オーフィスちゃんのえっちはIF-2くらい。
書くか判らないけど。
人は、理解できないものを恐れるのだと聞いた。
さて――と。
なら、我はこの胸の内にある理解できないものを恐れているのか?
否。
恐れてなどいない。
恐怖とは、心拍数を上昇させ、集中力を乱し、思考を鈍らせる。
そして何より、誰も恐怖を感じたいとは思わない。
真の恐怖は、心を壊す。
では――と。
「わからない」
そう呟いた我の声を聞き逃さず、どうかしたのか、という声。
その声はすぐ傍で、更に言うなら、すぐ隣。
視線は前に、だが気配は我を見ている男を感じている。
今見ているのは「サタンレンジャー」の最新話。
「好き、とはどんな感情?」
隣に座っていたカミシロトオルが、不自然に震えた。
それが、どうしてか判らずに、視線をテレビからカミシロトオルに移す。
見上げると、視線を逸らされた。
判らない。
首を傾げてしまう。
テレビの中のヒーローは、ヒロインに告白されていた。
ヒーローはサタンレッドで、ヒロインはサタンイエロー。
サーゼクスと、その『女王』。
なんでも、この撮影の後、サーゼクスは『女王』に折檻されたらしい。どうでもいい。
ただ、気になるのだ。
「好きだと、口付けする?」
驚いた声は、隣から。
視線を向けると、また逸らされた。
判らない。首を傾げながら、視線は再度テレビへ。
「映画やドラマ。告白の後、皆口付けしてる」
それは恋愛を題材にした物だけではない。
アクションやミステリー。そんなモノでも、告白の後は口付けをする。
そんなにも、口付けとは大切なものなのだろうか?
唇を合わせるだけ。
たったそれだけの事に、どれだけの意味があるのか理解できない。
なので、聞いてみる。カミシロトオルの方を向きながら。
「口付け、してみたい」
いつもならここで、レイナーレやロスヴァイセ達に邪魔をされる。
上手くはぐらかされてしまう。
でも、今日は居ない。
もう暫くは、用事や仕事で家に帰って来ない。
黒歌に感謝。
「口付け、したい」
一言断って、立ち上がろうとしたカミシロトオルの手を取る。
逃がさない。
今日はチャンス。そう黒歌が言っていた。
このチャンスを逃したら、また暫くはカミシロトオルと二人っきりになれない。
「好きとは、どんな感情?」
口付けを交わせば、理解できるだろうか?
この胸の内にある、理解できない感情。
理解できない。
けど、怖い訳ではない。
嬉しいという感情も、楽しいという感情も、いまだによく判らない。
そして、テレビに映る好きという感情も。
時々、胸の奥によく判らない感情がある。
モヤモヤしたモノで、それが何なのか判らない。
聞いても教えてもらえない。
「教えてほしい」
だから、乞う。
嬉しいとはどんなものなのか。
楽しいとはどんなものなのか。
好きとは――どんなものなのか。
「カミシロトオル……教えて」
そこまで言って、そこでふと、気付いた。
胸が、心臓が――魂が、震えている。
それが理解できなくて、カミシロトオルの手を握るのとは逆の手を、胸に添える。
視線を胸元へ向ける。確かに高鳴る心臓に、首を傾げる。
判らない。何故?
「カミシロトオル、我、変だ」
グレートレッドと対峙した時でも、サマエルに力を奪われた時でも、ここまで変化があっただろうか?
答えは、否。
だからこそ、余計に判らない。理解できない。
グレートレッドやサマエルに無くて、カミシロトオルにあるもの。
それが理解できない。
我の中にある感情、そして、カミシロトオルに感じるもの。
それは何?
