今日は七月七日。八歳の翔太郎は母の買い出しについてきて、優衣とともにスーパーの店内を歩いていた。
「あ、笹だ!」
声を上げた翔太郎が指差す一角には一本の笹が立ち、小規模ではあるが七夕のイベントスペースが設けられているようだった。笹の隣にある台には白紙の短冊とペンが備え付けられて、願い事を書いて飾れるようになっている。
翔太郎は子供心で衝動的にそこへ駆け寄った。特に何も考えていなかったので、青い短冊とペンを手に取ってから頭を悩ませた。
「うーん、なんて書こう……?」
後についてきた優衣は黄色い短冊を手にすると、さして悩む素振りもなく手を動かし始めた。
翔太郎が優衣の手元を覗き込むと、短冊に書かれた願い事は、
『プリキュアになりたい』
「優衣はプリキュア好きだもんね。悪いやつをやっつけるんだ?」
その言葉を聞いた優衣は、途端に眉間に皺を寄せた。
「戦うのなんか嫌に決まってるじゃん。バカなの?」
突然不機嫌になった妹に睨みつけられた翔太郎はたじろいで、しかし、察することのできなかった願い事の真意を尋ねた。
「……じゃあどうして?」
優衣は唇を噛んで、歯がゆそうに口を開いた。
「……だって、お兄ちゃんこの前、プリキュア見て可愛いって言ってたもん。……私も可愛いって言われたいの!」
言い切った優衣は顔を赤くして目に涙を浮かべていた。その癇癪は願い事の意図を汲み取ってもらえなかったことに起因するようだが、翔太郎は妹があまりに愛おしくて思わず抱きしめて頬擦りした。
「優衣は可愛いなぁ」
「うぅ……今更言っても遅いし!」
翔太郎は機嫌の直らない優衣を持て余したが、その時にふと思いつく。
「じゃあ、ちょっと待って……」
短冊に力強く書いた願い事は、願いというよりも宣言だった。
『おれがわるいやつをやっつける』
「こうすれば優衣がプリキュアになっても戦わなくていいでしょ! 俺が優衣を守るよ!」
「…………うん」
優衣は小さく頷いて、なんとか堪忍してくれたようで翔太郎は一安心。
「でも、お兄ちゃんはプリキュアじゃないから負けちゃうから、ピンチになったら私が助ける」
「……じゃあ俺もプリキュアになればいい?」
翔太郎の言葉に、優衣は少し考える素振りをみせてからぽろっとこぼす。
「……キモい」
「えぇ……」
翔太郎は優衣のためにという意気で言ったのに、優衣本人に気持ち悪がられて肩を落とした。
優衣はそんな兄の袖を掴んで言う。
「弱いしキモいけど……でも、それがお兄ちゃんだからそれでいい」
励まされているのだろうが、あまり励ましになっていない気がした。けれども、妹がいいと言うのだから今はそれでいいかと思えた。
二人で短冊を飾ってから、翔太郎は優衣の手を引いた。
ひらひらと翻る青い短冊の裏にはこう書いてあった。
『つよくなって、ゆいをまもれるようになる』