※この作品はR-18です。

とある神器持ちの日記IF   作:ウメ種

8 / 18
星が必要かどうか迷ったけど、一応付けておきます。
個人的にはR-15くらい。
エロくはない。



黒猫 IFー2☆

 その日は朝から変だった。

 何が変なのか、と聞かれたら答え辛いけど、変に感じた。

 何だろう、と首を傾げても、目に見える場所に変化はない。

 朝食が別に不味かったわけではない。

 家人が急に余所余所しくなったわけではない。

 家具の場所が変わった訳でも、誰かが減った訳でも、増えた訳でもない。

 ……けど、何か変だなぁ、と。

 

「どうかしましたか、姉様?」

 

「んにゃ?」

 

 首を傾げていたら、愛しい愛しい妹猫から声を掛けられた。

 後ろを振り返れば、案の定見慣れた妹の顔。でもその表情は、少し困った風。

 ああ、そうか、と。

 リビングの入口に突っ立っていたら、そりゃ不審に思えるだろう。

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 そう謝って道を開けると、リビングへ行く白音。

 あれー? 私が変なのかな?

 今度は内心で首を傾げる。

 傾げるが、まぁ判らないなら考えても意味が無いか、と。

 そう思ってリビングに入る事にする。

 

「おっはよー」

 

「おはようございます、黒歌さん」

 

 返事はロスヴァイセから。

 レイナーレとオーフィスはキッチンだろう。

 そして――。

 

「うん。おはよう、トオル」

 

 新聞を読んでいた、愛しいご主人様へ挨拶をする。

 朝から良い事があったようで、いつもよりニコニコしてるような気がした。

 なんだかそれが嬉しくて、トオルの後ろに回り込んで新聞を覗き込む。

 政治家が不正したり、どこかの工場で事故が起きたり、まぁ、目を惹くような事は無い。

 少なくとも、私達には関係の無い事ばかりだ。

 

「何か良い事でもあった?」

 

 そして聞いてみた。

 まぁ答えは、今日の運勢が良かった、なんて在り来たりなモノだったけど。

 そんな事か、と思うよりも、そっか、と喜んでしまう。

 なんだかトオルが嬉しいだけで、私も嬉しくなれた。

 次いで、肩から覗き込むようにして自分の運勢を確認する。

 その際にまぁ、トオルの頭が胸に触れるが、仕方がない。うん、仕方がない。

 こうしないと新聞が見えないしにゃー。しょーがないんだよ、トオル。新聞が見えないんだにゃー。

 後で読むなんて効率悪いし?

 さて、私の今日の運勢は――。

 

「なんだか並だにゃー」

 

 金運は最悪、仕事運は並。

 でも、恋愛運は最高。

 ……まぁ、良いかな。うん。悪くない。

 そう思っていると――。

 

「徹先輩、姉様、朝ご飯です」

 

 愛しい妹からお声が掛かった。

 ちょーっと愛想が無いというか、声が固いというか、冷めてるというか。

 視線を向けると、半眼でこっちを見てた。

 顔もむすっとしてる。……判り易くて、凄く可愛い。

 

「もうちょっと待ってー、読みたい所があるからぁ」

 

 嘘。

 別に興味を惹かれるような事は無い。

 事件も、政治も。

 私達にも、トオルにも関係無い事ばかり。

 首に手を回して密着し、気持ち読みやすい体勢になってから新聞を読むふりをする。

 頬が触れる。

 微かな髭の感触が気持ち良くて、まるでマーキングするかのように頬を摺り寄せてしまう。

 これは本能だ。

 獣が、ここが自分の居場所だと示す様に。

 本能――どうしようもない衝動なのだ、と自分に言い訳する。

 本心は、朝からトオルと密着出来て幸せだにゃー、と。

 

「ね、え、さ、まっ」

 

 そんな事をしていたら、白音ちゃんから強引に引き離された。

 

「あん、ひどい」

 

「ひ、酷くなんかないです。徹先輩が困ってます」

 

 そうかにゃー?

