夏休みが始まって数日が経ったある日の昼。翔太郎は普段より身だしなみに気をつかって選んだ皺の無い襟付きシャツを着て、駅へ向かう道を歩いていた。
約束の集合場所に10分ほど早く着くと、そこには既に小柄な彼女の姿があった。
いつもの見慣れた制服姿ではなく、白のトップスに膝丈のフレアスカートが涼しげで、かつ清楚さを感じさせた。薄くではあるが化粧もしているようで、普段とは違う少し大人びた雰囲気を醸し出す姿にドキッとした。
「おまたせ、待った?」
「ううん、今来たところだよ」
「そっか、良かった。……って、今の絵に描いたようなやり取りだったね」
「ふふっ、私も思った」
気を張っていたが会話をすればいつも通りで、お互いにほころんだ顔を見て肩の力が抜ける思いだった。
「じゃあまずは、前から行ってみたかったお店があるんだけど付き合ってくれる?」
「うん、もちろん。どこのお店?」
「駅ビルの上なんだけど……」
初デートの期待に胸を踊らせて、二人は並んで歩き出した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おまたせしました」
「おお……」
翔太郎は目の前に運ばれてきた料理に目を輝かせて声を上げた。それは見るからに柔らかそうな厚めのパンケーキが三枚、そこにチーズのムースとベリーソースがかかった一皿だった。
「翔ちゃんって意外と甘いもの好き?」
「甘いものが特別好きというよりもパンケーキが好きなんだよね。それでここのお店が前から気になってたんだけど、男一人だとはいりづらくてさ……」
「たしかに、男の子のお客さんはほとんどいないもんね」
以前この店に挑戦しようとした翔太郎は、店の前に並んでいる客が全員女性だったのを見てあえなく撤退したということがあった。それ以来完全に諦めていたのだが、今回は小春がいるならリベンジしようと思えたのだった。
「だから小春が一緒に来てくれてよかったよ。俺の都合でここにしちゃったけど、小春はパンケーキで大丈夫だった?」
「うん、私も好きだから全然大丈夫だよ」
「良かった。じゃ、さっそく……」
翔太郎がパンケーキにナイフを入れると、柔らかい生地がふわりとナイフを包み込むように受け止める。一口サイズに切ったそれに、ムースとベリーソースをつけて頬張った。
「ん~!」
思わず頬が緩む美味しさだった。雲を食べているような軽い食感と、しかし弾力を感じさせるもっちり感がたまらない。そして、甘さとベリーソースの酸味が互いを引き立て合って調和していた。
小春も紅茶のソースがかかったそれを、翔太郎より小さな一口で食べた。
「ん、美味しいね!」
見合ったお互いの顔が幸せそうで、視線は自然と優しいものになった。
好きな人と美味しい料理を食べるのは良いものだ。翔太郎がそう思って念願のパンケーキを大きな一口で頬張っていると、小春の目が翔太郎の口元に留まった。
「あ、翔ちゃん口にソースついてるよ。ふふっ、子供みたい」
「え? ほんと?」
「ちょっと待ってね……はい、取れたよ」
「お、おう、ごめん」
「ううん、翔ちゃんのこういうところ可愛いと思う」
翔太郎はきまりが悪そうな様子だったが、小春にはそれがかえって微笑ましく思えた。
恥ずかしさを紛らわせようとしてパンケーキを頬張る姿は、小春に次の一口をより一層甘く感じさせた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
食事を終えた二人は電車で数駅を移動して、賑わいを見せるとある施設に訪れていた。施設の屋内に入ると、ひんやりとした空気に包まれ、目の前にはたくさんの魚が泳ぐ姿があった。
「すごい、いろんな種類がいるね。これハリセンボンかな? かわいい」
水槽を見ている小春が浮かべた笑顔はどことなくあどけなさを感じさせた。それが理由だったのか、あるいは単に混雑していたのではぐれないようにと思ったからなのか、とにかく翔太郎は自然と手を伸ばして小春の手を握った。
「あっ……翔ちゃん……」
小春は驚いて目を見開いたが、すぐに顔を紅潮させて手を握り返してきた。
「……手、繋いでてもいい?」
「……うん」
