私に種を蒔いて。 性暴力で孕まなくなったJKと慰めえっちする話 作:黒宮魚
三枝美咲の一日は失望から始まる。この地獄のような毎日が夢であるという希望が、所詮ありもしない妄想である事実に。
目が覚めるといつもの白い天井。ベッドから体を起こして見回した変わり映えしない自室の景色に、美咲は溜息を吐いた。
布団から出て壁にかけてある制服を手に取る。美咲はそれを持って、一階の洗面所に降りて行った。
制服に着替えていると、二階で物音がした。やがてどすどすと粗雑な足音が降りてくる。今日も始まる、と美咲は感情を切り捨てた。
「美咲。脱ぎなさい」
無遠慮に洗面所のドアが開けられる。鏡越しに壮年の男──美咲の父親が彼女を見下ろしていた。
美咲は彼に言われるがまま、履いたばかりのショーツを脱いだ。
「スカートもだ」
今日はそっちもか、と美咲は心の内で溜息を吐いた。
言われるがままスカートも脱いで尻を突き出す。あとはいつもの通り、感慨もない汚らわしい行為が始まる。
五年前──初潮も来ていない頃に突然襲われて以来続いている、三枝美咲の絶望の根底。初めの頃に覚えていた吐き気すら今は感じていない。彼女はその事実そのものに吐きそうになった。
父との行為が終わった後、すぐに家を出る。冬場の空はまだ暗い。
白い息を吐きながら家の近くのコンビニで朝食と昼食を買う。料理を作ってくれる人間も、自分で作る気力もない彼女はいつもこうしている。父親がそこそこの会社の部長職であるため、金銭面だけは幾分か裕福だった。
朝練がある生徒並みに早く登校し、人気のない空き教室でコンビニのおにぎりを食べる。気分を変えて買ってみたチャーハンにぎりが思いのほか美味なことに、ほんの少し頬が緩んだ。
学校での生活は好きだった。クラスメイト達と話すのは楽しいし、勉強も嫌いではない。
そして何より、彼──内田優一がいる。話すことは無いに等しいが、彼の教室を通りがかるとき、廊下ですれ違うとき、彼の姿を見れるだけで美咲は満足だった。
だが、彼という希望があるからこそ、最悪なことはもっと最悪に感じる。
『屋上来い』
昼休み。美咲が友人の手作り弁当に目を輝かせながら昼食をとっていると、一通のメッセージが届いた。
溜息が出そうになる自分を押し殺しながら、友達に謝って席を外す。
「おせぇぞ」
屋上につくと、兄が待っていた。そして何を言うでもなくベルトを緩め始めた。
今日は口でいいんだ、と僅かに安堵した。彼は本番を要求するときはまず美咲の体を触り始める。自分から脱ぐのは口でいい時だ。
それでも嫌な気持ちに変わりなどない。父の時と同じように感情を消して、やりたくもない奉仕を始めた。
父のことも兄のことも割り切ったつもりでいた。自分の家はおかしい。だけどそういうものだと受け入れるほかない。
そうやって耐えてきたが、最近はまた一つ苦痛が増えた。
「ああー……気持ちいい。美咲ちゃんのマンコまじで名器だよ」
後ろから腰を打ち付けながら耳元で囁いてくる声に、美咲は寒気を覚えた。
午後十時半。閉店時間を過ぎたカフェの店内に、荒い吐息と乾いた音が響く。
カーテンで外と隔絶された薄暗い空間。カウンター席に手をついた美咲は、その店主に犯されていた。
夏休みに優一とのことが父と兄にバレたあの時。優一に何も迷惑をかけないために、美咲は何でもすると言った。
一つは彼と関係をもう持たないこと。さらにもう一つあった。
それが、このカフェで働くこと。当然ただのアルバイトなんかではない。
店主は父の「お友達」で、いつもバイト終わりに体を要求してくる。断ることなどできない美咲は受け入れるしかない。
そして、体を売る対価とアルバイトの金は美咲に一円も入らず、すべて父の懐に入っていく。美咲は嫌悪感すら通り過ぎ、何も思わなくなっていた。
