「あれ? なんであたし、こんなところにいるの?」
目を覚ました美咲は、自分が見知らぬ半球状の空間の中にいることに気づいた。暗闇の中、彼女が周りを見渡すと、その空間にはおびただしい数の髑髏や生首が、山積みになっている。その光景に美咲は悪寒と恐怖を覚え、悲鳴をあげようとした。だが、一瞬後、彼女は何故だか髑髏や生首に親しみが湧き、悲鳴を飲み込んだ。そのかわり、彼女は疑問を口にする。
「一体ここはどこ……? 」
美咲は立ち上がろうとしたが、そのとき自分の身体に異変が起きていることに気づいた。何故か、胸が物凄く大きくなり、重くなっている。手足はすらり細長くなっている。指もまた、一流の芸術作品であるかの様に美しく細長くなっている。就寝時に着ていた筈の青いイルカ柄のパジャマが消滅している。変わりに彼女が着ている服装は、露出度の高いくノ一風の衣装になっている。トップスは、大きくなった胸の谷間を強調するかのように露出し、ボトムスにはスリット入りの超ミニスカートを履いていた。
「えっ……? 」
自らの下着の様な服装に驚いた美咲は自分の顔を見ようと、近くに転がっていた手鏡を慌てて手に取る。その鏡は、古びてはいるが丁寧に手入れされていた。
鏡に写った自分の顔。それは、21世紀の日本のアイドルや芸能人であっても裸足で逃げ出すであろう美少女の顔だった。AKB58の様な大して綺麗でもないただ人数が多いだけのアイドルなど、最初から勝負にもならない程の美少女だ。彼女は、黒髪おかっぱ頭に赤いカチューシャを付けていた。瞳は、以前の黒色ではなく、赤色になっていた。その瞳は、鏡の中で妖艶な光を放っていた。彼女の唇はまるでさくらんぼのように、赤く、ふっくらとしていた。
「まさか……?」
美咲の声、その声はいつもよりも高くて甘い声になっていた。
「あたし……逆髪の結羅になってる……?!」
美咲は信じられない事実に叫んだ。彼女は漫画『犬夜叉』の大ファンで、特に逆髪の結羅が大好きだった。彼女の美しさと残忍さに惹かれていたのだ。
何故、残忍な結羅に惹かれていたのか? それは美咲はイジメられていたからだ。貧乳で、人相が悪く、出っ歯だった美咲は容姿がコンプレックスでいつも下を向いて歩いていた。そんな美咲はイジメの格好のターゲットだった。
だから、いつもいつも、美咲は考えていた。「逆髪の結羅になって、大嫌いな人間たちを狩って遊びたい」と。だが、それはあくまで妄想の中の話で、現実になるとは思ってもみなかった。
「どうしてあたしが逆髪の結羅になってるの……? 」
美咲は混乱した。しかし、その混乱は一瞬しか続かなかった。混乱はすぐに、感動と興奮と歓喜に変わった。あたしは憧れの存在である逆髪の結羅になっているのだ。これは夢ではなく現実だった。
「でも……これはチャンスかもしれない……。」
美咲は考えた。自分は漫画の結末を知っている。結羅はかごめに櫛を破壊されて死んでしまうのだ。だが、それを防ぐことができるかもしれない。あたしが結羅として行動すれば、結羅の運命を変えることができるかもしれない。
「あたしは結羅! 逆髪の結羅。そう! あたしこそが、逆髪の結羅!」
美咲は決意した。これからは逆髪の結羅として生きていくと。
そう考えてると、ここが何処かは自ずから明らかになる。ここは、「結羅の巣」だ。数千個の髑髏と、それを覆う何万本もの髪で構成された結羅の隠れ家だ。
彼女は、「結羅の巣」の外に出る。結羅の巣、それは直径五十メートル程もある巨大な髪の玉だった、それが大渓谷の中に浮かんでいる。否。崖から伸びる髪の毛によって吊るされている。
結羅は自らの住処を確認した後、空を見上げた。空には、満月が輝いていた。それはまるで、彼女の新たな人生を祝福するかのようだった。
「さあ、始めよう! 逆髪の結羅の物語を!」
結羅は口元に血のような紅を浮かべた。それは笑みだった。その笑みは、月の光に照らされて美しく輝いていた。しかし、その笑みには残酷さと凶暴さと歪みが混じり合っていた。まるで、これから始まる世界の惨劇を暗示するかの様な笑みだった。