※この作品はR-18です。

子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン   作:千佳のはんぺん

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いつの間にかR-18タグついてるーっ!?
もうエロ系のシーン終わりって思ったタイミングで付くとは、、、


ただのどっかの日常の一コマ『夜のプール①』

「あのな。流石に一度も参加しないとなると話は変わってくるぞ。今泉、それに鹿狩も」

 

 

 10月の初めだというのにこの地は日本でも屈指の高温多湿地域であるせいでうちの中学ではプールの授業が10月中盤辺りまで続いている。

 実施回数も残す所三回となった折、私と転校生の鹿狩さんは職員室横のカウンセリングルームなる場所に呼び出されていた。

 

 正面の椅子に座る体育教師である石川先生が腕を組み、呆れた顔で溜め息を吐く。

 

 

「その、なんだ。女子には女子の問題があるのは理解しているつもりなんだがな。……そんなに嫌か? 水着を着るの」

「先生、セクハラです」

「これはセクハラかー今泉。難しいな教師というのは、説教するのもままならん」

「よし。セクハラで訴えられたくなければ私達を大人しく解放しましょう。いいですよね、ねっ?」

「鹿狩。座りなさい」

「はぁい……」

 

 

 石川先生に笑顔で静かに注意された鹿狩さんがしょんぼりした顔で座り直した。

 

 私は、体型の事もあるけどとても人様に見せられる体じゃないからプールになんか出れるわけない。

 でも鹿狩さんは?

 幼児体型だけど本人は自分の体型に全く頓着していないみたいだし、じゃあ何を気にしているのだろう? 転校した頃に少し話したきり、この子とはあまり話してなかったというか、影で辻井にいじめられるようになって話す余裕が無くなったからあんまり人となりが分かってないんだよなー。

 

 

「はあ。で? 二人とも、何故そう頑なにプールに入りたがらないんだ? 理由を聞かせてもらおうか」

「セクハラですよ?」

「逆に聞くが何ならセクハラじゃなくなるんだ? 体育教師に何を求めているんだ? 聞かせてみてくれ」

「このまま何も聞かず見学の免罪符を発行して頂ければ無問題です」

「招集をかけた意味を失くすだろそれ。男女混合でプール授業ってのが時代錯誤だと俺も思うんだが、一介の体育教師にそれを言う権限は無いんだよ……」

「でも生徒には出席の強制を言い渡してくると。汚い大人ですね!」

「鹿狩ぃ、義務教育の意味から考えような」

「八木くんとか佐藤くんとか辻井くんとか笠原くんとかよくサボってる人達他にもいるます!!」

「アイツらな〜、個々呼びつけてぶん投げてはいるんだが、一向に更生しなくて困ってるよ。お前らも受けるか? 俺の一本背負い」

「暴力教師ー!」「体罰反たーい!」

「俺はフェミニストだからな。男性女性で扱いを分けないようにしてるんだ、あまり口答えすると視界が一回転する事を肝に銘じるように」

 

 

 言いながら石川先生は窓際に移動すると、窓を開けて勝手にタバコを咥え火をつけた。こんな密室で、学校内でタバコを吸う教師とかそれこそ時代錯誤じゃないか。

 

 

「有り得ね〜。なんでこんな先生がモテるんだろ、やっぱ女子って分かんないわ」

「はいそこ、俺への悪口は言わないこと。それと誰にモテてるって? そこら辺詳しく」

「きもー」

 

 

 確かに、私もイマイチ石川先生の良さが分からない。確かに顔はかっこいいけど、髪長くてなんかチャラいし。あと自分に懐いてる子とそうでない子への態度とかあからさまだし、三年生の人と付き合ってるだなんて噂も流れてるし。

 

 

「なーなー。てか先生ってさー」

「鹿狩、先生には敬語使おうな?」

「はーい。先生さんって、中三の人と付き合ってるってマジなん?」

「敬語知らないかあ。てかなんだその羨ましすぎる噂、詳しく聞かせろ!」

「良かった、デマだったみたい」

「なんなら事実にしてくれてもいいんだぞ? 鹿狩、今泉、大人の男に興味無いか???」

「パトカーの乗り心地だけレビューお願いしますね」

 

 

 なんなんだこのコント、私は何を見せられているのだろう?

