この家に住む皆が寝静まった時間、頬を撫でられるとくすぐったくて声が漏れた。
もう、日付が変わってしまった時間帯。
昨日ではなく今日になってしまった時。
そんな夜遅くに主人の部屋を訪問し、隣に座るというのは、誘惑しているという事になるのだろうか?
そんな事を考えていたら、また頬を撫でられた。
触れるか触れないかの微かな刺激。
くすぐったいような、もう少し刺激が欲しいと思ってしまいそうな……。
「いえ、くすぐったかっただけです」
嫌な訳では、無い。
それどころか、心地良いと思っている。
身を委ねてしまいそうになる。
もどかしくて唇が緩んだ顔を、一番近くで見られてしまう。
その事が恥ずかしいが、離れる事も、近付く事も出来ない。
愛しい主人に身を触れられる多幸感が心地良くて、いつも私は動けなくなる。
それから、どれくらいの時間、そうやっていただろうか。
それ以上に進んでこない主人の手がもどかしくなって、自分からも手を伸ばしてしまう。
大切な物を壊さないように、そして、無くさないように。掴んで、離さないように。
伸ばした指は頬に触れ、顎を伝い、首筋に至る。
頬を撫でられる感触が、くすぐったくも心地良い。
頬を撫でる指から伝わる熱が、大切な物が手の届く場所にあると教えてくれる。
幸せな笑顔が、目の前にある。
目と鼻の先、少し動けばすぐに触れてしまえそうな場所に。
「――ん」
先に動いたのは、私。
我慢ができなくなった。
いつも、そう。
私は我慢弱い。こうやって焦らされると、すぐに乗ってしまう。
これではどちらが年上か判らないな、と。
また今日も、心のどこかでそう思いながら、触れるだけの口付けに心臓を高鳴らせている。
ああ、本当に――これではどちらが年上か。
でも……
「…………」
唇を離すと、視線が重なった。
徹様の瞳には私が居て、私の瞳には、徹様だけが映っている。
その事が嬉しくて、また心臓が強く高鳴る。
額を合わせるほどの近くで笑い合う。
皆は寝静まっているので、声に出さないように、静かに。
でも、目の前に愛しい人の笑顔があるというのは、相当心臓に悪い。
高鳴る心臓が痛いくらい。
でも、その痛みも嬉しく、心地いい。
もう一度、口付けを。
また、私から。
すぐに離れると、次は徹様から。
「ん、ふあ――ぁ」
舌を伸ばし、歯茎を撫でる。
歯並びの良い口内を舌で愛撫すると、次第にお互いの息が激しくなる。
頬に感じる吐息が心地いい。
激しくなった吐息を感じられるのが恥ずかしい。
徹様の唾液を飲み、私の唾液を送る。
頬や首筋を撫でていた手は、いつの間にか背中に回していた。
強く抱きしめ、身体を押し付けると、徹様の腕も背中に――もう片方は、私の胸に。
今となっては着慣れてしまったメイド服の上から、胸を揉まれる。
「――ぁ、っ」
感じたのは、快感よりも嬉しさ。そして、喜び。
小さく声を上げると、年下の男の子に感じさせられたのが恥ずかしくて、唇をその首筋に這わせる。
唇を押し付け、舌で嘗め、体臭を胸一杯に吸いこむ。
胸を揉んでいたのは片腕ではなく両腕になり、どちらからでもなくベッドに倒れ込んだ。
スプリングがたわみ、二人揃って軽く弾む。
それが面白くて笑い合い――どちらからでもなく、もう一度口付けを交わす。
唇を重ねるだけの子供の口付け。
優しい口付けは、興奮を抑えてくれる。
でも我慢できなくて、一度離れると、二度目は唇を開き、舌を絡ませ、口内の隅々までを味わう。
「とおる、さま――ッ」
深くキスをしながら、名前を呼ぶ。名前を呼ばれる。
私の呼びかけに帰ってくる声が嬉しくて、口付けを交わしていた唇は顎、そして首筋をなぞる。
そのまま服のボタンを外し、胸へと降りていく。
徹様の汗の味、徹様の匂い、唇でなぞり、舌で嘗める。
その度に上がる小さな声が、私の耳朶を刺激する。
その声だけで、より一層興奮してしまう。
――ああ、私は変態だ、と。
主人の感じている声に、興奮してしまう。
主人を啼かせる事に、悦んでしまっている。
そのままお腹、そして――。
