※この作品はR-18です。

子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン   作:千佳のはんぺん

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夏のto来

 校長先生のありがた〜い話を聞き、あまりの含蓄ある言葉に感銘を受け、居ても立っても居られなくなった生徒がバタンバタンと倒れる音が二度体育館に響くと、そこで全校集会は巻きに入り一学期の終業式が終わった。

 心配だなあ、倒れるほど感動してた人ら。暑さで脳みそ小籠包になってなきゃいいけど。

 

 夏休み前、最後の登校日。

 俺を虐めているメンバーの主要メンツであった柳瀬川さんと鷲見さん、その下っ端であった堀口さんを初めとする生徒数人に報復ごっこを行い、ついでに都子が学校に再び舞い戻ってきたことにより、俺に対する苛烈ないじめは段々とされなくなり比較的平和な学校生活が戻ってきていた。

 

 以前であればただ廊下を歩いていただけで蹴られたり、変な薬飲まされて失禁させられたりしていたのだろう。

 今は、まぁ基本的にクラスメートには無視されるしやっぱり朔月さんや菊池さん辺りは俺に心底冷たいがそれを除いたら特に何もされることは無い。

 

 蝶田ちゃんも、あんなに試行錯誤して俺の地位を落としたってのに都子がいるせいか萎縮しているし。けけけ、いい気味だぜ。

 

 でも、いじめというのは紐付く物だ。いじめられている俺を庇うのであれば次は都子がターゲットにされないかという不安があった。が、そこはチョイ芸能人という肩書きがそのまま憧れに転化しているのか、都子を陥れようとする輩はいなかった。

 

 やっぱ世の中は容姿と肩書きだな。俺も誰もが振り向く有り得ん美人になって、石油王のパトロンダースで抱えてエミネムかジャスティンビーバーかロスチャイルド家の人辺りと結婚して悠々自適に余生を過ごしたいゾ。

 

 しかし都子の奴、最近ますます色っぽくなったなぁ。佐久間くん、だっけ? 彼氏の影響だろうな、こりゃえちちも随分と捗ってると見える。

 覗き見してぇ〜。あわよくば佐久間くんのちんちん借りて俺がズコハメしたいな、それこそ都子って女に慣れてそうな30代後半イケおじが目で追うレベルやし。

 なんで前の世界ではそういう興味を抱けなかったのか、甚だ不思議です。

 

 てか人に依存しといて彼氏とイチャコラやってるとかとんだ恋愛体質だな。妬けない事もなくなくないわ。その恋よ、どうか健全であれ。

 

 

「鹿狩くんはこの夏どう過ごすか決めてんの?」

「なーんも。課題は先終わらして、後はのんびりダラダラくだらん日々を過ごすつもりですよ」

「あれ? あんた宿題とか先に終わらせるタイプだっけ? 小学生の頃は毎回いくつか未提出じゃなかった?」

「いや〜、以前はそうだったんだけどね? 逆にたまには真面目に全部終わらせてみるのもアリかなって」

「へぇ。よく分かんないけど、どうせ三日坊主だよそれ」

「それもまたよし。したら新学期しょっぱつ袈裟でも着て学校来るわ」

「変な人扱いでまたいじめられるだろ。あんた時々突拍子もなく目立とうとするよね。少しは懲りたら?」

「目立とうとはしてないんだよなぁ。まっ、てなわけで遊びの予定も何もまっさらよ。幸太郎辺りと海にでも行こうかな〜」

「……」

「はいそのジト目。八尋知ってるよ、なんで私は誘ってくれないんだろって今考えたでしょ? メンヘラカマされて殺されかけたからね、そういうのは目ざとく指摘してい」「うざい」

「廊下で首絞めはまずぃなあ゛〜!」

 

 

 人のいる場所で堂々と首をギュッてされる。おいおい皆引いてるぞ? 相手がいじめられっ子とは言え、首絞められている所なんて見たら流石に心配しちゃってるぞ。落ち着いてくれ〜。

 

