、ときめいちゃったのは事実なんやろ」
「……」
八尋の顔が赤いままだが困ったような表情を作る。こんな簡単に人を好きになってもいいのか、そんな類の葛藤を抱いている表情だと思われる。
「別にそれが悪いとも言わんやろ。ちょっと頭緩いなとは思うが、そこまで徹底的にしてくるって事は弟くんもそれなりに本気だって事やろし」
「かなぁ?」
「だろ。案外小刻くんとやらの方は前々からお前の事が好きだったのかもよ? それで、お前が偶然エロいイタズラしたせいで、引っ込みがつかなくなったみたいな」
「ないない。それはないよ」
「ないのか?」
「んー。だって私何度か朔月家行ってるし小刻くんと隣同士で座ったり寝転がったり、なんなら寝たりしたこともあるけど、毎回その更に弟くんと遊ぶ為に途中で離脱するから、好きってなるほど一緒には居ないでしょ」
「えっ。寝たりっておまっ、前からヤッてたん?」
「国語のテスト70点取るのムズいタイプのアホ? 違くて、夜通しでゲームしてて気付いたら寝てるみたいな。それでよく頭ごっつんこしてるんよ」
「あ、そういう……」
いや、にしても青少年のメンタル的にはあまり良くない距離感にいた事は間違いないけどな。八尋側がそういう気が無かっただけで、やっぱり弟くん側は八尋の事好きだったやろ。
「お前は本当、何から何まで悪女よな……」
「うん? どこでそんな話した? 急な悪口???」
目をクワッと開いて俺に圧を掛けてくる八尋だったが、食器を洗い終えると顔を普通の眠たげな表情に戻して俺にも淹れてくれたコーヒーをソファの前に置く。
ソファに座りコーヒーを少し飲む。すると八尋は俺の直ぐ隣、肩と肩が当たるほどの近くに腰を下ろしオレオの箱を目の前に出してテレビのリモコンを弄り始める。
「それ。その近さな。お前の問題は」
「んー? あむっ、んぐんぐ。……ふぅ。なに?」
「他にも椅子空いとろーが。なんで隣に座んだよ一々」
「え、傍居たいやん。人居ったら」
「はあ?」
またいつもの逆ナンパ口八丁かと思ったが、今度の八尋は特に何も考えていないかのような、スンとした顔で俺を見ていた。
少し間が空いて俺からの言葉がない事に不思議に思ったのか、八尋は少しだけ笑顔を作り「ん?」と首を傾げた。
可愛らしい仕草だ、八尋本人としては特に意図したものは無いのだろうが、これをされたら好きなんだと錯覚してもおかしくないと思えた。
……妹がよくしていた仕草と同じだ。女性が好んでいる相手にする共通仕草なのだろう。それを素で誰にでもやれてしまうから、コイツは駄目なのだ。
「……そういうのが、男を勘違いさせるんだぞ」
「んー? 勘違いとは」
「お前のそれ、男が食らうと自分の事好きなのかって思うんだよ。そういう風に出来てんの、悲しい事に」
「私は廻君の事好きだよ?」
「おい俺にまでそれやるのか? もういいだろ、俺はもうお前の手駒だぞ」
「はぁ? よくわかんな。勘違いじゃなく、私本当に廻君の事は好きだよ? 幸太郎や都子にも頼れないし、今私が一番頼りにしてるの廻君やし」
「やめとけよ……」
「んぎゅわっ!?」
これ以上何を言い出すか分からなかったから顔を掴んでクシャってしておいた。柔らかい頬肉が指に押されブニュッとなる。喋れなくなった八尋は手をわちゃわちゃと動かしていた。
「まっ、怪我の功名って事にしとこっかなー。小鞠いじいじに利用出来るかもやし」
「あ?」
まるで今日の天気を思い出すかのように、なんでもない口振りで"利用"とか言い始めた。たった今まで耳まで赤くなって、恋する乙女みたいな顔面してたのに。
「お前、また変なこと企んでんのか」