三十分ほどで終わった行為の後、美咲はカフェの制服から着替えるために更衣室にいた。
ロッカーを開けて学校の制服に手を伸ばす。が途中で手を止めて、代わりにスマホを取った。
SNSを立ち上げてダイレクトメッセージの画面を開く。相手は優一。汚い男たちに体を好きにされて、せめて彼という救いが欲しかった。
『起きてる?』
もう遅い時間だが、思いのほかすぐに返信が来た。
『起きてるよ』
『どうかした?』
自然と頬が緩む。弾む心のまま返信を打つ。
『なんか面白い映画とかないかなって』
美咲と優一の共通の話題。連絡先を交換してから、時たま父や兄の目を盗んで映画の話はよくしていた。
『クリス・ノーウッドって監督の映画とかおもしろいかな』
すぐに返ってきた。
『あ、知ってる知ってる!』
『私けっこう好きだよ!』
つい最近サブスクで見た監督だった。美咲が見たのはヒーロー映画だったが、ダークで重い雰囲気が印象的だったのを覚えている。
『あ、じゃあ』
『今過去作やってる映画館があって』
『よかったら明日あたり観に行く?』
思いもよらない誘いに、とくん、と胸が鳴った。
明日は土曜日。特に予定もない。あのクリスマス以来、休日のまともな外出はしていないから、適当な理由をつければ怪しまれないはず。
そう思った美咲は、いいよ、と返信を打った。
「何してるのかな。美咲ちゃん?」
が、送信ボタンを押す直前に後ろから声をかけられた。
振り向く前に、伸びてきた手にスマホを取り上げられる。
「ふーん、ずいぶん仲良さそうだね」
いつの間にか更衣室に入ってきていた店長が、スマホの画面を眺めながら口にする。面白くなさそうな表情が青白い光に照らされていた。
「これって夏休みに遊んでたっていう例の男の子かな?」
不気味なほど優しげに彼は問うてくる。
「……お願いします。父には言わないで、ください」
美咲は目の前が真っ暗になった。誰にも見られちゃいけないとわかっていたのに、気の弱さからこんな場所でやり取りをして。後悔が頭を埋め尽くす。
「んー……そうだねぇ。まぁいいけど、代わりに何すればいいかはわかるよね?」
店長の口が厭らしく歪む。美咲は絶望した心中のまま頷くしかなかった。
またカウンターに連れていかれて、美咲は犯された。今度はカウンターの内側。
立ちバックで乱雑に腰を打ち付けられる。美咲の手元にはアイスピックが入ったコップやコーヒーミルが並んでいる。仮にも喫茶店という場所の店主である人間が、調理をする場所でこんな汚らわしいことをしている事実に心底軽蔑した。
「いつも接客してる姿の美咲ちゃん犯すのほんっと気持ちいいよ」
美咲の耳には店長の不快な言葉は聞こえていない。ただ早く終わってほしいということと、これからずっと今回の件をネタに好き放題されることへの絶望が頭を埋めていた。
「んー、このくらいでいいかな」
ぴ、と電子音が響く。美咲の意識が僅かばかり店長に向いた。
「美咲ちゃんさ、今ハメ撮り撮ったんだけど」
振り向くと、店長が奪われたスマホの画面を見せつけていた。そこには、今撮ったであろう自分の犯されている姿が映っていた。
「これ、例の男の子に送っちゃうね」
そして画面を切り替えられ、優一とのDMの画面が映し出される。
「っ……やめてください! なんでそんなことする必要があるんですか!」
沈んでいた感情が一気にこみあげてくる。
美咲は目を見開き、声を荒らげて店長を睨んだ。
「えー? いいじゃん。喜んでくれるかもしれないよ? 憧れの女の子がエロいことしてる動画なんか見ちゃったらさ」
しかし、美咲の反応を面白がるように下卑た笑いを浮かべてそう口にした。