「失礼いたします」
一言断り、ベルトに手を伸ばす。
膝立ちに近い恰好で、愛しい主人の前にひざまずく。
ゆっくりと、焦らす様に。
口付けと唇の刺激で興奮しているのだろう。
ズボンの上からでも、その熱い猛りを感じてしまう。
奉仕をしているのは私なのに、その熱だけで私も性感を刺激されている。
下腹部の奥、女の部分が、疼く。
もどかしいけど心地良い。
ベルトを外し終わると、ベッドに腰掛けるように座ってもらう。
「ふふ――ご立派です」
ズボンの前を開け下着をずらすと、興奮に固くなった男性の象徴が眼前に現れる。
咽るような精臭は、普段なら忌避すべきものだろうが、それが徹様の物だと思うと、不思議と嫌悪感も湧かない。
迷わず舌を伸ばすと、付け根から竿の部分を舐め上げる。
その度に小さく痙攣する様が可愛くて、何度も繰り返す。
舐め、唇で甘噛みし、カリの部分を舌先で突く。
右手は竿を上下に扱き、左手は陰嚢を痛みを感じない程度の力で揉む。
徹様の息が上がる。
その息遣いが耳に届き、陰茎から興奮が伝わる。
自然と私の息も荒くなり、刺激を求めて腰が動いてしまう。
ベッドに腰掛ける体勢の徹様からなら、多分動いている私の腰も見えてしまっているだろう。
その事が恥ずかしくて、目を伏せて奉仕に没頭する。
目を閉じてからの舌での刺激と、両の手での愛撫。
「は、ぁ――ン、ゥ」
舌の上で徹様の味を、両手で熱を感じていると、不意に手で耳を刺激されて小さく声を上げてしまう。
くすぐったいけど、汗を掻いて指先の感触が気持ち良い。
愛撫とも言えない微かな刺激だけど、心を許している人に触ってもらっているという事実が、刺激を後押しする。
陰茎を刺激しながら、その指の刺激に興奮していく。
息が自分でも荒くなることを自覚する。
自覚しても――止められない。
荒い息遣いのまま、亀頭部分を口に含む。
徹様が声を上げる。
それが嬉しくて、口に含んだまま舌でカリの裏を刺激する。
歯が当たらないように注意して、口内により濃い精臭が溜まる。
唾液を飲み込むと、確かな苦み。
唾液だけの味ではない事を理解し、確かに感じてくれている事が嬉しくなる。
視線を上に向けると、徹様と視線が重なった。
興奮した目。欲情した目。
――私を、性の対象として見ている目。
耳を刺激していた手が首筋へと移り、前屈みになって胸へと延びる。
口での奉仕が難しくなるが、それと同時に確かな性感が胸を焦がす。
力強く揉みしだいたかと思うと、服の上から僅かな刺激で焦らしてくる。
興奮してしまう。
下腹部の奥、子宮が微かに疼く。
もどかしい。
そのもどかしさを解消する様に、口に含んだ陰茎の刺激をより一層激しくする。
舌だけではなく、喉の奥に加え、頬を窄める。
けど下品な音はしないように注意して、左手は変わらず陰嚢を柔らかく揉む。
――そして右手は、下腹部に。
「ん、んっ」
ロングスカートで隠しながら、陰部を刺激する。
下着の上から指を這わせ、熱の籠った淫裂を撫で上げる。
口と左手では男性の陰茎を、右手は自身の最も弱い部分を。
そして胸は、愛しい人から揉まれてる。
性感を感じる刺激ではあるが、それは確かな強さではない。
もどかしい。
もどかしいけど、嬉しい。
主人に奉仕しているという事実が、興奮を押し上げてくれる。
「ふ、ん――ンッ」
ショーツを横にずらし、直に淫裂を刺激する。
僅かに湿り気を帯びたそこは、簡単に指を一本呑み込んででしまう。
腰が跳ねる。
その反動で陰茎に歯が当たってしまう。
その事に気付いて、慌てて口から陰茎を出すと――。
「ンッ!?」
顔に、掛かった。
ぁ――と。
「痛かった、ですか?」
いや、と首を横に振られる。
そして耳を優しく撫でられ、髪を指で梳いてもらう。
良かった、と。
それと同時に、顔に掛かっていたモノが垂れてくる。
謝られた。
「いえ」
そう告げると、垂れてきたソレを指で掬って口に運ぶ。
勿体無い。
愛しい人の精を、その人の生命を、口内で転がし、呑み込む。
確かな苦み。
