邪神ちゃんドロップキックより、花園ゆりねです。
楽しそうな企画だったので短編ながら参加させて頂きました(3回目)。
バレンタイン=純愛、何を書くよ?とかなり悩んだのは秘密。
結果、前から書きたかったゆりねになりました。
自分以外の素晴らしい作品を見たい方はバレンタイン小説合同2025より、どうぞ。
「というわけで俺からゆりねにチョコを送ろう。はいチョコ」
「……何がというわけで?」
相変わらず無駄に凝るときは凝るくせに、肝心な所で詳細を省く、黒髪の少年、アクラが差し出したのは、見た目にも高級そうなチョコの箱だった。
赤と黒のパッケージに金のリボンが巻かれ、箱の端には異国の文字が刻まれている。まるで王族が嗜むかのような洗練されたデザイン。それを、何の前触れもなく、当然のように渡してくるのがアクラらしい。
それを渡された少女、花園ゆりねは、箱とアクラの顔を交互に見比べ、訝しげに目を細める。
日付を考えれば意味が分からなくもないが、詳細が不明過ぎる。
「いやだってくれないでしょ? チョコ。ってか俺の予想だとゆりねはバレンタインなのも半分忘れてたでしょ?」
「うっ……」
あまりに的確な指摘に、ゆりねは息を詰まらせる。
アクラとゆりね、二人の関係は、恋人と呼べるものではない。
しかし、それでも幾度となく身体を重ねた経験のことを考えれば、彼にチョコを渡してもおかしくはない。
だが、現実として、彼がこうして言い出すまでバレンタインのことなど頭の片隅にもなかったのは事実だった。
(怪しい……)
アクラがどういう存在かをよく知る花園ゆりねにとって、このチョコはどうにも素直に受け取れない代物だった。
この男のことだ、ちょっと笑えないくらいの悪戯が仕込まれている可能性も十分にある。それこそ、一口食べた瞬間に何かが起こってもおかしくはない。
「手作りなんだよ?」
(淫魔の手作り……レアモノと言えばレアモノね)
聞いた瞬間、警戒心はさらに跳ね上がる。アクラがわざわざ手作りしたという事実は、どう考えても普通ではない。
だが、それと同時に、ゆりねの中のオカルト愛好家としての好奇心がくすぐられた。
淫魔が作った手作りチョコ。
そんな代物、人間界で手に入るはずもない。
どんな材料を使い、どんな手順で作ったのか、考えれば考えるほど、気になってしまう。
とはいえ、彼が手作りしたものを素直に口にするのはリスクが大きい。
それでも、この男はきっと、ゆりねが食べるまで帰るつもりはない。
邪神ちゃんにも絡まれて面倒なことになるくらいなら、ここでサクッと食べて終わらせたほうが楽かもしれない。
(何かあっても邪神ちゃんに見られるよりマシか……)
「〜♪」
思考をまとめたゆりねは、軽く鼻歌を歌うようなテンションで、ニヤニヤと笑うアクラの目の前で箱の蓋を開けた。
途端に、濃厚なカカオの香りが立ち上る。
甘く、そして、どこか妖しい香りだった。
***
「ン……ハァ……♡♡」
「はい、これで全部脱がしたよ。ハハッ、真っ赤なゆりねも可愛いね」
優雅な悪魔の声が、恍惚に染まる少女の耳を撫でる。
頬だけではなく、首筋、肩、胸、さらには指の先まで、ゆりねの全身は熱を帯び、ピンク色に染まっていた。
布団の上に無防備に転がされ、身を捩る彼女の肌は、微かな汗に濡れて艶やかに輝いている。
その理由は、言うまでもない。
あのチョコだ。
「古来よりチョコは単純な甘味として扱われてきたわけじゃない。その本質は媚薬。勿論、ただの媚薬じゃなくて、俺の特性の奴を普段の何倍も強くして入れといたよ」
(やっ……ぱり……♡♡)
ゆりねの灼熱に染まった思考回路が、アクラの言葉をゆっくりと解釈する。
――媚薬。
しかも、淫魔特製、それも通常の何倍もの濃度。
予想通りの展開すぎて、内心で盛大に溜息を吐きたくなる。
だが、今それを実行すれば、間違いなくアクラを喜ばせる甘い吐息になってしまう。