 

 隣に座る鹿狩さんがチラッとこちらを見てくる。ジーッと見つめてくる。なんか恥ずかしいから目を逸らすと、肩をつんつんと弱い力で突っつかれた。

 

 

「な、なに? 鹿狩さん」

「食べる? 飴」

「あ……うん、食べる」

「おっけ。はい」

「ありがとうございます。じゃ、私からも、チョコあげる」

「え!? わーい!」

「なんで教師の前で堂々と菓子交換してんの? お前ら」

 

 

 石川先生を無視して鹿狩さんから飴を貰う。いちごミルク味の甘い香りが口の中に広がる、鹿狩さんもチョコを頬張り「ん〜!」と言いながらほっぺを押えていた。

 改めて思った、すごい可愛いなーこの子。元子役とか言われても全然信じちゃうくらいの美少女じゃん、なんで石川先生は私を無視して鹿狩さんにだけ話しかけないんだろ。美人は三日で慣れるってやつかな。

 

 

「で? いい加減次のステップ進もうや小娘共。なんでサボるん? 授業。俺の授業つまらないからは無しで」

「「先生の授業つまらないから」」

「フリに対する答えとしては完璧だがな。その言葉、かな〜り先生達気に病むからな。クソガキの相手なんざテキトーにこなしてる俺みたいな先生以外には絶対言うなよ?」

「本当なんでこんな奴慕われてるんだろ」

「今こんな奴って言った?」

「わひゃあぁあぁ離せーっ!!」

 

 

 鹿狩さんの頭に手が置かれ揉みくちゃにされる。セクハラ発言を気にする割に気安くボディータッチするんだなぁ。特に意識しない感じでやるから皆気にしてないってだけなのかな?

 

 いやらしさがない感じで気安くて、それで年上の男で顔が良くていい匂いがして、手指が長くて意外と筋肉質で……あれ? よく考えたら石川先生って、案外モテて当たり前の要素が詰まってる?

 

 

「はあ〜〜〜教師マジダリィよ一年中一日千秋仕事仕事仕事だしよ〜。一回でいいから教え子と秘密の蜜月過ごしてみてぇ〜JCハーレム作りぇ〜」

 

 

 あ、無いわ。この人のモテ要素、内面で全部0になっちゃうわ。気持ち悪かった〜今。なんですました顔で風船に詰めた性欲破裂させたような発言出来るんだろ。

 

 

「さ。ほら話してみろ、鹿狩。なんで一度も授業出ないんだ? 涼しいだろ〜プール入った方が」

「生理です」

「毎回か?」

「毎回です」

「体育の授業、週三だぞ? 年中生理なのか? テレビ出ろよお前。今泉は?」

「持病で」

「持病? ちゃんとそういうのは申請してくれないとだぞー。診断書は? あるなら今申請書出すから、そこに記入を」「あ、診断書とかは無いです。五月病なので」

「五月病かあ。ちなみに今10月だからな? 舐めているのか?」

 

 

 拳でコンコンッと軽く机を叩き、頬杖をついた石川先生が再び笑顔になる。あ、でもちょっと青筋立ってる、怒ってるなあ。

 

 

「はい言い訳やり直し。今度はあまりふざけなさそうな今泉から聞こうかな。なんで、参加しないのかな?」

「……水に触れると、身体が溶けてしまう体質で」

「お前の身体はオブラートか何かで出来てるのか? 雨の日とか命懸けじゃないか。鹿狩は?」

「プールに入ると即死します」

「雑だな急に。思い付かないなら素直に言え? 先生も暇じゃないんだぞ?」

「うー。プール入りたくないです!! 入りたくなーい!!」

「か、鹿狩さん」

「今泉さんも一緒に。入りたくなーい!」

「え、え!? は、入りたくなーい!」

「正当な理由を述べないと受理できませーん。喚け喚け小娘共〜」

「早くクビになんないかなコイツ」

「引っ叩くぞ?」

 

 

 言いながら、腕を摩った鹿狩さんを見た石川先生が無言でエアコンを操作し設定温度を少し上げた。鹿狩さんは気付いておらずふんっ! と先生から顔を背けている。

 

 

「本当に何か持病があったり、事情があるんだとしたら素直にそう言えばいいだろ。要はその理由が不明瞭だと示しがつかないという話だからな」

「……そんな事言われても。だって、水着キツいっすもん見た目」

「そら見た事か、そんな理由だろお前」

 

 

 正直に口を開いた鹿狩さんに先生がジト目を向ける。

 

 