 

「最近また以前のうざキャラに戻ってきたよね」

「ぶはっ! ぜぇ、ぜぇ……あの……うざキャラ相手でも首絞めるのはまあまあの罪だから辞めた方が丸いかもな……」

「鹿狩くんがうざいのが悪いでしょ。昔からそうだけど、あんたの煽り顔まじでムカつくんだよね。癪に障るって感じ」

「昔と顔違うのにそんな事言われても」

「は? ……たしかに。あれ? なんであんた顔違うのに昔と同じ顔出来んの? 顔の作りが違ったら作れる表情も違ってくるのが普通って、役者やってる人が言ってたけど」

「いや知らんけど。顔云々じゃなくて単に私だからムカついてるだけなんじゃないの」

「それはそうなんだけど、不思議ー」

「顔ちっけぇ〜。キスしてい?」

「噛みちぎるけど? あんたの唇」

「なるほどね。キスはやめておくよ」

 

 

 恋愛映画とかでしか見ないような至近距離に顔を近づけてきたからコイキング顔でキスしようとしたら頬をガッと掴まれた。怖かった〜。

 

 

「都子は? どう過ごすんサマバケ」

「今年はちょっと仕事入ってるからあんまり遊べないかな〜サマバケ」

「うわぉ芸能人。かっけぇセリフ。私もいつか言いたいよそんなセリフ」

「へぇ、興味あるんだ?」

 

 

 軽い気持ちで言った言葉に反応を示す都子。指で画角なんか作っちゃって、虚空カメラに移されたので一応ピースしてウィンクも……ウィンク出来ねえや。両目瞑っちゃった。

 

 

「あんた素材良いし誰か紹介しよっか? モデルは絶対無理だけどアイドルとかなれるんじゃない?」

「うんモデルは絶対無理ってなんで? ずんぐりむっくりだからか?? 怒らせたい???」

「だからアイドルなら行けるかもって、褒めてんじゃん」

「それも無理じゃろ、人気商売系は不向きすぎるよ。私の性格って人に好かれる性格ではないじゃん」

「まあ最悪の部類ではあるね」

「おいそこはフォローしろ? 否定しろ?? 最悪ではねぇよ。とにかく不向きだし、そんなのやろうだなんておこがまですわ」

「なんで? 確かにあんたの性格は最悪寄りだけど「おい」でもあんた嘘ついて良い人ぶるのに微塵の罪悪感も抱かないじゃん「おいおいおい???」それに、さっきも言ったけど顔自体は可愛いし、薄っぺらい愛嬌はあるし、薄っぺらい笑顔もすぐに作れるし、歌もまあまあ上手いし運動神経悪くないからダンスも踊れそうじゃん。あと、薄っぺらいからインタビューとかトークとか得意そうだし」

「嫌いなら嫌いってストレートに言おう? 危なかった〜今、泣いちゃう所だったけどね私」

「嫌い」

「うわぁぁん!」

「うるさ……冗談だよ。実際向いてると思うけどね。男関係抜きにしたら協調性も高いし」

「男関係抜きにしても??? そこだらしない扱いされるの心外なのですが」

「あんたが孤立する事になった発端がそこなんでしょ? 男関係はだらしないよあんたは」

「それは周りが過敏なだけ! 私この皮ひん剥いたら中身男!! だらしないわけが無い!!!」

「ほんとかなぁ?」

「いだだだ比喩表現だからほっぺ引っ張るなー! 人体模型にしかならんよ〜!?」

 

 

 なんて事を話している内に教室に着く。入ると菊池さんと朔月さん、それに蝶田ちゃんが話しているのが目に入ってきた。彼女らは都子が見えた瞬間声を掛けようとしていたが、俺を見た途端表情を変えて目を逸らした。

 

 