実際、息をするたびに喉の奥から蕩けるような熱がこみ上げ、唇を僅かに開くだけで、艶を帯びた吐息が漏れそうになるのだから。
「あ〜可愛い……サディストなゆりねも魅力的だけど……」
「ひ……うっ……♡」
つつ、と。
アクラの細い指先が、ゆりねの顎のラインを優雅に撫でる。
それだけで、電流のような快感の波が背筋を駆け上がる。
喉の奥でせき止めようとした声は耐えきれずに溢れ、甘く蕩けた吐息と共に室内に零れ落ちた。
「俺にだけはいやらしい女の本能を見せちゃうなんて、凄く良いよ」
「ぁ……♡ぅ……♡」
楽しげな声に、ゆりねは息を呑む。
目の前の悪魔は、恍惚と羞恥に揺れる彼女の表情を、余裕たっぷりに観察していた。
頬は桃色に染まり、瞳は潤み、呼吸は浅く乱れている。
普段のドSな姿はどこにもなく、そこにいるのは、まるで恋に溺れる少女のような、いや、それ以上に、甘く堕ちかけた顔をした女だった。
「それじゃあ可愛い可愛いゆりね、ちゃん。いただきま〜す」
「ひゃあんッ!♡♡」
言葉と同時に、熱を帯びた舌が耳に這い上がる。
じゅる♡と濡れた音とともに、灼熱の快感がゆりねの全身を駆け巡り始めた。
まるで神経の一本一本を直接撫でられているような感覚に、甘い悲鳴が室内に響く。
アクラの舌はそのまま、耳の裏、耳たぶの柔らかい部分まで丹念に舐め回す。
温かく、ぬめる感触が、ゆりねの敏感な部分を容赦なく刺激していく。
「ふぁっ♡あっ♡ああんッ♡♡やめっ♡」
逃げようとするが、身体がまるでいうことをきかない。
媚薬が全身に行き渡り、普段以上に神経が鋭敏になっているのがわかる。
ただでさえ元から耳が弱いゆりね。
今の状態では舌先が触れるだけで全身を襲うほどの快楽が押し寄せる。
「んふふ、媚薬のおかげで、いつもより敏感だね。ゆりねは耳が弱いから、こうやって舐められると堪らないだろ」
「ふぁぁあぁぁぁっ♡♡♡」
耳元で囁かれる甘い声。
鼓膜を直接撫でるような感触が、さらにゆりねの理性を揺さぶる。
ぞくり、と背筋を駆け抜ける熱。
その直後、耳の中を掬うように舌を差し入れられ、びくんっ♡と跳ねた。
「ひぅっ!?♡♡ み、耳だめぇ……ッ♡」
くちゅりと湿った音が脳に直接響き、頭の奥がじんわりとした快感に支配されていく。
舌先はそのまま耳の穴へ侵入し、内側のひだのひとつひとつをなぞるように動き回る。
その度に、ゆりねは身体を大きく震わせながら喘いだ。
「ひゃんっ♡♡ ふぁっ……♡♡」
ぞくり、と背筋を駆け上がる熱。
耳の中の敏感な部分を舐められるたび、ゆりねの身体は跳ねるように震える。
「ほん、とっに♡♡いつ、もより、びん、かんっ♡だか、らぁ♡♡」
ゆりねのうわずった声が、熱い吐息と共に漏れ出す。
媚薬の効果で昂ぶった身体は、まるで秘所を直接舐められているかのような錯覚に襲われ、僅かな刺激にも耐えられない。
その姿が、アクラの嗜虐心をさらに煽る。
余裕たっぷりに微笑んだ彼は、わざとねっとりと舌を這わせ、耳の内側をより深く、より激しく舐め回し始めた。
「だ、めぇ!♡♡ う、そっ♡これ、みみ、でぇぇ……♡♡」
ゾクゾク♡と駆け巡る快感。
アクラの舌が耳の奥深くまで入り込み、粘膜をじゅるりと舐め回すたびに、全身の神経が甘く痺れていく。
ぢゅるっ♡くちゅ♡と卑猥な水音が耳の奥で響くたび、脳髄まで蕩かされるような感覚が広がる。
その刺激は耳だけに収まらず、お腹の奥、子宮の芯にまで響き渡る。
「あ、ああッ!♡ だめぇ……♡♡イっちゃ……ぅぅ……♡♡」
甘く乱れた声が、熱い吐息とともに零れる。
まるで秘所を直接舐められているかのような錯覚。
逃げようとする身体を押さえつけるように、アクラの舌はさらに深く侵入し、耳のひだをじっくりと舐め回していく。
そして限界は訪れた。
「イックぅぅぅぅぅう!♡♡」
