子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン 作:千佳のはんぺん
「みゃーこ、久しぶり」
転校初日あるあると言えば、授業合間の休み時間にクラスメートに質問攻めに遭い、そこで今後仲良くなる人間と会話をしたり、その後の立ち位置の方向性が決まってくる弄りをかまされるのがセオリーだろう。
その有り触れた常識をぶっ壊し、俺は2限目の数学が終わると即座に席を立ち、先程俺にガンを飛ばしていた都子の席まで歩いてきていた。
ちなみに俺の席は窓際の1番後ろの席で、都子の席に着くまでに何人かクラスメイトに話しかけられそうなところを、コンビニでレジを抜かされる陰キャの覇気を纏う事で回避した。
「久しぶり。驚いたぁ、可愛くなったんだね〜鹿狩くん」
そう言いながらこちらに振り向く彼女の顔は、俺の知る快活で純粋な、少し馬鹿っぽい表情を浮かべる彼女のイメージとは全然違っていた。
俺の知る彼女よりも冷たくて平たい。すぐイタズラを仕掛けたり怒ったり笑ったりする単純な少女の面影はなりを潜めているようだ。
「みゃーこ、なんか変わった、ね?」
「鹿狩くん程じゃないよ〜。いきなり消えたと思ったらそんな姿になっちゃってさ」
「あはは……そっか。そういえば、プールの約束。結局破っちゃったっけね」
「プール? なにそれ覚えてな〜い。てかさ」
都子の声が1段階低くなる。
「私の事、みゃーこって呼ぶのやめてくれない? いい歳して恥ずいんだけど」
「そっか。確かに、それもそうだね」
まあ呼び方に関しては一理ある。
都子を砕いた言い方でみゃーこって呼んでたのは偏に小学時代、滑舌がモロモロすぎて都子ってちゃんと発音できなかったのがきっかけだ。それ以降も子供だから呼び方の件で羞恥心とか抱く事は無かったが、子供っぽすぎるこのあだ名は歳を重ねれば呼ばれる事に抵抗が出来るのも必然か。
「じゃあこれからは都子って」
「……なにそれ」
「何が?」
「いや? そっちもなんか変わったね〜って。まあいいや。呼び捨てもやめてくれない? 私達、今はそんな仲良くないんだし」
「え、仲良く……っ、無いことはないんじゃないかなぁ?」
「仲良くはないでしょ。長い間音沙汰もなく消えた相手とか関係値も無くなるでしょ」
「そうですね……」
「え、都子ちゃんと転校生って知り合いなの?」
都子と話していたらその後ろの席に座っている先程のギャル、朔月小鞠が話に割り込んできた。ちなみに前の世界では朔月小鞠と俺はあまり関わりはなかった。友達の彼女とか、そんな感じの間柄だった気しかしない。
正直、少し気まずい空気が出始めていたのでこのタイミングで茶々を入れられるのはナイスだ。
「知り合いってか昔馴染みだよ。ね、鹿狩くん」
「まあ、そう、だね」
「へー? あ、八尋ちゃんさ!」
いきなりのちゃん呼びである。コミュニケーション能力高いなーこの子、ここまで図々しく初対面の相手に話しかけられるやつ、好き嫌いが分かれるぞー。
「さっきから気になってたんだけどさっ、元々男子だったって本当? 都子ちゃん言ってたもんね!?」
「えっ、あ、まあ」
「あはは、何どもってんのさ鹿狩くん。本当の事でしょ? 正直に本当だよって言えばいいじゃん、嘘つく必要も無いでしょ」
どう返したら一番丸い言い方になるか、変な誤解を招かないような言い方を詮索していたら都子がほくそ笑みながら横槍を入れてきた。なーんでそんな嫌味な笑顔で言うかね、心象わりぃや。
「本当だけど、これには深い事情があって」
「事情? それってどんな?」
「簡単に言うと不治の病的なのにかかっちゃって、元の体が……」
いや待てよ? 普通に説明しようとしているが、俺が受けた手術って子供の感性からしてみたらどう考えても受け入れ難い、気持ち悪くなる類の話だよな。
だってそうだ、俺自身疑問に思った事だが。脳みそだけ前の体から持ち越したって言ったら、じゃあ厳密には八尋とは違う別人じゃんって言われても、子供の価値観的には不思議じゃないもんな。
しまった、真にはぐらかすべきはこっちだった。もう話の頭は出してしまったし、ここから何も言わずに誤魔化すってのは通用しなさそうだ。嘘でもついてこの場を凌ぐか……!
