子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン 作:千佳のはんぺん
「おせぇんだけど???」
「……ッス」
やーべえ。普通に都子の事忘れてた。
一難去ってよかったなっつって無敵気分でトロトロ歩いてたら笑顔の都子に肩掴まれて全てを思い出した時の絶望たるや。バチ切れしてる時に笑顔になる人ってなんなんだろうね、刺されるやろこれって直感で思ってしまうわ。ちょっとだけ漏らしました。
「何してたん?」
「え、えーと、今後の人生を左右する重大な選択を迫られまして……」
「そっか。土下座しよっか」
「えっ。ここ屋外」
「土下座」
あぁ。膝小僧痛いや。おでこも痛いや。世のJCJKの皆さん、屋外で土下座させられる羽目になる可能性も0じゃないからスカート巻くにしても程々にしようね。痛いなぁ、粗いアスファルトの上だもんなぁ。
「頭を上げよ」
「ありがたき幸せ」
「何で立とうとするのよ? 正座のままでしょそこは」
「正座のままかぁ。足が月面みたいになっちゃうや」
「どういう意味? ちゃんとお風呂上がりにケアしてる?」
「違う違う。アスファルトの目がね、粗いのよ。食いこんでるのよね〜」
「そんな事か」
「そんな事かまじ? ミリ程度でいいから心配とかしてほしかったかもな」
「で。なんで遅れたの。何してたわけ」
聞く耳持たないかぁ。正座のまま問われたのでその姿勢のまま背筋を伸ばし、真っ直ぐ都子を見据える。はぁ、足も痛いけど周りの目の方がずっと痛いなぁ。
「さっき教室戻ったら小鞠がメガネを置いてってるのに気付いてさ」
「メガネ? あぁ〜、なんか今日かけてたわね」
「らしいね。ほんで、明日から夏休みやん? 放置するのは流石にって、届けるべきやろなって思ったんだけど、私今小鞠と気まずいからさ」
「小鞠とも気まずいの?」
「気まずいよ〜……前まで一番仲良かった分、小鞠がぶっちぎりで気まずいまであるよ……」
「イメージ出来ないな……あ、でも確かに、あんたらが最近話してる所見た事ないな。仲違いしちゃってたんだ」
「ん〜……」
体重のかかった足が痺れてきたので片足をズラす。
「珍しいね〜。いっつも何かと集団の輪の中に居たあんたなのに、女になった途端孤立しちゃうなんて」
「いいだろそんな話。なんか悲しくなってくるからやめてよ」
「ごめんごめん。元気出しなよ、私がいるんやし」
「……都子だって私に嫌い嫌い言ってたべ」
「別に今でも嫌いだけど?」
「うわあぁぁあんっ!!」
「ちなみに、冗談じゃなくて本気で嫌いではあるよ」
「えっ!? あ、やばいやばい泣き真似じゃない方の涙出た今! え、無理、泣く!!」
都子の言葉があまりにもストレートに心に効きすぎたせいでシパシパシパっとしきりに瞬きしてしまった。本当に泣く時の挙動をしてしまった為目が潤む。
悲しい悲しい。なんで俺今必死かけて未来ねじ曲げて助けようとしてる幼馴染に嫌い宣言されてるの? 心折れちゃうけど行けるかな今後???
