私に種を蒔いて。 性暴力で孕まなくなったJKと慰めえっちする話 作:黒宮魚
もうすぐ正午になろうかという時分。本格的な夏の一歩手前ほどの日差しが降りそそぐ七月のこと。
三階建ての校舎の屋上で、そのギラギラとした日差しを浴びている姿があった。その学び舎の生徒である、高校二年生の彼──内田優一は、寝転がったまま一つあくびをした。
屋上から見下ろせる校庭では、白い運動着姿の生徒たちがサッカーに熱中している。彼らと同じクラスである優一も、本来であればその授業に混ざって球を追いかけているはずなのだが、呑気に屋上でスマホをいじっている。つまるところサボりだ。
そのスマホの画面には一本の映画が映し出されている。校庭の生徒たちの元気な声の代わりに、彼の耳にはイヤホンから聞こえる映画の音声が届いているのみだ。
『これで本当にお別れなのか?』
『ええ、奴らがすぐ私を追いかけてくるわ。あなたまで巻き込めない』
その映画もいよいよクライマックスというところまで来ていた。画面には夜明けをバックに見つめあう男女が映し出されている。
『君のことは決して忘れない。離れ離れになっても』
『私もよ。愛しているわ』
きつく抱き合う二人。そして抱擁を解いた後、女はバイクにまたがって朝日へと去っていった。
その余韻を残すようにエンドロールが流れる。優一はそれをどこか冷めた目で見ていた。
彼はサボりの常習犯で、よくこの場所で映画を観ている。そのかいもあり、それなりに作品を見る目が養われている、と本人は思っている。
今観ていた映画はサスペンスモノなのだが、途中からラブロマンス要素が入ってきて陳腐な印象になってしまったな、と優一は思った。ただまあ、全体的に見ると及第点は超えたかな、といつもの総括を頭の中で出して、彼は寝ていた体を起こした。
「うー……ん」
固まった体をほぐすように一つ伸びをする。快晴の放射を全身に浴びる。
心地よいと思うと同時に、さすがにそろそろ屋上は暑すぎるかなと優一は苦笑いを浮かべた。
あと半刻ほどすれば三限目も終わる。四限目は出ないとまずいので、そろそろ準備でもするかと優一は右耳のイヤホンを外した。
「ねえ、今じゃないとダメなの? もうすぐ──」
「あ? なんだお前、俺に口答えすんのかよ」
ちょうど、優一の真下から話し声とともにガチャンとドアが開く音がした。
優一がいるのは確かに屋上なのだが、正確にはそこにぽつんとたたずむ建屋の上。階段室の屋上が彼のホームポジションだった。
つまり今の音は、階段から誰かが屋上に上がってきた音だった。優一が言えたことではないが、今は授業中であり、屋上は生徒の立ち入りが禁止されている。
興味を持った優一は、誰なのか確認をすることにした。
「ほら、早くしろよ。授業抜けてきたのバレたら面倒だからよ」
「わかった、わかったからそんなピリピリしないでよ」
男と女の声。カップルとかだろうかと思案しつつ、優一はこっそりと下を覗き込んでみた。
「ん……ぐ、ん……」
そこで目にした光景に、優一は思わず息を吞んだ。
ちょうど優一が覗き込んだすぐ真下の壁に寄りかかっている短髪の男子生徒。彼は制服のベルトを外し、自らの男性器を露出させていた。
それだけでも優一にとっては驚きだったが、より目が行ったのはその目の前に座っている女子生徒だ。彼女は目の前に出されたソレを、自らの口で咥えこんでいた。
「……っ」
声を出しそうになるところを、慌てて口をふさぐ。
眼前で行われているのは、フェラチオと呼ばれる行為。女性経験が全くない優一でも、さすがに知識は持っている。
ちょうど先ほど観ていた映画のラブシーンでも、そういう描写はあった。しかし、本物を見るのは初めてだった。
「んっ……ぶ、っく、ん……っ」
女生徒がゆっくりと顔を前後に動かし始める。肩まで伸びたストレートの黒髪がはらりと揺れる。
鮮やかな色の唇が陰茎をこすり、肉棒が出入りを繰り返す様はひどくいやらしい。優一がそれに釘付けになるのは至極当然だった。
「おい、なに子供の遊びみてぇにしゃぶってんだよ。もっと口窄めて下品にやってみせろ」
優一からすれば十分気持ちよさそうだったが、男子生徒のほうは不満げにそう口にした。
女子生徒はその言葉に、一度動きを止めた。どこか諦めたような色をしていた瞳が、男の顔に向けられる。
その瞬間、驚いたように彼女の目が見開かれた。それは優一も同様だ。
完全に目が合ってしまった。そりゃあ上を向けば、屋上から覗き込んでいる優一のことが視界に入るのは当然なのだ。だが、目の前の淫行に夢中になっていた優一はまともに頭が回っていなかった。