「胸が高鳴っている。何故?」
耳に「サタンレンジャー」のセリフが届くが、頭に残らない。
視線はカミシロトオルに、カミシロトオルの視線は我に。
どれくらいの時間をそうしていたか判らない。
だがこの時間は、確かに、我が望んでいた静寂の時間だったと思う。
心地良くて、暖かで――退屈ではない、静寂。
手を繋いだままカミシロトオルが、再度ソファへ腰を下ろす。
少し空いてしまった間を埋めるように、そのすぐ傍へと移動する。
肘が触れ合い、その二の腕に頭を預ける。
黒歌はよくこうしている。白音はそうする黒歌を羨ましそうにしている。
黒歌だと肩に頭が届くが、今の我では届かない。それが少し残念。
不思議。
この静寂の時間は、とても心地良い。
永遠の静寂の中で眠りにつく。
我がずっと願っていた事。
「我、変わった」
誰もが言う。我は変わったと。
我には判らないが、少し判ったかもしれない。
我は、永遠の静寂よりも、刹那の静寂を求めている。
何時から変わったか判らない。
だが、悪くない。
永遠ではなく刹那だからこそ、カミシロトオルと二人だけという刹那だからこそ、心地良い。
「………………」
「サタンレンジャー」は、いつの間にか終わっていた。
全然見てなかった。覚えていない。ちょっと残念。
でも、動くとこの静寂が無くなりそうで、動きたくない。
ああ、そうだ。
「………………」
我は、カミシロトオルと口付けがしたいのだった。
でも、静寂が壊れるのは嫌だ。
どうしたものか――。
そう考えていると、名前を呼ばれた。
だが不思議と、静寂が壊れたとは思わない。不思議。
「なに?」
返事をすると、何か飲むか、と聞かれた。
「いい」
こうしていたい。
カミシロトオルに身体を預けるのは、悪くない。
黒歌の気持ちが少し判った気がする。
これが好き? よく判らない。
黒歌はカミシロトオルが好きだけど、それが我に当て嵌まるかは判らない。
「我、カミシロトオルと口付けがしたい」
また、身体が震えた。
見上げると、顔が少し赤くなっていた。
「変。我も、カミシロトオルも」
面白い。
そう、想った。
そして思う。今は多分、我は笑えている。
そう感じた。
だから、ソファに膝立ちになる。
カミシロトオルから少しの間だけでも離れるのは嫌だったけど、膝立ちになって、顔の高さをカミシロトオルと合わせる。
口付けがどういうものかは知っている。
我の唇と、カミシロトオルの唇を合わせる。それだけ。
それだけで、好きが判る。判る? どうだろう。
でも、してみたい。
判らなくてもいいからしてみたい――そう思う。
「口付けをしたい」
カミシロトオルが何か言っている。
それを無視して、その頬に両の手を添える。
唇が触れる。
触れたのは一瞬。
「…………?」
判らない。
もう一度しようとして、今度はカミシロトオルが離れる。
ソファの端まで移動される。
「あ」
離れられるのが嫌で、手を伸ばす。
伸ばした手はカミシロトオルの服の袖を掴んだ。
「もう一度」
駄目と言われる。
どうして?
首を傾げると、またカミシロトオルが何か言っていた。
でもなぜか、視線はその言葉を発する唇に。
変だ。
変。
「もう一度、口付けがしたい」
高鳴る胸の鼓動が、まるで自分のモノとは思えない。
膝立ちのまま、両手をカミシロトオルの頬に添える。
カミシロトオルは動かない。
顔が赤い。
不思議。
多分――これが嬉しい。好き。楽しい。
どれだろう。判らない。
ソレか、全部がない交ぜになってしまったのか。
「いい? 口付けしていい?」
返事はどちらだったか……。
その答えを認識するよりも先に、もう一度唇を重ねる。
瞼を閉じると、より鮮明に唇の感触を感じられた。
初めての口付けよりも長い口付け。
悪くない。
「嫌だった?」
返事は無い。それは多分、肯定。
だから、もう一度。
静止の声は一瞬。
三度目の口付けは、唇を重ねるだけではなく、その首に両手を回す。
この方が楽。
そして、今までよりも強く押し付ける。
黒歌が甘える理由が判る。
この瞬間は悪くない。
カミシロトオルと二人だけの刹那は、心地良い。
永遠ではないからこその大切さ。
「不思議」
唇を離すと、自然と言葉が漏れた。
カミシロトオルの瞳の中に我が写っている。我だけが、瞳の中に居る。
「唇を重ねるだけで、変になる」
首に回していた腕を解き、ソファから降りる。
カミシロトオルから離れると、胸の奥が冷たくなった気がした。
ああ、多分――
「またいつか、口付けがしたい」
――この感情は、寂しいだ。
何か言われる前にリビングから出る。
カミシロトオルから何か言われたら、どうなるか判らなかった。
自分が判らない。好きを知りたかった。嬉しいを、楽しいを。
でも――判ったのは、寂しい。
口付けをして高鳴っていた胸が、今は締め付けられるように苦しい。
リビングの外で、先ほどカミシロトオルと口付けを交わした唇を指でなぞる。
まだ確かな感触が残っている。温もりも、胸の高鳴りも覚えている。
「また、口付けがしたい」
そう、願ってしまった。
永遠の静寂の中での眠りではない。
グレートレッドとの決着でもない。
我は、カミシロトオルとの口付けを、願い、求めてしまった。
――ああ、
「我は変わった」
その事が、嬉しい。
支取とどっちを書くか迷った。
あと何人かはネタがあるので、そのうち投下すると思います
偶に覗いてくださいw