「あ、私先生に呼ばれてたんやった」

「へ? 今? もうすぐに帰りの会だけど?」

「ねー、タイミングシビアだよな。間に合いそうになかったらどっかで時間潰そ〜、途中で入るの気まずいし」

「不真面目なやつ。早めに戻って来なさいよ、一緒に帰ろ。今日部活ないし」

「お! じゃあ今日は都子ハウスにお邪魔しちゃお」

「え、いいけど急だな……掃除しなきゃだ」

「あはは。じゃあ行くので、また後で」

 

 

 と、テキトーな嘘をついて都子と離れる。すると俺が離れた事で朔月さん達が都子の方へとゾロゾロ集まっていく。よかった、都子の友情関係の安寧は守られた。

 

 

「小鞠がメガネなの珍しいね? コンタクトじゃなかった?」

「失った〜! これ家で使ってるやつ! どうせならもっとオシャレなの使いたいのに、新しいピアス買ったから金欠なんだよ〜……」

「またピアス増やしたんだ? どんどん不良になっていくね小鞠ちゃん」

「花ちゃんもインナーカラー入れたんじゃーん、いぇーい不良仲間ー!」

「ウチのは髪下ろしたら隠れるからいいんだもーん」

「それ言ったら小鞠のだって髪下ろしたら隠れるくない? ベロとか牙のやつはどうやっても隠せないけど」

「マスクするとか?」

「えー、せっかく可愛くしたのに隠したくなーい! 紗理奈ちゃんもなんかやろうよ! ネイルとかしてみよ!?」

「あたしはそういうのはパス」

「笠原君が見たいって言ったら?」

「おすすめのサロン教えて」

「相変わらず真っ直ぐだね〜紗理奈は!」

「ラブは尽きないね〜! 小鞠ズハートキュンキュンしちゃう!!」

「暑い暑い近い近い! ちょっ、都子コイツら引き剥がして! 最近グイグイ来すぎなんだよ……!」

「はいはい。ほら離れろ〜」

 

 

 楽しそ〜、懐かしい空気だなぁ。いいなぁ、俺も混ざりたい。今はもう失われた青春、か。涙ほろり、けんもほろほろ。

 

 

 

 というわけで放課後。都子には「先に校門で待ってて!」とLINEし、時間潰すために不法に侵入した化学準備室から抜け出し教室に戻ってきた。

 

 はてさて、中に生徒は……居ないのか。珍しいな。大体こういう日って鍵閉める直前まで教室に居残ってイチャコラしてるカップルの一組でもいるもんなんだが。

 

 

「無人なのに鍵開けっぱなのか。なんかで教室使うのかねぇ」

 

 

 独り言をごちりながら自分の席までテクテクテクテク。イタズラも落書きもされてない、平和になったなぁ。数ヶ月前が嘘みたいだね。

 

 

「ん?」

 

 

 荷物をカバンに入れ、教室を後にしようと思ったらある生徒の机の上にメガネが置かれたままなのを見つけてしまった。

 

 

「この席……朔月さんのか」

 

 

 そういえば去る前、メガネがどうとか話してたのを耳にしたな。かけ慣れてないから忘れてしまったのか? 机の上に忽然と、佇むように置いてあるのが現代美術じみていてシュールだ。

 

 

「ふむ……」

 

 

 これは、届けるべきではなかろうか。だって、今日終業式だし。明日から夏休みで、この教室が使われるかも分からないし。下手したら登校日までずっとこのままかもしれない。そうなると、朔月さんはコンタクトを買うまで不自由な生活を強いられる事となる。

 それはイカン、けども俺が届けるのもまた別の問題がなぁ……。

 

 

「盗んだと批難されるか、気持ち悪いから触るなと批難されるか。どのみちダメージを負う羽目になるんだよなぁ。嫌だなぁ……。けど、見て見ぬふりするのも気が引ける……」

 

 

 トイレや用事で一時的に教室から消えてるのかとも思ったが、しばらく待っても来ないしカバンもないので忘れ物と判断してとりあえず手に取り、畳んで胸ポケットにかける。

 

 

「どうしたものか。朔月ハウスの場所はわかるし、敷地に不法侵入してポストの上にでも置いておくか? 監視カメラあるから入りづらいなぁ……」

 