「あん? なんだよ」
男子生徒だけ何もわかっていないようで、不思議そうに首をかしげる。が、さすがに上に何かあるのかと思ったようで、彼が顔を上げようとする。
視線がこちらに向くぎりぎりで、優一は顔をひっこめた。あっぶな、と心臓をバクバクさせながら、小さく息を吐いた。
あぶない、というか女子生徒のほうには完全にバレたが、彼女は特にそのことを口にはしなかったようだった。ひとまず安心すると、外してなかったほうのイヤホンからエンドロールが流れっぱなしだったことに今更ながら気がついた。
イヤホンを外しながら、一つ気が付いた。あの女子生徒のことは知っている。高校一年生の時に同じクラスだった三枝だ。
あの黒髪ストレートに、モデルのように整った美人な顔立ち。人当たりのいい性格と笑った時の小動物のような可愛さに加え、人目を引く巨乳まで持っていて、学年で見ても男子生徒からとても人気があった。
当然のように、優一も彼女に憧れていた男子生徒の一人だ。だが、告白まではしなかった。というより、彼女は誰に告白されても断っていたという話があったために諦めていたのだ。
実際、元から清楚なイメージだったので、恋愛はしない主義だとか、レズなのでは、とか噂されていた。それがまさか、授業中に抜け出して男のものをしゃぶっているなど優一は思ってもみなかった。
「んっ、んぶっ、ん、ぐ……っ、ん、ぅ……」
優一の下からはじゅぽじゅぽといやらしい音が聞こえてくる。優一の聴覚は自然とそれに意識が行ってしまう。
憧れていた女子が自分以外とそういう行為に及んでいるのはそれなりにショックなものだ。しかし、可憐な女性の色事に興味をそそられるというのは、男子高校生としておかしなことではない。
結局優一は、三限終了ギリギリまで続いたその行為を最後まで聞き続けた。おまけに興奮して反応してしまったものを鎮めるために時間を食ってしまい、四限に遅刻してしまったのだった。
六限の終業を告げるチャイムが鳴る。日直が号令をかけ、今日もまた一日の授業が終わった。
クラスは俄にざわつきだし、友人とカラオケに行く話をしている生徒や、部活が怠いと愚痴をこぼす生徒であふれる。そんな中、窓際の席の優一はさっさと教科書や筆記用具をまとめて帰り支度をしていた。
クラス内ではサボり魔で通っている彼はろくな友人の一人もいない。授業が終わればひっそりと教室から消えているのが常だ。
今日もいつも通り帰ろうと足を出口に向けたが、その足が止まった。ぶぶぶ、とポケットに入れていたスマホが振動したのだ。
「ん」
取り出してロックを外すと、メッセージが一件届いていた。
優一は首を傾げた。友達もおらず、家族とも距離を置いている自分に送ってくる人間がいるなんて、と。
差出人は「みさき」と書いてあった。その名前にピンと来ないまま内容に目を通す。
『三枝です』
『突然ごめんなさい』
『内田優一くんで合ってますか?』
どくん、と心臓がなるのを感じた。三枝。三枝美咲。それが彼女のフルネームだった。
その名前に一瞬で記憶が思い起こされる。それは当然ながらつい数時間前に見た屋上でのことだ。
きょろきょろとあたりを見まわしてから、優一は足早に教室を出てトイレに駆け込んだ。個室に入ってがちゃりと鍵をかける。
心臓はまだばくばくと言っている。女子とまともに関わりがない上に、三枝美咲からメッセージが送られてきたのだから、彼にとっては当然といえる。
優一は妙な高揚感に包まれたままスマホに指を滑らせる。
『そうですけど』
『どうかしましたか』
送った後で、なに敬語なんか使ってんだと自分に呆れた。敬語などほとんど使わない上に、相手は元クラスメイトだ。
などと優一が考えているうちに既読が付き、すぐに返信が送られてくる。
『よかった』
『急で申し訳ないんだけど資料室に来てもらうことってできる?』
資料室。教師が使う資料やらがおいてある部屋、らしい。
らしいというのは、優一自身入ったことがないからだ。基本的に鍵がかかっていて生徒が入ろうと思っても入れない。
なぜそんなところに自分を呼び出すのか、色々と頭に疑問符が浮かぶ。
『大丈夫です』
だが断る理由もないから、優一はそう返信をした。
わからないことだらけだが、間違いなく今日の屋上の件だろうというのは予想がつく。しかしながら、女子に呼び出されるという事実に変な期待をしながらトイレの鍵を開けて資料室へ向かった。
そんな彼が、「ありがとう」と美咲から返信が来ていることに気づくのはずっと後のことだった。
夏とはいえ、夕方ともなればそれなりに日も傾く。淡いオレンジ色に染まり始めた廊下を優一は歩いていた。