「まあどうしてもっていうんなら送んないけど。……でもその代わりにこのことお父さんに言っちゃうよ?」
その言葉に、美咲の表情が凍り付く。
また彼と関係を持っていたことがバレたら前のようにはいかないだろう。自分がどうにかされるのはまだいい。でも、彼に危害が及ぶのは絶対に嫌だった。
「それ、は……っ、やめて、ください」
掠れながら、なんとかそう声を絞り出す。
「おっけー、わかったよ。じゃお父さんには秘密にしておくけどこれは送っちゃうね」
でもそれもイヤだ。
優一は優しいからきっと何もなかったみたいにしてくれる。あの夏休み、汚らわしい自分のことを受け入れてくれた彼なのだから。でもこれ以上、汚れた自分を彼に見せるなんてもう耐えられなかった。
「はーい、そうしーん」
子供じみた間抜けな声が聞こえる。
その瞬間、美咲の中でブツリと電源が切れた。
「……は?」
いつの間にか、美咲の右手にはアイスピックが握られていた。その細い銀色の棒を、生ぬるい液体が伝ってくる。
それが美咲の手に到達すると同時に、人の血であることに気が付いた。
がたん、と何かが落ちる音がする。見ると、店長が持っていた美咲のスマホが床に落ちた音だった。
「え……」
さっきまで自分の中に入っていた、男の生殖器。そこに、美咲が持ったアイスピックが突き刺さっていた。
「あっ、ああああああ! なっ、にしてんだてめぇぇぇえ!」
ようやく状況を飲み込み始めた店長が、激昂しながら拳を振り上げる。
美咲はそれがやけにスローモーションに見えた。彼女は自分でも驚くほど冷静に、一度アイスピックを抜くと、即座にまたぶすりと突き刺した。
「がっ!」
美咲の手は止まらない。
刺して、抜いて、刺して、抜いて。ぶす、ぶす、ぶす、ぶしゅ、ぶしゅ、ぶしゅっ。
まるで機械人形のように、単純な動作が繰り返される。
非力な美咲でも、生殖器官という柔らかい部分を傷つけるのは容易いことだった。一刺ししてそれを抜く度、噴き出した血でソレが赤く染まっていく。
「あ、アああっ……! いたいいたい、いてぇ! ああっちっくしょ、てめぇ何してくれてんだ!」
無様に倒れこんだ店長が決死の目つきで睨みつける。美咲はそれを冷めた目で見下ろしていた。
「痛い? 私だって痛かったのに」
酷く落ち着いた声だった。その声色に、彼の表情が固まる。
「あなたにわかりますか? 毛も生えてない頃から父と兄に犯され続けて、何回も妊娠させられて、堕ろされて、子供も作れない体にされて──それでもあなたみたいな人に体を好きにされる痛みが」
今まで溜め込んでいたものが言葉となって溢れ出る。次第に、堪えきれない怒りが声を震わせていく。
「そんなのまだ可愛いくらいでしょう。もっと痛いの教えてあげますよ」
美咲は血塗れのアイスピックを握りしめて、倒れた店長に歩み寄っていく。その目は底なし沼のように真っ黒で、光一つ宿っていない冷酷な瞳だった。
「ひ……っ」
男の顔が恐怖に歪む。と同時に、彼は白目をむいて動かなくなった。
美咲はそれを見て、ふっと力が抜けた。握っていたアイスピックがからんと落ちる。
「ふ、ふふっ」
美咲の内から何かがこみあげてくる。酩酊感にも似たそれに、不思議と笑いが出てきた。
「あはっ、あは、アハハハハハハハハ! アハッハハハハハ!」
静まり返った店内に、狂ったような笑い声が響き渡る。
美咲は薬でもやったように目を見開き、自分でも何が可笑しいのかわからないまま笑っていた。
だが、それも次第に冷静になっていき、心に空虚さが広がっていく。自分がやったことの重大さがわからなくなるほど狂えはしなかった。
「あー……はは、終わりかぁ……どっちにしろ」
ぽた、と一粒の雫が床に落ちた。
