シーツにはありありと情事の痕跡が残り、汚れたタオルが床に放り出されている。机の上に用意した軽食は乾燥してすっかり固くなっていた。これは捨てるか犬にでもやる他ないだろう。アマーリエは窓を大きく開け放つと、燃え尽きたランプの油を補充し、汚れ物は浴室に放り込む。ベッドや毛布大きな汚れが残らないように綺麗に拭き取ると、手早く新しいシーツに交換した。
「(この作業も、すっかり慣れてきたわね。)」
ヴェルとミリヤムが関係を持った事を、アマーリエは誰にも言うつもりはなかった。迂闊に話題にする事柄では無いし,ヴェルの為にならない事をするつもりはない。
「(ヴェル君がちゃんと出来たようで、そこは良かったかな。)」
少し覚悟はしていたのだが、アマーリエにミリヤムへの嫉妬心は湧かなかった。ミリヤムが正室で居続ける為の打算的な関係と分かっていたし、そもそもアマーリエがヴェルを占有出来ない事は最初から分かりきっていた。
アマーリエ自身にも少し意外な事に、全体としてはヴェルが別の相手と性交渉をして誇らしい気持ちだった。
「(試験に合格した生徒を誇らしく思う気持ちってこんなかしら?)」
『あてがい女』として教え込んだ性技を、ヴェルが無事駆使してくれたのだと思う。
「(ヴェル君は5人連続で初夜をこなすんだのものね。)」
経験豊富な年上相手とはいえ、アマーリエ以外でもちゃんと性体験を積めたのは本番に向けた予行演習として大きいだろう。対象が1人だと絶対的な経験になるが、女性の違いを認識する事は大事なはずだ。
「(今日はヘルムート様の結婚式でバタバタするでしょうし、明後日はパウル様の結婚式がある。私は式に出席しないから、汚れ物はお湯につけておいて、朝食後に洗う方が良いわね。今日もお義母様の支度を手伝う方が良いかもしれない。明日の式の準備も手伝う方が良いでしょうし。)」
後で小屋に戻って済ませる用事に自分の中で段取りをつけると、アマーリエは朝食の支度を手伝いに母屋へと向かった。
ヘルムートの結婚式会場に両親とパウル夫婦、それに婚約者のヴィルマと護衛としてエルを連れて到着すると、ヴェルは挨拶もそこそこに、エーリッヒに束ねられた書類を差し出した。
「エーリッヒ兄さん、これをどうぞ。」
「これはなんだい、ヴェル?」
「バウマイスター伯爵家の継承順位を書類にしました。俺に子供ができるまでの間ですが、エーリッヒ兄さんと正室のミリヤム義姉さんの間に産まれた子供をバウマイスター伯爵家の継承順位1位と2位に指名してあります。」
ヴェルは周囲に聞こえるよう、意図して大きな声で話した。家宰のローデリヒとも相談して、今回は式の会場に集まる貴族達にこのニュースを広めて、証人になってもらう方が色々と都合が良さそうだと計算している。
「まあ、ヴェル君」
エーリッヒの横では感激したミリヤムが目を潤ませている。ヴェルは絶対にミリヤムと視線を合わせないようにしながら、ミリヤムの反応は注意深く観察していた。
継承の書類は規定が厳密だ。ヴェルはエーリッヒの子供ではなく、エーリッヒと正室ミリヤムの子供のみを後継者に指定してある。当然ながら、エーリッヒと側室との間の子は候補から除外される。これでミリヤムの正室の座は揺るがない、その事を貴族として示す書類となる。
これは昨夜の『あてがい女』としてのミリヤムの影の働きの成果だと、ミリヤムもそう実感出来るだろう。ヴェルとミリヤムの二人の秘密がミリヤムの口から漏れる可能性は、この書類の存在で限りなくゼロに近づく筈だった。
エーリッヒは渡された書類を手早く確認すると、顔を上げてヴェルに問うた。
「いいのかい、ヴェル?」
「はい、俺に子供が産まれるまでの間はトラブル防止で必要な措置ですから。万が一があった時、後を任せるのに一番安心なのは王都との繋がりの深いエーリッヒ兄さんです。それに色々と我が家の事をお願いしたいですから、その為の関係性をハッキリさせる書類でもあります。」