子供の頃は何気なくしていたのにいつの間にかしなくなって、今再びするその行為はあの頃と違った意味合いを持っていた。
そんなこそばゆい雰囲気のまま順路を進んでいると、不意にスタッフに声をかけられた。
「お客様、お写真いかがですか?」
そちらに目をやるとフォトコーナーと書かれたスペースがあり、模型の魚と岩場を背景に写真撮影ができるようだった。
「あーえっと……小春どうする?」
「せっかくだから、私は撮ってみたいかも」
「うん。じゃあ、お願いします」
「はい、では是非お二人でこちらをお持ちいただいて……」
渡されたのは水族館のマスコットキャラクターのぬいぐるみ。意外に大きく、高さが50センチほどあるだろうか。二人で左右から持って並び立った。
「では撮りますね。……3、2、1……」
笑顔笑顔……意識はしたが上手く表情を作れている気がしなかった。
――――カシャッ
「はい! 撮れましたよ。どうぞ」
「ありがとうざいます」
写真を確認すると、二人揃って赤くした顔に照れ笑いを浮かべていた。それを見た小春は吹き出して楽しそうに言う。
「あ、ふふっ、翔ちゃん顔赤いね」
「いや小春の方が赤くない?」
「お二人とも良い表情だと思いますよ。どうぞ今日は楽しんでくださいね!」
「ありがとうございます……」
向けられた視線がやたらと温かい気がして恥ずかしかった。
手を繋いだままでいることにも少しずつ慣れてきて、あの魚が綺麗だとか、この魚は知っているだとか、自然に会話をしながら歩くことができていた。
ふと、通路の突き当りにある少し暗い水槽に、大きなカニが展示されているのが目に入った。
「なんか、魚は捌くところをあんまり見ないから思わないけど、カニは食べる時にも殻付きのことが多いから、こうやって生きてるところを見ても美味しそうって感想が先に来るよね」
「翔ちゃん食いしん坊さんだね……。でも、美味しそうに見えるってことはそれだけ健康状態が良い証拠だって聞いたとこあるよ。だからきっとこのカニさんは健康なんだね」
「へぇ~、確かにそういう見方もできるのか。ある意味美味しそうに見えるのも正解なんだね」
翔太郎が納得して頷きながらカニを見ている間に、小春は隣の水槽に目を移して声を上げると繋いだ手を引いた。
「翔ちゃん見て見て、チンアナゴだって。私実物初めて見た」
チンアナゴ。特に意味はない、意味はないのだがもう一度小春にその単語を口にさせたくなった。
「……小春、もう一回言ってくれる?」
「……? だからチンアナゴ…………って、も、もう翔ちゃんっ!」
「ごめんごめん」
どうやら邪念が顔に出ていたらしい。小春に肩を叩かれた。
展示が後半に入ったというところでクラゲのコーナーがあった。ドーム状の少し広い空間には、壁面の水槽に10種類以上のクラゲが展示されている。
その空間の中程に立つ柱には、ぐるっと一周囲むようにベンチが設置されていた。
「少し歩き疲れたし、ここでちょっと休憩しない?」
「うん、そうだね」
手を繋いだまま、肩と肩が触れる距離で腰を下ろした。
正面の水槽で泳いでいるクラゲは他の種類と比較して傘が大きく、その中心部分に四葉のような模様がある。照明の当たり方のせいか、その四葉模様が光っているように見えて綺麗だ。
「クラゲのゆったりした動きを見てるとなんか落ち着くね」
薄暗い中で見えた小春の横顔は穏やかで、わずかな光が反射してキラキラと煌く瞳は何か神秘的なものに思えた。
翔太郎はとっさにキザな台詞を言ってみたくなって、思いつきで口を開く。
「クラゲもいいけど、俺は小春と一緒にいることの方が癒やし……というか、なんというか……」
言っていて途中で恥ずかしくなった。
「う、うん……。私も、翔ちゃんと一緒にいると落ち着くよ……?」
小春はそう言って体重を肩に預けてくる。人目がなかったら絶対にキスしていた。
その後はペンギンを見たり、イルカのショーを見たり、タッチプールで小さなサメに触ってみたり、一通り水族館を満喫した。
出口へ向かう間、小春は伸びをしながら口を開いた。
「んー、楽しかったね。ここの水族館が有名なのは知ってたけど、来たのは初めてだったの」
「俺も昔小さい頃に来たきりだったし、小春と来れて良かったよ」
