その日の夕方、五男のエーリッヒは四男のヘルムートと首尾よく合流を果たした。元々、王都に住む2人はバウマイスター伯爵家に関する事柄を報告する為に不定期で会合をしていた。今回は急ぎで共有したい事があって久々の開催となった。
「ヘルムート兄さん、今日はちょっと驚く報告があります。」
「お、またヴェルが何か手柄を立てたのかな?」
「ほら、ヴェルは伯爵様になってバウマイスター宗家となったでしょう。それで結婚してから何か粗相があっちゃいけなという事で、『あてがい女』が決まったそうなんです。」
「やはり貴族の結婚てそういう話になるんだよな。俺も経験したよ。」
「相手はアマーリエ義姉さんです。」
「ふーーーん。アマーリエ義姉さんが、ヴェルの『あてがい女』にねぇ」
そういうとヘルムートはワインの盃を飲み干す。エーリッヒはヘルムートの盃にワインを注ぎながら話を続ける。
「貴族としては、悪くない人選でしょう? ヘルムート兄さん」
「そうだな。聞いてしまうと、それしかないのかなって感じだ。」
貴族の結婚は家と家との結びつきという意味合いが強い。マインバッハ騎士爵家は、当主の正妻だからと僻地に娘を嫁がせた。貴族の貸し借りの感覚で言えば、バウマイスター家はマインバッハ家に借りを作った立場となる。これはつまり『大切なお嬢さんを嫁としてお預かりした以上は、当主の正室としてその子ともども大事にします』という事だ。
「ところが『長男が不始末をしたので、事態を収拾した八男に跡を継がせます。これは王命です。八男には正妻の他、4人の婚約者がいます。』と、こうなると、アマーリエ義姉さんと2人の子供の存在は完全に宙に浮いてしまいますよね。」
「マインバッハ家は娘を嫁がせただけの立場、住んでる土地からして離れてるんだからクルトの兄貴が事件を起こすなど知る由もない。こりゃ話が違うと言いたくもなるよな。」
「父上もそれを考えると、どう対処するべきか困ったでしょうね。」
家長としてクルトとアマーリエの結婚をまとめたのはアルトゥルだ。そして問題は、クルトが事件を起こした際も、当主は依然としてアルトゥルだったという点だ。
王命は絶対であり、ウェルのバウマイスター伯爵家が宗家となる。これは覆らない。
当主がクルトならクルトの家系が割を喰うのはクルトの責任だ。しかしややこしい事に事件の発生は世代交代前だった。アマーリエをそこに巻き込んだアルトゥルが当主の間に事件が起こり、クルトとアマーリエの系譜が当主の座から締め出された。である以上、世代交代にあたってはアマーリエと子供達に対する何らかの補填が織り込まれている必要がある。これはヴェル自身の借りでなくても、ヴェルが相続する未開拓地という財産に自動附帯する負債のようなものだ。
アマーリエはクルトとの間に立派に2人も子を成した。妻の側は義務を履行しているのだから、貧乏領主とはいえアマーリエの子に家を継がせないのは貴族の道義に反する。王命は王命で仕方がない。が、何をどう補填するのか。バウマイスター家の貴族としての立ち居振る舞いが求められる事案なのだ。
「ヴェルも騎士爵家分与という形で、マインバッハ家の補填とすると言ってはいるけれど。」
「マインバッハ家から『その証はあるのか』と問いただされると父上も弱いよな。ヴェルは貴族の論理には理解が乏しい方だし、嫁が5人もいるんだ。子供が増えると話がどう転ぶか分からない。」
「結局、アマーリエ義姉さんの立場は不安定なままですからね。もしヴェルに婚約者がいなければ、強引にアマーリエ義姉さんをヴェルの正妻にしろとマインバッハ卿に捻じ込まれたかもしれませんね。」
「ただヴェルとは年齢差もあるし、なんと言ってもヴェルは伯爵様だ。流石に兄嫁が騎士爵家の正妻を外れたから伯爵家の正妻にしろは天秤が釣り合わない、その筋は通らないよな。」
