※この作品はR-18です。

俺は二回射精する   作:紺情

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※エロシーン無しです。



第8話 「エピローグ」&おまけ

 期末テストが終わり、その後に色々とありすぎた激動の一日が明けて、翔太郎は憑き物が落ちたようにスッキリとした顔で部活に現れた。

 

「こんにちはー」

「やぁ、翔太郎クン」

「これはこれは翔太郎殿、今日は清々しいお顔をされておりますな。やはり恋人ができると違いますなぁ」

 

 まだ小春への告白の結果を何も知らないヒデがにこやかな顔をしていて、翔太郎は申し訳ない気持ちになった。

 応援してもらったのにもかかわらず報告し辛い結果になってしまったが、それでも正直に結果を伝えることは決めていた。

 

「あー、それなんだけど保留ってことになったんだ」

「「保留!?」」

 

 ヒデと高さんが揃って目を丸くした。

 

「なにゆえそのような……小春嬢が、そんなはずは……」

「これに関しては俺が悪いんだ。俺がどっちつかずで決められなかったから……」

「んん? どういうこと?」

 

 高さんは翔太郎の言葉の意味が分からなくて疑問符を浮かべた。

 

「……実は俺好きな人が二人いて、小春に告白したんですけど未練が捨てきれなくて……そしたら、小春が告白は保留にするからちゃんと選んでって言われちゃって」

「いやいやいや……えぇ? というかそのもう一人って誰……?」

「あー、えーっと……ここだけの話、俺の妹なんですけど……」

「……待って……もうわけがわからないんですけどぉ……?」

 

 翔太郎は困惑する二人に根掘り葉掘り質問攻めされることになった。

 

 

 

 結局ヒデと高さんは活動に集中できず、今日の部活は早めに切り上げることになった。その結果、翔太郎は小春を迎えに文芸部を訪れていた。

 

「小春?」

 

 翔太郎が部室を覗いて呼びかけると、文庫本を手にした小春がこちらに振り向いた。

 

「あれ? 翔ちゃんどうしたの?」

「いやぁ……ヒデと高さんは俺が小春に告白したの知ってたからさ、一応結果を報告しないといけないかなって、事の顛末を話したら活動どころじゃなくなっちゃって」

「なるほど……それは、そうなっちゃうよね……」

 

 二人で苦笑いを向け合う。

 

「もう帰れる?」

「うん、ちょっと待ってね」

 

 言って荷物をまとめる小春を見ながら、翔太郎はふと思ったことをそのまま口にした。

 

「小春って眼鏡はかけないの?」

「……? かけないよ? 目は悪くないし。なんで?」

「なんか、本読んでるところを見たら似合いそうだなって思って」

「え? そ、そうかな?」

「うん、文学少女感が良さそうだなって」

「そっか……」

 

 小春はなんとなく頭の中で自分の眼鏡をかけた姿を想像した。黒縁? 赤縁? 丸眼鏡? 四角い眼鏡? 考えてみても自分ではいまいちピンとこなかった。

 

「翔ちゃんはどんな眼鏡が似合うと思う?」

 

 一方、尋ねられた翔太郎の中には一つ明確なイメージがあった。

 

「小春なら赤い縁の眼鏡かな。四角いけど角張ってなくて、ちょっと大きめのやつ」

「ふーん……」

 

 小春は一見気の無い返事をしながら、その実しっかり忘れないように心に留めていた。

 

 

 

 翔太郎が帰宅すると、優衣がなにやら肩を落として暗い表情をしていた。

 

「優衣?」

「お兄ちゃん……」

 

 優衣からはあまり聞いたことのない、ドスの利いた声が響いた。

 

「お、おう?」

「やばい……」

「どうしたの?」

「……赤点取った」

「…………え?」

「バタバタしてて勉強に集中できなかったのもあったけど、高校の期末テスト舐めてた」

 

 優衣が手に持ったプリントを見せてきた。物理、21点。

 

「あちゃー……」

 

 優衣は元々勉強ができる方ではない。それにしても、今回ばかりは自分に責任があるような気がした。申し訳ない。

 

「追試でもう一回テストやるから間違えたところ復習してこいって言われたんだけど、教えてくれない?」

「……分かった。とことんやろう」

 

 自責の念から二つ返事で引き受けた。

 

 

 

