※この作品はR-18です。

とある神器持ちの日記IF   作:ウメ種

3 / 18
壁を叩く必要は、ない(キリッ



生徒会長 IFー1

 いつの間にか、学園に噂が広まっていた。

 私と上代君が婚約している、という噂。

 聞いた時は驚いた。

 どうして私と上代君なのか。理解に苦しむ。

 そもそも、私達は気心の知れた友人だ。

 恋人同士など――考えた事も無かった。

 まぁ、人の噂は七十五日というし、放っておいた。下らない。

 それが一週間前。

 

 その噂が上代君の口から出たのが五日前。

 生徒会室で一緒にお弁当を食べていたら、その話題が上がったのだ。

 上代君が面白そうに話していた。

 それもそうだろう。

 彼は人間で、私は悪魔だ。

 悪魔よりも凄い人間と、魔王を輩出した悪魔の貴族の名家。

 釣り合いは取れているのだろうか? そんな馬鹿な事を一瞬考えたが、それこそ馬鹿な事だ。

 釣り合い以前に、私達は友人だ。親しいとは思うが、恋人、とは違うと思う。

 事実は小説よりも奇なりと言うが、事実なんてこんなものだ。

 そもそも、その噂の元がお姉様なのだから困る。

 しかも広めたのは生徒会の役員。

 上代君には悪い事をしたと思う。

 あまり困っておらず、むしろその噂を笑っていたが。

 多分私も笑っていたと思う。その時は。 

 

 

 

 まったく、椿姫達にも困ったものだ。

 そしてお姉様にも。

 もう随分前からだが、私と上代君が一緒に昼食を食べれるようにしていたのは、私達をくっつける為だったのか、と。

 今まで気付かなかった私が鈍感なのか、気付かれないようにしていた椿姫達が有能なのか。

 出来れば後者であってほしいと思う。

 昼休み。

 いつものように生徒会室へ向かいながら、小さく溜息を吐く。

 さて、この下らない噂は何時まで続くのか。

 噂というのは厄介だ。

 消そうと躍起になると、余計に信憑性が増してしまう。

 放っておくと、いつまで続くか判らない。

 どうやって噂を消そうか、と考えていると、いつの間にか生徒会室に辿り着いていた。

 鍵を開けて中に入ると、いつも通りの無人の部屋。

 そこでようやく、大きく深い溜息を吐けた。

 噂なんて面倒だなぁ、と。

 今まで気にせず上代君と話していたが、今は人の目を気にしてあまり話せていない。

 まぁ、気にし過ぎだと言われればそれまでだが。

 というか、最初はあまり気にしてなかったが。

 

「面倒なものですね」

 

 そう呟くと、返事があった。

 視線を向けると、生徒会室の入口に上代君が立っていた。

 からかわれて大変だから、避難してきたのだと。

 失礼だと思うが、その言葉が可笑しくて笑ってしまった。

 噂の渦中は、私と上代君だというのに。

 

「今、お茶を用意しますね」

 

 いつもの昼食の時のように、上代君がお弁当を用意している間に、私がお茶を用意する。

 今までと同じ流れ。

 今まで通り。

 違うとすれば、噂で少し、お互いを意識してしまっているという事か。

 会話がぎこちない。というか、続かない。

 お弁当を食べながら下らない話題で笑っていたのに、今は一言二言、ぽつぽつと話して話題が途切れてしまう。

 

「噂話で盛り上がるのは楽しいですが、噂の的になるのは面倒ですね」

 

 そう言うと、同意の声と一緒に笑い声。

 それにつられて、私も笑ってしまう。

 ああ本当に――噂は面倒だ。

 自分で用意したお茶を一口飲むと、上代君と目が合った。

 

「どうかしましたか?」

 

 と聞くと、私が困っている顔が珍しい、という答えが返ってきた。

 何を言っているのか、と。

 呆れて苦笑しながら、もう一度お茶を飲む。

 