話しながら出口のゲートをくぐって、薄暗かった所から一気に明るいフロアに出たことで目を細めた。すぐに目が慣れて周囲を見回すと、そこでは数多くのお土産が陳列されて販売されていた。
「お土産か。ちょっと見てみようか?」
「うん、せっかくだし何か買って帰りたいね」
少し狭い店内を二人で見て回っていると、小春が何かを見つけて声を上げた。
「あ、このキーホルダー綺麗」
「どれどれ?」
小春が手にしていたのは、透明な球体の中に小さなクラゲが三匹泳いでいるキーホルダー。
「オシャレでいいね。これお揃いで買おうか」
「うん!」
翔太郎はキーホルダーを二つ手に取ってすぐにその場を離れようとするが、小春がそれを呼び止めた。
「ねえ翔ちゃん、優衣ちゃんにもこれ買っていかない……?」
「え?」
「だって……私達だけお揃いでつけてたら、優衣ちゃんが仲間はずれみたいになっちゃわないかな……?」
「確かに、それもそうか……。じゃあ優衣にもお土産ってことで」
「うん、それがいいと思う」
追加でもう一つ同じものを手に取ると、小春はパッと顔をほころばせて、翔太郎はそれがなんだか嬉しかった。
「じゃあ俺買ってくるから、ここ狭いし小春は先に外で待ってて」
「あ、それならお金……」
「いいよいいよ、高いものでもないしこれぐらいはプレゼントさせて」
「……そう? じゃあお言葉に甘えてさせてもらうね。ありがとう」
翔太郎は小春の背中を見送ると、目をつけていたものを手に取ってからレジへ向かった。
「お待たせ。はいこれ」
翔太郎が袋を手渡して、それを受け取った小春は首を傾げた。
「あれ? なんか重たい……?」
「中見てみて」
言われた小春は袋の中を覗いて声を上げた。
「あっ! これ……」
小春が取り出したのは手の平サイズのペンギンのぬいぐるみだった。
「今日ペンギン可愛いって言ってたから、これもプレゼント」
「翔ちゃん……ありがとうっ! 大事にする……!」
吹き抜ける弱い海風は髪を優しく揺らし、ぬいぐるみを抱きしめる小春の顔が差し込む夕日に照らし出されていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
水族館デートは良い雰囲気のまま終り、後は帰るだけだった…………のだが、今翔太郎と小春は息苦しい電車の中で体を密着させていた。水族館を出るタイミングは当然他の客とも被るし、加えて夕方の混みやすい時間だ。車両内はすし詰め状態だった。
ドアの際で翔太郎はほとんど小春に覆いかぶさる状態になっていた。お互いに赤くした顔を逸らすが、翔太郎は息をするとどうしても小春の頭の匂いを嗅ぐ形になってしまう。この真夏の温度では当然汗もかくわけで、小春の頭の匂いは殊更強く翔太郎の鼻腔をくすぐった。
加えて下半身も密着しているその状態では、どうやっても股間が反応してしまうことは避けられなかった。
固くなったそれが小春の下腹部に押し当てられて、気づいた小春が小声で聞いてくる。
「しょ、翔ちゃんこれもしかして……」
「ご、ごめん……」
少しの間沈黙が流れた後、小春がツンツンと指で小突いてきた。視線を送ると、紅潮した小春が口に手を添えて内緒話の手振りをするので、翔太郎は耳を寄せて小春の言葉を聞こうとする。
小春は小さな声でも聞こえる位置に翔太郎が来たことを確認すると、わずかに震えた声で囁いた。
「……ホテル、いく……?」
「っ……!」
とっさに息を呑んだ翔太郎に先んじて、息子がピクッと反応して返事をした。
「あ……ふふ、そっちで返事するんだね」
「ごめん……」
「翔ちゃんのえっち……いいよ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ちゅっ……ん……はぁ、じゅるっ……」
二人はホテルに着くなりすぐに裸になって抱き合い、キスをしていた。
翔太郎の指が小春の秘部を愛撫すると、小春からはか細い嬌声が上がる。
「あんっ……んんっ……」
翔太郎は小春の首筋に口づけて、静かな声に燃え滾る劣情を込めて言う。
「今日の小春すごく可愛くて……こうしたいのずっと我慢してた」
「私も……すごく幸せで、ドキドキして……お腹のところが、翔ちゃんにおちんちん入れて欲しいってうずいちゃってたの……」
「……そんな事言われたら……我慢できないよ」