 そのトオルはというと、顔を赤くして私と触れ合っていた頬を撫でていた。

 私を、意識している。女として見ている。……そうと判る反応。

 困っているのではなく、驚いている。

 ……変に場慣れしているから、そういう風に冷めた思考で見てしまう自分が少し嫌になる。

 もっとこう、乙女な気分で大好きな人とは付き合いたいものだ。

 

「さて、それじゃゴハンにしますか」

 

 せっかくレイナーレが作ってくれた美味しいご飯が冷めるからねー、っと。

 白音はどこか疲れたような溜息を吐いて、私の後ろを付いてくる。

 トオルもソファから起き上がり、食卓へ。

 その頬は、まだ少し赤い。

 ――その事が嬉しくて、笑みが深くなることを自覚する。

 何度も身体を重ねた。この身体に、トオルが触れていない所は無いと言えるくらいの回数だ。

 それでも反応が変わらないトオルが愛おしい。

 ずっと、何度でも触れあいたくなってしまう――。

 

「姉様?」

 

 多分、見つめていたのは一瞬。

 トオルにも、白音にも気付かれていないだろう。……多分。

 自分でも判りやす過ぎるかなぁ、と思わなくもない。

 その事が恥ずかしくて、気持ち足早に食卓へと向かう。

 頬は赤くなっていないはずだ。でも、少し心臓の鼓動が早い。

 ……嬉しいな。

 

「朝から、ニヤニヤしてますね」

 

「そんにゃことないよ?」

 

 とは、目敏い戦乙女から。

 さも普通のように返すが、視線は合わせない。

 だって、自覚してるから。

 トオルが私を意識して、私がトオルを意識している。

 判りやすいかな? 判りやすいだろうなぁ。

 これでも騙し騙されの世界で長く生きてきたから、ポーカーフェイスは得意なんだけどにゃぁ。

 本心を隠すの、慣れてるはずなんだけどね。

 そんな事を考えながら、自分の席に座る。

 配膳は済まされていて、後はレイナーレとオーフィスが来るのを待つだけ。

 その二人も、スコルとハティに朝食を用意してから戻ってくる。

 

「お待たせして申し訳ありません、徹様」

 

「いただきます」

 

「いや、早いですから。オーフィスさん」

 

 席に着いてすぐに手を合わせるオーフィスに、律儀にツッコミを入れるロスヴァイセ。

 苦笑してしまう。

 皆が揃って、朝食を食べる。

 家族が揃って、同じ時間を過ごす。

 それが当たり前で――その事が、嬉しい。

 誰もがトオルは平穏には過ごせないと言う。

 トオルは争いを呼び寄せる。

 どれだけトオルや私達が拒絶しようと、争いがこっちに向かってくるのだと。

 ……そんな事、無い。

 こうやって、平穏な朝を迎えられているじゃないか。

 そして、これからもずっと――だ。

 

「いただきます」

 

 トオルの声に合わせて、私も手を合わせる。

 ――いただきます。

 毎日朝食の用意をしてくれるレイナーレに感謝を。

 この団欒の中心にいるトオルに感謝を。

 

・

 

・

 

・

 

 昼食まで食べ終わると、この家に居る住人は私とトオルだけになった。

 レイナーレとロスヴァイセは買い物に行き、白音とオーフィスはスコル達の散歩ついでに赤龍帝の家へ遊びに行った。

 私はソファに丸くなってお昼寝。

 幸せで贅沢な時間の使い方だな、と。

 欠伸を一つして、寝返りを打つ。

 ずっと寝てばかりというのも勿体無いな。

 少しトオルをからかいに行こうな。

 今なら多分、部屋で勉強中か、お昼寝中か。

 勉強の邪魔をするのは嫌がられるだろうから、昼寝をしていたら一緒に寝よう。

 夢に潜り込む事は出来ないけど、傍で一緒に寝れるだけでも――。

 

「あれ?」

 

 そう考えていたら、トオルがリビングにやってきた。

 私が起きている事を視線で確認すると、キッチンへ向かう。

 ――一言くらい、何か言ってくれればいいのに。

 トオルのばーか。

 そう心中で毒づき、またソファの上に丸まる。

 

「ん?」

 

 そんな事を考えていたら、何か飲むか、と聞かれた。

 んー……思考を読まれた、って訳じゃないだろうけど。

 タイミングがタイミングだから、少しドキッとしてしまった。

 

「え、っと――じゃあ、麦茶がいいにゃぁ」

 