「貴方も噂されている一人だというのに」

 

 噂は噂。

 所詮は虚構。

 まぁ、そうなんですけど、とは思う。

 真実は――。

 

「相変わらず、レイナーレさんの料理は美味しいですね。また腕を上げたようで」

 

 お弁当からおかずを一品交換するような、友人関係である。

 上代君は料理をしないようだが、私のは手作りだ。

 その事はすでに伝えている。

 少しは思う所があってもいいと思うが、まぁ、鈍感な上代君だししょうがない。

 女の子の手作り弁当を一品とはいえ食べているのだから「相変わらず美味い」という、いつもと変わらない感想はどうかと思う。

 

「しかし、実際問題としてどうしましょうか」

 

 どうしようもない、と簡単に諦めないで下さい。

 そう応えると、噂だから、と言われる。

 どうしようもないと言われればそれまでだが、今の状態がいつまでも続くと流石に嫌だ。

 こうやって会うのも、なんだか隠れて逢引きをしているようではないか。

 別にやましい事は何一つないのに、どうして隠れて会わないといけないのか。

 お姉様を問い詰めようにも、仕事が忙しいという理由で逃げられるし。

 アレは絶対嘘だ。長年お姉様の妹をやっているから判る。

 そう考えると、こう……ちょっと、イラっときた。

 どうしていつもいつも、お姉様は私を困らせるのか。

 あの独特な服装も、喋り方も。

 いつもいつも、私を困らせる。

 そして、今回も。

 

「もういっその事、本当に付き合ってみますか?」

 

 多分、疲れているんだと思う。

 普通なら絶対に言わないような事だ。

 お姉様に振り回されて疲れたのか、噂に振り回されて疲れたのか。

 まぁ、どちらにしても、だ。

 そうやって、私と上代君は付き合う事になった。

 それが、三日前。

 

 

 

 そして今日も、私は満面の笑みの椿姫に捕まっている。

 普段冷静な彼女にしては珍しい、そして最近見慣れたとても“イイ”笑顔だ。

 その笑顔を見ながら、私はもう何度目かの溜息を吐く。

 

「それで、彼とのその後はどうなのですか?」

 

「その後も何も、別に何もありませんよ。それよりもうすぐ授業が始まりますよ? 席に戻りなさい」

 

「いいじゃないですか。副会長として、会長の恋愛には興味ありますし」

 

 判らなくもないが、面と向かって聞かないでほしい。

 少なくとも、告白はしてないし、好きと告げてもいない。

 付き合う事になったのは勢いだし、そもそもアレから私達の関係が特別に変わった訳でもない。

 今まで恋人を作った事が無かった。

 彼氏彼女の関係など、初めてだ。

 何を言いたいかというと――何をすればいいのか判らない。

 そして、そんな事を椿姫に相談したら、またどんな事を言われるか判ったモノではない。

 今度、リアスに聞いてみようかしら?

 

「ほら、先生が来ましたよ」

 

「まぁ、いいです。後で上代さんに聞くとしましょう」

 

 そう言うと、いつもより軽い足取りで戻っていく椿姫。

 多分、上代君も同じような事を応えると思うけど、とは口にしないでおく。

 私達が本当に付き合うようになって三日。

 実際付き合っているので噂なんて今更だし、あとはどうやってお姉様を捕まえるかだが…多分時間が経てば油断してくれるだろう。

 それはそれとして、問題は私の眷属達である。

 どうしてか、私と上代君の事を根掘り葉掘り聞いてくる。

 私の事を気にするくらいなら、自分達も彼氏彼女を作ればいいのに、と思う。

 匙が私の事を好いてくれていたというのには驚いたが、匙の事は他の眷属の子達も好いている。

 あの子には悪いとは思うが、私は匙を弟としてしか見れなかった。

 ……もっと早く気付いてあげられたら、とは思ったが。

 

「はぁ……」

 