「水着の見た目、デザインの話か?」

「違いますね。私が水着を着るのがしんどすぎるというか」

「ほう。俺の口からとやかく言うとまたセクハラになるからコメントは差し控えるが、そうでも無いと思うぞ」

「いや。無理っす。生理的に無理っすスク水とか。羞恥プレイでしょあんなん」

「プレイとか言うな。学校指定の水着なんだぞ、洗練されたデザインだろうが」

「いや無理、まじで無理っす。せめて男の水着だったら……」

「お前は変態なのか?」

「ちがわい!!! でも今のは私が悪かったなごめんなさい!」

 

 

 自分の額を平手で打った後すごい勢いで頭を下げ、吠えながら頭を抱える鹿狩さん。どうしたんだろう、確かに口にした言葉は失言としか思えなかったけど、そんな大袈裟に反応する程かな。

 

 

「はあ。妥協して露出狂変態マインドを備えるべきなのかなぁ。気乗りしないなあ……」

「ただの水着姿が露出やら変態扱いとはどういう理屈なんだ。お前認識歪みすぎてるだろ」

「いーや。昔からそれが当然とされてる文化だから麻痺してるけどさ、言っとくけど水着の変態性って相当高いからね? ねー、今泉さん」

「そ、そうだね。うん、児童ポルノだと思います!」

「思うな。やりにくいな〜お前らは……」

「大体、不公平だと思うんですよね!」

 

 

 バンッ! と机を叩いた鹿狩さんが腕を組み語り始める。

 

 

「最近男子のスクール水着、短めの半ズボンというかトランクスみたいな形のやつが普及してるじゃないですか! うちの学校とかモロそれだし!」

「そうだな。それがどうした?」

「なんで女子だけずーっとボディーライン丸見えのピッチリスタイルなんですか! 胸、尻、ついでに筋! 明らかに変態的都合が絡んでるとしか思えないですよ差別ですよ!!」

「知らんがな。いいやん、布面積は女の方が広いじゃん」

「そりゃ女体の方が隠すべきものが多いですもん! 先生だって思うでしょ、女子の水着エロいって!!!」

「えぇ……」

 

 

 鹿狩さんの問い掛けに引き気味な声を上げる石川先生。その反応に鹿狩さんはむくれ面を作り、ハーフアップにする為に結ばれている先生のヘアゴムに指を通し引っ張っていた。髪が解けた先生は動じず、腕に付けていた新たなヘアゴムを使い結び直す。

 

 

「立場を考慮した気を使った言い方と俺個人としての答え。どっちが聞きたい」

「個人的に正直に!」

「あぁ。実を言うとあんまり何も感じん。どちらかと言うとエロより、ちんちくりんの声高い猿共が元気にやってるな〜って感じだ」

「予想と全然違う方向性で聞いて損したわ!」

 

 

 そりゃあ、エロいだなんて感想しか持ってない人だったらわざわざ二択を出さないでしょうに。変な所で純粋なんだな、鹿狩さんって。

 

 

「いや、まあ女の水着自体はいいんですよ。私が鑑賞してる分にはエロいしやったー! ってなるし。私が着んけりゃなんでもいいんすよ」

「いやだから、変態かって」

「いてっ」

 

 

 目を瞑りながら語っていた鹿狩さんの脳天に石川先生のチョップが落ちる。鹿狩さんは「パワハラだー!」と叫んでいるが、先生は気にも留めず鹿狩さんの口にオレオを一枚差し込んで黙らせると、私の方を向く。

 

 

「鹿狩は授業参加確定として「なんでだー!」今泉、お前は何故参加しないんだ? 皮膚の病気とか、塩素が体質に合わないとか、もしそういう事ならキチンと言ってくれ」

 

 

 皮膚の病気……そんなの無い、少し肌荒れしてる事くらいだ。あと、胸の下が汗かきすぎてポロポロするくらいだ。昔はちょっとアトピーが酷かったけど、それも今は全然気にならない程度に収まっている。

 

 私が水着姿になれないのは……父親からの虐待でついた跡や傷を誰にも見せたくないからだ。

 それがなくったって私、太ってるし。お腹の肉とか、足とか、腕とか、どこもかしこも他の子より肉厚だからそれも出来るだけ見られたくないけど、それ以上に日常の片鱗を見られたくなくて体操服だって上に必ずジャージを着るようにしてるし。

 

 でもそんな事、先生に伝えられるわけないし……。

 

 

「私は……」

 

 

 答えられずに口を噤んでしまう。あれじゃないこれじゃない、なにか上手い言い訳がないか探すけど全然良い案が思い付かない。

 

 

「……」

 

 

 何も言えぬままでいたら先生も鹿狩さんも段々とふざけ半分な表情から、真面目な表情にうつり変わった。茶化していい雰囲気じゃない感じが漂い始める。

 でも、あんまり仲良くない人や学校の先生に「私の体は汚くて穢れてるから」だなんて言い放てるわけないし、でもさっきみたいにふざけたらしっかり叱られそうな感じになってるしああどうしよう、何も思いつかなーい!!!

