第1話 「オナニーライフの行方」
家族が寝静まった深夜、翔太郎は音を立てないように気をつけながら、ある場所に足を運んでいた。その場所とは洗面所――正確に言うならばそこに置かれている洗濯機の前だ。
翔太郎が見下ろすのは、まだ洗濯されていない衣服が詰まった洗濯かご。
これから行う非道な行為に罪悪感を持ちつつも、それを上回る期待感に胸を高鳴らせていた。
手早く済ませなければならない焦りに急かされながら、しかし、なるべく漁った形跡が残らないように、積み上がった衣服を上から少しずつ確認していく。
そしてついに見つけた。――洗濯ネットに入った妹のそれを。
洗濯ネットのファスナーを開き、中から取り出したのは女性ものの白い下着。白地の布に赤のレースがあしらわれたそれは、一日着用されてクロッチに黄ばんだ汚れがついたままのパンツ。
心臓が破裂するのではないかと思うほど強く鼓動していた。
今、妹の下着を手にしていることを誰にも気づかれてはいけない。
だが、このパンツでこれからすることを考えると高揚感が止められなかった。
翔太郎はパンツをポケットに突っ込んで、洗濯ネットを一旦かごに戻すと、そそくさと自室へ戻った。
妹の優衣は贔屓目なしに可愛い。
吊り目気味で整った顔立ちはキリッとした印象を与える。身長は高一女子の中では高い部類で、歩くとその好スタイルに長いストレートの黒髪が揺れて魅力的だ。
少々寡黙で、たまに口を開いたかと思えば率直な物言いをするので冷たいようにも感じるが、一緒に暮らしていれば正直なだけでむしろ優しい子だというのは分かった。
そんな可愛い妹のパンツを、兄は今日もくすねてきたのだ。
翔太郎は部屋に戻るなりすぐに、立ったままパンツを取り出して広げた。
ゴクリ、唾を飲む。
もう翔太郎の股間はすっかり大きくなって存在を主張していた。
その主張に従ってパンツごとズボンを下ろすと、ピンッとそそり立ったペニスが今か今かと待ちわびていた。
「……優衣…………」
誰にも聞こえないように小さな声で呟いて、パンツのクロッチに鼻を寄せた。
優衣の秘部が一日擦り合わされ、そこからこぼれた蜜で汚れたパンツは、刺激的な匂いを伴いながら、優衣の近くにいるといつも香るほのかな甘い匂いがした。
満を持した翔太郎は、亀頭の先端がクロッチに触れるように添えると、パンツで包んだペニスを欲望のままに扱いた。
優衣のヴァギナを直に覆い隠していた布が、今は自分のペニスに擦りつけられている。
優衣の、妹の秘部を想像しながらの行為に、背徳感と、全てを忘れるような快楽の波がつま先まで駆け巡った。
「優衣ッ……優衣ッ……!」
達するのはすぐだった。我慢などできるはずもない。
翔太郎のペニスはドクッドクッと脈を打って、解き放たれた欲望が妹の蜜と混ざり合いながらパンツにシミを広げた。
「っはぁ……ふぅ…………」
またやってしまった。そんな後悔が、波の引いていった頭に残る。
冷静になって、パンツにつけた精液を急いでテュッシュで拭き取った。
罪悪感と快楽の余韻が残るままに、再び忍び足で優衣のパンツを戻してから眠りについた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
妹のパンツに性欲をぶちまけた翌朝、翔太郎は優衣と顔を合わせても何食わぬ顔で挨拶をした。
「おはよう」
「おはようお兄ちゃん」
妹の素振りにおかしな点はなく、恐らく今回も気づかれていない。
何度も繰り返すうちに案外気づかれないものだというのは分かってきた。
しかしだ、制服に着替えてリビングに立つ妹は当然スカートの下にパンツを履いているわけで、そのパンツは洗濯されたとはいえ翔太郎の精液を受け止めたものなのだ。
翔太郎は想像する。自分の精液が染みたあのパンツが、今は優衣の秘部に押し当てられている。
考えただけで自分の股間が熱くなっていくのを感じた。
「お兄ちゃん、そんなところに突っ立ってどうしたの?」
「あ、あぁ……いや、ちょっと考え事を……大したことじゃないから」
股間が膨らんで気づかれる前に自室へ引き返すと、急いで処理をした。