「となると、領地を分与し、開発にも噛ませてマインバッハ家にも美味い汁を吸わせつつ。」
「アマーリエ義姉さんの立場をなんとかヴェルとくっつけようとするしかなくなる訳だ。で、それが『あてがい女』だったという訳か。」
「ただ、アマーリエ義姉さんの名前は、父上が言い出したという訳ではないそうです。」
「そうか。舅としてアマーリエ義姉さんに切り出すにしても外野を固める必要がある、か。」
「どうやら寄親のブライヒレーダー辺境伯の知恵を借りたようですね。」
「父上も、そういう所は狡猾なところがあるよな。」
アルトゥルは学もなく漢字も読めない。計算も不得手だ。ただ妙に貴族としての勘所は鋭い。今回も『あてがい女の良い候補がいません』と言って、寄親のブライヒレーダー辺境伯からアマーリエの名前が出るように仕向けたのだろう。息子たちの目から見ても、愚鈍な田舎者を装う事については実に長けた人なのだ。
「寄親のブライヒレーダー辺境伯のお声がかりという事であれば、当主を退いて隠居の身の父上も『あてがい女』の話を持ち出してアマーリエ義姉さん本人の意思を確かめるくらいはできる。それは父親としての務めの範疇として、差配が可能になると。」
「この話は、ヴェルの婚約者達に知らせる訳にはいきませんからね。そちらの方面の手配をする為にも、ヴェルに期待している寄親のブライヒレーダー辺境伯の関与は欠かせないという訳です。
そして、『あてがい女』の件が家中に漏れることがないよう隠ぺいする為に、相引きする場所としてパウル兄さんの領地の外れの小屋を用意したそうですよ。」
「パウル兄さんが隠ぺいに協力……性格的に合わないよなぁ」
「そこは、ローデリヒたちも手を貸しているから」
「ヴェルの家臣は忠実だなぁ」
「みんなバウマイスター伯爵家に波風が立たないようにするのに必死なんですよ。新興の家ほど、こういう問題で揺れますからね。正室でも側室でもない女性が、突如当主の隣に出現する訳ですから。」
「確かに。こういうのはバレないのも大事だけれど、むしろ皆が知る事になる前提で『どうしてこの人なのか』って理由を、万人に納得させる人選が全てだもんな。」
「アマーリエ義姉さんが夫の罪を償う為にその身を捧げる形にすれば、体裁は整いますからね。貴族社会の建前的にもそうですし、バウマイスター伯爵家中の問題としても『そういう事情なら仕方がない』と容認する空気が生まれる。陪臣の家柄じゃないのも良い。贖罪という形を取れば、表向きは誰も反対出来ませんよね。」
「クルトの兄貴の不始末を、その嫁が償うわけか」
「あまり公にはされていないけど、過去にはそういう人選も多かったそうですから」
「貴族的にはわかるけど、感情的にはどうなのかね? ヴェルの奴、ちゃんとデキればいいけどな」
「ああ。それについては心配ないですよ」
「どうしてだ? エーリッヒ」
「アマーリエ義姉さんは、ヴェルの憧れだったらしいですから。」
「そうなのか? 長男の嫁と致せって、家と家の都合をヴェルの所に押し付けている訳だろう。ヴェルが子供頃に見たアマーリエ義姉さんの花嫁姿は綺麗だったにしてもだ。ヴェルの年齢で、2人の子供を作った後の兄嫁にそうそう欲情するものかね。」
「まぁ父上もそこは賭けだったんでしょうね。でも、それなりに成算はあったんでしょう。実際うまくいったようですし。」
「元々相性の良かった若い男女が身体の関係を結べば、いずれ気持ちが通じ合うというやつか。」
「そこに憐憫の情が加わりますからね。」
「男って、情に訴えかけられると脆いよな。」
「あてがい女はですね。私もヘルムート兄さんもそうだったでしょう? 内密の仕事だけど、それには報いますからという話が出る」
「俺の時もそうだったなぁ。義父の知人で同じ森林警備をしている貴族の陪臣の未亡人ってやつ」