「あれだ、男の体のままだと死に至る奇病的なのにかかってさ。だから、仕方なく長い年月をかけて女性的な体になったと言いますか」
「へー、そんな事が出来るんだ?」
「私もそんなに詳しくないんだけど、今の医学ならそのくらいは出来るらしいよ! そこまでする必要がある病気なんてレアだから前例はほぼないって言ってたけど!」
「へぇ〜! 医学の進歩ってすごいんだね! 私も変な病気とかにかかったら男の子になれるのかな?」
「どうだろう〜?」
絶対無理だ。この手術、維持費なんかも含めたらマンション数個余裕で買えるくらいの金が掛かってるらしいし。父親の莫大な資金力があって、ドナーや血の近い使える体がなきゃそもそも実施出来ないと聞いたしな。
金の時点で一般家庭は躓くラインだし、資金面をクリアしてもドナーが見つかるかも分からないし、相性の良いベースとなる体、これを用意するのが1番難題だし。現実的じゃないと思う。
「へぇ、そういう設定かあ」
都子と朔月と会話をしていたら新たな女子が会話に混ざってきた。都子の2つ右隣の席の女子で、確か名前は
菊池紗理奈。朔月と同様俺とはあまり関わりのなかった女子だが、それでも陸上競技の大会で何度も何度もトロフィーを取ってる名陸上ランナーって感じで有名人だった為、若干印象は残っていた。
「設定って?」
「考えてみなよ〜小鞠。人間が途中で性別を入れ替えるなんて事出来ると思う? 整形なら形は変えれるかもしれないけど、体から心まで全部完全に変わるなんてあるわけないじゃん?」
心まで。いやまあ、余計なトラブルを避けるために一人称を私にしてるからそう思われるのは好都合だけどさ。なんか引っかかるんよな。
「そんなの分からないよ! 八尋ちゃんも言ってたもん、前例ないってさ」
「信憑性が薄いなあ。何か証明出来るものとかあるのかな? 鹿狩さん」
「えっ、証明? そんなの」
あるにはある。病院から渡されたカルテや報告書を身分証明の代わりとしてしばらく所持してるよう言われた書類が。
ただ、それは家にあって、つまりこの場では証明する方法なんて何ひとつも無いのだ。困った困った。
「あはは! 分かってるよ鹿狩さん! クラスに馴染むためのちょっとしたジョークだろ? 大方さ、昔はボーイッシュな感じで、都子は昔男だと勘違いしてたけどって事なんでしょ? で、都子が口にしたジョークをそのまま流用してるって事でしょ。分かってるって!」
「そうなの? 都子ちゃん!」
「え? 違うけど?」
からかうようにバンバンと俺の肩を叩き笑っていた、身長160後半ほどもある発育逞しい菊池の笑顔に対し、何言ってんのお前? とでも言いそうなくらいポカーンとした顔を浮かべた都子はサラッとそれを否定した。
面倒だからそこは肯定してほしかったなあ〜。
「だ、か、ら。本当に昔は男だったんだって。本人も言ってんじゃん、変な病気にかかったから仕方なく女になったんだって」
「いやだから、そんなのさ」
「ないってなんで言い切れるわけ? 私の言ってること、そんなに信じられない?」
うわ、なんでか分からないけどすごい圧。心底つまらなそうな顔をしながら強い語気で語る都子に、菊池は「ご、ごめん」と平謝りすると俺の肩から手を下ろした。
少しだけ、無言の空間が生まれる。
「何の話してんのー? 転校生ちゃん、やっほー」
「やっほー」
俺が動き出すのと同時に、トイレダッシュをして教室から出ていった男子生徒の
このクラスが俺の知ってるクラスと何の設定も違わなかった場合だが、八木航太はこのクラスの男子勢の事実上のリーダーである。筈だ。
勉強も出来ない訳じゃないが、不良グループに属しているため自主勉は勿論しないし授業もほとんど出ない。の癖に要領が良いせいかやろうと思えば良い成績を叩き出す。