 人型になって応える。

 今の一言だけで眠気が完全に飛んでしまうあたり、なんだかなぁ、と。

 声を掛けてもらえなくて拗ねて、声を掛けてもらったら喜んで。

 たったそれだけ、と。

 ――たったそれだけの事で一喜一憂する自分が、なんとも。

 

「ありがと。トオルはまたお勉強?」

 

 大変だね、学生も。差し出されたコップを両手で受け取り、そう言いながら笑い掛ける。

 まぁ確かに、学生の本分は勉強だね。

 むしろ、人間らしい生活をしてるトオルが凄いのか。

 今ならむしろ、冥界の学校とか、『神の子を見張る者』に就職した方がいいんじゃないかなぁ。

 サーゼクスたちも喜ぶだろうし、アザゼルは――嫌がるか。むしろ喜ぶかな? 

 ま、どっちにしろトオルは何処にも属さないだろうから、関係無いか。

 

「……え、っと。どうしたの?」

 

 そんな取り留めのない事を考えていたら、隣にトオルが座ってきた。

 珍しい。

 私から隣に座る事はあっても、トオルからは珍しい。

 偶にあるけど、本当に偶にだし。

 ちょっと鼓動が高くなる。

 あ、そういえば今は家に二人っきりだったにゃー、と。

 そう意識しそうになり、麦茶を一口飲んで落ち着く。

 いやいやいや。意識するのはそこじゃない。

 というよりも、こんなの私のキャラじゃないにゃ。

 

「どうしたの、トオル? ついに黒歌さんの魅力に気付いたかにゃん?」

 

 ソファに座ったトオルに、私から擦り寄る。

 肘が触れ合うほどに近くで、少しだけ身体を預けて。

 そして、トオルは照れて視線を逸らしながら頬を赤くして――。

 

「え、っと……」

 

 ………あれ?

 トオルからも体重を預けられた。

 こんな事、初めてなんだけど。

 いや、厳密には初めてではない。

 酔ってる時とか、身体を重ねてる時とか、そんな時にしか……記憶に無い。

 あれ?

 いやいや。

 

「ト、オル?」

 

 自分でも、不自然なくらいに声が上擦った。

 それと、静かになっていた鼓動もまた高くなる。

 これじゃまるで、ただ体を寄せ合わせているだけで緊張してるみたいじゃないか。

 そんな事今更で、何度だってしてる。

 それこそ、身体だって何度も重ねた。

 ――今更だ、と思うのに、身体が動かない。

 なんでこの程度で緊張しているのか。そう言い聞かせても――動かない。

 

「……めず、らしいね。うん」

 

 心臓がドキドキどころか、バクバク言っている。

 あれ? トオルってこんな事する男の子だったっけ?

 冷たい麦茶を握った手の平が気持ち良い。

 その事で、体温が上がっている事を自覚させられる。

 トオルの手にも麦茶。

 あ、お揃いだ、と。違う事を考えてみる。

 

「え?」

 

 トオルを好きな理由?

 いきなりそんな事を聞かれ、バクバクしていた心臓が――少しだけ、本当に少しだけ落ち着いた。

 どんな意図があるかは判らないけど、まぁ、くっつかれるのも嫌じゃないし。

 自分からくっつくのには慣れてて、トオルからくっつかれるのには慣れてないって……。

 それはそれでどうなのかにゃぁ、とか。

 私の方が年上でお姉さんなんだから、やっぱりおかしい。うん。

 息を深く吸って、長く吐く。

 ……少し、落ち着けた。

 

「トォ……トオルを好きな理由だったかにゃ」

 

 舌を噛んだ。……死にたい。

 視線をトオルとは逆の方へ向け、ちょっとだけ自己嫌悪。

 なんでこんな時に噛むかにゃぁ。

 私の馬鹿。

 

「えっとだにゃぁ…優しい所、あったかい所――」

 

 一つ一つを上げていくと、その一つ一つに頷いてくれる。

 いくつか挙げると、気持ちが落ち着いてきてスラスラと出てくるようになる。

 私の大切な宝物。

 それを見付けてくれたのも、傍に置いてくれたのも、与えてくれたのもトオル。

 そして――。

 

「こうやって、私に触れてくれるから。私を撫でてくれる手が、優しいから」

 