 

 

「わ、私っ、」

「私?」

「プールに入るとっ、絶対おしっこ漏らしちゃうので入らない方がいいと思いますっ!!!」

「……」「お〜、いいね」

 

 

 石川先生は無言になったが、鹿狩さんは表情を特に動かさず、声だけで感動したようなリアクションを取って見せた。小さな手でぱちぱちと拍手をされる。先生が「どこが拍手なんだ」とツッコミを入れた。

 

 

「ま、まあ、それくらいならまぁ〜、言わないだけで皆してるんじゃないかって先生思うぞ?」

「しねぇでしょ」

「鹿狩は黙ってなさい」

 

 

 石川先生の変な部分でのフォローにすかさず鹿狩さんが口を挟む。

 確かに、あんな大量の水場なんだから多少漏れてしまう事はあるのかもしれない。だがこちらも絶対に引く訳にもいかない。私の口が勝手に動く。

 

 

「ちょっと出すとかじゃなくてもうドバッと出しちゃうんです! 毎回! 必ず!」

「そ、そうかぁ。我慢とかはー……」

「無理ですっ!! 昔からの癖になってるので止められないです!! だから入らない方がいいんですぅ!!」

「えぇ……先生困っちゃったな〜」

「んー、でもさ先生? プールの塩素ってそういうの出しても大丈夫なようにする為に入れてるんしょ? 人一人のフルマックスおしっこを出しても変わらんでしょ」

「仮にそうだとして、フルマックスで出されるのは衛生的にちょっと止めざるを得ないぞ。こう見えても教師だからなぁ俺」

「じゃっ、じゃあ!!」

「………………はぁ。事実か嘘かは定かじゃないが、そこまで言うならまぁ相応の理由もあるんだろうな」

「ちょまてーい!」

 

 

 両手をグーにして思い切り上方向に伸びをした鹿狩さんが声を上げる。小さいなー、両手を上げているのにこぢんまりしていてマスコットみたいだ。

 

 

「私だってそこそこに粘ったって事はそれなりの理由があるって事でしょうがー! なんで今泉さんは良くて私は駄目なんですかー!」

「自分で言ってたよなお前。理由、なんだっけ?」

「水着着たくない!」

「そんな理由で休ませると思うか?」

「だって! だ、誰か偉い先生から聞いてませんか! 私元男! 脳みそ男なのに女の水着とか着れるわけないじゃーん!」

「おー。なんだ中二病ってやつか? じゃあお前今までどうやってプールの授業凌いできたんだよ」

「中二病じゃねーもん本当だもん! なんで共有されてないんだよこの話ーっ!!」

 

 

 顔を真っ赤にして激怒した鹿狩さんが石川先生にぶつかって小さな手でポクポク叩くが、先生は全くのノーダメージでむしろ恍惚とした表情を浮かべた後天井を仰ぎ、両腕を広げた。

 

 

「ああ、いいぞ。お前の言っている事は全く理解出来ないが、密着してくるのはかなりいい……抱きしめてもいいか? 鹿狩おっと待て今泉俺が悪かったからスマホを仕舞ってくれ?」

 

 

 通報しようと通話アプリの番号をタップしたら音が鳴ったせいで気付かれてしまった。スマホを仕舞う。鹿狩さんは相変わらず悔しそうな顔で先生の服を掴み、「うううぅぅ!!!」と下から睨み上げていた。

 

 

 

 *

 

 

 

「くそーっ!! 不愉快だ! どいつもこいつも私の話を信じやがらね〜っ、痛い子電波扱いしやがって〜!!!」

 

 

 居残りが解消され、二人でほぼ無人の教室に戻ると荷物をまとめて一緒に廊下を歩いていた。鹿狩さんは最後らへんの石川先生からの扱いが不服だったようで、プリプリと愚痴りながら大股で歩いていた。