二階から降りてリビングを覗く頃には、優衣の姿はもうなかった。
「ふー……セーフ」
朝のハプニングのせいで、遅刻ギリギリで教室に駆け込んだ翔太郎は、自分の席について息を整えていた。
前の席に座るクラスメイトの少女はその様子が気になったようで、緩いウェーブがかかった肩口ぐらいの髪をふわりと揺らして振り返った。
「翔ちゃん、今日はギリギリだね」
彼女は幼馴染の小春。昔から気が弱くて、小学校で知り合ってからはよく翔太郎の後ろについて回っていた。中学と高校も同じ学校で、もうだいぶ長い付き合いになる。
「今日はちょっとアクシデントがあってさ……」
もちろん、妹を見ていたらムラムラして、抜いたせいで遅くなったとは口が裂けても言えない。
「アクシデント? 大丈夫?」
何も知らない小春が心配そうな顔を浮かべるものだから、なんだか少し申し訳なくなる。
「いやあのー、全然大丈夫だから気にしないでいいよ……」
「そうなの? それなら良いんだけど」
放課後は情報処理部へ顔を出す。
情報処理部と言っても名ばかりで、古いパソコンが三台置かれた狭い部室でゲームをしたりアニメを見たりするだけの変わり者のオタクの集まりだった。
「翔太郎殿来ましたな。早く昨日の続きをやりましょうぞ!」
翔太郎に声をかけてくるのは眼鏡をかけた縦にヒョロヒョロ長い男子生徒――彼は情報処理部員の英樹、あだ名はヒデ。
「おう、俺も楽しみにしてたんだ」
二人が座って囲んだパソコンには、すでにゲームのタイトル画面が表示されていた。
そのゲームというのは泣けると評判のゲームなのだが、取り分け学校でプレイするには注意が必要なゲームだった。それは18禁の美少女ゲーム、いわゆるエロゲーだ。
「小生、武者震いがしますぞ」
「ああ、ようやく昨日個別ルートに入っていいところだからね」
「ではさっそく…………」
コンテニューの文字をクリックしようとしたところで、
――――ガラガラッ
部室のドアが開いて、急いでウィンドウを最小化して振り返る。
「やあやあ、今日もやってるねぇ~」
呑気な声を上げて部室に入ってきたのは、一見小学生と間違えてしまうような小柄な体格の少女。しかし身につけている制服が、間違いなく彼女はこの高校の生徒であることを証明していた。
「なんだ高さんか……脅かさないでくださいよ」
翔太郎が高さんと呼ぶ彼女こそが、情報処理部の部長をしている高田だった。
「そうですぞ、部長殿。寿命が縮んでしまいますぞ」
「あははぁ、ごめんごめん。じゃあ、お詫びにい・い・も・の……見せてあげよっかぁ?」
そう言って高さんは、誘惑するように第二ボタンまで開けたシャツの胸元を見せてくる。
しかし、幼児体型の彼女に色気などあるはずもく、翔太郎とヒデは白けた顔をした。
「あ、はい。間に合ってます。こっちは一刻も早くゲームを進めたいんで」
「うむ、翔太郎殿早くやりましょうぞ」
「むー冷たいなぁ。じゃあ、私は寝落ちして見逃したアニメでも見てるねー」
下校時刻間際までゲームをプレイしてエンディングを迎えた頃、再び部室のドアが開いた。
「翔ちゃん部活終わった?」
現れたのは小春。いつものように、部活が終わって翔太郎と帰るために迎えに来たところだった。
一方、翔太郎は小春の方へ振り向くが……その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「小春ぅぅ……うぅ、ぐずっ……」
「翔ちゃん!?」
号泣する翔太郎に、小春は面食らって目を丸くした。
「翔太郎殿ぉぉ、良かったっ……良かったですな……!」
同じく号泣するヒデは小春に一瞥もくれず、翔太郎に手を差し出した。
翔太郎はヒデに向き直ると、その手を取って熱い握手を交わす。
「ああ……ああ、本当に、最高だったな……!」
「え、えぇ……?」
困惑している小春を見かねた高さんは、イヤホンを外しながらやれやれと助け舟を出した。
「いやーごめんねぇ、やってたゲームが感動的だったらしくてさぁ、この通りよ」
「ああ……そういう……」