日付が変わりそうな時間。内田優一は自室のベッドに寝転がりながらスマホをいじっていた。
映っているのは性被害の相談窓口のサイトだ。美咲の境遇を何とかしたいと思い、かれこれ一時間ほど調べていた。
と、そこでインターホンが鳴らされた。
「ん」
こんな時間に誰だ、と思いながら玄関に向かう。覗き窓から見てみると、そこには一人の女性が立っていた。
いつかのことがフラッシュバックする。雨の夜。ずぶ濡れで尋ねてきた彼女のことだ。
もう考えるまでもなかった。
「三枝」
ドアを開けると、そこには制服姿の三枝美咲がいた。あの時と違い、髪と服装はきちんと整えらえていて、穏やかな笑みを浮かべていた。
「ごめん、こんな時間に」
「あ、いやいいよ、起きてたし。……また、なんかあったのか?」
「ううん。なんにも。遊びに来ちゃった」
えへへ、と悪戯っ子のように美咲は笑った。
「お邪魔しても平気?」
「いいよ。どうぞ」
色々と違和感を抱きながらも、優一は美咲を招き入れた。お邪魔します、と丁寧に挨拶をして彼女は部屋に上がった。
「久しぶりに来たけどあんまり変わってないね」
「そりゃあな。適当なところに座っててくれ」
うん、と頷いた美咲は、ローテーブルの傍に腰を下ろした。
「何か飲むか? って言ってもコーヒーしかないけど」
「じゃあ頂こうかな。砂糖多めでお願いします」
キッチンでお湯を沸かしてインスタントのコーヒーを淹れる。美咲の分のマグカップにはスプーン二杯分の砂糖を入れて、テーブルまで持っていく。
「ありがとう」
ことりと彼女の前にカップを置く。美咲は軽く微笑んで会釈をした。
ん、と頷きながら、優一も彼女の反対側に座った。
「突然来ちゃってごめんね。迷惑じゃなかった?」
「いや、全然。俺も暇してたから」
そっか、と安心したように美咲は呟いた。
ずず、と二人一緒にコーヒーを啜る。苦いのは得意ではないのか、美咲はきゅっと一瞬目をつむった。
「ゲームでもするか?」
「ううん。今はいいかな」
湯気が立つカップを握ったまま、美咲は首を横に振った。
「映画、観たいな」
微笑んだまま美咲はそう口にした。
「いいよ。リクエストは何かあるか?」
「君の好きな映画ならなんでも」
そう言われ、優一は思案した。頭の中のライブラリを漁っていい映画はないか検索する。
そして一つ思いつき、テレビのリモコンを取った。ぽちぽちと操作してサブスクサービスから目当ての映画を見つけた。
「ちょっと長いけどいいか?」
「いいよ」
美咲が頷く。二人は床からベッドに座る場所を変え、電気を消してから二人並んで映画を観始めた。
優一が選んだのは、所謂不朽の名作と呼ばれる映画だ。冤罪で投獄された主人公が、希望を捨てずにたくましく生き抜いていくというストーリー。
有名だから美咲も既知かとも思ったが、彼女はじっとテレビを見ていた。澄ました顔で、食い入るように映画に集中していた。
「あ……もう終わっちゃったんだ」
エンドロールが流れ始め、美咲はどこか名残惜しそうに口にした。
「どうだった?」
「──うん、すごく良かった。きっと一生忘れない」
大袈裟な、と思いながらも、自分が選んだ映画をそんな風に言ってもらえるのは嬉しかった。
そのまましばし、お互い無言のままエンドロールを見ていた。ふと、ちらりと美咲の顔に目をやる。テレビの光に照らされたその表情は、無表情でありながらもどこか物悲しげに映った。
「ねぇ、内田くん」
視線を前に向けたまま、唐突に美咲が呟く。「ん?」と返すと、美咲はすう、と息を吸い込んでから口にした。
「好き」
それは、なんてことのないいつもの彼女の声だった。あの夏休み、何気なく言葉を交わした時のような。
「え──」
美咲の顔が優一に向く。