気づけばもう目的地の目の前。資料室は校舎の隅に位置しているせいか、人影はほとんどない。
念のためとあたりを確認してから、優一はドアをノックした。
「あの、内田だけど」
声をかけると、すりガラス越しに影が動くのが見えた。
「あ、内田くん? ごめん、今ちょっと手がふさがってるから入ってきてもらえる?」
どことなく忙しそうな返答が返ってくる。糸のように細いながらもよく通る声。そういえば三枝美咲はこんな声だったな、となつかしく感じた。
それにしてもこんなところで何をしているんだろうかと疑問に思いながらも、優一はガラガラと扉を開けた。
普段授業を受けている教室の半分ほどの大きさの部屋。ぎっちりと本や書類がつめられた本棚と、パイプ椅子や机が一つ二つ並んでいる。その机の上にも、教師が使うであろう地球儀やら、本棚に戻されていない本が積みあがっていた。
その部屋の中、手に持った資料類を背伸びをしながら上の方の棚にしまっている三枝美咲の姿があった。もともとの美しい体のラインが背伸びで強調されて、水流のように緩やかな曲線を描いている。
優一は久々にまともに見た彼女の姿に思わず目を奪われてしまった。
「ごめんね、今ちょうど先生に整理頼まれてて」
入ってきてしばし無言だった彼に美咲は顔を向けた。
「あっ、そう、なのか」
久方ぶりに女子と話したことと、彼女に見惚れていたせいで、たどたどしい返答をする優一。それを誤魔化すように、咳ばらいをしながら後ろ手で扉を閉めた。
「整理って……大変だな、こんなたくさん本とか置いてあるのに」
「そうでもないよ? 私、こういうの得意だから」
よいしょ、と持っていた最後の一冊を本棚に収めて、美咲は優一に笑いかけた。
「あ、久しぶりだね。内田くん。一年生の頃以来だね」
「っああ、そうだな。ほんと、久しぶりだ」
美咲の眩しい笑顔にやられてオウム返しをしてしまう。
というか、自分のことを覚えていたことに優一は驚いた。同じクラスだったとはいえ、ほとんど話したことはなかった。
「内田くんと私、図書委員だったよね?」
「え、図書委員? あれ、そうだっけ」
ピンと来ず、優一は首を傾げた。すると美咲は意地悪そうな笑みを浮かべながら続けた。
「そうだよー? 君はいつもサボってばっかりだったから実質私だけみたいな感じだったけど」
ジトっとした目線が痛かった。
なんとなく「楽そうだから」という理由で立候補したことを思い出す。美咲の言う通り、優一はまともに委員としての活動をした覚えがなかった。
「あ、あー……確かにそうだった。その、すいませんでした」
「別にいいけどね。私、図書委員の仕事は好きだったから」
もう一年生のころの話だし、と美咲はくすりと笑った。
「お詫びに手伝うよ。一人じゃここの整理大変だろ?」
優一はそう口にすると、机に置きっぱなしの本を数冊手に取った。
「別にいいのに」
「いいから。それに、三枝が仕事終わるまで黙って見てるのは申し訳ないって」
「そう? まぁそれもそっか。じゃあお言葉に甘えようかな」
よろしくね、と美咲が了承して話が決まる。二人はそれぞれ作業に取り掛かり始めた。
正直、優一はこういった面倒な作業は苦手なタイプだ。だが、かつて想いを寄せていた女子の前で格好つけたいという気持ちのほうが勝った。
たくさん本が置いてあるといっても、部屋自体それほど大きくはない。二人で作業をすれば大した手間ではなかった。
だが、優一はこの部屋に入るのが初めてのこともあり、どこに何を仕舞えばいいか勝手がわからない。逐一美咲に「これはこっちか」、「これはどこに置けばいいか」と尋ねながらだった。
「三枝、この歴史書はこの一番上の段であってるよな?」
「うん、そうそう。それで最後かな」
「りょーかい。よ……っと」
背伸びをして分厚い本を棚にしまう。
「内田くんは背が高いから助かったよ。私じゃそこは椅子使わないと届かないもの」
「あ、そ、そうか。役に立てたみたいで良かった」
首をかきながら優一はそう返した。こんな些細なことでも、女子に頼られるというのは嬉しいものがあった。
「これで終わり、なんだよな?」
「うん、お疲れ様」
ふぅ、と息を吐きながら、美咲はパイプ椅子に腰かけた。優一もそれにならって彼女の斜め前に椅子を持ってきて座った。目の前や隣に座る度胸はなかった。
「ごめんね、面倒な仕事手伝わせちゃってさ」
「俺は別に全然。俺のほうこそ三枝に色々聞きまくって迷惑かけちまった。三枝、ここの部屋のことよく知ってるんだな」
「あはは、うん。なんかよくこの仕事頼まれるようになっちゃってるんだよね」