耳の穴を舐め回されるだけ、それだけで、ゆりねの視界が一瞬で真っ白に染まった。
全身を駆け巡る甘い快楽が脳天まで突き抜け、背筋をビクンッ!と弓なりに反らせる。
脳髄が蕩けるような絶頂の波が、一気に彼女を押し流していく。
痙攣する身体は、そのまま力が抜けたように布団へと崩れ落ちた。
「ハァ……♡ ハァ……♡」
乱れたゆりねの呼吸が、静かな部屋の中に甘く響く。
汗に濡れた肌が火照り、胸が上下するたびに蕩けた吐息が漏れた。
身体の奥はまだ余韻に痺れたままで、僅かに指先を動かしただけで、びくっと快感が走る。
「あはは、ゆりね、気付いてる? 今、滅茶苦茶エロい顔してるよ?」
「く……♡ ぅぅぅ……♡」
アクラの言葉に、ゆりねは反論できない。
事実、彼女は今、何もかもを蕩かされた顔を晒しているのだから。
布団の上に横たわり、荒い息を整えようとするも、熱はまだ引かない。
媚薬の効果は絶大で、全身が敏感になりすぎていた。
少しでも動くたびに、甘い電流が肌を駆け巡る。
「うん……そうしよう」
「……っ」
そんなゆりねを見つめながら、アクラは愉悦に満ちた笑みを浮かべた。
その笑みの意味を理解した瞬間、ゆりねの身体はビクッ♡と敏感に跳ねる。
「俺もチョコをあげたし、ゆりねからもチョコを貰うね……全身全部……食べてあげる」
「食べる……♡ まさ、かぁ……♡♡」
蕩けた視界の中で、淫魔の舌がゆっくりと覗く。
唇の端に妖艶な笑みを滲ませながら、それをたっぷりと味わうかのようにぺろりと舌を湿らせた。
甘く、淫靡な予感に、ゆりねの心臓が跳ねる。
どこを、どうやって、舐め尽くされるのか。
想像した瞬間、熱が下腹へと直撃し、身体が甘く震えた。
「さぁ……ゆっくり、じっくり、味わわせてもらうよ?」
そして、ぺろり、と伸びる淫魔の舌が、ゆりねの柔肌へと降りていった。
***
「ふおぉおぉぉッッ……♡♡い゛っっ……♡ お゛ぉっ……♡」
途切れ途切れの喘ぎ声が、布団の上に蕩けた空気を生み出す。
ゆりねの口から漏れるのは、もはや言葉にならない甘い呻きだけだった。
それも、無理のないこと。
アクラは、この時間ずっと、彼女の全身を舌で貪り続けていたのだから。
控えめながらも形の良い乳房を何度も舌で転がし、唇で吸い、甘噛みし、すでに何十回も快楽の波に沈められた。
ぷっくりと膨らんだ桜色の蕾は、すっかり唾液に塗れ、テカテカと光るほどに濡れそぼっている。
首筋や鎖骨、肩先に至るまで舌が這い、腋の下の繊細な肌をじっくりと舐め上げられた刺激は、未だに微かに残っているようだった。
太腿の内側から膝裏、ふくらはぎ、足先に至るまで余すことなく味わい尽くされ、敏感な肌は汗と唾液に濡れ、熱く火照っている。
全身が触れられた余韻に震えているのに、もう舐められていないことにすら戸惑いを感じる。
唇が何かを求めるようにわずかに開き、荒く乱れた息が漏れる。
ゆりねは、今まさに味わい尽くされたばかりだった。
「ハァ……まだまだ足りないけど、これ以上やったらゆりねが壊れちゃうね。あはっ、お漏らししたみたいにびしょびしょだよ」
「ほあぁああ……♡♡♡」
そう言って笑うアクラの視線は、彼の言葉通り、ゆりねの下腹部に注がれていた。
そこは、果てしなく続いた愛撫の余韻を物語るかのように、蜜でぐっしょりと濡れそぼっている。
シーツには濃い染みが滲み、ぬるりとした感触が肌にまとわりつく。
だが、ゆりねには、もうそれを恥ずかしがる余裕すらなかった。
荒く乱れた息が止まらない。
微かに動くだけで、身体の奥に残る熱が甘く疼き、指先すら思うように動かせない。
頭の中がふわふわとして、何も考えられない。
ただ、全身が蕩けきっているのだ。
「……ッ」
そんなゆりねの姿にアクラは何処までも興奮を募らせて、ごくりと唾を飲み込んだ。
彼女の肢体からは、噎せ返るほどの雌の香りを放っている。