ヴェルの揺るぎない言葉にエーリッヒの表情が綻ぶ。
「ヴェルの子供が産まれるまでの便宜上の事だと分かっているけれど、書類で正式にバウマイスター伯爵家の相続権が設定されている家というのは、貴族としての格が上がるんだ。配慮してくれて本当にありがとう、ヴェル。」
エーリッヒは片手を差し出してヴェルに握手を求める。その手を握り返しながら、ヴェルは素直な気持ちを述べた。
「本当は昨日の式の時にお渡しすれば、良いサプライズになったかもしれないんですが。」
「我が家の関係者しかいない昨日の式の最中にこれを貰っていたら、大騒ぎになって結婚式どころじゃなかったよ。」
「エーリッヒ兄さんの後は、パウル兄さん、ヘルムート兄さんの順で、それぞれ正妻との間に作った子供には継承順位が割り振られるようにしてあります。確認して問題がなければ、これで正式に登録をしましょう。」
側室との間の子供に継承順位を設定すると煩雑になる為、分家が本家を継ぐような継承順位の設定では対象を正室に限る記載はよくある事らしい。基本的に側室の子の地位は低い。期待できる地位は、本家の収める領地の名主なり陪臣なりの扱いが普通なのだ。
だからこそ、より地位の高い女性と結婚させて正室の座をスライドさせようとする動きも出てくる。そのような正室争いにならないよう、今回は正室の名前をきちんと明記した。つまり書類を手続きを経てヴェルが書き換えない限り、記載のある各家の正室の座は変動しない。
「(これで正室の座は揺るがないとミリヤム義姉さんも安心してくれるだろうし、パウル兄さんやヘルムート兄さんの正室達もミリヤム義姉さんみたいなことは考えないはずだ。)」
昨日起こった問題の本質は、正室の地位が脅かされかねない点にあった。正室の地位保全という点が書類で明確になっていれば、今後はもう似たような問題は発生しないだろう。
元々、何かあった時の為の継承順位についての書類作成はエーリッヒからも家宰のローデリヒからも頼まれていた。昨夜、ヴェルにとっては予期せぬミリヤムとの邂逅を経て、ヴェルなりに対策をする必要に迫られ知恵を絞った結果だった。
「(このまま、兄さん達の正室全員と関係を結んでいく訳にはいかないものな。)」
ヘルマンの名前を入れるべきかどうかについては、ヴェルも悩んだ。書類を作成したローデリヒとも相談の上で、王都在住の経験がなく、王都にこれといった伝手のないヘルマンの名前は意図して除外している。
ヘルマンの治める領地はお家騒動を経験したバウマイスター騎士爵領だった土地だ。今後は平穏に暮らしてほしいという願いもある。
「(それに昨夜の件、どう考えてもマルレーネ義姉さんが関与しているだろうし。)」
ヴェルとしては、まずエーリッヒとミリヤムの件を落ち着かせたい。マルレーネとどう話すかは、その先の話だった。
「(とにかく、これでもう身内で変な動きをする人はいなくなる筈だ。)」
昨夜、ヴェルがミリヤムを抱いた。ミリヤムが自ら進んで『あてがい女』を務めると裸で迫ってきた時に、もうその先の展開をどうやって回避したら良いかの判断がヴェルにはつかなかったからだ。
ヴェルを『あてがい女』の件で最終的に説得をしたのはエーリッヒだったし、その時にヴェルはエーリッヒに『あてがい女』がいたとも聞いていた。エーリッヒの事情をミリヤムが知らないとはいえ、『あてがい女』を務めるというミリヤムの行動を止める権利はないとヴェルは考えた。
『あてがい女』という事であれば、エーリッヒとミリヤムは男女の立場の違いやタイミングの違いはあれど、お互いにその風習を活用する権利を持っている筈なのだ。
『あてがい女』という処置にはイレギュラーな要素が組み込まれている。なので、この風習を持ち出されると、未亡人とはいえ兄嫁だったアマーリエと関係しているとミリヤムに把握されているヴェルとしては反論できず対応に困った。