「そうなのか、そりゃ大変だな」
平気平気、と美咲が苦笑する。
一年生の頃から三枝は人が良かったから、教師がそれに甘えているんだろうな、と優一は思った。今日久しぶりに話してみて再認識したが、彼女は毒気というものがほとんど無い。愚痴や不満は口にしないし、笑顔も多い。
彼女が男子から人気を集めるのも当然の話といえる。事実、優一も一度諦めたはずの気持ちが再燃し始めていた。
だからこそ不思議で仕方なかった。屋上で彼女があんなことをしていたのが。
「あー、そのさ、三枝」
「うん?」
ちょうどよく会話も途切れ、いいタイミングだと思った。
「えっと、なんで突然俺のこと呼び出したのかなーって」
ははは、と誤魔化し笑いをしながらそれとなく切り出す。
だが、その瞬間美咲の表情が固まった。本当に一瞬のことだったが、浮かべていた微笑が張り付いたように硬直した。
しかしそれを隠すように顔を伏せて美咲は答えた。
「そうだよ、ね。うん、ほんとごめん。急に呼び出したりしてさ」
「別に俺はいいけど……特に予定もなかったし」
そっか、と美咲はぽつりと呟く。
それから彼女は伏せた目を右に左に、逡巡するように動かした。しかしやがて「えっとね」と前置きをして口を開いた。
「内田くんさ、見てた、よね」
気まずそうに優一から目を逸らしながら、美咲は呟くように言った。
やっぱりか、と優一は思った。実は屋上の件は全然違う女子で、美咲が自分を呼び出したのはもっとロマンチックな用件かとほんの少しだけ期待をしていたが、それは粉々に砕かれた。
「ああ、えっと、うん、見てた。……その、悪い。屋上でサボってたら誰か来たなって覗いたら、その、見ちゃったっていうか」
「謝らないで。責めてるわけじゃないから」
ひどくすまなそうな顔を美咲は向けてくる。
覗き見した自分の方が悪いのに、と優一はいたたまれない気持ちを抱いた。
「えっと……彼氏、だよな。いやぁ、いたの知らなかったよ。まあ三枝ぐらいだったらいるよな、そりゃ」
優一は、はははと自分でも呆れるほど演技臭い愛想笑いをしながら口にした。
彼自身、少なからず動揺はあった。憧れていた女子に彼氏がいたこと、先ほどまで談笑していた三枝美咲が爛れた行為に及んでいたのが事実だったことに。
「あのね、彼氏じゃないの、あれ……」
「え?」
しかし美咲は優一の予想と反対の言葉を口にした。じゃあ誰なんだ、と当然のように聞き返すと、再び言いにくそうに目を逸らした。
ならばセフレか、それとも誰とでもああいうことをするような女だったのか、と様々な思惑が優一の頭をよぎる。だが美咲の答えはそのどれとも違った。
「その、お兄ちゃんなんだ。私の」
「お、お兄ちゃんって……えっと、実の?」
聞き返した優一に、美咲は「そう」と小さく首を振った。
優一はそれ以上言葉を返せなかった。実の兄というワードに頭の理解が追いつかない。
お互い押し黙ったまま、時計の秒針が半周しようかという頃。気まずい空気に耐えきれなかったのか、美咲が口を開いた。
「あはは……ヘン、だよね」
それは、女心というものが全くわからない優一でもわかるほどの作り笑いだった。
「ヘン、かどうかは俺はわかんないけど……まぁとりあえず、学校でああいうのはその、やめたほうがいいんじゃないか」
気の利いた言葉も思い浮かばず、優一はそう口にするのが精一杯だった。
「そう、だよね。私もやめたほうがいいって思うんだけどさ──」
「え……」
美咲は苦い顔を見せる。その言葉と表情は、意味深なものを思わせた。
兄と妹。いつもの彼女の顔と屋上の件のギャップ。そして今の反応。
優一は美咲と兄の関係になにか不穏なものを感じ取った。しかしその思考が具体的な形に至る前に美咲の言葉が遮る。
「内田くん、一つお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「うん。……そのさ、誰にも言わないで欲しいの。今日君が見たこと」
その言葉には必死さを感じさせるものがあった。
思わず優一は美咲の顔を見た。気まずさで逸らしていた視線がやっとぶつかる。美咲は優一の顔をまっすぐ見て、訴えかけるような目を向けていた。
優一が今まで憧れの目で彼女を見ていて、ただの一度も見たことのない顔だった。それだけ、彼女の本気さが伝わってくるようだった。
言わない、と優一が口にしようとしたが、美咲の次の言葉が早かった。
「ちゃんと、口止め料も払うから」
「え、そんな、いらねえって。お金なんかもらわなくたって別に──」
「お金じゃ、ないよ」
優一の反論に、美咲が呟く。