そういう破天荒なのに実は有能ってのが女子的にストライクゾーンになりやすく、男子的には憧れを抱く対象なのだろう。
実は、過去の俺も八木航太につるむダチその1として共に行動していた事はあったから分かる、こいつがこのクラスで起きるいじめの大抵のきっかけである。
敵にならないよう行動したいし、出来れば極力関わりたくない。そんな相手だ。
「いやそれがさー」「あ、そういえばさっき都子さ、変な事言ってたよな? 元男がどうとかみたいな。あれ何?」
説明してくれようとしていた菊池さんの声が全く耳に入っていなかったのか、恐らく今彼女が口に出そうとしていたであろう話題を先に出す八木。菊池さんがスンとしてしまっている、可哀想。
「えっとね、なんか病気? のせいで女の体になっちゃったけど、実は男なんだよって話、だよね? 都子ちゃん、八尋ちゃん」
「そうだね」
「ま、まあ、そんな感じ……」「へぇ? なにそれ、君中身男なの?」
「え、ま、まあ」
「じゃあさ、証拠見してよ?」
「は?」
本当に自分のペースでしか会話が出来ないのか、俺の言葉を遮った後に八木は驚くような事を言ってのけた。
証拠を見せて。菊池と同じ言葉を吐いた彼だったが、菊池よりも明確な悪意、というより欲望がそこには含まれている。
彼は机に座ったままニヤニヤと、それはまた下卑た笑顔で俺を見ているのだ。
生まれて初めてだ。こんなに自分に対する視線を気持ち悪く思ったのは。
「ねえまじキモいんだけど」
八木が俺の方へ手を伸ばそうとした時、それを横から都子が叩き落としてくれた。
「痛っ、なんだよ都子?」
「あんた調子乗りすぎ。初対面の女子のスカートめくろうとする? 普通」
「そこが1番確認できるじゃん。別におかしくねえだろ」
「おかしいから。てか、確認するとか関係なしにセクハラ自体キモいからまじどっか行ってくんない?」
「そーだそーだ! 女の敵〜!」
都子の言葉に賛同した朔月、菊池と3人で八木が責め立てられる。八木は「なんだよ、ただの冗談だろ」とか吐き捨てながら遠くの席に座る自分のツレの集まりに合流していった。
「ありがと、助かったよ3人とも……」
「いえいえ」「全然だよ! 気にしなくていいからね、八尋ちゃん!」
「……」
菊池と朔月はそれぞれ俺に人の良さそうな笑顔で言葉を返してくれたが、ただ1人都子だけ何も言わず、俺の顔を少しだけ見ると鼻を鳴らしただけだった。
「あ、そういえばさ。幸太郎って今」「私らとばっか話してないで、他の子らとも話したらー?」
都子に幸太郎の話題を出そうとした瞬間、都子がその話題を明確に嫌うように言葉を遮ってきた。
何故ここまで違和感を感じるくらい下手くそな誤魔化し方をするのか分からないが、流石にここで空気を読まないと生まれた溝が埋まらなそうなのでここは彼女の言う通り一旦この場を離れる事にする。
「分かった。また後で話そうね」
「んー。そのうちね〜」
声には何の感情も載っていない。どうやら空白の3年間のうちに都子からちゃんと嫌われるか関心がなくなってしまったらしい。悲しいかな、折角再会出来たのにな。
「うぉお……」
給食だ〜〜〜!! 懐かしすぎんか、ちっちぇえパンにちっちぇえ卵スープ、牛乳瓶、そして淡白な味しそうなサラダ。デザート枠のフルーツポンチ。もう一生食うことないだろうと思っていた母校の給食のベーシックメニューの内の一つが目の前に展開されてるのを見て、不覚にも目を輝かせてしまった。
しかし、何故いきなりこれが机の上に展開されてるのだろう? 職員トイレから帰ってきたらいきなり机の上に飯が、俺は王族かなにかだったのか?