そしてミリヤムが裸になった段階で、どう転んでもエーリッヒには言えない事態になっていた。正室側室の問題でミリヤムを困った立場は追い込んでしまっていたのだろうとは思う。そして結果的にヴェル自身もあの状況に追い込まれたという気持ちが強い。
予期していなかったとはいえ、ミリヤムとの交合は快感だった。今世ではアマーリエ以外の女性を抱くのはミリヤムが初めてなのだ。ヴェルも葛藤はあるにしても楽しんだし、アマーリエとミリヤムの身体の違いに学んだ事も多かったと思う。
それでもヴェルとミリヤムが関係を持つことは今後もうない。やはりヴェルにとってもミリヤムにとってもエーリッヒの存在が大きすぎるのだ。いずれにせよ、ミリヤムは今回の結果に満足しているだろうし、エーリッヒにはヴェルの信頼を形にして示せたと思う。
「(仮に昨夜の事実が明るみにでとしても、なんとかなるように俺に出来る事はしたよな。)」
貴族の社会においては夫に実利があれば、大抵の事は妻の『内助の効』と認識されるらしい。自ら進んで『あてがい女』を務めるのは、不倫ではなく役目の上の事とも見做される。
ヴェルが貴族家の当主であっても、その時点では未成年で結婚に向けた準備中の期間だったという事実は重要だった。『あてがい女』がつけられる前提条件をヴェルの側が全て満たしているからだ。
今回は二男から四男を差し置いて五男が最優先される内容になっている。夫であるエーリッヒにもたらされた利益が明白なので、ヴェルとミリヤムの関係が不倫と見做されるる事はまずない。
爵位の継承候補に指名する事は最大級の信頼を示す事を意味するので、バウマイスター伯爵家はブラント準男爵家を評価していると内外に示す事になる。『信頼している、評価している』と口ではなんとも言えるが、正式に後継者候補の書類に残すとなるとその証明効果は非常に大きい。爵位は金で買えないからだ。
バウマイスター伯爵に絶大に信頼されるエーリッヒの評価が上がり、法衣貴族としての実績次第ではあるが、バウマイスター伯爵家の活躍と連動する形て今後の更なる陞爵も視野に入るようだった。
仮に夫の側が妻の行動を問題視し抗議しようとした場合も、夫が受けた利益が明白であるような場合は『妻の内助の功を無駄にするのか』と周囲に制止されるらしく、黙って実利を受け入れるのが貴族の夫としてあるべき姿という事だった。
しかも今回は、エーリッヒがヴェルに感謝の言葉を述べるところを式に出席する多数の貴族に目撃されていた。なので仮に事情が全て明かされても、貴族社会では醜聞ではなくどちらかというと美談として扱われる筈だった。
「(エーリッヒ兄さんを事情を知る前に利益を与えて黙らせるような事をしたようで気が重いけど、ミリヤム義姉さんが望んでいたのは多分こういう事なんだよな。)」
見るとミリヤムはエーリッヒに抱きついて喜びを表現している。周囲にはエーリッヒの知己が集まり、そんな2人を祝福していた。
「(これで俺は責任を果たしたから、昨夜の事はもう忘れよう。俺にはアマーリエ義姉さんがいるもんな。)」
継承順位を巡るヴェルとエーリッヒの一連の会話は、格好の話題となったのだろう。招待客達が、口々に花婿のヘルムートと花嫁のところへ行って祝福を述べていた。パウルも貴族達に厚く取り囲まれている。
『ヘルムート殿のお家も、バウマイスター伯爵家の後継候補の家に入りましたぞ!』
『パウル殿、おめでとうございます!』
そんな様子を見て、ヴェルは訝しむ。
「俺に子供が出来るまで、エーリッヒ兄さんが実質的な後継者と目されて大変なことになるのは分かるんですが、パウル兄さんやヘルムート兄さんまで周囲から祝福されるものなんですね。」
「それはね、ヴェル」
ようやく首に齧り付いていたミリヤムから解放され、ヴェルの横に並んで乱れた襟元を手で直しながらエーリッヒが解説をする。
「貴族は可能性に賭けるからね。どんな僅かな可能性でも、先々バウマイスター伯爵家を継ぐ可能性があるかもしれない事が大事なんだ。