 ちょっとだけ硬い、男の子の肩に頬を摺り寄せる。

 少し汗の匂い。

 トオルの匂い。

 ――うん、もう完全に落ち着いた。

 麦茶が入ったコップをテーブルに置き、空いた手で耳を撫でらる。

 私と触れ合っていた腕が動き、私の手に重ねられる。

 

「スケベ――耳、くすぐったいにゃん」

 

 くすぐったいのは本当。

 耳を撫でながら、髪を梳かれる。整えていた髪が乱れ、頬に掛かった。

 火照った頬は敏感で、髪が触れるだけでも少しだけくすぐったく感じてしまう。

 そして私は、重ねた手に指を絡ませた。

 視線が重なる。

 ふと、どうして私は、こんなにもトオルを求めているのか――と。

 ああ……と。今朝感じた違和感。

 トオルはあの時から。もしくは、私はあの時から……求めていたのか。

 発情期という訳ではない。

 だというのに、発情しているような感覚。

 まるで初めての感覚に振り回されているかのようで。

 

「とおる」

 

 呟いた愛しい人の名前は、とても熱い。

 そして、どちらからでもなく、唇を重ねた。

 一秒、二秒――もっと長かったかもしれないし、もっと短かったのかもしれない。

 ただ、触れるだけの口付けだけで、胸の奥が満たされた。

 今は昼間だし、と。

 今夜――トオルの部屋に行こう。

 そう心に決めながら、その肩に頭を預ける。絡ませた指に、少しだけ力を込める。

 うん。我慢我慢。

 

「ふふん」

 

 幸せだな、と。

 もしかしたら、レイナーレ達が居ないのって、気を使わせちゃったのかな?

 私が気付いてないだけで、雰囲気に出てたのかもしれない。

 ……これでも、そういう事は多分この家で一番得意なのににゃぁ。

 肩に頬を摺り寄せ、腕を胸に抱く。

 マーキング

 ――この人は、私のものだと。

 なんとなく、そんな気分だった。

 嬉しくて、幸せで――だから。

 

「え?」

 

 その一言が耳に届いたのに、聞き返してしまった。

 

「もぅ、もう一回!」

 

 さっきまでの幸せなで暖かな気分はすぐに治まって、胸が高鳴る。

 もう一度――もう一回。

 また聞きたくて身を乗り出す。

 顔が近い、とトオルが言うが更に近づける。

 もうすぐキスが出来る距離。でも、キスでその唇を塞ぎたくなかった。

 その唇で、もう一度さっきの言葉を紡いでほしかった。

 好き、と。

 さっき確かに――。

 

「…………もう一回」

 

 うわ……ドキドキしてる。

 凄く、心臓が壊れそうなくらい、ドキドキしてる。

 

「もう一回」

 

 その唇から呟かれる、さっきとは真逆の言葉。

 私がトオルを好きな理由ではなく、トオルが私を好きな理由。

 一つ一つ。

 大切に、聞き漏らさないように。

 瞳を重ね、耳を傾ける。

 

「そ、そっか」

 

 視線を顔ごと逸らされた。

 その頬が赤い。いや、首筋まで赤くなってる。

 でも許さない。

 今まで待たされたのだ、これだけじゃ満足できない。

 逸らされていた顔を両手で私の方へ向かせる。

 視線が重なる。すぐ目の前――。

 

「ばか。謝ったらダメ…」

 

 額を重ねる。

 目を閉じる。嗚咽が漏れないように、唇を強く結ぶ。

 ――溜まっていた涙が零れた。

 トオルの手が腰に回され、抱き締められる。

 

「いいの。嬉しいだけだから」

 

 どれくらいそうしていただろうか。

 気持ちが静まり、涙は止まった。

 でもトオルの前で泣いた事が恥ずかしくて、目を開けるのは躊躇われた。

 だから――。

 

「ん……」

 

 そのまま、唇を重ねた。

 押し付けるだけの、子供のようなキス。

 舌を絡ませるような性感を目的とはしていない、気持ちを重ねるキスをする。

 長く、長く――。

 

「――ぷはっ」

 

 唇を離すと同時に、止めていた息を吐きだす。

 本当に……子供のキス。

 それと同時に、トオルも荒い息を吐く。

 テレビを点けていなかったリビングに、二人分の吐息の音だけが響く。

 