ヘルムートは王都のバウマイスター騎士爵家に養子に入った。現在はバウマイスター伯爵家の分家という扱いになっているが、本来の宗家筋はこちらの家である。森林警備の役職があり、生活は安定している。
「エーリッヒもそうだったのか」
「僕の場合も、同じような感じですよ」
エーリッヒの相手は夫が若くして病死した、幼子と残された若い未亡人だった。楚楚とした線の細い美人だったと思う。子供が成人するまで面倒を見てもらえるならと、何事も一生懸命に尽くしてくれた。あまりに物静かで話し声を覚えていない。ほとんど話したことも無いのだと思う。初めて彼女を抱いた時、亡き夫を思い出したのだろう彼女はエーリッヒに抱かれながら静かに涙を流していた。
エーリッヒの研鑽に懸命に応えてくれたからだろう、数日の逢瀬で彼女の身体はエーリッヒによく馴染んだ。彼女が声を押し殺しながらも快楽に震え興奮している様子には、エーリッヒも興奮させられた。何度も絶頂に至りながら声を漏らすまいと歯を食いしばるたおやかな姿には、彼女を手放したくない想いに駆られたりもした。しかし明るく笑うミリヤムの姿を思い出すと、その先には進めなかった。ミリヤムとの結婚で、彼女とは別れた。その後は望み通り子供を育てる生活に邁進んしているはずだ。
「一種の救済制度でもありますからね」
「そうやって、男の罪悪感を少しでも減らすと」
「みんな、そんなものでしょう。最初は、結婚する奥さんに悪いとか考えて」
「確かに考えた」
「次にその人の事情を聞いて、これを断るのはもっと悪いと思ってしまう」
「思った、思った」
「でも、みんな男ですからね。女性とそういうことができると思うと、本能では大喜びであると。ヴェルも男ですから」
「言えてる、俺もそうだった」
ヘルムートの相手はまだ10代の若さで乳飲み子を抱えていた。何を要求されても黙って受け入れるように、周りに良く言い含められたのだろう。オズオズと相手をしようとする様子が新鮮だった。子供がある程度大きくなって働けるようになるまで面倒を見るという条件で、条件は比較的安価だったのだと思う。本当は再婚を考えても良いような年齢のはずなのだが何か訳があるようだった。最初は義務で応じてくれていた相手だったが、そのうち情が湧いた。よく笑う明るい子だったが、やはり夫の死が影を落としているようだった。ヘルムートは、時折ではあったが今も密かに関係を続けていた。
「僕もそうですよ。で、一度そういう関係になると、それが終わる時になると惜しくなる」
「俺もなったな。で、義父から『自分もそうだった』ってあとで聞くんだ」
「僕たちは、貴族の前に男性ですからね」
「そりゃ違いない」
エーリッヒの語る真理にヘルムートは大笑いした。
「初めての相手ってやっぱりどこか特別なものなんだよな。」
「実際、ヴェルも相当のめり込んでるみたいなんです。」
エーリッヒはエリーゼから魔道通信機で問い合わせがあった事を明かす。
「おいおい、いくら何でもそれはヴェルものめり込み過ぎじゃないのか?」
「アマーリエ義姉さんは、子供への領地の分与という事でゴールの見えている相手ですからね。父上も大丈夫と計算してるんしでしょう。」
「つまりアマーリエ義姉さんが『あてがい女』を通り越して、ヴェルの愛人や嫁の地位に至る、その可能性も含めて父上は全て計算済みだと?」
「アマーリエ義姉さんとヴェルとの相性次第とは考えていたと思います。でも今後、アマーリエ義姉さんが女性として幸福になれる可能性があるとしたら、それはヴェルとそうなるしか無いと、父上もそう思ったんでしょうね。多分、その為にブライヒレーダー辺境伯のお声がかりという形で外野に根回しをしたんです。嫁の実家からの横槍が1番怖いですから。」
「アマーリエ義姉さんに対する、父上なりの贖罪という事か。」
「クルト兄さんの件で、色々思う事もあったんでしょうね。」