それなら何だ、と優一が聞き返すと、美咲はすぐには答えず、おもむろに椅子から立ち上がった。そして優一に背を向けると、彼女は部屋の入口まで歩いて行った。
「三枝、何して……」
優一がそう口にすると同時。がちゃ、と金属音が小さく部屋に響く。美咲は部屋の鍵を閉めたのだ。
鍵に手を添えたまま、彼女が振り向く。もう片方の手はどこか不安そうに胸のあたりで握られていた。そして優一に目をやると、ゆっくりと口を開いた。
「私の体。──君のこと気持ちよくしてあげるのが、口止め料の代わり」
どく、と優一の心臓が跳ねた。
体で払う、ということが指す意味。それがわからないほど優一は子供では無い。
「体で、って……三枝、それは──」
「お金、あんまり持ってないし……その、イヤかな」
美咲はドアの前に立ったまま、不安そうにそう問いかける。
どっどっ、と優一の鼓動が速くなる。彼にとって思いもよらぬ提案に、頭がうまく回らない。しかし、それが魅力的なものであることに違いはなかった。
「イヤじゃ、ないけど……」
優一の口から自然に言葉が漏れる。女性経験などない彼が、美咲の申し出を断れるはずがなかった。
優一の意識は否応なしに彼女の体に向けられる。半袖のブラウスに包まれた胸の膨らみは、手にし頃の果実のよう。汗ばんだ白い素肌はむしゃぶりつきたいほどだった。
それを彼女自身が差し出すと言っているのだから、理性を保つ方が難しいだろう。
「良かった。ありがとう」
優一の返答に、美咲の表情が和らぐ。
それは、誘惑を受け入れてもらったことの安堵というよりは、親や教師からの叱責を免れたことへの安心といったほうがイメージが近かった。
しかし、優一はそんな機微に気づけるほど冷静ではない。美咲が自分の隣に椅子を持ってきて座るのを呆然と見ていた。
「私、今生理だから手でするね」
「えっ、あ、ああ」
その言葉で現実に引き戻され、言葉にならない返事を返す。
しかし美咲は優一の反応を意に介さず、彼のベルトに手をかけた。彼女の顔は、事務的な行為をするような無機質な表情だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ三枝。その、これくらいさすがに自分で脱ぐよ」
「えっ? あっ、そ、そう?」
優一が美咲の手を制止すると、彼女は驚いて顔を上げた。彼女は自分が脱がすことをさも当然のように思っているように見えた。
優一はその反応に些か疑問を覚えながらも、椅子から立ち上がった。そして、向けられている美咲からの視線を気にしないようにしながらベルトを外した。
ずるる、と下着と一緒に制服のズボンを下ろす。太ももあたりまで脱いだところで、びん、と膨張したものが勢いよく顔を出した。
「わ。おっきいね──内田くんのおちんぽ……」
露出したソレを見て、美咲が感心したように声を漏らす。
彼女らしくない、いやらしい言葉遣い。彼女の清楚なイメージには似つかわしくなかったが、それが逆に興奮してしまう。
優一はもういっぱいいっぱいになってしまって、無言で椅子に座りなおすことが精一杯だった。
「じゃあ、するね。──触るよ?」
「っ……ああ」
これ以上速くならないと思っていた心臓がまたギアを上げる。
美咲の白く細い手指が優一の陰茎に伸びていく。それはやけにスローモーションに見えた。
「ん……あっついね。興奮、してくれてるのかな」
きゅ、と彼女の手が半勃起のものを優しく包む。すべすべとした感触と、ひんやりとした温度が伝わってくる。
たったそれだけで、優一の体はぶるりと震えた。自分以外の手に触れられるというだけでここまで気持ちいいのか、とぞっとする。
「えっと、痛くないよね?」
「ああ、平気だよ」
内心はまったく平気ではないのだが、強がってそう答えた。
「よかった。──じゃあ、動かすね」
こく、と優一がうなずくと、美咲はゆっくりとその手を動かし始めた。
しゅっ、しゅっ、と優しく、気遣うような上下運動。しかし、優一にとっては未知の快楽だった。びくん、と敏感な動物のようにソレが跳ね、一瞬で勃起した。
「あは……すっごい元気。気持ちいい?」
「ん……気持ち、いいよ。三枝、慣れてるんだな」
「え? ああ、うん……。それなりにはね」
そう答える美咲の表情は明らかに曇っていた。しかしそれを隠すように、すぐさま明るい口調で続けた。
「でも、君の好きなやり方は知らないからさ──私の手、握って動かしていいよ」
「えっ?」
予想外の提案に、優一は美咲の顔を見た。彼女は、どうぞ、とでも言いたげな穏やかな微笑を浮かべている。