例えば結婚相手を探す時、他が大体同じような条件だったら、本家を継ぐ可能性が僅かでもある家と全くない家のどちらが有利になると思う?」
「本家を継ぐ可能性が僅かでもある家、ですね。」
「そうだよね。商人が取引をする場合なんかでも、相手が信用できるかどうか大事になるよね。バウマイスター伯爵家の後継者候補の家なら本家から簡単に見捨てられたりしないから、商人も安心して取引出来るよね。」
「なるほど。」
世知辛いような気もするが、少し貴族の社会に理解が深まった気がした。こんなちょっとした事で世間の扱いがガラリと変わるなら、ミリヤム義姉さんが色々と思い詰めたとしても無理はなかったのかもしれない。
機会が提供されて後は本人の気持ち次第という状況なら、『エーリッヒの為なら』とミリヤムが自ら進んで『あてがい女』を務めた理由が少し分かる気がした。自分の正室としての地位を守り、夫の立身出世に繋がる千載一遇の好機に見えてしまったのだろう。
「(今日は色々と予防線を貼っておいて良かった。)」
今日、ヘルムートの結婚式にヴィルマとエルを連れてきたのには理由がある。本来ならアマーリエとの逢瀬に時間を捻出する関係で、ヴェルは婚約者や護衛は連れ歩きたくない。だが、結婚式は「娘や妹をどうぞ」と言い寄る貴族や大商人をどう相手にするかの世界と昨日で学習した。
なので婚約者を日替わりで連れ歩く事にしたのだ。ついでに護衛でエルも引っ張る事にする。これでミリヤムの時のように、女性と2人きりになって迫られる危険もずっと少なくなる。
「(これなら不用意に話しかけられたり、強引な関係に持ち込まれるリスクも減るだろうしな。)」
今日はヴィルマの担当だ。それはヘルムートの結婚式ではエドガー軍務卿が出席する為だった。これもちょっとした親子の再会になるし、ヴェルが連れ歩く婚約者の義父が会場にいるエドガー軍務卿なら、貴族達の露骨な売り込みも減るはずだった。ヴェルの結婚式は正室のエリーゼが主役なので、エリーゼの時間は式の準備に最大限振り分けるべきという事情もある。
エルも護衛として役に立ってくれている。今回の会場も、未婚の娘を連れた貴族や商人で溢れていた。そしてお見合い大会で失敗したエルは積極的に若い女性に声をかけに行くのだ。結婚相手を探す側としても、ヴェルの家臣筆頭とも言える最古参のエルの存在はとりあえず無視はできない。期せずしてヴェルにまとわりつこうと動く女性を防ぐ迎撃戦闘機のような役割をエルが果たしていた。
エルの働きぶりに満足しながら、ヴェルは食事に勤しむヴィルマを眺めた。
「ヴェル様、これ美味しい」
「ヴィルマは変わらずに可愛いなぁ……」
「いい気持ち……」
こういう時には、いつもと同じ行動を取るヴィルマが可愛く思えて、ヴェルは思わず頭を撫でてしまう。
そんな事情でヴェルの周囲が少し平和になったので、エドガー軍務卿とその寄子でもある三男のパウルと3人でしばし歓談する。ヴェルに話しかける隙を狙う貴族も、エドガー軍務卿との会話を邪魔をする度胸はないのだろう。束の間の平和な時間が訪れた。
明日はパウルの結婚式なので、寄親のエドガー軍務卿も出席する事になる。明日もヴィルマに同席してもらう方が良いかもしれない。ヴェルがそう考えていると、穏やかな会話が唐突に危険な方向に向かった。
「バウマイスター伯爵は、自分を殺そうとした兄の子供たちにも爵位と領地を渡す剛毅な男だからな。心配はしていないぞ」
ヴェルはエドガー軍務卿の物言いに引っかかりを覚える。アマーリエ義姉さんの事は知られていないはずなのに。考えこむヴェルの肩をヴィルマが叩いて、短くこう告げた。
「エリーゼ様は、黙認するって」
「な、なんのことかよくわからないなぁ」
アマーリエ義姉さんの事がエリーゼに既にバレている。ヴェルの背中を冷や汗が伝う。
『週に五日も通ってバレないはずがないだろう』