 大股なのに私と歩く速度がそこまで変わらないのは、足の長さの違いからかな。

 

 

「くそー、言われて理解出来るような話じゃないのはこっちだって分かってるけどさ……今泉さんも、私の話信じてないでしょ」

「ひゃいっ!?」

 

 

 横をトテトテと小動物のように歩いていた鹿狩さんが不意に声を掛けてくる。ビックリして声が上ずってしまった。

 

 

「えっ、え!? な、な、なにが、何の話ですか?」

「私が元男だったって話! 都子と悶着した後、皆の前で言い放ったじゃんか私。それ、どう思ってんの」

「どう思って……う、うーん」

 

 

 答えあぐねていると鹿狩さんが口を尖らせて前を向いた。

 

 

「信じてない」

「え!? ま、まあ……ごめんなさい?」

「いいよ別に。私が逆の立場だったとしても信じてなかったやろし。はぁ、生き辛……」

 

 

 自分から話題を振ってきた挙句勝手に拗ねて不貞腐れてしまった。難しいなあこの子。その拗ね様はまるで子供の癇癪だ。本人に言ったら怒りそうだから言わないけど、必死な感じがして全部の挙動が可愛い。

 

 

「はあ。にしてもあっついね〜。今日38度だってさ」

「そ、そうなんだ」

「んー。プールなぁ、水着にならんくってもいいなら参加出来んのに……」

「え……服を着たままって事?」

「そうだね。服ってか、潜水服? とか」

「潜水服はぁ……今よりずっと暑いんじゃないかな……」

 

 

 潜水服って、映画とかで見た事あるけど宇宙服みたいな見た目してたよね、あんなの着たら汗だくになるよ。あと、どれだけ小さいサイズのものを買っても鹿狩さんの体にフィットするやつは無いんじゃないかな。

 

 

「冗談だよ。でもあんなピッチリ水着は死んでも着たくない。私の男としての尊厳が目を尖らせてるよ」

「へ、へぇ」

「むー。なんか上の空。結局今泉さんはなんでプールに入りたがらないの?」

「え? えーと……ほら、私ってこんなだし」

 

 

 私がプールに入らない理由を尋ねてくる鹿狩さんに気まずくなるようにわざと体型の話を出してみる。しかし鹿狩さんは自分を指さす私の顔をじーっと見つめ、首を傾げて「……うん?」と意図が伝わらなかった感じを出してきた。

 

 

「わ、私ってデブでしょ。水着なんか着たら悪目立ちするよ!」

「あー。別に気にしてなかったな」

「そりゃ自分の事じゃないもんね! 太ってない人には分からないよ……」

「私も私で、こんなクソチビな身体になっちゃってコンプレックスに塗れてますけどね。小学生に身長越されるもん」

「気にしてるんだ」

「そりゃね! こんなに手足短いと運動能力も下がりまくりだし、いい所無しだよ」

「そんな事ないと思うけどなー」

「じゃあ今泉さんも気にする程じゃないと思うけどなって言わせてね」

 

 

 拗ねた口調で軽く言い放つ鹿狩さん。そう返してくるとは予想外だ、いいじゃん少しくらいちんちくりんでも。体ぺったんこでも。そういうマニアの人には人気出るんじゃないかなと思う。

 

 

「あ、てかさ。夜ならあんまり目が見えないし、今泉さんの見られたくないっていう条件クリアしてない?」

「へ? ど、どういう事?」

「夜に学校に忍び込もーよ! ここの学校、フェンスに穴空いてたりするから意外と出入りザルじゃんか!」

「えっ!? だ、ダメだよ! 怒られちゃうよ!」

「夜でこっちの顔なんか見えないし、人が近付いてきたら逃げればいいよ。警備員さん一人なんだし。いけるいける!」

「で、でも」

「家の都合で無理? 習い事してるとか?」

「それは……」

 

 

 習い事なんてしていない。家の都合も、あの私を人間とも思ってない父親がいるだけで特にない。父親は酒の飲みすぎで中枢神経が壊れてるから時間感覚も無いだろうし、本音を言えば、家になんか帰りたくない。

 

 ……提案だけ見れば、とっても素敵な案だと思った。けど、いつまでも外に居られるわけないし、もし捕まったらと思うと冷たい汗が背中を伝った。

 

 