「私、内田くんのことが好き」
僅かな微笑みをたたえながら、今一度そう口にした。
優一はうまくその言葉を呑み込めなかった。嬉しいとか驚きとか、そんな感情すら追いつかなかった。
「夏休みから君のことが大好きだった。ずっとずっと忘れられなかった」
恥じらいもなく、美咲は滔々と自らの思いを言葉にしていく。逃げずに優一の瞳を見つめながら。
「君は、どうかな。今じゃなくていいの。夏休み、君は私のことをどう思ってた?」
僅かに美咲の声のトーンが落ちる。平坦なようでいて、期待と不安が入り混じっていた。
「俺、は」
彼女から外しそうになる視線を繋ぎとめる。美咲が誠実に想いを伝えてくれたのだから、自分もそれに向き合わなければいけない。そう思った。
「──俺も好きだったよ。一年の頃からずっと三枝のことが好きだった」
考えるまでもないことだった。
一度は気持ちを諦めた。でも、一緒に資料室整理をしたあの日から、内田優一はずっと三枝美咲に恋をしていた。
「……なぁんだ」
優一の言葉を聞いた美咲は、力が抜けたようにベッドへ後ろ手をついた。
「両想いだったんだ、私たち」
そして、彼女は柔らかくはにかんだ。その表情は、純粋な少女そのものだった。
「今も──俺は今でもそれは変わってないよ」
え、と短く口にして、美咲の表情が固まる。そして、黒真珠のような彼女の瞳孔が開いていく。
テレビの光に照らされた美咲の顔。長い黒髪と、白い肌。その頬が、僅かに桃色を灯していた。
ふっ、と明かりが消える。エンドロールが終わり、部屋が静寂と暗闇に包まれる。
互いの姿も、影も何も見えない。小さな呼吸の音だけが聞こえていた。
「ん……」
それはやがて、一つに絡まった。
電灯も、月明かりもない、夜陰が支配する小さな部屋。ぎしぎしとベッドが軋む音と、絡み合う嬌声が響いている。
二月の只中、それも深夜という冷たい空気が満たす。だが、ベッドの上だけは、酔いそうなほどの熱気が渦巻いていた。
「んっ、ぁ、あっ……うちだ、くん……っ、ふぁ、アっ……んぁ、あっ……好き、すきっ……」
「三枝……っ、さえぐさ、好きだ……っ」
ベッドに組み敷かれて甘い声をあげる雌と、覆いかぶさって腰を振る雄。優一と美咲は、互いの想いを伝え合いながらまぐわっていた。
揺れるベッドの周りには制服や下着が散乱している。優一は全裸で、美咲もスカートと片脚に引っかけたショーツ以外はハダカ。
「は、ぁ、アっ……すご、い……っ、あっ、からだのおく、んっ、ぁ、じんじん、シて、ぁ、やんっ……すっごい、きもち、いい……っ」
二人は肌に汗が浮かぶほど熱く愛し合ってはいるものの、激しく貪り合っているわけではなかった。ずぷ、ずぷん、と美咲の奥をゆっくり押し上げるような、甘い腰使い。
だが、一突きするたびに美咲の口からは甘えるような嬌声が漏れ出る。枕に広がる彼女の長い髪。潤んだ瞳は快楽と幸福感に融け、優一だけを見つめていた。
「ん、んっ……あ、ぅ、うちだ、くん……っ」
「ん……どした、三枝?」
美咲は懇願するような笑みを浮かべていた。
「手……繋いで?」
枕をぎゅっと掴んでいた彼女の両手が、ぱっと開く。
「──ああ、いいよ」
優一はベッドについていた両手を彼女の細い手指に絡めた。情欲を伝えるような彼女の熱い体温。
それを感じたまま、優一は美咲と交わり合う。抜き差しを繰り返す結合部は愛液でどろどろになっていて、引き抜く度に何本も糸を引いていた。
突き入れると、密着する股と絡みつく膣肉でぐちゃりといやらしい音を響かせる。それと同時に擦れる快感が全身をぞくぞくと突き抜けていく。
「三枝、さえぐさ……すっげえ可愛い──声も顔も全部好きだ……っ」