横から小声でそうパウルに指摘されながらも、ヴェルは内心の動揺を気取られぬよう、必死にとぼけてしらを切り何事もないような体で推し通そうとした。
ヴェルの後継者候補の発表というサプライズもあり、ヘルムートの結婚式は大盛況のうちに終わった。今日も二次会への参加は遠慮する事にする。エーリッヒやヘルムートと別れを済ませると、両親とパウル夫婦をパウルの領地に送り届けた。出迎えるアマーリエとヴェルはチラリと視線を交わす。パウルは明日結婚式を上げるので、領内は準備で大忙しらしい。ヴェルはヴィルマとエルを伴って帰宅する。
帰宅すると、ヴェルはアマーリエに会いに行きたくてソワソワしていた、今日はヴィルマとエルを連れ歩いていたので、ヴェルがこっそり抜け出すチャンスが無かったのだ。
「(アマーリエ義姉さんのところに行きたいなー。)」
なんだかんだで昨日もアマーリエとは話せていない。結婚式はまだ2日残っているが、この後はなんとか乗り越えられそうな手応えは感じていた。明日のパウルの結婚式からは王都では無くなるので、参列者もだいぶ減るだろう。
「ヴェル様、そういえばこの後はお義母様に会いに行くって言っていなかった?」
ヴェルがヴィルマにそう話しかけられたのは、まだ夕食には早い時間だった。マルレーネとの問題をどう解決するか悩んでいたヴェルは、心を覗かれたようでドキリとする。
「そ、そうなんだ。バウマイスター伯爵家の後継者候補からヘルマン兄さんの家だけ外したから、母上にマルレーネ義姉さんが騒がないように説得を頼もうと思っていたんだった。」
「確かにマルレーネさんは、そういうのにうるさそうだもんね。」
ルイーゼが感想を述べる。
「ヘルマンさんの結婚式は明後日ですね。明日はパウルさんの家は結婚式の当日から初夜まで続きますし、そこには隣の領地のマルレーネさんもいらっしゃるでしょうから、事前にお義母様に落ち着いてお願いをする時間となると、確かに今日中の方が良さそうですね。」
ルイーゼの言葉にカタリーナも同調する。確かにこの問題は面倒そうだな、と婚約者達の同情がヴェルに集まる。
ヴェルとエーリッヒの関係を見ると後継者候補としてエーリッヒがの家が優先されるのも分かるのだが、ヘルマンが二男なのも事実だ。明日明後日と親戚の会合が続く以上、マルレーネが騒がないように事前になんらかのフォローは必要だろう。
「魔道通信機でするような話でもないし、今からちょっと父上と母上と話をしてくるよ。ヘルマン兄さんとマルレーネ義姉さんは明日も明後日も顔を合わせる筈だからね。」
席を立つヴェルを戸口まで見送る素振りで、ヴィルマが後をついてくる。そしてヴェルだけに見えるようにパチっと可愛らしく片目をつむってウィンクをしてみせた。
ヴィルマはヴェルをアシストしてくれたのだろう。実際、マルレーネ対策を考えるとヴェルの母親と話をしていく方が良かったので、思い出させてくれて助かった。
「(ついでにアマーリエ義姉さんに会いに行っても大丈夫だよな。ヴィルマもエリーゼは黙認するって言っていたし。)」
今日はヴィルマがヴェルを凄く助けてくれている。ヴィルマを連れ歩いた事に対する、ヴィルマなりのお礼なのかもしれなかった。
「(結婚したら、ヴィルマの事もいっぱい可愛がらないといけないよな。)」
アマーリエとの関係も大事だが、なんだかんだでヴェルは婚約者達全員の事も大事に考えている。結婚が待ち遠しかった。
「分かりました、ヘルマンが初夜を迎える明日はマルレーネさんは私が預かりましょう。」
ヨハンナは訪ねてきたヴェルの頼みを快諾した。
「確かにヘルマンとマルレーネさんは仲が良すぎるもの、ヘルマンの初夜は何も邪魔をしないようにマルレーネさんを引き離しておいた方が良いわね。」
「では明日は式が終わったらマルレーネ義姉さんを母上のところに連れてきますね。」