正直なところ、今の時点で腰が痺れそうなほど気持ちがいい。握る強さは絶妙な締め付けだし、甘やかすような手つきは娼婦のよう。それを自分の好きなような速さで動かしたらどうなってしまうだろうか。
それにそもそももう一つ優一には気になることがあった。
「いや、いいのか? 手、握るとか、その」
「ん? 別にいいよ」
家族以外の女性の手を握るなど、優一はほとんど記憶がない。彼の中の常識では、手をつなぐのは付き合ってからといったものだ。
しかし、美咲にとっては大したことでもないように了承した。なんでそんなこと聞くんだろう、という表情を浮かべている。
「わかった。……じゃあ、握るから」
「ん、どうぞ」
動揺を悟られないように、優一はできるだけ自然に自分の股間に手を伸ばした。そして、天を向く剛直を包む美咲の右手に、そっと自分の右手を重ねた。
女性らしい細い手指。透き通るような白さを持つそれは、まるで芸術品のように思えた。それを不躾にも上から握ることに、優一は罪悪感すら覚えた。
「ふふっ、やっぱり男の子だね。手、おっきい」
「そうかな。普通だと思うけど」
「私にとっては大きいよ。それにあったかい」
確かに、優一と比べて美咲の手は少し冷たい。暑い今の季節にはその感触が心地よかった。
「えっと、じゃあ動かしていいか?」
「いいよ。遠慮しないで?」
躊躇しないでそう口にする美咲に、優一は終始気圧されっぱなしだ。いちいち動揺しまくっている自分とは違って経験豊富なんだろうな、と優一は考えた。
一瞬暗い気持ちになりかけたが、それを振り切るように自分の手に意識を向けた。少なくとも今は、美咲が相手をしているのは自分だけなのだからと。
優一は握った手に力を入れて、上下に動かし始めた。先ほど美咲にしてもらった時より少し速い、自分が自慰をするときの速さ。
「わ。結構速いんだね」
「ああ、大体いつもこんなもんだよ」
「ふーん、いつもこうやって自分でシてるんだ?」
「そう、いつもこうやって──」
途中まで言いかけたあと、優一はしまった、という顔をした。しかしもう遅く、美咲は含みのある笑みを浮かべていた。
「あっ、三枝、その……」
「あはは、ごめんごめん! からかうつもりはなかったんだけど、内田くんったら素直に言っちゃうんだもん」
楽しそうに声をあげる美咲に、優一は苦笑いを返した。
手淫をしてもらっている時点で今更かもしれないが、それでも自慰をしていることを女子に知られるのは赤面ものだった。優一は恥ずかしい気持ちから逃げるため、陰部からの快感に集中した。
美咲の白い手を自分の好きなように、気持ちがいいように動かす。速さだけじゃなく、握る強さも。
しゅこしゅこと擦れる音とともに、ぞくぞくと快感が昇ってくる。まるで彼女の手を道具のように扱うその行為は、背徳的でひどく興奮した。
「これくらいが気持ちいいんだ? ふふ、君が好きなやり方、覚えちゃった」
無邪気な口調だったが、その言葉はとても蠱惑的なものがあった。それが意識的なものかは優一にはわからないが、彼女の虜になるには十分だった。
「ねぇ、内田くん」
「ん?」
彼女の手を上下させながら顔を向ける。気づけば、美咲の顔はさっきよりずっと近くにあった。長いまつげと大きな瞳が目を引いた。
「自分でするときってさ、やっぱりオカズとか必要なの?」
「え、えっ? オカズ?」
そう、と美咲が頷く。
「まぁ、ないよりあった方がいいかな」
「そっか。……じゃあさ、おっぱい──触っていいよ」
その言葉に、完全に思考が固まった。いや、頭の中だけでなく美咲の手を動かしていた右手も動かすのをやめた。しかし、美咲が自分の意思で手淫を続けて、動きが止まることはなかった。
「おっぱ……えっ、いいのか?」
「うん。男の子ならおっぱいって興味あるでしょ?」
「そりゃあるけど……」
「それなら、ほら。いいよ。揉んでみて? 君にはちゃんと気持ちよくなってもらいたいからさ」
ほら、と椅子ごとさらにこちらににじり寄ってくる。おまけに胸を軽く張ってその膨らみを主張してきた。
それに抗うことなど誰ができようか。肉棒には常に快楽が与えられ、頭の中は美咲への情欲でぱんぱんだ。胸を触っていいと言われたら、素直に従うほかない。
磁石に引き寄せられるように、優一の両手が伸びていく。そうして、彼女の二つの膨らみへそれが触れた。
「ん……」
美咲の口から小さな吐息が漏れる。なんてことのないことなのに、それはひどく色気のあるものに感じられた。
どくどくと早鐘を打つ心臓に急かされるように、胸に触れた両手に力を入れる。ふにゅ、と軽く手指が白いブラウスに沈む。