「わた、私も好き。大好き」

 

 荒い息を吐きながら、告白する。

 普通は告白よりも体を重ねる方が緊張するものだ。

 少なくとも、私はそう思う。……そう思っていた。

 でも今は、初めて身体を重ねた時よりも緊張している。

 頬が火照る。心臓が高鳴る。

 そして何よりも――。

 

「……うん」

 

 また、唇を重ねるだけのキスをする。

 それだけで、どうしようもなく幸せな気持ちになれた。

 

 

 

 

 

「昼間から、何してるんだろうにゃぁ」

 

 ソファに座っていたトオルに抱き付きながら、そう一人ごちる。

 胸に顔を押し付けて、お腹に私の胸を押し付けて。

 誘惑してる。

 でもダメ。これ以上先はダメと、自制する。

 ……レイナーレ達に気付かれるから。いつ帰ってくるかも判らないし。

 気付かれても別に良いと思うけど、見られるのはちょっと恥ずかしいにゃぁ……。

 

「でも、密着できるし」

 

 動き辛いと言われても、しょうがない。

 くっついていたい。もっと、ずっと、強く。

 今日くらい良いじゃないか。

 トオルから、女として好きと言われた、初めての日なんだから。

 そう思っていると、お願いがあると言われた。

 何だろう?

 

「んー…私に無理じゃない事なら、何でも聞いてあげたいところだけど」

 

 そう言うと、簡単な事だ、と。

 ……トオルの言う事って、偶に簡単じゃない時があるからにゃぁ。

 それで、何人の人達が泣かされた事か。

 

「へ?」

 

 そして、トオルのお願いの内容を聞いて、変な声が出た。

 いやいやいや、だって……。

 

「なんでにゃ? 似合わない?」

 

 着物をちゃんと着てくれ、だなんて。

 トオルから離れて、自分の身体を見下ろす。

 着崩した着物。

 

「………ぅ」

 

 視線が逸らされる。

 そして私も、視線を床に向ける。

 いやいやだから、こんな反応は私のキャラじゃ無いから。

 うー、あー……。

 

「それって、嫉妬……?」

 

 自分で言って、驚いてしまう。

 なんて声を出してるのか……嬉しさを、全然隠しきれていない。

 上擦った声は、聴いた人に簡単に私の心情を伝えてしまう。

 いや、期待してるのか――。

 トオルが、他の男に嫉妬してくれるのを。

 私は気にしないのに。

 トオルだけなのに……。

 

「そ…そっか」

 

 えー、っと。

 とりあえず、まずは肩の所までちゃんと着る事にする。

 そうすると胸元が緩んでしまい――とりあえず着物の胸元を合わせて、着崩れないように手で押さえる。

 こんな感じで良いかな?

 いつも出してた肩とか胸元が隠れると、少し違和感を感じてしまう。

 あー……。

 

「やっぱり変な感じ。ちょっと待ってて、ちゃんと着替えるにゃん」

 

 そう言うと、トオルに背を向けて着物の帯を解く。

 やっぱりちゃんと着た姿を見て欲しい。

 中途半端な格好なんて、好きな男の人には見せたくないものだ。

 少し時間はかかるけど、と。

 帯を解き、着物の前が肌蹴る。

 下着は黒のショーツのみ。

 ブラジャーは今までの格好が格好だから、着けられなかったのだ。

 この角度なら窓からも見えないし、さっさと着替え――

 

「ちょ、――と、おるっ」

 

 着物の前を肌蹴させたまま、抗議の声を上げる。

 その声を向けた相手は――後ろから私を抱きしめていた。

 

「ま、まだ…着替え――とちゅ……ぅ」

 

 心臓がバクバク言っている。

 まるでこのまま爆発でもしてしまうのでは、と思ってしまうくらいに高鳴っている。

 思考が纏まらない。

 ちゃんと着物を着てほしいと言われたから着替えようとしたら、抱き締められた。

 混乱してる。

 どうしてこうなったのか、何が、なんで、どうして。何か悪い事をしただろうか?