 授業の声が頭に入って来ない。

 付き合うようになって、私の周囲は少し変わったが、いつも通りに戻りつつある。

 そう、いつも通りだ。

 

 

 

 昼休み。

 いつも通り生徒会室で昼食を食べる。

 私が先に行って鍵を開けて、後から上代君が来る。

 そう、いつも通り。

 “付き合う前から変わらない”いつもの昼休みだ。

 どうやらそれが、椿姫たちには良く思われていないらしい。

 

「というわけで、椿姫たちを少し黙らせるためにも、恋人らしい事をしようかと思います」

 

 対面でお弁当を食べていた上代君が、ご飯を喉に詰まらせていた。

 お茶を差し出すと、慌てて飲んでいた。少し面白い。

 また今度、こうやって驚かせてみようか、と思ってしまった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 驚かせるな、と言われた。

 そんなつもりは無かったのだが…反応が面白いので、また今度驚かせよう。

 

「それで、恋人らしい事とはどんな事だと思いますか?」

 

 そうやって、ご飯を食べながら二人で頭を悩ませる。

 恋人らしい事……。

 

「デート?」

 

 後案に出たのは、放課後一緒に帰ったり、名前を呼び合ったり、家で一緒に勉強したり?

 いつの間にか、あまり案が出ない事に頭を悩ませていた。

 というか、婚約者が居たのに、恋人らしいことが出てこないってどうだろう?

 上代君から笑われてしまった。

 

「婚約者といっても、あまり興味がある方ではありませんでしたから」

 

 そう言うと、支取らしいと言われた。

 なんだろう? 凄く失礼な事を思われた気がする。

 

「まぁ、そう考えると――上代君の事には、興味を抱いているのだと思います」

 

 良く考えると、上代君の『神器』の事を知ってから、彼には興味を持っていた。

 最初は――どんな感情だったか。

 得体の知れない『神器使い』とか、多分そんな感じだっただろう。

 いつの間にか、一方的に友人のように思い、気付いたら友人関係になっていた。

 それが今は、形だけとはいえ恋人関係だ。

 世の中、物事がどう転ぶか判らない、とはよく言ったものだ。

 

「取り敢えず、名前で呼び合ってみますか?」

 

 お弁当を食べ終わるまでに出た案は四つ。

 というか、四つだけしか出なかった事に、私達がいかに恋愛下手かが窺い知れる。

 その事に少しショックを受けながら、まずは一番簡単で手軽なものをする事にした。

 名前を呼ぶ。

 うん、一番簡単だ。

 

「かみし――ではなくて、徹君ですね」

 

 そう呼ぶと、蒼那と呼ばれた。

 …………。

 

「少しは恋人らしいでしょうか?」

 

 どうだろう。二人で首を傾げてしまう。

 まぁ、苗字で呼ぶよりは恋人らしいはずだ。たぶん。

 しかし――。

 

「改めて名前で呼ぶと、少し恥ずかしいですね」

 

 上代君も同じ事を思っているのか、少し顔が赤くなっていた。

 その姿が、少し可愛いと思うのは、おかしいだろうか?

 もしかしたら、こういうのを惚れた弱味というのかもしれない。

 惚れた、というのがどういう事かまだ判らないが。

 この恋人関係も、なんだかんだで勢いで恋人になったような感じだし。

 けど、他の男子生徒たちよりも色々と相談できるし、信頼もしている。

 そういう意味では惚れている……とは言えないか。うん。それとは何か違うと思う。

 

「恋人というのも、難しいですね」

 

 私の言葉に、上代君も頷いている。

 

「上代君は、今までどなたかとお付き合いをした事は?」

 

 首を横に振られた。無いらしい。

 あと、また呼び方が上代君に戻っていた。

 本当に、恋人って難しい。

 ちなみに、徹君も私の事を支取と呼んでいた。

 そんな事を話していたら、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った、

 

「今日はここまでですね」

 