パウルの家庭も2日目になれば少し落ち着く筈だというし、なんならパウルの正室とアマーリエを含めて4人で過ごすのが、初夜を過ごすヘルマンとパウルの家にとって1番問題がないだろうとヨハンナは語った。
「(やはり、母上はこういう時に頼りになるな。)」
マルレーネからの依頼もこれでクリアになるだろう。恐らくマルレーネが期待した形ではないだろうが、姑のヨハンナも承諾した話となると表だって文句は言えない筈だ。後は迎えに行く時に、ヴェルがヴィルマとエルを一緒に連れて行けば万全だと思う。
後継候補の件も、明日、アルトゥルとヨハンナからヘルマンとマルレーネに上手く話してくれる事になった。そもそも後継候補を指定する権利はヴェルにあるのだし、ヴェルに代わって1番上手くやれる可能性があるのはエーリッヒというのはヘルムートやパウルも分かっている事柄だ。だからヘルマンも大丈夫だろうという。父上と母上から事前によく諭されていれば、マルレーネが独自にヴェルと掛け合おうとするような事は心配しなくて良いとの話だった。
「まぁ、こういうのはヴェンデリンの結婚後に発表すると思わぬ横槍が入る事もある。結婚前に決めておいて正解だな。エーリッヒなら万が一のことがあってもうまくやるだろう。あくまで子供が生まれるまでの仮の話だが、だからこそ式の参列者に事前に知らせて内容を広めたのもよかった。」
アルトゥルも今回の方針には賛成のようだった。
「(実際はミリヤム義姉さんの事があったから急遽決めたんだけど。)」
「それじゃアマーリエさん。ヴェルをそこまで送って行ってくれないかしら。」
ヨハンナに促されて、アマーリエとヴェルは連れだって館を出る。2人が去るとヨハンナはアルトゥルに話しかけた。
「やはり、ヴェルとアマーリエさんは仲良しなのね。後ろ姿で分かるわ。」
「ああ、あの調子なら、いずれアマーリエもヴェルの子を授かる事になるかもしれないな。」
「アマーリエ義姉さん、このまま小屋まで一緒に」
「ええ、わかったわ。ヴェル君、大丈夫よ。」
小声で会話を交わすと2人で連れ立って小屋に向かう。今日はヴェルが用事があって訪問している事は召使達にも知られているし、小屋には誰も近寄らないように言われている。
アマーリエとの関係をヴェルの正室のエリーゼが黙認したとなると、領内で連れ立って歩く位はもう大丈夫だった。
アマーリエの手で、昨夜のミリヤムとの情事の痕跡は全て拭き清められていた。小屋に入って、ようやくヴェルは一息つく。
「アマーリエ義姉さん、あの、昨夜の小屋の様子見ちゃいましたよね。」
「大丈夫よ、ヴェル君。ミリヤムさんとの事は誰にも言っていないし、誰にも言わないわ。ミリヤムさんを唆したマルレーネさんだって、ミリヤムさんがヴェル君と最後までしたと思ってはいないはずよ。
ただ、私がヴェル君に無断でミリヤムさんやマルレーネさんに協力したのは申し訳ないと思っているのだけれど。」
「それは大丈夫です。突然で驚きましたけど、ミリヤム義姉さんを追い詰めてしまっていたみたいでしたし。でも後継者候補の書類を作ってエーリッヒ兄さんに渡したので、こういった問題はもう無くなると思います。」
「そうなの。解決して本当に良かったと思うわ。それに、あの、その、ミリヤムさんと上手くできたようで、私もちょっと誇らしかったのよ。『あてがい女』として、私がヴェル君をちゃんと手ほどき出来たからじゃないかって。」
真っ赤になりながらも、本心を吐露するアマーリエの様子はとても可愛らしかった。
「俺はミリヤム義姉さんの事はもう忘れますし、アマーリエ義姉さんも忘れてください。俺はアマーリエ義姉さんだから良いんです。アマーリエ義姉さんは俺の特別だって事、知っておいてください。俺は相手が誰でも良いって訳じゃありませんから。」
アマーリエはヴェルの真剣な眼差しを全身で受け止めた。
「うん、分かったわ、ヴェル君。私もヴェル君は特別よ。『あてがい女』でいる間はよろしくお願いします。」