「あ、おかえり〜」
「ただいま〜。ねえ、これやってくれたの
「うん。中々帰ってこないから鹿狩さんの分も運んどいたよ〜」
そう言って朗らかな顔で笑うのは俺の前の席に座るちょいぽちゃ女子の今泉
四限までの休み時間でこのクラスの活発そうな子とはひとしきり会話し(というか男の頃も同じクラスメートだから大体どんな奴かは分かっていたが)名前を覚えた中で1番話し掛けてくれたのが今泉さんである。
俺は「ありがと〜」と言いながら一生懸命つま先立ちになり手を伸ばし頭を撫でようとすると、今泉さんも「えへへ」と言いながら膝を曲げてくれた。優しい。
「おいデブ泉、沢山食いたいからって少ない方を鹿狩さんに押し付けてんじゃねえよ〜」
俺がなでなでしていると俺の席とは逆サイド、廊下側の列の後ろの席に座っていた男子が野次を飛ばしてきた。
男の頃に少しつるみがあったから覚えがある。こいつは不良とか目立つ奴の後ろにやたらついてまわってた奴で、立場低い男女に率先してちょっかいをかけていた奴だったな。
休み時間中に皆に話しかけられているパートではあまり自己主張していなかったが、男子のリーダー格である八木航太らが居ないせいかいばり散らしている。
「そんな事してないし」
「してただろ。俺見たぜ? お前、持ってきた給食が自分より多いやつ選んでそっちと交換してたよな?」
「そ、それは……だって、鹿狩さん体小さいし」
するにはしてたのか、交換。まあ量なんてどうでもいいし勝手にしてくれていいんだけどさ。
「私少食だし気にしないよ。てかどっちかっていうと助かるかも。ありがとね、今泉さん」
「鹿狩さん……ごめんね、勝手な事して」
「いいよいいよ! お気遣いありがと!」
足りなかったら帰りにラーメン屋にでも寄ればいいしな。買い食い禁止の校則にも則ってるし、何も問題は見当たらない。
「あ、ちなみになんだけど今泉さんって牛乳好き?」
「え、好きだけどなんで?」
「実は私牛乳嫌いでさ。よかったら私の分も飲んでくれないかな〜って」
「! いいの!?」
「うん」
今泉さんの机に牛乳を置く。本音を言うとこのパンも味全然しなかった記憶あるから要らないのだが、女の子の席に料理をパンパンに乗せるのもどうかと思うのでそれは我慢する事にした。
「そんなんじゃ満足しないよ〜鹿狩さん」
辻井がそう言いながら、手に自分のと、数人分のパンを回収してきてそれをドンっと今泉さんの机に乗せた。
なるほど。あの担任は給食残したり戻したりするのをめっちゃ怒ってくる人だったもんな。不人気給食の処理はこうされていたのか、理解理解。
「これくらい食べないと腹膨れないよな? デブ泉」
「こ、こんなにいらないよ! しかもパンだけって」
「あん? なんだよ、文句あんのか」
辻井が凄むと今泉さんは押し黙った。口には絶対出せないが、今泉さんの方が辻井よりでかいのに。まあ相手は野球部だし、体は小さくても強いのは確かか。
しかし、やはりというか。どうやらこの世界"でも"、今泉さんはいじめに遭っているらしかった。
まだそこまで酷いことはされていないが、ここから少しずつエスカレートしていって、爆弾女だのボンバーだの呼ばれるようになって、絵を描いてる時に背中に蹴りを食らったり、ゴミを投げつけられたりするんだったよな。
