※この作品はR-18です。

とある神器持ちの日記IF   作:ウメ種

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……間が開いてしまい、本当に申し訳ありません。



無限 IF-5

 すうすうと、緊張感の無い寝息を立てながら、目の前でカミシロトオルが眠っている。

 『私』の前に、寝顔を晒している。

 

「朝ごはんだと、レイナーレが呼んでいる」

 

 私がそう言っても、カミシロトオルは目を覚まさない。

 眠ったままだ。

 私は眠り続けるカミシロトオルへ一歩近付くと、また「朝だ」と伝えたけれど、カミシロトオルは起きない。

 困った。

 

「困った」

 

 いつもカミシロトオルを起こすのはレイナーレか黒歌だった。

 ……どうやって起こしているのだろう?

 私は眠る必要が無いし、起床を促されたことも無い。だから、こういう時にどうしたらいいのか分からない。

 取り敢えず、カミシロトオルにもっと近づいて、また名前を呼んだ。

 

「――起きない」

 

 すうすうと、緊張感の無い寝息はそのままに。

 カミシロトオルは私の目の前に、その寝顔を晒している。

 

「…………へんだ」

 

 カミシロトオルの寝顔が、ではない。

 なんだろうか。

 よく分からない。

 ただ、変だ。

 自分の胸に手を当てる。

 ここが変だ。

 よく分からないけど、「変」だと分かる。

 その感覚が不思議で、けれど悪い気はしなくて。

 だから『私』は、カミシロトオルの寝顔をじっと見る。見てしまう。

 何故?

 分からない。

 でも、見ていると胸の奥に生じた「変」なものが心地良い暖かさを放つように変化した。

 

「カミシロトオル、朝」

 

 ベッドの脇に膝をつき、端に肘を乗せ、一番近くでカミシロトオルの寝顔を見る。

 こうやって眺めるのは、初めてではない。

 けれど、このよく分からない「変」な感情は初めてだった。

 その「変」が心地良くて、『私』はもっとこの寝顔を眺めていたいと思う。

 思う?

 

「うん」

 

 『私』はカミシロトオルの寝顔を眺めていたい。

 だからその傍に顔を寄せ、少しだけ寝顔を私の方へ向ける。

 寝苦しかったのだろう。

 規則正しかった寝息が少し乱れ、穏やかだった寝顔が歪む。

 ――起きるだろうか?

 ――起きないでほしい。

 そう自問自答している間に、カミシロトオルは布団を被り直し、また規則正しい寝息を立て始めた。

 

「カミシロトオル」

 

 小さく。起こさないように。その名前を呼ぶ。

 朝食だとレイナーレが呼んでいた事を伝えないといけないのに、『私』はカミシロトオルの寝顔を眺めていたい。

 不思議だった。

 変だった。

 レイナーレが作ってくれるご飯は好きだ。

 でも、カミシロトオルの寝顔を眺めていたい。

 

「カミシロトオル」

 

 その名前を口にすると、胸の奥にある「変」なもののぬくもりが心地良い。

 その頬に触れる。起こさないよにゆっくりと、優しく、指先でカミシロトオルの頬に触れる。

 少しざらざら。

 硬い髭。

 アザゼルのとは全然違う。

 そのざらざらも心地良い。

 撫でる。

 ゆっくりと、そのざらざらを。

 何度も、何度も。

 

「カミシロトオル」

 

 その名前を呼びながら、カミシロトオル本人に触れる。

 どれくらい、そうしていただろう。

 分からない。

 時間を忘れて、『私』はカミシロトオルを撫でていた――。

 

「朝。レイナーレ達が待ってる」

 

 起こさないように小さな声で、ゆっくりと。

 カミシロトオルにだけ聞こえるように、その耳に口を寄せて。

 それがくすぐったかったのか、またカミシロトオルが身動ぎをする。

 起きる?

 ――起きなかった。

 

「……?」

 

 その事にほっとしている『私』が居て、不思議。

 起こさないといけないと思っているのに、起きなくて良かったと思っている。

 矛盾。

 『永遠の静寂』を願いながら『心地良い居場所』を求めていた時と同じ。

 カミシロトオルを知ろうとしていた時と同じ。

 その矛盾は、今も解けていない。

 それと同じ。

 起こさないといけないのに、起きて欲しくない。

 『私』はどうするべきなのだろうか?

 

「カミシロトオル」

 

 その名前緒を耳元で囁き、頬を撫でる。

 けれど今度は、その手が寝ぼけたカミシロトオルに掴まれた。

 くすぐったかったみたいで、また身動ぎ。

 そして。

 

「――――」

 

 カミシロトオルが、黒歌の名前を呼んだ。

 何故?