どんなゲームをやったらここまで見事に号泣するのか気になった小春は、興味本位でパソコンのモニターを覗き込むが、そこに映し出されていたのは――――男女が裸で行為に及ぶシーンだった。
「っ!? しょ、しょ、翔ちゃんっ!? またこんなエッチなゲームやって! なんでこれで泣いてるの!?」
顔を真っ赤にした小春が声を上げるが、翔太郎は諭すように静かに言う。
「小春、違うんだ……物事は断片的な情報で判断しちゃいけない……。ここにたどり着くまでのドラマがな……うぅ……思い出しただけで感動する……」
「も、もうっ、私先に帰るからね!」
「あっ、ちょっと!」
翔太郎の制止も聞かず、小春は部室を出ていってしまった。
「翔太郎殿、片付けは小生に任せて、小春嬢を追いかけてあげなされ」
「ごめんヒデ、頼むな」
「翔太郎クンまたね~」
「高さんもお疲れ様ですっ」
翔太郎は駆け足で部室を飛び出した。
慌てて靴を書き換えると、昇降口を出てすぐのところで柱を背に立っている小春の姿を見つけた。
「なんだ、待っててくれたんだ」
あからさまに安堵するのもなんだか気恥ずかしいので平静を装うが、待っている小春の姿が目に入った瞬間は胸の奥がふわっと温まる想いがした。
「うん、やっぱり一人で帰るのもなんか寂しいかなって」
「そっか、んじゃ帰ろうか」
歩きだしながら、小春が眉をひそめて聞いてくる。
「今日のは一段と、その……あれだったけど、あんなの見つかったら怒られちゃわないの?」
「まぁ確かにマズイね」
「せめてああいうのは学校じゃなくて家でやった方が…………」
「いや、シナリオがすごい感動するって話題でさ、是非ヒデと感動を共有したいなって」
「……あれのどこに感動する要素があるの……?」
「あそこにたどり着くまでに深い深ーいストーリーがあってだな――――」
翔太郎は先程までプレイしていたゲームのストーリーを語る。
一度は結ばれたかのように思われた主人公とヒロインだったが、主人公は背負った罪を清算するためにヒロインのもとを離れる。離別に苦しむヒロインの姿は涙を誘い、そしてクライマックスでは窮地に陥ったヒロインを救いに、罪を清算し終えた主人公が颯爽と舞い戻る。今度こそ二人は真の幸せを手にするという話だ。
「なんかそう聞くと良い話みたいに聞こえるけど…………」
疑わしそうな目で見てくる小春に、翔太郎は熱弁する。
「愛を確かめたり深めたりする行為って素敵だと思わない? あれは俗なものじゃなくて、愛の表現として必要なものなんだよ」
「うーん……そうなのかなぁ……」
「小春だって好きな人とならそういう事したいでしょ?」
「えっ……それは、まぁ………思わなくもない、かな…………?」
小春は顔を赤くして、チラチラと翔太郎を窺いながらしどろもどろに言う。
「……あー……なんか変なこと聞いてごめん」
幼馴染相手で感覚がおかしくなっていたが、小春も女の子だ。翔太郎は少々デリカシーに欠ける質問をしてしまったなと後悔した。
しばしむず痒い沈黙が流れて、不意に小春が口を開く。
「…………じゃあさ、今度あのゲーム借りてもいい……?」
「えっ…………?」
ぽかんとした翔太郎の表情を見た小春は、更に耳まで真っ赤にして声を上げた。
「やっぱ今のなしっ! 翔ちゃんのバカッ! エッチッ!」
呆然とする翔太郎を置き去りにして、小春は走り去ってしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
小春とのやり取りを思い返しつつ呆けた顔で帰宅すると、リビングには先に帰っていた優衣の姿があった。
「ただいま」
「おかえりお兄ちゃん」
なんてことのない普通の挨拶。
次に続く妹の言葉も至って普通の会話だろうと、当たり前に思っていた。
しかし、なんでもないような平坦な口調で発せられたそれは、翔太郎の思考を吹き飛ばすような衝撃的な台詞だった。
「お兄ちゃんさ、私のパンツでシコるのやめてくれない? パンツ傷むんだけど」
「あ…………へっ?」
「ねえ、お兄ちゃん聞いてる?」
――妹のパンツでオナニーしてるの、思いっきりバレてました。