「面と向かって嫌いとか言うなよぉ……佐藤とは別れたし、アイツがお前にとって糞クズなのは重々理解してるって……」
「そういう事じゃなくて。まあそれもあったけど、昔っから性格が合わなかったじゃん、私達」
「そうかなぁ!?」
「そうだよ。幸太郎が仲良くしてなかったら付き合いなかったでしょ私ら」
「それは……うぅ、待ち合わせすっぽかした事なら謝るからそんな事言わないでよ〜!!」
「けど、それと同じくらい好きでもあるし」
「ひょっ? 一転攻勢??」
地面を見るのをやめて都子の顔を見上げると、都子はぷいっと俺から顔を背けて続けた。
「傷つく度最初に励ましてくれるのは毎回あんただし。何があっても味方だって言ってくれたし。だから、性格的には相性最悪だと思うけど、手離したくないって思うくらいには大事に思ってるよ」
「都子……!」
「でも忘れられるのは癪。私が休んでる間もあんた、全然気にかけてくれた素振りなかったし」
「いだぁだだだだだだ石抱き拷問だコレェ!!?」
地べたに正座している俺の膝の上に都子が腰を下ろしてきた。都子の重みが足にかかりアスファルトの尖りが更に足に食いこんでくる。
かち切れすぎだろ。たかだか俺に忘れられがちってだけで怒り狂いすぎだろ。心情吐露の尺まで用意してひっくり返してくるとかどんだけキレてんだよ。仕方ないだろ。都子がいなかった間も大変だったんだから。
「都子さん都子さん。そろそろ足が潰れちゃいます。堪忍して」
「私が重たいって言いたい?」
「人間だからねぇ! 重たいねぇ!」
「はいはい。全く、これに懲りたら私を軽んじて忘れたりしないこと。分かった?」
「軽んじた事なんて無いぃ……」
都子は俺から降りてくれた。立ち上がる許可も得たので、立ち上がり太ももを叩いて痺れを解消する。よかった、出血とかはしてなかった。
都子、いつの間にこんなバイオレンスキャラになったんだ? 割と初めからか。
「で? 小鞠のメガネはどうしたの? てかさっき小鞠が学校出てくの見えたけど」
「あ、うん。教室で小鞠と鉢合わせしちゃって、話しついでに返したよ。だから遅れたというか」
「話したの? 気まずいのに?」
「うーん……私もよく分からないんだけど、こんな所でなにしてんのとか、あと彼氏出来たんだとか、そんな感じの話を……」
「本当にそれだけ?」
「え?」
ズイッと都子が身を近づける。
「本当にそれだけ? 他に何かされなかった?」
「……別に何も」
「嘘ついてる顔した」
「!? してませんけど!? 表情筋動いたかなぁ今!」
「動いてないから嘘ついた。あんたが心にもないことを言う時、なんか表情が薄っぺらいんだよね。かえって分かりやすいよ」
「何なのその薄っぺらいって表現、ポエマーすぎるでしょ……うーん。ま、都子ならいいか」
「は? 私ならって、もしかして何か変なことっ」
「変な事はされてないよ。ただ、まぁ、誰にも言わないでって釘刺されてるからさ」
朔月さんはさっき俺に『この事は誰にも言わないでね』的な事を言った。
朔月さんには菊池さんと大仲良しの女子カースト一軍という立場がある。最下位に転落して菊池さんから憎まれている俺と、個人的に接触していたなんて知られたらご法度だ。そりゃ秘密にしていてほしいわな。
都子はこういう話を聞いても他人に漏らしたりはしないだろう。それは長年一緒に居た幼馴染だから分かる。都子はそんな事はしない。
てか、された事が大した事なければ明日にでも忘れていそうだ。話しても朔月さんが困る事にはならないだろう。
「何されたのよ?」
「ほっぺを握られた。前みたいにぐにゅ〜って」
「それだけ?」
「それだけ」
「……それだけで口封じなんてする?」
「まあするやろ、スキンシップやし。私をいじめてる側って考えたらバレるのは都合悪いっしょ」
「小鞠にも、いじめられてんの?」
あ、やべっ。つい口滑らしちゃった。
「ま、前に少しだけ。今は何もされてないよ! 強いて言えば無視されるくらい……」
「あいつ……」
「わーーーこんなんで小鞠と不仲にならないでよ! わ、私が原因で喧嘩とかされるのは御免です!」
「いや知らんし。この歳になっていじめとか、無視とか、マジで馬鹿じゃん。一言言ってやんないと」
「落ち着いてー!」
スマホを取りだしLINEを開く都子。流石の行動力に軽く感動すら覚えつつ、慌てて両手を広げて都子に背中から抱き着く。
「きゃあっ!?」
都子が可愛らしい声を上げた。よかった、女体で。衝動的にこんな行動を取ってしまったが、多分肉体の性別は同じだし都子なら許してくれるよね……? ちょい不安だが、相手の反応を待つ。
「な、何してんのよ!」
「わ、私のせいで小鞠と喧嘩してほしくない!」
「いやでも、あんた……」
「私は別にっ、都子が居てくれたらそれでいいよ! 学校にいる間はそれでオールオッケー! むしろ私のせいで都子が孤立したり、友達居なくなったりした方がずっとしんどいっての!」
「はぁ? あんたがそれ言う?」
「うんどういう意味かな??? 私は都子の味方だっつってんだろー!」
「……まぁ、あんたがそう言うなら」
都子はスマホを仕舞ってくれた。よかったよかった……っ!? ぐ、ぉぉおおおなんだっ、あ、足がっ!