ひぇー、中学生って怖いね。関わるだけ損なので静観の姿勢で見守ろうね〜。
「んもっ」
俺は今泉さんの机に乗ったパンを1個取って袋を空けかじりついた。久しぶりのパン、うまみ。
思ったよりも小さな噛み跡だ。こりゃ、給食を時間内に食べ終えるのも一苦労だろうなあ。
「んー、そんな不味くないけどな。辻井くんはこれ嫌いなの?」
「え? 嫌いってわけじゃないけど、味しなくない?」
「そう? 味はするよ、ほら」
俺は自分が食いかけたパンを辻井に差し出した。辻井が釣られて受け取ったパンをパクッと食べる。
「あ、間接キスだ」
「え? ……っ」
辻井の顔が一気に赤く……は、流石にアニメや漫画じゃないのでならなかったが、それでも照れが生じたようで彼は口早に「い、いやこれはいきなり渡してくるから、つい反射的に食べただけだし!」とよく分からない言い訳をし始めた。
「辻井くん反応かわい〜。女の子に意地悪するくせに、いじわるされたらそんな風にテンパるんだ〜」
「なっ、は、はい!? テンパってねえけど! ててか、たかが間接キッ程度でテンパるわけないだろ!?」
「うんそれは本当にそう。たかが間接キスでその反応は天然記念物だよ。おもれ〜、ガチキスした時どうなるのか見てみたーい」
「へぁっ?」
辻井の口が止まって、視線が俺の顔の若干下辺りをチラチラを見ている。彼の視界面積の半分が俺の顔面で埋まるように1歩近づくと、彼は面白いくらいに分かりやすく翻して自分の席へ戻って行った。パンを持っていたまま。
「あと3つか。この3つ、パンがない人の机に戻しに行くつもりなんだけど、今泉さんはパンは1個でいい? 実は隠れ好物だったりしない?」
「え、いいよいいよそんな事しなくても! 私全然これくらいなら食べれるし?」
「食べたいの?」
「食べたく、は……別にかな……」
「じゃあ戻してくるよ」
「あっ、鹿狩さん!」
今泉さんの声を無視してパンを各々に返しに行く。
いやはや、こういう出しゃばった行動する奴もそれはそれでいじめの標的になったりするわけだが。まあ俺ってばブレインは大人だし、自衛能力を駆使すればそんな事態を回避するのは容易いだろう。
平和にパンを返し終え、給食を食べ終えて午後の授業を受け、掃除をし。なんやかんやで本日の就学課程を終え、放課後になる。
「じゃあね、鹿狩さん。また明日!」
「うん、またね〜!」
高速でカバンに私物を入れ終えた今泉が挨拶してきたので、挨拶をし返したら有り得ん速さで教室から出ていった。
帰宅部エースというのはああいうのを言うのだろう、動きに余念も無駄も無かった。美しいと、そう形容する他に表す言葉が無いくらい完成された帰宅だった。
俺も俺で私物をカバンに入れようとしたが、まあ置き勉でもいいか。一々持ち帰るのも面倒だし。
給食袋とプリント類以外何も入っていないカバンを持ち、俺は都子の席へと向かう。
「都子、一緒に帰ろ」
「……はぁ?」
俺が言った言葉に、都子は意味不明という心持ちをそのまま顔に打ち付けたような表情で俺を見てきた。
「部活とかなんかやってんの?」
「ん、私バスケ部だし」
「じゃあバスケ部見学するから、今日一緒に帰ろーぜ」
「意味わかんないんですけど。なんでそうなんの。いきなり」
「いいじゃん、幼馴染だろー?」
「そんなの関係ないから」