 起こしているのは『私』なのに。

 ただ、黒歌はいつもカミシロトオルを揶揄っているから、寝ぼけたカミシロトオルが私と黒歌を間違えたのだと分かる。

 分かるけれど、それでも胸の奥にあった「変」なぬくもりの心地良さが瞬時に消え去った。

 

「――――」

 

 私の手が止まったからか、またカミシロトオルの寝息が部屋に響く。

 

「……トオル」

 

 黒歌は、カミシロトオルをそう呼ぶ。

 名前。

 カミシロトオルの名前。

 『我』とは違う、親愛の感情が籠った声でその名前を口にする。

 

「トオル」

 

 『私』は黒歌ではないけれど、そう呼んでみた。

 呼びながら、無防備な寝顔を向けるカミシロトオルに私も顔を近づける。

 寝息が頬を擽る。

 見慣れた顔が目の前にある。

 整った顔。寝起きの無精髭。長い睫。

 それが目の前にある。

 

「――――」

 

 どんな夢を見ているのだろう?

 それとも、カミシロトオルは夢を見ないのだろうか?

 分からない。聞いた事が無かったから。

 ……『私』はカミシロトオルの事を何も知らなくて、何故かそれが、今はどうしようもないくらい――なん、だろう。

 分からない。

 これが感情なのか、それとも別の何かなのか、それすらも分からない。

 『我』にはそれは不要だったから。

 『私』はまだ生まれたばかりだから。

 だから。

 

「カミシロトオル」

 

 名前を呼ぶ。

 黒歌の真似じゃない。

 私の呼び方で、名前を呼ぶ。

 そうしたかった。そうするべきだと思った。

 顔を寄せる。

 寝息が顔に当たる。

 身を乗り出すと、ベッドが僅かに軋んだ。

 長い黒髪が重力に引かれて垂れ、朝だというのに私とカミシロトオルの顔の周りだけ真っ暗になる。

 寝顔が見えなくなる。

 良かったと思った。

 何が良かったのか分からないけれど、良かったと思う。

 

「……ん」

 

 口付ける。

 水気の無い渇いた唇に『私』の唇を重ねる。

 以前『サタンレンジャー』でサーゼクスがやっていたキス。口づけ。

 その場面を思い出しながら、目を閉じる。

 唇の感触に集中する。

 カミシロトオルは眠っている。抵抗はない。

 不思議。

 唇から、カミシロトオルの体温が『私』に流れ込んでくるような感覚。

 実際には体温も、魔力も、生命力も、特別な何かを得たわけでもないのに――胸が、心臓が、爆発しそう。

 変だ。

 『私』が、『我』が、変だ。

 変で、変で、変で――変なのに、もっとしたい。

 以前、興味本位でしたキスとは違う。

 あの時はただ胸の奥が温かくなった。

 またしたいと思った。

 カミシロトオルからしてほしいと思った。

 けど、このキスは違う。

 『私』が――変になる。

 

「ん、ぅ……」

 

 唇を押し付ける。カミシロトオルにもっと触れる。

 ベッドへ上半身を乗せ、唇だけじゃなくて身体を寄せる。

 布団が邪魔だった。

 その中に潜り込む。

 少し乱暴だったけど、カミシロトオルは起きない。

 受け入れてくれる。

 布団と一緒に、私を抱きしめてくれる。

 暖かい。

 心地良い。

 気持ち良い。

 ――ずっと

 

「…………」

 

 また、カミシロトオルが黒歌の名前を呼んだ。

 

「…………」

 

 寝ぼけていると分かっている。

 だから、『我』は気にしない。

 唇を離し、その寝顔を見る。

 先ほどまではあれほど眺めているだけで「変」な気持になったのに、今は胸の奥がとても冷たい。

 まるで、『永遠の静寂』を求めていた時の『我』だ。

 カミシロトオルと出会う前の『我』だ。

 

「……ふん」

 

 以前は、これで満足だった。

 その腕に抱かれ、眠りに落ちる。

 きっと、これだけで満足していた。

 でも今は、物足りない。

 何故?

 何が足らないのだろう?

 分からない。

 分からない。

 分からない。

 ただ――キスをしたのは『私』なのに、カミシロトオルは黒歌の名前を呼んだ。

 何故かその事だけが、ぐるぐると頭の中を回っている。

 そして。

 

「私の名前を呼んで……カミシロトオル」

 

 その願望を口にして、カミシロトオルの体温を感じながら『私』は眠りに落ちた。

 

 

 

 ……少しして、心配した黒歌が起こしに来てくれた。

 朝食の事はすっかり忘れていた。

 

「ねー、オーフィス? 私、何かした?」

「黒歌は悪くない」

「それにしては、なんだか視線が冷たいにゃー……」

 

 そう。黒歌は悪くない。

 でも、そう言いながら寝起きのカミシロトオルに抱き着く黒歌を見ていると、胸の奥がまたざわめく。

 カミシロトオルは困った風に黒歌を引き離そうとするけれど、黒歌はその大きな胸を腕に押し当ててカミシロトオルの反応を楽しんでいる。

 いつもの光景。

 見慣れた景色

 日常。

 不思議。

 『私』はこれからどうなるのだろう。

 どう、変わっていくのだろう。

 分からない。

 それが不安で、けれど――また明日もカミシロトオルを起こしたいと、そう思う『私』も居る。

 




最近、また最初からハイスクールD×Dを読み始めました。
オーフィスの出番が少なくて、我慢が出来なくなりました。
読み終わったら、日記の方も更新したいです。
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