「変な事って?」
「その、小鞠? ちゃんへのいじいじとかなんとか。彼氏くんのお姉さんは報復相手から外れないんか?」
「? 普通は外すもんなん?」
「知らんけど、でもそこまで平然に言われるとちょっと引くぞ」
「ふーん。でも、相手の家族を1人味方に付けられたんならさ、何をするにも楽に事が運びそうやん?」
「効率かよ。なにお前、小刻くんのこと好きじゃねーの?」
「……っ」
あ、赤くなった。
「……ノーコメント」
「はいはい。で、その反応ができるのになんでそうアッサリ相手の身内を陥れる思考にシフト出来るわけ。お前、小鞠って奴嫌いなん?」
「なんでよ。好きだっつの。めちゃんこ」
「アレー矛盾〜」
「矛盾してないよ。てか、報復って言うのは形式上そう言った方が筋が通ってるからであって、別にいじめの仕返しをしたいとは思ってないし」
「言ってたな。でもそりゃ無理あるだろ。ここまで人を傷つけといて」
「なんで? 私へのいじめが始まるように、私を憎みやすそうな人らに目標絞ってコンプレックスを刺激してたんだよ? 復讐とかアホでしょ」
「マゾやんけ」
「マゾかなぁ!?」
何を言い出すのかと思えば。八尋の顔を伺おうと覗き見たら、彼女は旅ロケ番組を見て「うぉー! 美味そ」って地酒レビューを見てウットリしていた。誤魔化しの強がりなんかじゃないのか?
本気で虐められる為に行動を? んなわけない……とも言いきれないか。いじめられる前から俺を手元に置いてるんだもんな。
「……ちょっとヤニ吸ってくる。一旦退いて」
「あいあい」
動線上にいる八尋に退いてもらい、家を出てタバコに火をつける。エアコンの効いている空間から1歩出ると暑さと湿気で肌がベタついた。不快な夜だ。
「あ、廻さん。こんばんは」
鈴虫の声を聴きながら山の方を眺めていたら、背後から少女に話し掛けられた。堀口という、八尋の奴隷の一人だった。
「やあ。こんな時間にどうしたの」
「
「場島?」
「新しい奴隷です! 今日初調教だったんですけど、鹿狩さん心ここに在らずで。代わりに拷問を真似てみたんですけど、飴と鞭? が難しくって……」
「あー……そういうのは真似でやっちゃ駄目だろ。八尋のマインドコントロールは、なんつうか特殊だからよ」
「凄いですよね! 尊敬しちゃいます! あたしも鹿狩さんみたいに人を操れるようになりたいな〜!!」
この人頭イカれてしまっているのか? 人を操れるようになりたいって。病み過ぎだろ。
「八尋みたいにはなれんよ。アイツ他人の事コンプレックスとか、そういう疵みたいな所しか見てねえし。その疵に塩を塗り込む為に、必要とあらば体を売るし怪我だって負うし。わざと殴らせたり。キモいぐらいの執念がなきゃやれんでしょ」
「そういう泥臭い所がいいんです! 真摯に相手と向き合ってると言うか!」
「歪みでしかないんだよなぁ」
八尋の考えてる事も分からないが、この子の思想も理解出来なさそうだ。ちょっと八尋の事をよく見すぎている、尊敬とかじゃなくて信仰だな。
「ま、分かった。要件は八尋に伝えとくよ。もう遅いし帰りな」
「はい! よろしくお願いします!」
ガバッと直角になるくらいのお辞儀をされた。八尋のボディーガードしてるせいか、俺まで若干変な理想持たれてないかこれ。周りの人間関係が女子中学生ばかりだ。嫌だなぁ、同年代とどんどん溝が深まっていく。
「あっ! 待ってください!」
「はいはいはい」
タバコを消して家に戻ろうとしたら堀口さんに呼び止められた。
「廻さんも、鹿狩さんとエッチしたんですか?」
「……何の話?」
「答えてください! 正直に!」