 

 と、その時、甲高い通知音が鳴った。スマホを見ると、そこには『kotoki』と言うユーザーからのLINEを知らせる通知が表示されていた。

 

 

「……あっ」

 

 

 気付いた。そういえば、全然会ってないけど俺今、彼氏いんじゃん。このメガネを忘れてった主の弟、俺の彼氏じゃんね。

 

 活路を見出した。朔月小鞠の弟、朔月小刻に頼んで上手く誤魔化して渡してもらえば穏便に渡せるじゃないか。でかしたぞ過去の俺! メス落ちもするもんだな!

 

 そうと決まれば早速連絡だ。小刻くんからの連絡は外出の誘い、まあデートの誘いであった。だからそれにこちらも返信を返しつつ、今起きている状況を端的に……。

 

 え、これ、デートの誘い!?

 

 

『今週の土曜日って空いてますか? もし空いてたら映画見ましょうよ! 八尋さんにオススメの、めっちゃおもろいシリーズの最新作が上映してるんすよ!!』

 

 

「い、いや、デートの誘いってより映画の誘いだな。うん。びっくりした、変に構えちゃったわ」

 

 

『あと、これは隣県になるんすけどこの時期めっちゃ景色が綺麗な花園があって、そこも行きませんか! 夜景とか地方一って言われてるらしくて、八尋さんと見に行きたいです!』

 

 

「ぐわぁ真っ直ぐな誘い……! いやでも、もしかしたら小刻くんが花が好きってだけかもしれないし、これもデートってわけでは……」

 

 

『インスタで流行ってるかき氷が食べれる店も近場にありますし、色んな所巡りましょうよ! 折角付き合ってるんだし、夏休み使って沢山デートしません? 俺、八尋さんと色んな思い出作りたいです!』

 

 

「くあぁ中一男子眩しすぎるっ!! 真っ直ぐすぎるぅ効くぅー!」

 

 

 年相応の男の子、しかも変にひねくれたり誤魔化したりするのではなく要件をストレートに伝えてくるタイプの男の子すぎて目を瞑ってしまった。ラブコメとかにもならないくらいの圧倒的な陽の気に仰け反ってしまったわ。

 

 

「ぐ、ぬ、ぬ。そうだよな、本来恋人って、もっと時間を共有するものだよな……」

 

 

 ポチポチと誘いに肯定するメッセージを打ち込む。

 

 ……。

 

 消す。佐藤は連絡とかせずともずっと一緒だったから、こう改めて自分の彼氏という生命体に送るってなると何を打てばいいのか分からない。

 

 

「まずは直近のメッセに返信するか……」

 

 

『今週の土曜日なら空いてるよ! 映画かー、どんなやつ? ジャンル何系??』

 

 

「……」

 

 

 消す。相手がオススメしてきたものを先に聞くのも野暮ではなかろうか。

 いやでも、自分が彼女を映画に誘うってなったら、相手がホラー苦手だったりするかもしれなくて先にタイトルを言うけど。でも小刻くんは小刻くんで俺では無いし、俺基準で考えるのは良くないよな。

 

 ……なんて打とう。近くにあった机に尻を乗せる。女の子視点何を打てば可愛い彼女と思われるのか分からなくて試行錯誤する。

 

 

『今週の土曜日なら空いてるよ! 映画もいいけど近くにフクロウカフェってのもあってそこも行きたいな!』

 

 

「いや、いきなり何の話? ってなるか。修正……でも、愛されてるな〜って感じるとしたらやっぱり、彼女側からも一緒にしたい事を提示するのがいいよな……文を少し弄るか」

 

 

『今週の土曜日なら空いてるよ! 映画見たあと時間あったら、近くにあるフクロウカフェにも行こうよ!』

 

 

「よし。これで……待てよ。どうせなら最後になにか付け足そう」

 

 

『今週の土曜日なら空いてるよ! 映画見たあと時間あったら、近くにあるフクロウカフェにも行こうよ! 小刻くん動物好きそうだし!』

 