「そろそろ離れてもらってもいい?」
「……」
「? 鹿狩くん。暑いから離れて?」
「……やばい」
「やばい? なにが」
「足、痙る」
「え?」
刹那、襲い来る筋肉の硬直。急に都子を止める為にふくらはぎを限界まで引き伸ばした影響か、耐え難い激痛が伸び切ったふくらはぎの筋肉に迸り俺は都子を抱きしめる力を強めてしまう。
「いたっ! ちょ、鹿狩くん? 痛いって、離して」
「いだいいだいいだいいだい!!!」
「あーもうっ! ほら足伸ばして」
「無理無理いたたたたっ死ぬーっ! 死ぬーっ!!?」
「大袈裟すぎるでしょ……」
都子の協力あって何とか回復し、そこでそろそろ帰らないかという話になりようやく俺達は竜胆邸に着くことが出来た。
「じゃ、掃除してくるから少し待ってて」
「あぢぃ〜」
夏の暑さに耐えかね、人の敷地内って事もあって大丈夫かと判断しシャツの前ボタンをプチプチと開け玄関前の日陰に腰を下ろす。するとギョッとした顔で都子が俺の前に現れる。道路側から見えないように立っている?
「コラコラ脱ぐな! なにあんた外で服脱ごうとしてんの変態!?」
「脱がんわ。いいだろボタン開けるくらい」
「いいわけないでしょ! ブラ丸見えじゃん! てか中シャツ着なさいよ!?」
「着ねぇよ暑苦しい。見たけりゃ見ればいいよブラなんて。どうでもいい〜」
「いやいやいやいや女捨てすぎでしょ!?」
「女捨てるて。いやいや、中身全然男のままなんで、女の矜恃とかマジで知らんな」
「体は女なんだから女らしくしろー!」
「はい炎上。LGBTQを軽視した発言ですよー。あと6年も経てばまじで広辞苑級の厚みの殺害予告を受けるレベルの大炎上に繋がる発言になるから今の内に取り消しましょー」
「言ってる意味が全然わからん……」
「教室にクーラーはあれど、廊下は灼熱の地獄ですよ? 化学室とか体育館とか赤ちゃん蒸し焼きになる車内の5上ぐらいの暑さしてんじゃん。中まで完全防備してる女子の方がむしろ有り得ないわ。熱中症に気ぃつけろ〜」
「あんたの方が圧倒的に有り得ないっつの! 道路側向くな! すぐ終わらせるからちゃんと前隠して! いいね!?」
「おっけー」
テキトーに返事すると都子がピューッと家の中に駆けていった。元気もりもり森鴎外ですな。羨ましい。
都子ハウスの扉の前で大の字になる。石の地面が冷たくて気持ちいい。7月か〜、海の日も過ぎて本格的に夏が始まった感じですな。
あ、てか都子とプール行こうって約束を取り付けたの今思い出した。昔叶わなかった事を今度こそ、みたいな感じでそんな話になったんだよな。すると、水着も買わないとだよなぁ。
水着かぁ。
去年も今年も結局一度も授業のプールは不参加を貫いたから実はまだ女物の水着を着た事が無いんだよな。
女水着デビューが都子と一緒にいる時ってなんか嫌だな……絶対都子、水着姿もめっちゃ綺麗だろうし。周りから色々比較して悲しくなりそうだ……。
「あれ? 鹿狩じゃん」
少しウトウトしていたら声を掛けられた。目を開け道路の方を見ると、照りつけるようなキラッキラのアスファルトの上に私服姿の幸太郎が立っていた。
「幸太郎じゃん」
「うわっ! なんで前開けてんだよ閉めろバカ!」
「やーだ。目ェ瞑れお前」
「なんで俺がっ!?」
言いながらも幸太郎は慌てた様子で自分の目を手で隠した。炎天下でよくやるわ。コンビニ帰りかな? 袋を持ってる。
「……ヨレヨレのTシャツにドンキで買ったような短パンにサンダルですか。紛うことなき引きこもりルックですな」
「喧しいわ! なに、今から都子と遊ぶん? 仲直りしたんやな」
「別に喧嘩なんかしてねぇが」
「お前首絞められてたやん。意識取り戻した後も物投げられたりしてたし」
「ちゃんと最後には話し合ってたろー」