「今ならもう、我慢しなくていいんだよ……?」
肌を密着させた小春が上目遣いで言う。それが最後の一押しになった翔太郎は、小春を抱き上げてベッドに連れていき、コンドームを手早くつけて小春に覆いかぶさった。
「じゃあ我慢しない」
「うん……ちょうだい」
小春が我慢しなくて良いと言ったのだ。翔太郎はその言葉を免罪符に、固く大きくなったペニスで無遠慮に小春の腟内を蹂躙した。
「あっ! んんっ……ふぅんっ……!」
小春の腰を少し持ち上げて、深く挿入できる角度で何度も何度も突いた。
「うっ、ああぁ……はげしっ……ひぅっんん!」
時には動きを緩めて、ペニスを膣壁にゴリゴリと擦り付ける。
「ううぅ……あぁぁ……」
そして再び小春の奥を叩く。
「あんっ! く、んんん……!」
小春の膣はペニスを逃さないように入り口の辺りが締め上げてくる。
「くっ……小春のおまんこ……気持ちいいっ……!」
「あ、あっ……わたし、も……きもちいいっ、よぉ……!」
徐々に込み上げる射精の感覚に、翔太郎は絶頂に達する前に一度ペニスを引き抜いた。そして、乱れて息の上がる小春を見て、後ろからされる方が良いと言っていた事を思い出す。
「ふぅ……小春、うつ伏せになれる?」
「はぁ、はぁ……うつ伏せ……? うん……分かった……」
まだ少し息が乱れている小春は、ベッドに伏せるように寝て肩をわずかに上下させている。翔太郎はその小春の腿の辺りに跨がって、斜め下の角度でペニスを挿入した。
「んっ、あ……やっぱりこの姿勢……深いところまで……」
奥まで入ったペニスが小春の子宮の入り口を押して圧迫する。
「……ひぃぅっ! んんぅっ!」
激しいピストンではなかったが、深くまでぐっと突き入れて、引いて、また突き入れる。その緩急のついた刺激が小春に甲高いよがり声を上げさせた。
「こ、これだめっ……いちばん、おく、当たって……ひぐぅっ!」
ペニスは膣壁の一番感じる部分を擦りながら奥へ突き入れられ、小春の中の敏感な部分を余すことなく責め立てた。
「だ、だめぇ……! これ、おかしく、なるぅっ……ぐんんぅ……!」
責めから逃れようとして小春が身を
「逃さないよ。我慢しなくていいって、小春が言ったんだからね」
翔太郎そう言って小春を責めるのをやめない。それどころか、腰の動きは徐々に速くなった。
「いっ、イってる、からぁっ……! ひぁっ! ぐぅぅ……いいぃっ!」
小春は止めることのできない喘ぎ声を上げながらベッドに顔を埋めて、手はシーツをギュッと強く握っていた。
翔太郎は小春に覆いかぶさるようになって征服しているという実感が、小春はされているという実感が、更に二人の昂りを加速させる。
「うぅ……お、ぉ……ひゅ、うぅんっ!」
度重なるオーガズムによって小春の体はビクビクと震えていて、その姿に翔太郎も射精の予感が高まる。
「はぁ、はぁ……そろそろ、俺もっ……!」
「ううぅっ! ぐぅん……! い、イってっ……!」
キツく締め上げてくる小春の腟内で、
「……くッ!」
大きく膨れ上がった翔太郎のペニスが脈打って、大量の白濁液を吐き出した。
「ひぃぅうう! ……はっはぁっ、はっ……」
「ふぅ……はぁ……」
一発で全てを出し切って、クラクラとする感覚に身を委ねて小春の上にだらりと倒れた。お互いに息は荒く、呼吸によって胸が膨らんでは萎んでという動きを肌で感じた。
小春が重たそうにしているので隣に寝転んで顔を覗くと、紅潮した顔で目を半開きにして口からは涎が垂れていた。それでも翔太郎の顔を見ると途端に、にへらと笑みを浮かべた。
「翔ちゃん、今日すごかったよぉ……」
「結構責めちゃった気がするけど、大丈夫だった?」
「むしろ気持ちよかったというか……よすぎたというか……恥ずかしい声いっぱい出ちゃってた気がする……」
「うん、感じてる小春エッチだった」
言って小春の唇を奪った。
「ん…………あのね、今日一日すごく幸せだったの。翔ちゃん、ありがとう」
「ううん、こちらこそ、付き合ってくれてありがとう。小春のこともっと好きになった気がする」
「えへへ……」
照れ笑う彼女の癖のある前髪は、指で撫でるとサラリと揺れて、その奥の潤んだ瞳に吸い寄せられるように自然と唇を重ねた。