 

「いや決めつけすぎだな。修正修正。うーむ……」

 

 

 ポチポチ消すのが面倒いのでバックスペースを左にスライドしたら句読点までの一文が一気に消えた。Simejiは重くなるから普段は使ってないけど、この一気消し機能に関しては便利だよな。

 

 

「うーむ……フクロウカフェにも行こうよ、小刻くんといっぱい一緒にいたい……あざとすぎるか……? 小刻くんと二人で遊ぶの初めてだから楽しみ、辺りが安牌か」

 

 

 思いついたままに指を走らせて送信。

 画面上を確認していなかったが、まあ長年のスマホユーザーだから打ち間違えなどはしていないだろう。ブラインドフリック入力はお手の物だ、なんてったって前の世界の経験も積んでるからね。現存する人類で最も長くスマホを使ってるまであるぜ。

 

 

『今週の土曜日なら空いてるよ! 映画見たあと時間あったら、近くにあるフクロウカフェにも行こうよ! 小刻くんと初めていっぱいしたい楽しみ!』

 

 

「誤字が奇跡的に日本語っぽい文章を作りあげているっ!!」

 

 

 何故じゃぁぁ!? Simejiの一括消去でいっぱいのくだりは消えてた筈だろ!? 予測変換か!? 初めてをいっぱいするって何!? 文法的には普通の言葉っぽいけど、脳みそがシコ猿だからエロ系がすぐに思い浮かんでしまう〜!!!

 

 だ、だが相手は中一だ。多少文章キモイなぐらいの事は思われるかもしれないが、変な風に捉えたりはしないだろう。大丈夫、汚れた大人の脳みそが騒いでるだけだ。

 

 ピロンッ。 早速返信が来た。見る。

 

 

『フクロウカフェいいですね! 鹿狩さんの初めてって、アナルとかすか?』

 

 

「キモイなぁ!? そうだよな、性欲多感だもんな! 最近覚えたての言葉だったら尚更言いたくなっちゃうよな!! クソッ、これは俺が悪いわ!!」

 

 

『ごめん、そういうのではなくて。誤字だから気にしないで』

『ドンキとか行きます? そういう道具あるかも』

 

 

「時差! 時差でアダルトグッズ購入を提案された! 買わないわ! 前に突っ込む物すら持ってないのにいきなり後ろに行くわけないじゃろが!!!」

 

 

『誤字ですか、驚きました。空いてるんですね! じゃあ土曜日何時にどこ集合しますか??』

 

 

 よかった。誤字の事は流してくれた。危ない危ない。

 

 集合場所、か。彼氏の姉とはいえ、やはり個人的に朔月さんとは気まずい関係なのは変わらないしあの子に見つからないような場所で集まりたい。

 

 行こうとしてる映画館は十中八九で目星はつけてるし、一緒に移動する時間を短縮出来て、尚且つ朔月ハウスに比較的近い場所を考える。

 

 

『烏間公園の噴水前で集合ってのはどう?』

『烏間公園ですか? ドンキの方が良くないです?』

 

 

 ドンキ? 何故ドンキ? 別にドン・キホーテに用事ないんだけど。……!? アダルトグッズの件かこのエロガキ!!

 

 

『エログッズなんか買わないよ!!』

『いや、映画館と隣接してますし』

 

 

 スマホを頭に打ち付ける。エロガキは俺の方だったわマヌケめ。

 

 

『公園の近くにマックあるじゃん? そこでご飯食べてから行こうよ!』

 

 

 エロガキ理論から意識を逸らさせる為にご飯を提案する。提案してみて思ったが、小刻くんってお小遣いどれくらい貰ってるんだろう? 中学生だとバイトなんか出来ないし、映画見てフクロウカフェ行くとしたら、マックで飯食う金は余るだろうか?