「腫れとか酷かったのによぉ許したな……」
「そんな程度の事で人なんか嫌わんよ別に。私の心は少なく見積ってマリアナ海溝よりかは確実に広くて深いからな」
「の割に沸点低いよな。挑発された時の器は大きく見積ってもおちょこサイズにも達してないだろ」
「そこまで短気ではないよ!? お前とか佐藤の方が余程気ぃ短いだろ。てか、あんな喧嘩女ならあるあるなんだよ」
「まじ? 女こわ。やっぱり三次元より二次元って事か」
「おっとステレオタイプのオタクみたいな発言出たな」
「おまたせ〜、って幸太郎? なんでセルフ目隠ししてんのあんた」
「鹿狩が野外露出しているので規制をかけています」
「は? やーひーろー?」
「あ、あははっ、早く都子ハウス入りたいなー暑いからなー外!」
片付けを終えた都子が玄関を開けると、中から冷房の冷気が外に漏れ出してきた。涼しい〜、都子にとっ捕まる前に横を素通りして都子ハウスに飛び込んだ。危ない危ない。大急ぎでボタンを付け直す。
「はぁ……ヨレヨレのTシャツにしまむらのセール品みたいな短パンにサンダルか。まじで引きこもりだね幸太郎」
「うるせぇよ!? 鹿狩と言い都子と言いうるさすぎるよ!? なんなんだよ、人の服装にケチつけやがって。制服はズルいだろお前ら」
背後で都子と幸太郎が会話を交わしている。ボタンも着けた事だし、向き直って二人の会話に参加する。
「本来ならお前もこの瞬間着ているべきなんだけどね制服」
「学校の制服は動きにくいからな。あんなの着てたら自宅の警備が務まらん」
「学校に来いっつー話なんだよな。てかゲーム画面とにらめっこしてる奴が警備員を自称するな〜? 何処を警備してるんだよ、サマーウォーズの世界になってやっと存在出来る職業だろそれ」
「うるせいやい。そろそろあちぃから俺は行くぞ。コンビニからの帰りなんだ、アイスが溶けちまう」
「あんたもうち来れば?」
「パス」
都子からの提案を即断する幸太郎。都子がムッとする、が幸太郎はそれを意に介さず、腕を組んで講釈たれおじさんのような厳格な顔を作り言葉を続けた。
「これから世界を救う物語を紡ぐ超大作RPGのデイリーミッションを消化してじき来る水着イベに向けた無課金召喚石の回収の為に積んでいたフリークエストを進めなければならないしパーティー編成の見直しとイベ強化武器の調整その他諸々やる事が山積みなんだ。だから悪いけどお前らの誘いは今回は断らせて頂くわ、また今度な」
「八尋」
「おしり」
ガシッ。家から出て、俺は幸太郎の右腕を、都子は左腕を掴む。
「えっ? お、おいお前ら?」
「長くて全然耳に入ってこなかった。パーティーが何? 今からやろうぜ」
「逆になんでそこだけ聞き取れるんだ鹿狩?」
「どうせすぐにサ終するんやから私らとの時間を優先してよ」
「都子。お前のその発言、普通にライン超えてるからな。人によっては縁切るレベルの暴言だって理解しろよお前」
喚く幸太郎を無視して都子邸の中まで引きずる。断った割にはちゃんと抵抗しなかったな、コイツ実は遊びたがってたのか? シャイな奴め。
「時に二人とも」
「んー?」「なに?」
「二人ともめっちゃ胸押し付けてきてるけど、わざとなんか? 幼馴染相手だからってそういうのはもう少し気にした方がいっ」
俺の拳は腹に、都子は頬にぶっ刺した。都子ハウスの廊下に幸太郎が倒れ込む。
「理不尽じゃありまふぇんか?」
「はぁ……幼馴染と共通項があるエロゲーをするのに留まらず、幼馴染の体が当たっただけで興奮するとかお前、いよいよ来る所まで来たな」
「は? エロゲー?」
「ちょい鹿狩ちょいちょいちょい!? 何言ってくれちゃってんのお前!」
「聞いてくれよ都子、コイツ」「鹿狩ーっ!」