 夕食が済んで部屋でくつろいでいた優衣は、

 ――――ピロロロッ

 着信音がして、スマホに目を落とした。

 

 手を伸ばそうとして、瞬間手を止める。なぜならスマホの画面に表示されていたのが小春の名前だったからだ。

 別に仲が悪い訳ではない。むしろどちらかといえば良好な関係だと思う。しかし、同じ人に恋をしている競争相手ではある。

 わざわざメッセージでなく電話をかけてくるような用件とは何なのか気になった。

 優衣は少しだけ逡巡した後、結局電話に出た。

 

「……もしもし?」

『あ、優衣ちゃん、今平気?』

「うん、ちょうどご飯食べ終わったところだから平気」

『良かった。……それで……その、えっと、色々あったけど、一つだけ言っておこうと思って……』

 

 来た、と思った優衣は身構えて、

 

『……私達は恋敵(ライバル)ってことになると思うんだけど――――でも、私は優衣ちゃんのこと全然嫌いになったりしてないし、むしろ好きだから』

 

 肩透かしを食らった。

 

「なんだ……それなら私だって、小春ちゃんのことは全然嫌いじゃないよ」

『そっか……ありがとう。昨日も優衣ちゃんは『小春ちゃんにならお兄ちゃんを取られてもいい』って言ってくれたでしょ? あれがね、私はすごく嬉しかったの』

「あれは……半分は本心だけど、半分は自分を納得させるためだったから……」

『半分だけだったとしても、私は嬉しかったの。だって……久しぶりに会ったら優衣ちゃんはすごく美人になってて……それなのに私は背も小さいし、可愛くなくて……私なんかじゃ翔ちゃんの彼女には似合わないんじゃないかって不安だったから……』

 

「何言ってるの? 小春ちゃんは小さくて愛嬌があるから可愛いんじゃん」

『……!』

 

 電話口の向こうで小春が息を呑む気配がした。

 小春が驚いたのは、今優衣が言った台詞が小春の昔言われたことのある台詞とそっくりそのまま同じだったからだ。

 

『……そっか、ふふっ……やっぱり翔ちゃんと優衣ちゃんは兄妹だね!』

 

 優衣は急に楽しげな声音になった小春の言葉の意味がよく分からなくて首を傾げた。

 

「ん? どういう意味?」

『二人とも大好きって意味だよ!』

「……? 変な小春ちゃん」

 

『それじゃ、急に電話しちゃってごめんね! おやすみ』

「うん、おやすみ」

 

 優衣は電話の切れたスマホを見つめて、昔の事を思いだしていた。

 小学生の頃の優衣は今にも増して愛想が悪くて、本当に友達が少なかった。少なかったというか、心から友達と呼べるような存在はいなかったかもしれない。

 そんな優衣にできた初めての友達が小春だった。

 

 いつも兄の後ろにくっついていた小春は暗い子だったが、自分を卑下することはあっても他人を悪く言うことはなかった。兄が優衣の事を愛想は悪いが根は良い子だと紹介したこともあってか、小春は優衣の表面上のキツい言動は気にせず、嫌な顔一つしないで一緒に遊んでくれた。

 今思えば自己評価が誰よりも低い小春だったからこそ、何を言われても納得して飲み込んでくれていたのかもしれない。だとしたら非常に申し訳なかったなと優衣は反省した。

 あれほどどうしようもなかった自分に、家族を除けば唯一付き合ってくれていた人だ。優衣は小春に感謝していた。

 

 そんな小春だからこそ、兄を――好きな人を取られてもいいと思うことができたのだ。

 結果的には兄の優柔不断のせいでおかしなことになったが、今でもその気持ちは変わっていない。

 将来的に三人の関係がどう転んだとしても、小春を嫌いになることはないだろう。

 兄が好きになったのが自分と小春で良かったなと思ったら、自然と頬が緩んだ。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 三人で初体験をしたあの日から数日が経ったある休日のこと。雨の多いこの季節にしては珍しく晴れた一日だった。

 

 気持ちの良い昼下がりに、翔太郎はリビングのソファに座ってライトノベルを読んでいた。ベランダに続くガラス戸からは日が射していい陽気だ。その窓際の日が当たる床はぽかぽかと暖かそうで、なんとなく寝転がりたくなった。

 

「んぁ~……」

 

 翔太郎は本を読んだまま体を横たえてくねらせると、なんとも間抜けな声を上げた。

 そんな情けない様子を、ちょうど通りがかった妹が目撃していた。

 