 お弁当箱を洗うのを忘れていたことに気付いたが、まぁ、帰ってから洗うとしよう。

 そんな事を話しながら、揃って生徒会室から出る。

 教室からは遠いので、生徒の姿はどこにもない。

 というか、私達も急がないと遅刻扱いになってしまうだろう。

 

「では、今日の放課後。一緒に帰りましょうか」

 

 いつもからかわれるのだし、生徒会の仕事は椿姫たちに任せる事にする。そう決めた。

 今日くらいは良いだろう。

 そういえば、と。

 鍵を閉め終わるまで待っていてくれた徹君に向き直る。

 

「キスも、恋人らしい事の一つですね」

 

 言って、上代君の驚いた顔を見て、あ、と思った。

 自分でも驚くほど、顔が熱くなる。

 だが、悪魔として、キス一つで照れる姿など見せたくない、となぜか思う。

 それはただの虚勢でしかないが。

 顔は赤いし、ポケットに直そうとした生徒会室の鍵は落とすし。

 慌てて拾おうとして、鍵を何度も落としていると、徹君から笑われた。

 

「……あまり笑わないで下さい。私だって、変な事を言ったという自覚はありますから」

 

 どうにも、上代君の前だと私らしくなくなる。

 冷静で、真面目な生徒会長だと誰からも言われる。

 私も、そんな“私”を私らしいと思っている。

 でも――上代君の前だと、偶にこんな姿を出してしまう。

 照れて、失敗をしてしまう私。

 私が思う“私”らしくない、私。

 それが良い事かどうかは判らないが…まぁ、気を許している、と思う事にしている。

 上代君に対して、気を許して、心を開いている。うん、そう考えると、なんだか恋人っぽい。

 内心で頷くと、ようやく落ち着けたようで、鍵を拾ってポケットに直す。

 

「戻りましょうか、上代君」

 

 そう言って、また間違えたと気付いた。

 上代君も、支取と呼んで返事をするし。

 

「……難しいですね」

 

 並んで歩きながら、二人して苦笑する。

 けど、こんな事も私達らしい、と思うのは変だろうか?

 “私”は真面目で冷静な生徒会長だけど、“私達”は恋愛下手な恋人同士。

 そんなものだ、“私達”は。

 お互いに好きだと告白した訳ではない、付き合う事になったのも勢いからだ。

 だから――そう思うと、少し気が楽になる。

 この関係がいつまで続くか判らない。

 卒業するまでか、卒業してからも続くのか。

 いつまで続くか判らないからこそ、今の、この時間を大切にしようと思った。

 いつかの未来。

 こんな時間があって、楽しかったと、思い出して笑えるように。

 

「こちらの方が簡単です」

 

 背伸びをして、その無防備な頬に口づけをする。

 慌てて視線を向けてくる徹君から視線を逸らし、手を繋ぐ。

 顔が熱い。多分、耳まで赤くなっている。

 自分でもよく判る。

 ああ、これは恥ずかしい。

 世の恋人たちは、よくこんな事を平気で出来るものだ、と思う。

 悪魔の私が、こんなことで照れるのも変な話なのだが。

 しょうがない。初めてなのだから。

 どんな事でも、一番最初は恥ずかしいものだ。

 

「……名前を呼ぶより、こちらの方が簡単です」

 

 そしてまた、支取と呼ばれた。

 私もまた、上代君と呼んだ。

 やはり“私達”は、揃って恋愛が下手だ。

 

 

 

 

 

 顔を赤くしたまま授業に遅刻して、噂というか、誤解が生まれる事を、私達はまだ知らない。

 

 

 

 




名前で呼び合うより、ちゅーをして手を繋ぐのが簡単な関係。
それが会長と徹君。

キスではなくちゅーです。
黒歌からだんだん難易度下がってるなぁ、と思わなくもない。
次のキャラは手を繋ぐだけで一杯一杯なんじゃなかろうかw
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。