柔らかい。優一は何よりも初めにそう思った。しかし、飾り気もない感想とは裏腹に、今まで感じたことのない感触だった。
ブラウスの下にあるであろうブラジャーのせいか、若干の固さはある。しかし、それを上回る肉感があった。
さらに力を入れて揉んでみると、女らしい弾力が返ってくる。そのまま顔を埋めてしまいたいと思うほど心地よくて、よりその行為に夢中になっていく。
「んっ……ん、あっ……ふふ、大胆だね」
くす、と笑みを漏らす美咲。その顔はもう目の前だった。
二人並んで、お互いに体を向けて触りあっているから、顔が近くなるのは当然のことだった。どちらかが少し顔を寄せればキスできてしまえる距離。美咲の呼吸は幾ばくか荒くなっているように聞こえた。
感じてくれているのだろうか、と期待して、揉みしだく手に熱が入る。いっぱいに指を広げて、絞るような動きでまさぐる。すると、ぐにゅん、と簡単にその双丘は形を変えた。
「ぁ……っ、ん──あ、きもち……」
はぁ、はぁ、と美咲の呼吸が乱れている。
しかし、手淫の動きはまったく乱れていない。優一が教えた速さで、根元から亀頭までをいやらしく愛撫する。極上の絹のように滑らかな指の一本一本が敏感な竿を擦るたびに、下腹部の奥から快感の塊が引き上げられるようだった。
「っ……三枝、そろそろ出そうだ」
「ん……あ、ほんと? ん、はぁ……ん……あっ──いいよ、手で受け止めるから、気持ちよくなったら出して?」
その誘惑に、射精感がどくどくとこみ上げてくる。
おまけに美咲は優一が気持ちよく出せるようにと、少しだけ手の動きを速くし始めた。のけぞってしまいそうなその刺激に、一気に快感が押し寄せる。
どろどろの白い欲望がせり上がる。両手は美咲の胸を無遠慮に鷲掴みにし、すぐそばでは彼女の色っぽい呼吸が聞こえてくる。いい加減限界だった。
「三枝っ……出るっ──!」
「うん、いっぱい射精して──ひゃっ!」
びくびく、と生殖器が痙攣し、一気に堰が切れた。
びゅっ、と最初の塊が、亀頭の先端から飛び出る。扱いている美咲の右手にその白濁が落ちてくる前に、次の射精がどくんと吐き出される。その繰り返し。
「わ、わっ……すご、精液いっぱい出て──あっ、まだこんな……!」
美咲が慌てた様子でもう片方の手で蓋をする。しかし、それをこじ開けんばかりに、びちびちと精子が撃ちぬいていく。
しかも、それを促すように美咲の手は優しく肉棒を扱いている。こしゅ、こしゅ、というゆったりとした動きは射精中には心地よく、いつまででも吐精が続くのではないかと錯覚した。
「あ……射精、終わったかな?」
優一が呆然と快楽の余韻に浸っていると、美咲がそう呟いた。
現実に引き戻されたように優一の目が見開かれる。視線を下に向けると、軽く痙攣する生殖器と、それを包む両手がどろどろに汚れている光景が目に入った。
不意にその手が離れる。優一の視線はそれを追いかけ、美咲の口元に至る。すると彼女は人差し指をはむ、と唇で挟んだ。
「ん──濃い……」
艶っぽい吐息を含んだ言葉。そこに嫌悪感は感じられなかった。
そのまま美咲は、ぺろぺろと両手についた精液を舐めとり始めた。あまり行儀の良い行為ではないはずなのに、不思議と貴族の食事のような上品さがあった。
「こんなにいっぱい……それにすごい濃ゆい。溜まってた?」
「ああ、いや……その、俺性欲強いから。一日に二、三回抜いてるし」
優一の頭の中はいまだに半ば夢心地だ。そのせいか、いらないことを口走ってしまったなと後悔した。
「へぇ? すごいじゃない。そういうの、ゼツリンって言うんだっけ?」
だが、裏腹に楽しそうな反応を見せる美咲。思わず優一も頬が緩んだ。
「……あ、それホントみたいだね」
「え?」
ふと、美咲の目線が下に向けられる。不思議に思って優一がそれを追うと、自らの股間に向けられていた。
「まだおちんぽすっごい元気。あんなに出したのにね」
射精したはずのソレは、未だ性欲を主張している。まとわりついた白濁が無ければ、これからそういう行為に及ぶところにさえ見える。
「そのままじゃ苦しいよね? もう一回してあげる」
「え? いやもう十分だって──あ、三枝!」
優一の静止は気にも留めず、美咲は椅子から下りて彼の正面にしゃがみこんだ。そして、先ほど自身が手淫していたモノに顔を近づける。
「ん……精子のにおいすご──くらくらしちゃう」
すんすん、と匂いを嗅ぎながら、美咲はうっとりとした声を漏らす。
「次は口でするね」
「いっいや、マジでここまでしなくていいって。もう十分満足してるから」
「でも君のコレはまだ足りないって言ってるよ? 遠慮しないでいいんだから」