俺とどことなく似ているヒロインが登場するエロゲーの件を都子に伝え、都子の引き顔を引き出し焦る幸太郎を笑いながら都子ルームに向かう。懐かしいなあこの感じ、子供の頃もこんな風に幸太郎をいじって笑ってたな。
「わ、部屋の中結構変わったね〜」
都子の部屋に着くと、家具の配置や置いてある物が以前首を絞められた時と変化しているのに目が行った。大胆な模様替えをしたようで、以前は質素な内装だったが今は観葉植物とか置いてあるし無印にあるような、シンプルだけど自然っぽさを取り入れた小物類が増えていた。
この部屋なら精神的な癒しになるだろうな。セルフでメンタルケアをしていたという形跡だろうか? 都子からメンヘラっぽさが減った一因を担ってるんだとしたら、住む場所っていうのも中々に重要だなと思わされるな。
「掃除ついでに定期的に配置換えしてんのよ。あと、最近仕事で知り合った人の仕事場がすごく綺麗で、それを少し参考にしてね」
「へぇ〜。風水的なやつ?」
「風水……?」
「違うか」
都子は首を傾げた。スピリチュアル系の要素は含まれていないらしい。
まあ根が大人しくて考え事に前のめりになりやすい都子がスピリチュアル系にハマったらどう進化するか分からないしな。このまま未知の概念であり続けてくれ。
「都子〜、なんかゲームとかない?」
「無いわよ、トランプとかUNOとか人生ゲームくらいしか置いてない」
「三人で人生ゲームかぁ……もうひとり欲しいな」
「あー……都子、トイレ貸して。さっきの都子拷問じゃ出し切れなかった分が膀胱に残ってたっぽい」
「何言ってんの? 行ってきたら?」
「感謝」
許可を得たので少し急ぎめにトイレに向かう。女にやってからというもの、催してからスプラッシュするまでの間隔が短いから困る。もう少しゆとりを持って欲しいものだ、ちんちんのビロンビロン部分の偉大さには頭が上がらないな。
*
人生二回目の異性イベントの到来に俺、白幸太郎は胸を躍らせていた!
「ふいーすっこりすっこり」
「おかえりー」
トイレをし終えた鹿狩がパタパタと部屋に入ってきて俺の隣に座る。フワッと甘い香りがして胸が跳ねる。
片や大人っぽい色気とクールな雰囲気を兼ねた現役でモデルやるほどの美少女。
片やアイドルにも引けを取らない顔をしていて無愛想だが可愛げはある美少女。
二人ともただの幼馴染で、片方に至っては元男だったという事情もあるが、それはそれ。この二人の美少女に囲まれた俺って、傍から見たら両手に花、ハーレム物の主人公まっしぐらな状況なのでは無いだろうか!
俺は自他共に認める自宅警備員としてここ1年、飯と買い物を除けば外界との関わりを断ち引きこもり続けた穴蔵の蛇である。
今泉さんという来客は居るが、それ以外にほぼ人との関わりが無い俺がこんな擬似ハーレムを形成出来るだなんて夢のような話じゃないか!
さっきは動揺したけど、都子も鹿狩も顔もスタイルもめっちゃいいし、幼馴染だからって距離も近いし、Vプリカの残高を補充しに行って良かったーほんと!
「幸太郎、どうしたの?」
右隣からズイッと都子が顔を近づけてくる。まつ毛なっが……鼻たっか……着物とか着たらめっちゃ似合うやろな……!
女の子らしい香りとしつこくない程度の優しい香水の匂いにたじろぐと、逆側にいた鹿狩が「ぐえー!」と鳴いた。
柔らかい体に抱き止められ、鹿狩の方を向くと「なんでこんなにっ」と思ってしまう程の良い匂いがした。お菓子の擬人化かなにかなのだろうか? 慌てて体を離す。
「わ、悪ぃ!」
「熱でもあんの? 変な挙動しやがって」
鹿狩が自分の額に手を置き、もう一方の手で俺の額を触って熱を確かめる。頬は柔らかそうで猫のような目で見られるとドキッとする。顔と顔の距離を近づける意味はあるのか? 鼻同士がぶつかりそうだぞ……!?