白い肌は汗に濡れ、艶やかな光沢を放ち、肉感的な太ももの間からはとろとろとした愛液が溢れ出している。
その姿はあまりにも淫猥で、背徳的であり、同時に美しかった。
普段はクールな少女が、ここまで乱れる姿など誰が想像できるだろうか。
「はぁ……エロすぎるよ、ゆりね。本当に最高。壊れちゃったら……きちんと面倒は見るから……」
蕩けた空気の中、アクラは独り言のように呟いた。
その声音は甘く、蕩けるほどに優しいが、どこか底知れぬ愉悦が滲んでいた。
彼の背中から、ゆっくりと蠢く何かが生まれる。
ぐにゃり、とした動きとともに、それは徐々に形を成していく。
それは、巨大な尻尾のようなもの。
だが、それはただの尻尾ではなかった。
通常のものとは違い、先端が異様な形をしている。
まるでお椀のように広がり、内部にはヌラリとした粘液が揺らめいていた。
捕食器。
そう呼ぶのが相応しい異形。
肉厚な質感を持ち、内側の粘膜が獲物を迎え入れるかのように蠢いている。
柔らかく、ぬめり、蠢く器官。
まるで、何かを取り込むためだけに存在するような、不気味な造形だった。
「いただきます……」
アクラが楽しげに手を合わせ、再度食事の挨拶をする。
それは、どこまでも優雅で、どこまでも不遜な儀式。
そして、捕食が始まった。
「ふおっ♡ほああぁあああ!!??♡♡♡♡」
突然の出来事に、ゆりねは悲鳴じみた嬌声を上げる。
ねっとりとした音を立てながら、捕食器がゆりねの頭部に覆いかぶさる。
ぬめる粘膜が肌に絡みつき、ゆっくりと彼女の身体を呑み込んでいく。
「ほお゛ぉおおおおぉおおおおッッッ!!??!?!?♡♡♡♡」
ずるるるるっ♡という音と共に、捕食器の内部へと引き摺り込まれる感覚。
生暖かく、柔らかなものが身体中を包み込む感覚に、ゆりねはぼんやりとしていた目を見開いて絶叫した。
それは、今まで感じたことのない未知の快感。
まるで無数の触手に包まれているかのような感触に、ゆりねは背中を仰け反らせて悶えた。
粘液に包まれた内部は滑りを帯びていて、ゆりねの素肌の上をぬるぬると滑っていく。
ざらついた表面がゆりねの身体を撫で回し、その刺激だけでも異様な快楽を生み出す。
「お゛ぉっ♡♡なにごれぇえぇえ!?♡♡♡ イグゥうう!♡♡♡」
捕食器の内部はまるでゆりねの専用とばかりにぴったりとフィットしており、あらゆる隙間を埋め尽くすようにぐにょぐにょと蠢き、締め付けてくる。
呑み込まれた全てを同時に揉み解されているような感覚に、ゆりねは獣じみた叫び声を上げ絶頂する。
「美味しいよ、ゆりね。もっともっと食べてあげるね」
「むおぉおおおおおお!?♡♡♡♡」
捕食者の歓喜に満ちた声が響く。
その言葉とともに、更なる激しさで捕食が進行する。
粘液に包まれた捕食器が、上半身だけでなく、ゆりねのしなやかな脚まで覆い尽くしていく。
ぬめる粘膜が肌に絡みつき、吸い付くような感触が全身を愛撫するように這い回る。
バタバタと暴れる足。
それが、ゆりねがまだ生きていることを示していたが、それすらも次第に絡みつく捕食器の収縮に飲み込まれていく。
そして不意に指先がピンッ♡と伸びると、最後の抵抗のようにピクピクと震えながら、ついにズルズルと、全身まるごと捕食器の奥へと呑み込まれていった。
「ごちそうさまでした……♪」
アクラが満足げに呟くと同時に、捕食器の口がぴったりと閉じられた。
まるで、獲物を絶対に逃がさないと言わんばかりに、完全に密封された粘膜の内部へと、ゆりねの存在が封じ込められる。
捕食器の内壁が収縮し、ゆっくりとゆりねの身体を包み込むように蠢き始めた。
僅かに浮かび上がる彼女の肉体の形を残したまま、捕食器はじわじわと嚥下を開始する。
内側から漏れ出す音が、粘膜の吸い付く感触を物語る。
ぴくぴくと微かに動く捕食器の表面は、ゆりねがまだその中で蠢いていることを示していた。