「父上はクルトの兄貴を甘やかしすぎたんだよ。」
胸の中の苦いものを吐き出すようにヘルムートは言う。
「クルトの兄貴には何も失敗させないようにって目を光らせて、本当に過保護だったからな。アマーリエ義姉さんも、かなり無理して見つけてきた花嫁だったみたいだし、2人の結婚式には相当力を入れていた。」
2人ともクルトの結婚を機に独立したのだ。バウマイスター領内の最後の思い出として深く心に刻まれている。
「確かにクルト兄さんの結婚式は、領内の一大イベントでしたからね。」
資金を捻出する為にまさしく家族総出でシャカリキに準備をさせられたのだ。
「ヘルマンの兄貴も、従士長の家を継がせるって事でかなり優遇されていたし、クルトの兄貴のすぐ後にやはり結婚式を上げていただろ。本人達はそういうのはあんまり気づいて無いだろうけどな。」
「一歩舵取りを間違えれば、即お家騒動の家でしたからね。」
「にしてもだ。クルトの兄貴がもっと若い頃に失敗していたらそれを糧に成長して色々と挽回も出来たんじゃないか、俺はそんな気がしてならないんだ。」
「父上の目の黒いうちは何も問題が起きないはず、だったんでしょうが、やはり僻地での領地の経営に色々と無理がありましたからね。」
「なんだかんだでクルトの兄貴は父上に可愛がられていたからな。長男の立場は絶対で、俺たちとは兄弟喧嘩すらする余地がなかった。でも、もし兄弟で殴り合いの喧嘩でも出来る環境なら、案外クルトの兄貴も今頃元気でやっていたかもしれないんだよな。」
ヘルムートとエーリッヒはしんみりと酒を酌み交わす。
「ま、結局のところ、父上はあれで過保護なんだよ。」
「ですね。今回の件だって、実のところ新しく当主になったヴェルに対して、かなり過保護な愛情を示しているだけなんですよね。」
「クルトの兄貴やヘルマンの兄貴だけじゃない。ヴェルだってきっと、こういう父上の独特の愛情には全く気づいてないんだろな。」
そんな会話をしながらヘルムートとエーリッヒが飲み明かしていた頃、ヴェルとアマーリエも束の間の逢瀬を楽しんでいた。
「今日はお風呂に入ると言って、そのままこちらに来ました。」
「それは、確かに何も嘘は言っていないのかもしれないのだけれど。」
トンチの効いたヴェルの発言にアマーリエは当惑する。風呂に入ると婚約者達に告げて、自宅ではなくアマーリエのいる小屋のお風呂に入りにくるというのはどうなのだろう。こういうのは奇策というのではないだろうか。瞬間移動が可能なヴェルならではの離れ業だった。
「風呂に入るのは、どこで入っても一緒ですよ。」
ヴェルが裸のアマーリエを抱き寄せる。こうなると『あてがい女』であるアマーリエも抱き寄せられるままだ。惚れた弱みという言葉があるが、どうもアマーリエはヴェルの押しには弱い。
アマーリエを立たせたまま、ヴェルはアマーリエの胸に舌を這わせる。
「あ、あん、気持ちいい。」
アマーリエが悶えた。胸に触るヴェルの手つきは常にいやらしい気がする。だがそのいやらしい手つきが気持ちよくしてくれるのだ。ヴェルはヴェルで、アマーリエの胸の弾力に感動する。アマーリエの胸は硬すぎず、揉む手をあくまで柔らかく包み込む感触をしている。だから揉み心地がいい。
自然にヴェルに風呂の床にアマーリエは押し倒される。
「アマーリエ義姉さん、入れますね」
「(私、いつの間にそんなに濡れていたのかしら)」
アマーリエ自身が驚くほど、アマーリエの身体は濡れていた。アマーリエの女性器はヴェルの男性器をごく自然に受け入れる。
「ヴェル君、私、今日我慢ができないみたいなの」
アマーリエが吐息を漏らす。ヴェルはその声をもっと聞きたいと思いながら、アマーリエの為に腰を強く振る。
「ヴェル君、私もう本当にダメなの。一緒にイッてくれる?」
ヴェルは優しく頷きキスをしながら、アマーリエの膣内に精を放った。