そして、それ以上の幸福。
主人を――徹様を気持ち良くすることが出来た事が、嬉しい。
まるで良く出来たと褒めてもらうように、髪を梳かれるのが心地良い。
子供のように、頬が緩むのを自覚する。
もう一度、指で精液を拭う。
口内へ運ぶ。
繰り返す。
間に合わずに唇まで垂れてきたモノは、舌で嘗め取る。
その姿がどう映ったのか、一度精を放ったソレは、また固くなっていた。
ズクン、と。疼いた。私の中の“女”が。
「……ん」
ティッシュで顔を軽く拭くと、グロテスクとも言える主人の男性器に触れるだけのキスをする。
その刺激に小さく跳ねたソレが、愛おしい。
メイド服の前をはだけると、白い下着に包まれた胸が露わになる。
熱が籠っていたからか、外気がひんやりと冷たくて気持ちいい。
人よりもスタイルには自信があるが――。
「あまり見られると、恥ずかしいです」
じっと見られると、流石に恥ずかしい。
それが徹様なら――尚更だ。
顔が熱くなる。
それを隠すように顔を伏せ、カチューシャを外す。
“こういう時”はそうするものだと教わったが、さて、本当なのか。
偶に師と呼べる『女王』も、親友と呼べる『僧侶』も私をからかうので、真実は判らない。
このような事を他人に聞くのも憚られる。
そんな事を考えて、気を紛らわす。
気を紛らわせながら、メイド服の至る所を緩めていく。
脱ぐ、ではない。
そうするものだと教えられたし――徹様も、服を着たままの方が喜ばれる。興奮される。
それが良い事なのかどうかは、判断に迷うが。
ただ――私で興奮してくれている、という事実だけで十分だと思う事にする。
主を“へんたい”とは思いたくない。
「失礼いたします」
徹様に、ベッドに横になってもらうと、下腹部にお尻を降ろす。
重なる部分はスカートに隠れ、判らない。
判るのは、確かに感じる熱と、堅い感触。
自分の指の時とは違う、強く、確かな性感。
何度か擦りつけると、触れてもいないのに自分でも濡れてきている事が感じられた。
主人に馬乗りになり、腰を振り、感じている。
その事実に興奮している。
息が荒くなる。下着に包まれた胸がもどかしくて、ホックを外す。
下着に押さえつけられていた胸が、開放感に震える。
それと同時に、下から女とは違う、力強く大きな手が伸びてくる。
「ぁ、ん」
強い。
痛みすら感じそうな刺激だというのに、漏れたのは濡れた女の声。
私は、痛いくらいにされるのが感じるのだろうか?
偶に思うが、そうではないと思いたい。
優しくされたい。
暖かく満たされたい。
そう思っているのに、痛いくらいにされると腰の奥が痺れてしまう。
その事が恥ずかしくて、せめて声に出さないように気を付けよう、と思う。
「挿れますね」
腰を上げると、右手をスカートの中に入れ、ショーツを横にずらす。
そこは、自分でも驚くほどに濡れていた。
見えてはいないが、恐らくシミが出来ている――それくらいに。
こんなに感じていたのか、と。
スカートに隠れて気付かれていないとは思うが、恥ずかしい。
左手で角度を整え、主人の陰茎を導く。腰を下ろす。
「んっ」
は、と。
肺から空気が漏れ、胎内が圧迫される。
指とは全く違う大きさに、胎内が勝手に委縮してしまう。
圧迫し、締め付けると、徹様も私と同時に息を吐いた。
その胸に両手を添え、腰を浮かす。そして、降ろす。
短く、浅く、息を吐きながら腰を動かす。
愛おしい。
私が腰を動かす度に、私が息を吐く度に、熱の籠った目で私を見上げてくる主人が、愛おしくて堪らない。
その両の手が胸を揉み、乳首を摘まむと、腰を動かした時とは別の高い嬌声が漏れてしまう。
恥ずかしい。
恥ずかしいが、止められない。
膣奥が疼き、淫液に濡れて腰の動きがスムーズに、激しくなっていく。
「はっ、はっ。んぁ――」
目を閉じて、無心で腰を振る。
徹様に奉仕するよりも、自分が感じる事を優先してしまっている。
そして――そんな自分の姿を徹様に見られている。
その事が、余計に興奮を助長させる。