2人は見つめ合い、服を脱がせ合う。アマーリエのドレスを自由に脱がせる事が出来るのはヴェルの喜びになっているし、ヴェルの服を脱がせるのもアマーリエは好きだった。
露出したアマーリエの乳房にヴェルがしゃぶりつく。
「もう、ミリヤムさんのおっぱいと比べられたら恥ずかしいわ。私の方はその、垂れてしまっていると思うし。」
「俺は片手から溢れるような、そんなアマーリエ義姉さんの大きいおっぱいが好きなんです。」
ヴェルがアマーリエの乳房を弄ぶ。
「ヴェル君、もうすっかり元気になっているわね」
アマーリエは聳り立つヴェルの男性器をそっと撫でる。
「ヴェル君のここが、昨日はミリヤムさんの膣内に忍び込んだでしょう。」
「アマーリエ義姉さんがこの小屋にいなかったのが悪いんですよ。」
アマーリエはしゃがみ込んで口でヴェルの男性器を奉仕する。口いっぱいに頬張る。ヴェルの手は今も、アマーリエの乳房を上から弄っている。
「アマーリエ義姉さんに口でされるのってホッとします。」
「そう、喜んでくれるなら念入りにするわね。」
ミリヤムの痕跡がヴェルの男性器のどこにも残らないように、丹念に舌で舐め尽くす。嫉妬心はないと思っていたが、こういう所でミリヤムの痕跡を覆い隠したい衝動にアマーリエは駆られる。
「アマーリエ義姉さん、もう我慢できないから」
「やん」
まだ愛撫したりないのに、アマーリエは強引にヴェルの男性器から引き離される。抱えられ、そっとベッドに寝かされる。アマーリエの女性器がが期待でヒクヒクする。ヴェルの指がそっと膣内に挿入され、アマーリエの具合を確認する。
「アマーリエ義姉さん。よく、濡れていますね。このまま挿入していいですか。」
「うん、私はヴェル君に早く入れて欲しいの。」
「分かりました。」
アマーリエがヴェルにおねだりすると、ヴェルが怒張した男性器の挿入でその願いに応じる。アマーリエの身体の中心がヴェルの硬い男性器に串刺しにされる。挿入と同時に、ヴェルはアマーリエの身体の中心の熱量と轟を感じていた。
身体の相性か気持ちの違いか、ミリヤムの体は冷たく心地良くはあったが、アマーリエの身体は熱く興奮させられる。違うに欲望を刺激し合い、興奮が高め合う良さがある。そしてアマーリエの膣は絹布のような滑らかさでヴェルの男性器に絡みつき、締め付ける。ヴェルにだけ示すこのアマーリエの反応の良さは、ミリヤムを乱暴に犯すよりもヴェルにはとても心地良く感じられる。
アマーリエにも待ちかねた挿入の瞬間だった。
「あん、とても気持ちいいわ、ヴェル君」
「俺もこの瞬間が待ち遠しかったですよ」
「私も、私もそうよ、ヴェル君。」
ヴェルに腰を突かれ吐息を漏らしながら、そっとアマーリエが胸中の心配を吐露する。
「あのね、ミリヤムさんの方が具合が良かったりしていないか心配なの。だってヴェル君、昨夜は2回も射精していたでしょう?」
私、緩くなったりしていないかしら、アマーリエのその言葉は言えないまま仕舞い込まれる。ヴェルの抽送が激しくなり、かき消されたのだ。
「今日はもう我慢できないから、このままいきますね。」
「うん、嬉しい。ヴェル君来て。いっぱい出して。」
アマーリエがヴェルの全てを受け入れ、我慢をやめて絶頂に達する。収縮するアマーリエの膣にヴェルの男性器は精子を絞り取られる。一滴も逃さず吸い尽くすような動きに、いつもながらヴェルは驚嘆する。
「ヴェル君、ちゃんと気持ちよかった?」
「俺はアマーリエ義姉さんの方が気持ちいいですよ。いつだってアマーリエ義姉さんに挿入したいなって思いながら生活してるんですから。」
「嬉しいわ。私はいつだってヴェル君のお相手をしてあげる。どんな時でも呼び出して欲しいの。」
「アマーリエ義姉さんが俺の事を愛してくれている事は、俺はちゃんとわかっていますから。」
「そう言われると恥ずかしいわ。」
実際、アマーリエの女性器はいつだって熱心にヴェルの男性器を迎えてくれる。その締め付けが適度で、ヴェルはいつだって絶頂に導かれるのだ。