「あっつ。エアコンが効くまで時間がかかりそう〜……」
「どわっ!? みみみ都子っ!?」
「? なに」
男の俺が同じ空間にいるのに平然と制服を脱ぎ始める都子に慌てて声を掛ける。彼女はセーラーを脱ぎ、中シャツにまで手をかけた所で手を止め俺を見た。
「俺が居るのに着替えるとか正気ですか!」
「はあ? あんたがいるから何?」
「俺男! You女!」
「あぁ……でもあんたって弟みたいなもんだし。別に見られてもなんとも思わないけど」
「弟、みたいなもの、だと……?」
俺、都子からそんな風に思われていたのか!? 弟扱い、だと。男として見られてないってのかよ!
「やーい都子だって怒られてるー。痴女め!」
「はあ!? 外で脱ぎ出すあんたと一緒にするな! 私は自分の部屋で脱いでっから!」
「幸太郎に言われてんじゃん、男がいる前で服を脱ぐ変態女めー」
「だーかーらー、こいつは弟みたいなもんだから例外だっつの!」
「ぎえーっ!?」
中シャツを脱ぎ捨てて下着姿で都子が鹿狩を組み伏せ、関節技を決める。見事なコブラツイスト、すごい形相で鹿狩が悲鳴をあげている。あぁ、美少女でも劇画タッチみたいな顔になるんだな。
鹿狩が都子によってノックアウトされると、なんと何故か鹿狩まで都子の手によって服を脱がされ始めた。居ても立っても居られず俺はダッシュで都子の部屋から逃げると、中から「トイレで変なことすんなよー?」と楽しそうな鹿狩の声が聞こえてきた。変な事なんかしねえよばーか!
……。ふぅ。
トイレを終え、ゆっくりめに都子の部屋まで戻りコンコンとノックする。中から二人の「どうぞー」という声がしたので扉を開けると、そこにはメイド服を着た都子と、ナース服を着た鹿狩が立っていた。
「あー……分かった。これは夢か」
「現実なんだよなぁ。抜いてきた?」
「おー抜いてきっ……ナンノコトカナ?」
「抜くってなに? なにか抜いてきたん? 幸太郎」
「なんの事だろうねぇ俺には分からないな鹿狩は黙ってろよ」
「流れるように箝口令敷かれたぁ」
……二人とも、スカートの丈とか胸元とか色々危うい。なんて言うか肌色が出過ぎだ。目のやり場に困り目を瞑り、ついでに一応しゃがむ。
「ねー、似合ってる?」
「待ってくれ。落ち着くまで、頼むから待ってくれ」
「はぁ? どうしたの、立ちくらみ?」
「都子、お前が純粋な反応するのはちょっと意外すぎてダメだ……どちらかと言えばそういうセリフは鹿狩が言ってそうな」
「なにー? しんどいなら私がスッキリ楽にシてあげよっかー?」
「お前は黙ってろ鹿狩ぃいいい!!」
「けけけ。おもれぇ〜」
「? なんなの二人とも……?」
セカンドインパクトを鎮める為に、至近距離で笑いながら囁きかけてくる鹿狩の声を必死に母親の顔面を思い出すことで無効化する。完全に封印が成功したところで立ち上がり、鹿狩にデコピンをする。
っ! なんでコイツッ、横から乳が見えそうな穴が空いてる服なんか選んだよっ!?