俺の言葉に冷たく返す都子。やはり、何故かは知らないけどめちゃくちゃ嫌われてる。その理由をどうしても解明したいから付きまといたいのだが、JCの全力拒絶は褪せない純度100%の悪意しか感じられなくて怖いや。泣きそう。
「ま、まあまあ! あ、どうせだったら八尋ちゃんもバスケ部入りなよ! 仮入部! 私もバスケ部員だからサポートするし! それならいいよね、丁度部員少ないんだしっ!」
あまりにも一方的コミュニケーションが過ぎたのか、都子と共に行動するつもりでカバンを持ち待っていた朔月が仲介してくれた。
てか朔月さんバスケ部なんだ。爪長いしネイルしてるし、ドリブルなんか出来るのかその腕。絶対スタメンじゃなくて二軍球拾いポジだよな。
「ん、まあそれなら私からは言う事ないけど。でも鹿狩くん、今日体操服持ってきてないよね」
「え? うん、そりゃあ。体育の授業なんて無かったし」
「あ、そっか!? じゃあ八尋ちゃん、今日は見学しか出来ないね……」
「6時まで座って見学とか我慢出来んの? 無理っしょ」
げ、6時までなのか部活動。長ぇ、まだあと2時間半もあんのか……。
2時間半? 余裕じゃね? フルタイムでバイトをする事が多々あった俺に全く苦にならない時間設定なんだが。
「6時って最終下校時刻だっけ」
「6時半が最終だね。だから6時に切り上げて、30分で後片付けするの」
「あーそうだったそうだった。懐かし〜」
「……? まあ、もし見学するんだったら体育館シューズ持ってきなよ。上履きじゃ、体育館に入ってくるのも嫌がる子とか先生とかいるし」
そうなんだ。かかと潰した上履きで学校中踏破していたから知らなかった。体育館シューズって、使い所とかちゃんとあるのな。
「じゃあ今日は都子と朔月さんと一緒に帰りたいから2人を見学しに行くよ。2時間くらいなら二人を見てたらすぐだろうし」
「え、なになに〜? 八尋ちゃんってば、結構私の事ラブだったりするの〜? 今日が初めましてなのにめちゃグイグイ来るじゃん!」
「あはは〜。可愛いし面白いしめちゃくちゃ興味ありありだよ〜。何を食ったらそんなに萌えキャラじみた人格になれるのって感じ〜」
「照れちゃうな〜もう!」
なんて、朔月さんと子気味にじゃれていたら不意に彼女が俺に抱きついてきた。女の子のスキンシップであるような、正面からギューってするやつだ。
俺の身長は朔月さんより少し小さい。だから抱きつかれると彼女の肩が目の前に来て、後頭部に腕まで回されてしまうと、こう。成長途中の胸が押し付けられて大変な事に……!
「小鞠。それ、元男だよ?」
「えっ? あっ、そっか」
都子の忠告を聞くと、朔月さんはトンっと呆気なく俺を突き放した。
少しだけ距離が空く。そして、一瞬後に朔月さんは慌てたように身振り手振りをし、挙動不審な感じで言葉を続けた。
「あっ、ごめん八尋ちゃん! つい、その、元々男の子って考えたら、その、今のは流石にって……意識したら、えっと」
「あ、はは。いや、私の方こそごめん。あはは」
気まずくて笑って誤魔化そうとするが、朔月さんも同じようにしているせいで変に壁を作ったような一辺倒な謝罪文しか口に出せない。
なんか、自分が周りからどう思われているのか。その一端を今身に染みて感じた。
これは、中々にクるなあ。心が抉られて、胸の酸素が凝固して苦しくなるような気分だった。