ズルリ、とヴェルの男性器がアマーリエの膣から押し出されると、アマーリエはすかさずヴェルの男性器を含み口で奉仕し始める。ヴェルの男性器を清めるのは、アマーリエのあてがい女としての大切な仕事だ。エーリッヒに大事にされているミリヤムは、その辺も人任せだったなとヴェルはぼんやりと思い返す。しかしミリヤムに口で掃除するように命じていたら、ミリヤムに変な癖がついてエーリッヒにバレていただろうなとも思う。
アマーリエの口がヴェルに男性器を舐め上げ、最後に尿道口に残った精子を啜り上げるとキュポンと音を立ててアマーリエの口からヴェルの男性器が解き放たれた。ゴクリ、とアマーリエの喉が動き、ヴェルの精子を嚥下する。
事後、2人で裸で抱き合っていると、寝物語にヴェルが話し始めた。
「ヴィルマの話では、エリーゼもアマーリエ義姉さんとの事を黙認してくれるらしくって。」
「そう、だったのね。」
ヴェルに抱かれているアマーリエの胸の中にエリーゼへの感謝の念が湧く。なかなか出来ることでは無いだろう。
「パウル兄さんからは、ウチの領地に来すぎだからバレるんだって言われちゃいました。」
確かに当初の想定よりヴェルとアマーリエは頻繁に逢瀬を重ねていた。『ヴェル君もまだしたい盛りだから』と受け止めていたアマーリエも、ヴェルの本心から目を逸らせなくなってきている。
「俺はアマーリエ義姉さんの事は大事に思っています。」
「うん、分かっているわ。ヴェル君嬉しい。だからヴェル君が結婚したら、今度は奥さん達を大事にしてあげてね。今はヴェル君を私が独り占めしているから、結婚したらヴェル君は奥様達なものになるのだから愛をいっぱい注いで上げてほしい。」
ヴェルはそれに何も答えずに、ただ無言でアマーリエにキスをした。
「アマーリエ義姉さんが気持ち良い事を証明するために、今日はちゃんと2回しますから。」
「大丈夫よヴェル君、だって疲れているでしょう?」
「俺がしたいんです。」
ヴェルの手でアマーリエがベッドの上で膝立ちにさせられる。アマーリエは知らないが、正常位から後背位への流れは昨夜のミリヤムと同じ流れだった。そうする事で、ヴェルは2人の違いを楽しんでいた。
ヴェルに臀部を突き出す格好のアマーリエ、ヴェルの目の前には秘所が露わになっている。先ほどヴェルが1回済ませたばかりなので、秘所はまだアマーリエの愛液とヴェルの精子で湿っていた。
「もう、挿入して良いですよね」
「はい、恥ずかしいから早く挿入してください」
もう少しアマーリエを視姦したい気もしたが、モジモジと挿入をねだるアマーリエの仕草にヴェルは待てなかった。背後からアマーリエに襲いかかる。猛々しく背後からヴェルに犯されるアマーリエ。いつもと違った興奮に襲われる。
「(きっとミリヤムさんもこんな風にヴェル君にやられちゃったんだわ)」
きっと今もアマーリエはミリヤムと比べられているのだろう。そう考えると体に火がつく。アマーリエが絶頂に導かれるまで一瞬だった。
「いやいや、いっちゃう。」
ガクガクと震えるアマーリエ、手足に力が入らないが腰を支えるヴェルの手で姿勢を保っていた。
「それじゃ俺もいきますね。」
アマーリエの反応を楽しんでいたヴェルが動きを早め、直後にぶちかますように唐突に射精する。アマーリエは膣内に溢れるヴェルの子種の温かさに幸福を感じていた。
バウマイスター伯爵の後継候補についてエーリッヒの子供たちが指名される話は触れられています。パウルとヘルムートの子供の名前があるのに、ヘルマンの子供については原作では後継者候補として掲載されていません。結婚式の順番も書籍版だとエーリッヒが最初でヘルマンが最後となる為、それを元に今回の正室側室騒動の話の骨格が生まれました。
ちょっと強引な展開だった気もしますが、危惧していたよりはうまく着陸した展開に出来たと思います。