「なんなん……コスプレ?」
「当ったり〜。ほら、もうすぐコスプレ祭りみたいなの近くでやるやん? 私らも出てみたくてさ〜!」
「って鹿狩くんがどうしてもって言うから仕方なくね。私は乗り気じゃないから」
「ノリノリで衣装買い回ったやろがー!」
「それもあんたがどうしてもって言うからやし〜」
「あたかも自分は微塵も興味ありませんみたいな顔するのやめてくださいみっともな〜い!」
「は? みっともなくないが? 真実を言って何が悪いわけ〜?」
ぎゃいのぎゃいの。言い争うだけに留まらずなーんか取っ組み合いの喧嘩が始まった。なんで? どこで? どこにそんな喧嘩になるような要素あった? コイツら本当に仲良いの? 性格の相性まじで大バツだろ。ただでさえ心許ない布面積がどんどん解放されてしまっているから落ち着いてくれないかな。
「ドードー、落ち着け二人とも」
「たまには私も怒るんだからな!」
「きゃあっ!」
「ふもっふ」
鹿狩に突き飛ばされた都子の尻が俺の顔面に降ってきた。柔けえ肉だなぁ。え、なにこれ? エロゲーやりすぎてエロゲーの世界に来てしまったのか? 何回俺のピク棒をムクつかせるわけ? 貧血で倒れるぞ俺。
「やったなー!」
「落ち着けって、何で怒ってんのお前ら」
「八尋のくせに!」
「わぁっ!?」
「ふもっふ」
今度は都子に投げ飛ばされた鹿狩の胸が俺の顔面に降ってきた。いや普通に幸せだなこれ。もう放置で良くないか? ただいるだけで美少女二人の肉体が勝手に降ってくるならもう何もしなくていいだろもはや。
「いや良くないな。都子! 鹿狩も! 争いはやめ」
「あんたから誘われる事なんて珍しいって思ってワクワクしてたのに何がコスプレよっ、しかもドンキのエロコーナーにあるようなやつを着て街を歩くとか羞恥プレイ以外の何物でもないっつの!」
「嫌なら断りゃええやん! 昔っから自分の知らない事は誘われても挑戦しようとせず断る、まじ悪癖だからそういう所直せよお前!」
「一回しか誘ってくれないとか実はそこまで一緒に遊びたくもなかったって事でしょ! マジムカつくっ、私の事なんかどうでもいいんだ八尋は!」
「そーんな事言ってないだろー!? 断ったのにしつこく誘うのは嫌な気持ちになるだろうなって親切心で退いてやってんだよ! こっちの気持ちくらい察しろよバカ!」
「は!? バカって何! 私より遥かに八尋の方がバカじゃん! バカ八尋!」
「根拠の無いバカ呼ばわり効きませーん、いつも頭凝り固まりすぎなんだよバカ都子!」
「ふももももももももっ」
全然ダメだ、聞きやしねぇ。でも、二人の胸に挟まれて気持ちいいからどうでもいいか。都子も鹿狩も、いい胸持ってるんだよなぁ。巨乳に挟まれて窒息死するのも、また一つの幸せの形だよな。
「大体あんた最近なにっ、周りから好き勝手言われても黙ってるし昔と全然キャラ違うじゃん! 他の子がそういう目に遭ったら庇う癖に自分はどうでもいいわけ!?」
「ふもっ、ふもっ……」
「都子には関係ないだろそんな事! 俺だって色々考えてんの!」
「ふもっ……」
「考えてるだけじゃ解決しないでしょバカじゃないの!? 佐藤なんかと付き合った事よりもそっちの方がムカつく! 嫌だって拒否ってるのに図々しく内心に土足で潜り込む癖に自分の中身には触れさせようとしない所!」
「もっふ……」
「は、話しても理解されない事だってあるしそれならいっそ話さず独りで抱え込んでいた方が気楽だろ!!! 他人は助けるよそりゃ、俺は人間だもん!! 可哀想哀れだな惨めだなって思ったら手を差し伸べるだろ普通!! それの何がっ」
……え? この言い争いいつまで続くん? 本当に意識が薄れてきたけど。胸と胸、大きすぎて顔を上手い具合に埋めてくれてるから酸素が全然供給されなくて呼吸困難に陥ってますけど?
やば……マジで俺、幼馴染二人の胸に埋まって死ぬのか。マジかぁ。めっちゃ柔らかくて、あったくて、いい気持ちだけど、せめて一回くらいセックスしたかったなぁ。童貞、捨てたかったなあ。
あ、そういえば部屋のエロゲー付けっぱなしで家出たんやった。親に見つかったらどんな反応されるんだろう。心残りがあるとすれば、でもそれくらいだし、案外この人生にも満足出来……。