 

 まあ足らなかったとしても一人あたり5000円くらい持ってりゃその3箇所は回れるし、奢るからいいのだが。

 

 

『いいですね! マックで飯食ったら映画、その後フクロウカフェですね!』

 

 

 返信速度から見るに余裕はあったようだ。

 

 む、足音が聞こえる。誰かがこの教室の方面に向かってきている。机から降りて、そそくさと手荷物を持って教室を退散する。

 

 

「八尋ちゃん?」

「えっ、小鞠?」

 

 

 相手を見ずに教室を出たら声を掛けられ、振り向くと朔月さんが居た。朔月さんはつい俺に声をかけてしまったようで、俺が返事して目が合った途端に顔を伏せた。

 

 

「何してたの」

 

 

 でも、話し掛けてはくるらしい。久しぶりの1対1だからだろうか? どうせ他に人居ないんだし、別に目を見て話せばいいのに。

 

 

「こっ……かれっ、うーん……友達とLINEしてたら夢中になっちゃって」

「彼氏?」

「友達ぃ。友達って言ったぁ」

「今彼氏って言いかけたじゃん。その前はこっ、て言いかけた。新しい彼氏さんはこ、から始まる名前?」

「あ、あはは。変な憶測立てないでよ〜、私別に彼氏なんて」

「樹利と別れたばっかなのに、すぐ彼氏作るんだね」

「っ。だから、彼氏なんて言ってないって」

 

 

 少し強めに返してしまった。なんでか朔月さん相手にイライラしてしまった、調子狂うな……。朔月さんの言葉は、なんか一つ一つが他の人のよりもウェイトがある気がする。上手く流せない。

 

 

「そういう小鞠は、こんな所でなにしてんのさ」

「私はメガネを忘れて……待って。八尋ちゃん、それ私のメガネ?」

「あっ」

 

 

 朔月さんの目が俺の胸ポケットに留まる。やーべ、胸ポケットに掛けてたことすっかり忘れてた。どうせ泥棒かなんかだと思われるなぁ、めんどくせぇ。

 

 

「ねぇ、それ」

「これ! 忘れてたから、気まずいのは分かるけど、届けようと思って……」

 

 

 ダメ元で正直にそう言ってみる。朔月さんは小さな声で「そっか」とだけ言うと、俺の前までやってきて胸ポケットからメガネをつまんで取り出した。

 

 

「……ありがとう」

「い、いえいえ」

 

 

 あら、特に何も言われなかった。相変わらず目は合わせてくれないけど、声の感じも怒ってる様子はない。今日なんか良い事でもあったのだろうか、メンタルが安定してますね。

 

 

「ふにゃっ!?」

 

 

 互いに無言の時間が続くと、急に朔月さんが俺の両頬を指でつまんできた。都子には頻繁にされるけど、朔月さんにこれをされるのは久々だ。力加減も当時のまま、痛がらせるでも無い程度のもの。何が何だか分からないな〜?

 

 

「……柔らかい。懐かしい」

「あ、あはは。いひゃいいひゃい、どうひたの小鞠〜?」

「皆がいると、こういうの出来ないから」

「ん、なるほど……?」

 

 

 まあ、朔月さんと仲の良い菊池さんからは多大な顰蹙を買うだろうな。この世で最も俺を嫌う人物だもんな菊池さん。あの子と仲良い時点で俺らは相容れない仲、一緒にいる所なんて見られていいはずがない。

 

 

「誰にも言わないでね」

「う、うん」

「ありがとう。ごめんね、八尋ちゃん」

「いえいえ」

 

 

 朔月さんは申し訳なさそうに俺に謝り去っていった。色々あるんだなぁ。人に嫌われるのはしんどいけど、あんな辛そうな顔されるならいっそ嫌ってくれた方がマシだよ。

 朔月さんみたいな人には自由にのびのび生きてほしいわ。俺の事なんかとっとと心から嫌って板挟みから解放されてくれ。

 

 

「……あっ!」

 

 

 朔月さんが消えた事で小刻くんとLINEしていた事を思い出した。歩きながらポチポチと返事を打つ。

 