「わ、私はいいよ。やるなら鹿狩さんだけで楽しんでよ、私はそんなの」

「プール自体が嫌いなん?」

「そうじゃ、ないけど。でも、私なんかと居たら足でまといだし、楽しくもないでしょ」

「楽しいかどうかは知らない。私、今泉さんとあんまり深く話した事ないし」

「でしょっ。だから今日は……」

「けど辻井とかにいじめられてるのにプリントを家まで届けに行く、ちょっと頭おかしいかなって思うくらいには優しい人だって分かってるし」

「そ、それはっ!」

 

 

 それは、私のせいで辻井と仲良かった子が自殺未遂をしたから、せめてものお詫びのつもりで、自己満足でそうしているだけだった。

 

 直接柳瀬川さんに会って謝るなんてとても出来ない。私なんかが顔向け出来るわけない。だから、私をいじめてくる辻井に、柳瀬川さんの代わりとして検診的な態度を取ってるっていう勝手な慰めに過ぎなかった。

 

 決して優しいとかそういうのではなく、そうする事で罪悪感が軽くしてるからやっているだけだ。

 

 

「鹿狩さんは私の事誤解してる。私、優しくなんかないよ」

「そうなん?」

「うん」

「ふーん。まあそんなもんでしょ、人間なんて」

「えっ」

「私はバリバリに性善説を信じてるけど、それは置いといて優しさの裏には損得が切って離せない所にあると思うんだよね」

「そ、そうかな」

「中には何も考えずに結果として良い事をしてるってなる人もいると思うけど。だから気にしなくていいでしょ、優しいって誰かに言われたんなら、誰かにとっては本当に優しい人なんだって自信持った方が気楽じゃない?」

「……根が明るいんだね、鹿狩さんは。いいなあ、私もそんな風になりたい」

「わ、なんか落ち込むモード入ってる!? こ、この話終わり!」

 

 

 そう言うと鹿狩さんは必死につま先立ちになって私の頭を手で撫でてくれた。他の人達が不潔だからって言って、肩や服に触れるだけで罵倒された私の髪を、鹿狩さんは不快そうな顔を一つもせず撫でている。

 

 昔、お母さんにされた感覚を思い出してしまった。お母さんはもう私達の傍にはいないし、テキトーだし、ちゃらんぽらんだけど、でも私の事はとても可愛がってくれた事だけは覚えている。

 

 ……まあ、それも『母親』という役職を真似るためにしていた嘘だったけど。お母さんは私達家族に飽きると、どこかに消えてしまったのだが。

 

 

「で、でも」

「プールに入れないのに掃除だけさせられるのムカつくやーん? 大丈夫、なんとでもなるからさ、遊ぼーよっ!」

「あそ、ぶ……?」

「うん!」

 

 

 遊ぼう、だなんて人から誘われた事生まれて初めてだ。鹿狩さんは無垢な笑顔で私の返事を待っている、その顔を見てるとなんだか抵抗感が削がれてくる。

 

 

「ねっ、今泉さん! 私とプール遊びしよ!」

 

 

 鹿狩さんが手を差し出してきた。最後の判断が付かず手を伸ばすか迷いつつ、少しだけ鹿狩さんの方に手を向けたら強引に鹿狩さんが手を重ねてきた。

 

 グンッと距離が近くなる。ニコッと笑った鹿狩さんの顔。とても愛らしい顔付きで、その目で見つめられると男でもないのにドキッとしてしまう。

 

 

「……わ、分かった。分かりましたよ!」

「やったー! じゃあ……深夜に集まろっか! 深夜1時、校門前集合ね!」

「補導されると思うけどなぁ……」

「細心の注意を払って集まろう! 絶対だよ、私待ってるからねー!」

 

 

 嬉しそうにそう言うと、鹿狩さんは跳ねるような足取りで階段を下って行った。不思議な子だ。あの子と一緒に居ると懐かしい気持ちになる。

 

 

「……お母さんも、あんな風に強引だったんだろうな。はた迷惑なくらい楽しそうで、どんな相手にも分け隔てなくて」

 

 

 でもあんまりその余韻に浸っているとノイズ混じりに嫌な思いでも湧き上がってくる。だから彼女やお母さんの事を考えるのはそこで辞め、家に帰ってからの事を考え……。

 

 

「家帰ったら外出れないじゃん。どうしよ……?」

 

 

 制服のままプールに入るわけにもいかない。少し考えた結果、私は学校にある貸し出しの水着を一着拝借する事にした。サイズ合えばいいけどなぁ……。

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