「え、いや……通報とか、したりしないよね?」
「! そういう心配するということは、したんですか!」
「堀口さん。外だぞここは。静かに」
慌てて口に指を当てシー! とジェスチャーをすると、堀口さんは声をボリュームを下げて言葉を続けた。
「あたし、鹿狩さんみたいになりたいんです!」
「あんまり共感出来ない話だ」
「いいんです、廻さんに共感して貰えなくても。……私だって鹿狩さんみたいに、人に暴力を振るえるし、演技だって、今頑張ってますし。辛い事、笑えない事を笑えるように、頑張ってますし。でも、私、男性が苦手で……どうしても、今のままじゃ似せれない所があって」
「似せれない所? 顔とかか?」
そう尋ねると、彼女は「それもですけど」と頭を振りながら言った。
「……あたし、処女なんです」
「……堀口さん。よく考えてくれ」
「鹿狩さんみたいになるには、処女のままじゃダメだと思うんです」
「堀口さん、悪い影響だぞそれは。落ち着いて」
堀口さんは俺からスマホを奪うと勝手にLINEを開いて、勝手に自分のアカウントを友達登録した。
その一連の作業を終えると、目を伏せたまま俺にスマホを返してきた。受け取ろうとしたら、その指に指を重ねられた。
「一回だけでいいんです。処女さえ捨てさせてくれたら、後は自分で頑張ります。だから、どうか最初の一回、あたしに色々教えてくれませんか……?」
勘弁してくれ。相手は女子中学生、しかも八尋とは違って弱味も握られていなければ願いを叶えてやる義理もない。聞いてやる道理が無いだろうよ。
「堀口さん。俺は」
「いいじゃん。シてあげなよ、廻君」
「八尋……」
いつの間にか外に出ていた八尋が俺らの近くに歩み寄ってくる。手にはスマホを持ち、何処かに連絡を送った形跡があった。
「罰ゲームの指示を出したよ。明日私が直で行くからそれまで拉致監禁、親御さんにも連絡済み。ありがとねー堀口さん。ここまでおつかれ」
そう言って八尋が飲み物を手渡す。酒だ、どう考えても。堀口さんも多分それを分かった上で、目を蕩かせてコップの中身を一気に飲み干した。
「ふぅっ……ん……っ!」
「何飲ませた?」
「スコッチにバーボン。ほんのちょっぴりアマレット〜」
「……ゴッドファーザー? ガキに飲ませんなよ」
「いいだろ〜甘くて美味しかろ。でも一気飲みするとは。大丈夫〜?」
「う、うん……ふぅっ!」
堀口さん、暗くて見えないが絶対顔赤くなってるな。フーフーと呼吸も荒くなってるし、こりゃ完全にアルコールが回っている。
「今日、泊まってくよね。堀口さん」
「おい八尋!」「泊まってくよぉ、鹿狩さんちぃ」
堀口さんが八尋にしがみつきながら言う。身長差の関係で八尋が上から覆いかぶさられてる形になるが、八尋は頑張って爪先立ちになり精一杯手を伸ばして堀口さんの頭を撫でていた。
「ちゃんと親にも泊まるように言った?」
「ん〜大丈夫。心配するような親じゃないし、帰らないってわかってるだろうし」
「あはは。最初から泊まる前提だったんだ? 強引だねぇ」
「あたし、よく家出してるから。今日もネカフェに泊まろうと思ってた」
「闇深ぁ」
八尋が目を丸くし驚いていた。中学生が寝泊まり出来るネットカフェ。『熱帯林』か。あそこ、管理が杜撰だから家出少年少女らの巣窟になってるものな。洗脳される前から非行少女だったわけだ。
「さっ、二人とも、家の中入ろっか」
「おい八尋、俺は」
「廻君。廻君は私の手足だよ? 奴隷よりも自由ないんだから、ガチャガチャ言わないの」
「そうは言ってもな」
「お兄ちゃん。お願い」
八尋が服の襟に人差し指を引っ掛けてきて、表情が分かる位置まで手繰り寄せられる。コイツの俺に対する弱点攻撃だ。