 待って待って待って、と心の中だけで叫び続ける。

 まだ――心の準備が……。

 視線は床を向いていて、身体は抱き締めているトオルを振り解こうとしない。

 だって……待ってほしいけど、嫌じゃない。

 そこまで考えて、余計に顔が赤くなった。

 もしかしたら、首まで赤いかもしれない。

 それでも視線は、床から動かせない。

 緊張してる。

 身体が強張ってる。

 告白されて、告白して。

 着物の前は肌蹴ていて、下着はショーツだけ。

 そんな格好で、これからする事なんて――。

 

 

 

 ベッドの上で、トオルの腕を枕にして微睡んでいた思考が戻ってくる。

 最初に目に映ったのは、トオルの顔。

 視線が重なり、恥ずかしくて私から視線を逸らす。

 

「寝顔……見た?」

 

 もぅ。

 

「あんまり見ないで」

 

 ふ……ん。可愛いとか言われても――。

 力の入らない身体に無理をさせ、トオルに背中を向ける。

 ……ヤバいにゃぁ。顔、絶対ニヤけてる。そう判ってしまう。

 可愛いなんて……嬉しいにゃぁ。

 

「怒ってない……にゃ」

 

 そう声にすると、髪に顔を埋められる。

 匂い――嗅がれてる。

 髪の匂い、汗の匂い……私の匂い。

 また、胸がドキドキしてくる。

 リビングで一回。トオルの部屋で二回。

 それだけして、また身体の奥が熱くなってくる。

 

「えっち」

 

 枕にしている腕に、頬を擦り付ける。

 汗の匂いと、トオルの匂い。

 ――舌で舐めると、その独特の味を美味しいと感じてしまう。

 解けた髪がトオルの指で遊ばれ、その微かに感じる感触が心地良い。

 

「嫌いじゃないにゃ」

 

 むしろ、好ましくすら感じている。

 求められている。身体も――心も。

 それが判るから、トオルの欲望を受け止めたいと思う。

 でも、着替えないと、な。

 きっと、レイナーレ達には気を使わせてしまっているから。

 いつまでも外で時間を潰させる訳にもいかない。

 でも――もっとこのまま、裸で触れ合っていたい。

 そうも思ってしまう。

 このまま、ずっと甘えていたくなる。

 その感情を抑え、トオルに向き直る。

 

「続きは夜、ね?」

 

 その唇に指を当て、反論を封じる。

 最後に一度キスをして――

 

「それまで我慢するにゃ、トオルくん?」

 

 あ、こらっ。

 

「どこ触――」

 

 唇が塞がれる。

 舌が唇を撫で、抵抗が無いと判ると歯茎へと触れてくる。

 感じるのはくすぐったいような、もどかしい、物足りなさ。

 枕にしていた腕はいつの間にか肩を抱いて逃げ道を塞ぎ、空いた手は尻尾の付け根を爪で掻く。

 敏感な部分を爪で掻かれると、どうしようもなく腰が慄いてしまう。

 腰が抜ける、という感覚に似ているのかもしれない。

 それでも逃げようとお尻をくねらせると、まるで狙ったかのように臀部の奥の窄まりへとその爪の刺激が伸びる。

 そこは汚いからと何度言ってもやめてくれないから、本当に困る。

 触らせたくないから、腰を動かすのを我慢する。我慢するしかない。

 ……お尻でなんて、感じたくない。

 そういう性交がある事は知っているけど――まだ怖い。準備もしてないし。

 

「んぅ、っ――はぁっ、んッ」

 

 抵抗しようと手でトオルの胸を押すが、力が入らない。

 それどころか、身体はもっと刺激を求めるようにくねり、特にお尻はもっと刺激してもらえるようにトオルの手に押し付けるような格好になってしまっている。

 お腹の奥の子宮が疼く。

 もっと、と。

 何度も出され、満たされているはずなのに、まだ足りない。

 ――それが猫魈の本性なのか、女の性なのか。

 

「はっ、はぁ……もぅ」

 

 さっきまで私が下だったから、今度は上になる。

 トオルを組み敷き、ほつれた髪を手で掻き上げる。

 

「悪い子だにゃん」

 

 三回も出したはずの肉棒はすでに天を向き、猛っている。

 これが十代の性欲なのか、それとも『神器』でズルをしているのか。

 そのどちらでもいい、と。

 大事なのは、トオルから求められた事。

 それだけだ。

 

 

 何か大切な事を忘れたまま、私は求められるままにトオルと重なった。

 

 




奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの壁です。

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