「……何やってるのお兄ちゃん? 日向ぼっこ?」

「そう、お日様がきもちいいの」

「そりゃよかったね」

 

 気の抜けた兄の返事に優衣はそれだけ言うと、おもむろに隣に寝転がって体を寄せてきた。

 

「……ん? え?」

 

 翔太郎が本から目を離して優衣に視線を向けると、

 

「私もお昼寝。だめ?」

 

 優衣はスマホを片手に、チラとこちらを窺って言った。

 

「いや、別にいいけど……」

「ん」

 

 優衣はそれきり、スマホに視線を移して動かない。

 翔太郎はまあいいかと、思考を放棄して本に意識を戻した。

 

 そのまま20分ほどが経過した頃だろうか、隣からスーッスーッと息の音が聞こえ始めた。

 首だけ動かしてそちらを見ると、目を閉じた優衣が口を半開きにして寝息を立てていた。無防備な寝顔を晒す優衣があまりに微笑ましくて、頬を緩めてその愛しい光景を眺めた。

 ぼーっとそうしていると、次第に翔太郎も眠気が差してくる。

 

「ふわぁ~……」

 

 増してくるまぶたの重みには逆らわなかったが、狭くなる視界になんとか優衣の寝顔を収めていた。

 薄れていく意識の中でぼんやりと思う。優衣の隣が自分にとって一番落ち着く場所なのだ。そして、きっとそれは優衣にとっても同じことなのだろう。

 その関係は、どうしようもなく兄妹(きょうだい)としか形容することのできないものなのだ。

 

 翔太郎は自分でも驚くぐらい深く、ぐっすりと眠った。

 

 

 

 ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

 

 

おまけ「高校受験」

 

 

 これは翔太郎と小春がまだ中学生だった頃の話。

 

 小春が一枚のプリントとにらめっこをしていたところに、不意に聞き慣れた声が降ってきた。

 

「小春、どうしたの?」

 

 小春は顔を上げて声の主を見た。

 

「あ、翔ちゃん……これ、進路希望調査なんだけど、志望校がまだ決まってなくて……」

「あーなるほど」

「翔ちゃんはどうするの?」

「俺は多分北高を受けるよ。家近いし、進学実績もわりといいから」

「そっか……」

 

 北高というと、この辺の公立校では一番レベルが高く、小春の学力では少し背伸びをしないと届かない学校だった。しかし、翔太郎ならば北高であってもそれなりに高い確率で合格できるだろう。そうなれば、翔太郎と同じ学校に通えるのは中学校を卒業するまでということになる。

 それまでに告白して付き合えるだろうか。小春はそんなことを考えて不安に思った。

 

「あと半年以上あるんだし、今一つに決めなくても候補を探しておくぐらいでいいんじゃない?」

「……そうだよね」

 

 それから小春は色々と悩んで、とりあえず北高を目標とすることに決めた。もし北高に合格できる水準に達しなかったとしても、努力したことでより高いレベルの学校に受かるなら損はない。そう思って勉強に励んだ。

 

 

 

 そして二月。小春は北高を受験していた。合格できるかは五分五分といったところだった。

 

 今日は合格発表の日。小春は北高で合格者の受験番号が張り出された掲示板を前にしていた。

 小春の受験番号は176。焦る気持ちを抑えて、番号を一つ一つ追っていく。170、171、173、174、176……。一瞬遅れて理解が追いつく。

 

「……ぁ……やったっ!!」

 

 周りの目も気にせずにガッツポーズをした。

 胸にじわりと広がってきた興奮と歓喜を噛み締めながら視線を周囲に向けると、少し離れたところに見慣れた人影を見つけて固まる。

 幼馴染の彼も先程の小春と同じように掲示板の数字を目で追っていた。その視線があるところでピタッと止まって、次の瞬間には冷静に頷いて握りこぶしを作っていた。

 

 ――――あと三年。

 今まで幸運に恵まれながらも伝えることのできなかったこの気持ちを、今度こそ伝える最後のチャンスだ。そのチャンスを運でなく、自分の努力で掴み取ったのだ。

 小春は確かな自信と期待を胸に感じていた。





これにて第1章完結です。ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
物語は2章へと続きます。2章は更にエッチなお話にしたいと思っておりますのでお楽しみに。
それでは、また。
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