目を閉じているからか、刺激を鋭敏に感じてしまう。
それが心地良い。それが、私を追い詰める。
部屋に防音の処置が施されている訳ではない。
それは判っているのに、声を抑えるのが辛くなってくる。
恥ずかしい。
声を聞かれるのも、この情事を誰かに気付かれるのも。
――いや、聡い人なら、気付いているだろう。
誰、とは考えない。
考えたら、明日から顔を合わせられなくなるから。
「い、いきま、すっ」
息が荒くなり、腰の動きも激しくなる。
ベッドが軋み、徹様の手の動きも強く、暴力的になる。
汗に濡れ光る胸を力強く揉まれ、搾られ、乳首を押し潰される。
気付かれてる。
激しくされる事が好きなんだと、気付かれてる。
口に出された訳でもないのにそう感じ、恥ずかしくなってしまう。
それが最後の後押し。
陰茎を締め上げたのは、恥ずかしさを感じたからか、これから放たれる精を逃がさない為か。
「う、んっ――は、ぁ…はぁ」
精を放ち、萎えたソレを抜くと、徹様に寄り添うように横になる。
汗を吸った服が気持ち悪い。
寝る前に、お風呂に入ろう。
荒い息を吐きながら、そんな事を考える。
そんな事を考えながら、徹様の腕を枕にして横になる。
空いた手で髪を梳かれる感触が心地良い。
激しくされるのも悪くないが、こうやって優しくされるのがやはり好きだ。
髪を梳いていた指が耳に、そして頬に。
くすぐったくて身を捩ってしまう。
「もう」
でも、こういうスキンシップが嬉しいのも事実。
多分、憧れていたのかもしれない。
心のどこかで。――こういう、平穏を。
堕天使として生きていた時も、騒動に巻き込まれていた時も、ずっと。
こうやって、甘え、甘えられる時間を。
「くすぐったいです」
そうは言うが、別に嫌という訳ではない。
頬が緩んでしまうのは、きっと触れてもらうのが嬉しいから。
髪も、耳も、頬も、首筋も。
くすぐったいけど、気持ち良い。
腕に預けていた頭を、その胸に預ける。
ぴったりとくっつくのは嫌だろうか? そう思ったのも一瞬で、徹様も私を抱きしめてくれる。
汗の匂いも苦にならない。
このまま眠れたら、きっと幸せな夢を見られるだろう。そんな確信が胸にある。
「眠る前にシャワーだけでも……」
そのまま眠りそうになる徹様にそう言うが、もう寝る気になっているようで動く気配はない。
ああそういえば、もう日付は変わっているのか。
それなら、仕方がないかな、と。
私も、身体を徹様に寄せたまま、力を抜く。
恥ずかしいけど、嬉しい気持ちが強い。
嬉しいけど――幸せな想いが強い。
明日は朝一で、服を着替えないと――。
ああ、その前にシャワーか。
そんな事を考えながら、目を閉じる。
すぐに聞こえる寝息に、嬉しいという想いが強くなる。
ツ――と、膣内に溜まっていた精液が少し溢れた。
「ぁ……」
その感触が嬉しかったのか、恥ずかしかったのか。自分でもよく判らない。
ただ、なんとはなしに腹部を撫でる。
この人に惹かれて良かったと思う。
きっと、幸せの意味も、価値も、どんなモノかも、何も知らなかった私。
すぐ目の前にある寝顔を見ているだけで、胸の奥が暖かくなる。
きっとこれが、この温もりが“幸せ”。
「幸せです」
そう、口にする。
小さく、聞こえないように、起こさないように。
告げる。
口にする事で、もっと幸せになれる気がしたから。
「私は、貴方のお蔭で幸せです」
幸せをくれた人。
ぬくもりをくれた人。
居場所を、家族を、帰ってくる場所を。
沢山の大切な宝物をくれた人。
寝顔を見ながら、胸の奥の想いを楽しむ。
かわいいな。
「…………」
その口が動いた。
寝言だろう。
私の名前を呼ぶが、何かしらのアクションがある訳ではない。
強いて言うなら、抱き締める腕に、少しだけ力が籠った。
私の夢を見てくれてるのだろうか?
「ふふ」
――私も、貴方の夢が見たいな。
そう願いながら、目を閉じる。
寝坊したらごめんなさい。
家族に、そう謝りながら。
??「貴方が落としたのは、この『金の壁』ですか?
それとも、この『銀の壁』ですか?」