美咲は優しげな笑みとともにそう言い放つと、目の前のモノへ口づけた。
針の先が一瞬触れた程度のほんの僅かな刺激。だが、射精後で敏感になっているソレには、身震いするほどの感覚だった。
「ほら、びくんって跳ねてこんなに元気。──もっと気持ちよくしてあげる」
優一を見上げながら、美咲は目を細める。そして唇を小さく開けて、肉棒の先端へはむりと吸いついた。
「ん──ん、む……っく……」
そのまま、くぷぷ、と奥まで口に含んでいく。白濁でべとついた男根がゆっくりと飲み込まれていくその光景は、見ているだけでくらりとするほどだった。
そうして、あっという間に奥までたどり着く。張り詰めた亀頭が、美咲の喉奥を軽く押している。美咲は「ん」と小さく声を漏らしただけで、苦しそうな顔一つ見せていない。
「ん……っ、ぢゅっ、んぅ、んふ……っ、んく……っ」
そうやってペニスを咥えこんだまま、美咲は自らの顔を前後に動かし始めた。両手を優一の太ももに軽く添え、ゆっくりとした動きで。
鮮やかな赤の唇が陰茎を擦っていく。カリのでっぱりまで引き抜き、根元までずるる、と飲み込まれる。
「っ、三枝……やば、気持ちいい」
思わず優一の口から声が漏れる。それほどの気持ちがよかった。
手淫ならまだしも、フェラチオはまったく未経験の感覚。柔らかい唇の感触もたまらないが、熱く濡れた口内に包まれていることがのけ反りそうなほどの快感を与えてくる。おまけに舌で亀頭までこすられている。
「ふふっ、もっと気持ちよくしてあげるね」
優一の反応が気に入ったのか、美咲は一度口を離して笑った。陰茎は白濁をきれいに舐めとられた代わりに、美咲の唾液でどろどろに濡れていた。
「ん、んぶ……っ」
再び剛直を咥えこまれ、口淫が始まる。だが違うところが一つ。
「んぐっ、ん、んんっ……んぶ、っく──ぢゅっ、んぶ……っ!」
美咲は頭を前後に揺り動かし、じゅぽじゅぽと激しい奉仕を始めた。
素早く擦られる陰茎。飛び散った液が床にたぱたぱと垂れていく。ストレートの整えられた美咲の黒髪はその動きで滑らかに揺れていた。
当然そんな愛撫が気持ちよくないはずもなく、一気に快感が昇ってくる。手で握るより優しい代わりにとても瑞々しい唇に擦られ、飲み込まれたところは舌が蛇のように絡みついてくる。
「ちょ、三枝──も、出るから、口離してくれ……っ」
「ぢゅっ、んぶっ……んっ、んっ、んく……っ!」
当然のように射精感がこみあげてくる。思わず優一が口にするが、美咲はまったく構わずにぐぽぐぽと濃厚なフェラチオを続ける。
体の中身まで吸い上げられるような感覚が襲ってきて、体がぞくぞくする。快楽に侵された優一の頭は、美咲の口へ精液を吐き出すことを自然に考えてしまう。
「無理、三枝──出る……っ!」
そう考えてしまったのが最後だった。優一は抑え込んでいたモノを一気に解き放った。
「んんっ……!!」
びちゃん、と生温かい白濁が美咲の喉奥を撃ち抜く。美咲は驚いたような声を漏らしたものの、口を離すことはなかった。
「んっ……ん、んくっ……ん、ちゅ、じゅる……」
どくんどくんと壊れたポンプのように精液が吐き出されていく。優一はしびれるような感覚とともに、それに身を任せることしかできない。
美咲は亀頭から放出されるソレを、ゆっくりと飲み下していく。ごく、ごく、と美咲の喉が動き、優一の欲望が体内へと嚥下されていく様子はひどく官能的だった。
「ん、は……ぁふ……」
やっと射精が終わり、美咲が口を離す。ぬと、と唇と亀頭の間を半透明の液体が伝っていた。
「ん……気持ちよかった?」
それを指でぬぐいながら、美咲は優一に尋ねた。
「ああ、めちゃくちゃ、よかった……」
二回も連続で出したのは優一も初めての経験だ。さすがに息も絶え絶えになり、そう返すのが精一杯だった。
「そっか、ならよかったよ」
ふふ、と嬉しそうに微笑みながら、美咲は立ち上がった。そのまま乱れた衣服を手で払って正す。優一はその様子を座ったまま呆然と見ていた。
「……じゃあさ、これで屋上のことは秘密にしてくれるかな」
「ああ、うん。秘密にする。絶対誰にも言わないよ」
遠慮がちに問うた美咲に、もちろん、と優一は返した。
こんなことまでしてもらって言いふらすなど絶対できない、と優一は内心思った。
「あ、それとね」
机に置いていた自身のカバンを肩にかけた後、美咲が不意に振り向いた。
「君とシたことも、秘密だよ?」
人差し指を口元にあて、美咲はどこか照れくさそうにそう言った。
夕焼けが窓から差し込んでいる。オレンジ色のそれに照らされた彼女の笑顔は、とても美しく──ひどく儚く映った。