コイツは俺の妹と似た笑顔をする。それは素で似ているという事ではない。
色んな子供の写真を見て、少しずつ顔を真似て、俺の瞳孔の動きや反応を見て、一番動揺を隠せなかった顔を記憶した。
何度も妹が兄に言いそうな言葉を吐き出し、俺の反応が強かった笑顔を見せて、俺の過去に探りを入れて、一番苦しい反応をした顔や言葉を、雰囲気を完璧を模倣したのだ。
ハードウェアを完全にそっくりそのままにすれば、内面は多少荒くともパッと見では分からない。だと言うのに、八尋は中身が空だから、内面すら模倣できてしまう。まるで、全てがオリジナルと変わらない状態で複製された、スワンプマンのように。
「お兄ちゃんは私の為に悪い人になったんだよね」
「違う、お前は……八尋だろ、ふざけた真似するな」
「そっか。じゃあもうお兄ちゃんはいいや」
「は? いいって」
「いらない。お願いを聞いてくれないお兄ちゃんなんてもういらない。どこにでも行っちゃえ、お菓子食べてるもんねー」
二人が家に入っていく。八尋は妹の顔を貼り付けたまま、その顔のまま失望した顔を俺に見せた。
見限られた? こんな事で? 散々、働いたのに、それは困る。それは……。
もう、
「ま、待ってくれ!」
家に入る。すると、八尋は分かっていたかのように玄関に立っていて、俺の腹に顔を押し付け抱きついてきた。
「
「八尋だよ。私」
「あ……」
「怖かった? 怖かったね。ね」
八尋は俺を掴んだまま後ろに下がる。八尋の手に合わせて俺の体が前傾に、そして膝を床につけ、しゃがんだ状態にされ八尋と目の高さが合う。
「廻君からは何も真似ようだなんて思ってないから。意思を持つな、鬱陶しいんだよ」
八尋は、未だに妹の顔を貼り付けたまま、感情のない目をしてそう言った。力が抜ける、震えた手を、他の人間になら優しく掴んでいた所であろうが、俺には何もせず踵を返して廊下をパタパタと歩いていった。
「でも初めてが廻君でいいの?」
「こんな事、鹿狩さんに近い人にしか頼みたくなかったの」
「そうなんだ。じゃあ折角だし3pする?」
「……」
「はいあーん」
ソファに座らされ、口に酒を含んだ八尋に口付けされ中身の酒を飲まされる。堀口さんが飲んだのと同じやつだ。
八尋は自分の口の中の酒が無くなったあともしつこく俺の口を貪ってきて、喉をアルコールが焼く感覚を麻痺させられて強引に一気飲みさせられてしまう。
「ゴハッ! はぁっ……!」
「はい堀口さん。あーん」
「あぁ……んっ、ゴボッ、んっ……く。んひぃ、ひひっ」
「おいし?」
「おいひぃ」
「堀口さんのベロは美味しいかなぁ〜」
「ぐうっ!? あくっ」
八尋が俺を足蹴に、俺の腹に膝を乗せて足場にしながら、俺を挟んで女子中学生二人がディープキスを始める。
目の前で二人が舌を絡め合い、八尋が口に含んだ酒が堀口さんの口からこぼれ俺の顔に滴り落ちてくる。八尋が堀口さんにグラスを渡し、俺の顔の上でベロを出して「あーん」と堀口さんを挑発すると、彼女も酒を含んで八尋の口にそれを注ぎ込んだ。
二輪の花が、互いをツタに絡め合うように。俺を挟んで異常な愛を育み続ける。
人生観が壊されて狂気に堕ちるしかない女の愛と、受けた愛をそのままの形で返す事しか出来ない女の愛。
その二人に足蹴にされているのに、八尋が堀口さんから愛を受ければそれを同じ割合で俺にも返し、八尋が俺を冒せば堀口さんもそれを倣って俺を犯した。
女の地獄。愛の地獄に体が引きずり込まれていく。一度入ったら出る事は適わない汚泥の水位が増し、俺の体は更に深みへと沈んでいった。