 

『ごめん! 今友達と喋ってた!』

『了解っす! 集合時間どうします? 二時とか三時辺りどうですか?」

『おっけー。それじゃ、二時に烏間公園に集合にしよ!』

 

 

 そう送ると、小刻くんから『OK!』と親指を立てている劇画タッチのスタンプが送られた。

 

 会話はそこで途切れたと思い、スマホを仕舞って階段を降りようとしたら小刻くんからメッセージが追加で届いた。

 

 

『てか今学校ですか?』

『うん、学校。一人で寂しくテクテクですよ』

 

 

 と送ると、小刻くんから『まじすか!』と送られ直後に電話がかかってきた。おいおい、一人だと分かるや否や即通話をかけるとか話したがりやんけ。可愛いなあ。ちょっと顔が綻んだ。

 

 

「もしもし、どうしたのー小刻くん?」

『声が聞きたかったっす! 鹿狩さんの!』

「あはは。一年生はもう大分前に学校終わってるもんね。今何してんの?」

『今はバカ姉貴を待ってるっす! 一緒に買い物に行くんで!』

「そっか、姉弟仲グッドですな〜」

 

 

 朔月さんと小刻くん、口では仲悪そうに見えても理想の姉弟って感じで羨ましい。前の世界の妹は何考えてるか分からなかったし、この世界の姉として生まれるはずだった人間は死んでるらしいし、欲しかったなーマトモな女兄弟。

 

 って、え? 朔月さんと買い物に行くために待ってる? どこで? 校門で? だとしたら、朔月さんが消えたのはついさっきだから順当に行けばそろそろ合流し……。

 

 

『おまたせー小刻。ん? 誰かと電話中?』

『おせーよ姉貴!』

「あっ、あっ、小刻くんっ! 私の事っ、ひみ」『わ、女の子の声だー! なになに、彼女でも出来たのー? 小鞠ズ脳みそ記録モードオン!』

 

 

 きゃあああああ! ぎゃあああああああああ!!! やばばばばばやばいやばいやばいやばいなぁ!? 口封じしなきゃ朔月ネキにバレちゃうのに、声質でバレるかもだから口封じも出来なくなっちゃったぁ!!!

 

 いや待て、一説によると憶測の域を超えずあくまで机上の空論砂上の楼閣蜃気楼のような胡乱な風説ではあるものの、とある学者によると通話越しに聴こえる声ってその人の声に最も近い音を再現して出してるだの近い音声サンプルを送るだのなんだのみたいな、あまり覚えてないけどそんな風な話を聞いたことがあるぞ!

 

 つまり、俺が何を喋ろうが相手には俺が鹿狩八尋なんだと声でバレる可能性は低い! なら、俺が直接嘘ごまかしを言ってこの修羅場を乗り切るのが手っ取り早いか!?

 

 

『ところで鹿狩さ』「ばーぱばばばばばぼーっぱぽーっぴぽーっ!?」

『ん? 小刻あんた今、鹿狩って言わなかった?』

「どうもー初めましてー! 私火神(かがみ)と言いますー! か! が! み! 最後はみで終わりますー! 黒子のバスケでもお馴染みの火神ですー! どうもー小刻くんのお姉さん初めましてぇー!!!」

『あ、火神さん? どうもー! 姉の朔月小鞠ですー!』

 

 

 あっぶねええええ!! どうやら誤魔化せたみたいです! まじで人生で一番心臓が跳ねたわ。良かった〜服着てて! 上裸だったら絶対心臓飛び出てたわ!

 

 

『ちょっ、姉貴! ちけぇよ!!』

『火神さん下の名前はなんて言うのー?』

「えっ!? あ、ええと! 名前!? えっとぉ!!」

 

 

 一瞬これも一文字違いで真尋とか言いそうになったけど、それは流石に音が似すぎててリスクが高いから慌てて急ブレーキ。ここはあえて音が全然似ていない名前を選ぶべきだろう。幸運にも小刻くん、俺の事は名字で呼んでくれるしね!