「あははっ、ゆりね、イキまくってるのが分かるよ。食べられるの、気持ち良いんだね?」
「〜〜ッッッ!!?♡♡♡」
アクラの声が届いているはずもない。
それでも、捕食器の内側から響く甘い絶叫が、外にまで漏れ出ていた。
捕食器の中で、ゆりねの身体が何度も跳ね、震え、甘く痙攣しているのが分かる。
ぬめる粘膜がぴったりと肌に張り付き、蠢くたびに蜜のような音が響く。
動きは緩慢ながらも、確実にゆりねの理性を削り取り、追い詰めていった。
捕食器の蠕動に合わせ、彼女の身体が快楽に悶えながら震え続ける。
限界は、もはや明白だった。
そして、唐突に、動きが止まる。
どこまでも淫らに響いていた甘い喘ぎも、震え続けていた粘膜の波も、すべてが静まり返る。
再び訪れる、沈黙。
その静寂こそが、ゆりねが、完全に食べられ終えた証だった。
***
「……今回ばかりは、本気で死ぬかとおもったわよ」
「ごめんごめん、でもすっごく美味しかったよ」
先ほどまでの淫らな熱が嘘のように、浴室には湯気の立ち込める穏やかな空気が流れていた。
色々な意味でドロドロになっていたゆりねとアクラは、今は湯船の中でゆったりと肩を並べている。
このアパートの風呂は決して広くはない。
だが、小柄気味の二人ならば、狭いながらも十分に収まる距離感だった。
温かい湯に浸かりながら、ゆりねはふぅ、と息をつく。
「……そんなに私が用意してなかったの嫌だったの?」
「…………」
湯船の中、アクラは何も答えずに黙り込んだ。
湯気が立ち込める空間の中で、彼の視線はどこか落ち着かない。
無言のまま、湯面をぼんやりと見つめる様子に、ゆりねは呆れたように溜息を吐いた。
「……別に私に貰わなくたって、いくらでもくれる人はいるでしょう?」
ゆりねの言葉は、どこか投げやりな響きを持っていた。
彼を想う者は多い。
吸血鬼の従者を筆頭に、彼を慕う人物(人間はゆりねしかいないが)は数え切れないほどいる。
だからこそ、わざわざ自分が用意する必要はない、そう考えていた。
だが、今のアクラの沈黙は、その考えが、どこかズレていたのだと、じわじわと自覚させてくる。
「一応……全く準備してなかったわけじゃないんだけど」
「本当!?」
ぱっと顔を上げるアクラ。
その反応の速さに、ゆりねの肩がビクッと震えた。
思わず目を瞬かせる。
先ほどまでの沈黙が嘘のような、食いつくような勢い。
それに驚きつつも、ゆりねはすぐに気を取り直し、いつもの調子で問い返す。
「邪神ちゃんと一緒にチョコケーキを用意はしてるのよ……ただ、それも忘れてたけど」
アクラの期待があまりにも露骨だったせいか、ゆりねの声は徐々に尻すぼみになり、頬をわずかに染めながら、視線をそらす。
とはいえ、一応冷蔵庫にはちゃんとある。
大学から帰ってきたら、つい忘れてしまっていただけで。
「そ、それでいいなら……食べる?」
「食べる食べる! さ、ゆりねも早く出て出て!」
「きゃあ!?」
勢いよく湯舟から立ち上がるアクラ。
湯気を揺らしながら、足早に脱衣所へ向かうと、迷いなくゆりねの腕を掴んだ。
「ちょ、急ぎ過ぎ……もう!」
抵抗する間もなく、半ば強引に引き上げられる。
水滴が肌を滑る間も惜しむように、浴室から脱衣所へと引っ張り出された。
文句を言いながらも、ゆりねの顔はまんざらでもなかった。
(全く……私をこんな風に出来るのは、貴方だけよ、アクラ)
恋は盲目。
そんな言葉があるように、彼が与えてくれるもの全てが、どうしようもなく愛おしい。
それを考えると、なんだか悔しいやら、嬉しいやら。
複雑な気持ちが、胸の奥をくすぐる。
けれど、それでもいいと思えた。
結局、惚れたものの負けなのだから。
余談だが、邪神ちゃんがチョコケーキ周りに無駄な仕掛けを施していたせいで、キレたゆりねに血祭りにあげられるのは、もはや恒例行事であった。