 

 

「クリスですー!!! 火神クリスですー!! イギリス人とのハーフですー!!!」

 

 

 やべっ、変な設定付け足しちゃった。

 だって窓から見える遠くの方に教会あるのが見えたんだもん。教会→十字架→クロス→クリス、みたいな連想ゲームをしちゃったんだもん。脳死でペラを回すの本当に良くないわ。

 

 

『クリスちゃんか〜! あはっ、クリスチャンって、キリスト教の人みたいだね!!』

「はいっ! うちはキリスト教信じてる家系ですー! ご飯食べる前にお祈りしますー!」

『へぇ〜そうなんだ! 今度うちにきて見せてよ!』

「是非ともですはいー!」

 

 

 あっ。

 あああぁぁぁあああああぁぁぁっ!!? 間違えたああああ!!! 火神クリスという謎人格を作り上げたまま朔月家にお邪魔するという話を取り付けてしまったあああっ!!!

 

 

『やった! 約束だからねクリスちゃん! 絶対夏休み中うちに来てね! おもてなしするからね!』

『クリスって誰……?』

「あ、あははは私の名前クリスって言うんだ小刻くんなに忘れちゃったのー??? でも仕方ないよねっ、名字で呼ぶから忘れるのもしょうがないねっ!!!」

『えっ? 何言ってんすか。クリスってだ』

「小刻くん土曜日ね絶対忘れちゃダメだからね!!!」

『えっ、ちょっ鹿狩さ」

『はい火神さんですよー! お姉さーん! 小刻くんと二人で話してもいいですかー!?』

『あはは。はいはい、恋人同士仲良くね〜』

 

 

 窓から校門周辺を覗き朔月さんと小刻くんを発見する。二人の間に距離が空いたのを確認すると、急いで小刻くんに状況を説明する。

 

 

「小刻くん! 私と! 鹿狩八尋と付き合ってるってのは小鞠には秘密にしといて!」

『はい? なんでですか?』

「いや〜! あのー……わっ、私、小鞠と仲良いじゃん? 友達が自分の弟と付き合ってるって、もしかしたら気まずいのかなって! ほら、は、恥ずかしい事だって、したし、さ……だから……」

 

 

 アホか俺は。なんでこんな状況で顔赤くしてんだ。自分で自分の頭をぶん殴りたかったけど痛そうなのでやめる。

 

 

「だから私の事は、鹿狩八尋じゃなくて火神クリスと……いやほんと誰なんだろうねクリス。自分で言っときながら意味わかんないや」

『いいですけど。けど、来るんすよね? 俺ん家』

「えっ」

『夏休み中来るってさっき話してたじゃないすか。どうするんすか? 流石に実物見られたら誤魔化せないでしょ』

「…………変装する?」

『いけますかね?』

「いけるのでは? 私地味顔だし」

『地味顔??? 地味、顔……? 女子に嫌われますよ、そういう事言うと』

「なんでぇ……? とにかく、変装でもなんでもしてみるし、上手く私に合わせて!」

『うーん……』

「お願い! 彼女の願い事ってんでここはひとつ!」

『……そうすね、そういう事なら』

「まじで助かる!」

『小刻〜? そろそろ秘密のラブ電話区切りつきそう?』

『なんだよそのバカそうな単語……じゃあ、そろそろ切ります』

「うん! 小刻くんの声聴けて嬉しかった。またね〜」

『こっ……!?』

 

 

 ん? 通話を切る寸前に何かを言いかけていたな。窓から見える小刻くんは朔月さんに引っ張られていった。可愛いな〜朔月さん、遠目から見ても分かるくらいルンルンな動きだ。弟への愛が溢れてるね。

 

 

「っ、やばっ! ふべしっ!!?」

 

 

 ぴょんぴょことウサギみたいな朔月さんが一瞬こちらを見た気がした。顔を見られたらやばいと思って慌てて頭を下げたら窓の下の壁にデコを強打した。涙が止まらないや。

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