「ん、ぁ、あっ……ぁは、うれ、しい……っ、じゃあ、もっと──ん、ぁン、あっ……もっと、ちかくに来てっ……」
美咲の手が強く優一の両手を握る。優一もそれに握り返しながら、美咲へ顔を寄せた。
密着する二つの素肌。腹、太もも、乳房──女らしい柔らかな感触が全身に伝わり、幸せな一体感をもたらす。
「んっ……ちゅ、ぅ……はむ……っ」
そして、唇と舌までもが絡み合う。荒い吐息を抑えようともせず、ただ愛欲のままに口吻で交合する。
口の中で舌をいやらしく重ねて、吸って、絡ませて──そうするほど快感を幸福感が高まっていく。
「っは、ぁ……あっ、ぁん、アっ……はっ、ぁ、だめ、あっ……わたし、ダメになる……っ、きもちよくて……っア、ぅあん、ぁ、しあわせで、だめになっちゃう……っ」
「ダメになってもいいよ。……俺はもうなってる」
耳元で囁くと、美咲の体がぶるぶると震えた。同時にナカも抱きしめるみたいに締め付けてきた。
「は、ぁ、あっ、あ、アっ……ん、あ、そんなこと、いわれたらっ……んぁ、や、はンっ……イっちゃう、よ……っ」
切なさからか、美咲の目に涙が浮かんでいる。唇はだらしなく開かれ、涎が垂れている。頬を赤く染めて緩んだその表情は、優一以外誰も見たことのない、雌の顔になっていた。
無意識に誘惑してくるその表情に加え、女の子らしい濃い匂いまで伝わってくる。全身が彼女の熱と柔肌に包まれ、下半身に至っては触感ごと溶け合っているような感覚だ。
「三枝……っ、俺もイくよ──三枝と一緒にイクから……っ」
「うん、ぁ、あっ、うんっ……んぁ、あっ……はぁ、あっ……一緒に、いっしょにきもちよく、なってっ……ん、ぁ、あっ、あ、いく、イくイク、キちゃうっ……」
ずぷずぷと優一の腰が激しく動かされる。ばふっ、と尻肉に腰が振り下ろされる度に、粘液がベッドに飛び散っていた。
きつい締め付けを味わいながらの送挿。根元から先端まで濡れた膣肉に愛撫され、尿道をアレがどくどくと昇ってきた。
「出る、三枝、イクっ……三枝っ──!」
「ふぁ、あ、ぁ、わたしも、イク、ぁ、あっ、あぁ──っ!!」
ばすん、と優一は思い切り腰を尻肉へと叩きつけた。
それと同時に、凝縮された白濁液が美咲のナカへ吐き出される。どぶん、と大きな塊が、彼女の一番奥──子宮へと。
「あ、アっ……ぁ、は……っ、あ、せーし、でて、る……っ、あ、ぁう、なかだし、あっ……きもち、い……っ、ぅあ、ぁは……また、イク……っ」
恍惚とした声をあげながら、美咲の体が強く跳ねる。その衝撃が快楽となって肉棒を襲い、また射精する。
どっくん、どっくん、と緩やかながら重い吐精が続く。尿道をかきわけ、鈴口からだらしなく発射される精液。
「さえ、ぐさ……っ、あ、きもちいい……っ、ごめん、しばらく止まんない、かも」
「ん、うん、ぁ……いい、よ──いっぱいしゃせーして……? 君のせーし、たくさん、ほしいっ……ん、ぁ、あー……きもち……子宮に、どぽどぽだされるの、っあ、たまん、ない……っ」
美咲の瞳は惚けたまま天を見つめている。半分意識がないんじゃないかと心配になるほどだ。
だが、彼女の腰はかくかくと物欲しそうに動いていて、精液を搾り取られる。別の生き物みたいに絡みついてくる膣肉もそれに拍車をかけている。
「は、ぁ……あ、ア……しゃせー、なっがい……っ、ん、すっご……あ、ぁう、ん……」
どびゅ、どびゅ、どぶ、どぶ、どぷぷ。
一回の射精の度に気絶しそうなほどの快感が全身を襲う。自分の中の大事な何かが吐き出されているような虚脱感と幸福感。それを三枝美咲の子宮に中出ししているという事実がさらに優一を興奮させた。
「ん、あ、ぁ……は……」
一分、二分、またはそれ以上か。長い絶頂がやっと終わった。
気怠さと快感の余韻が二人の体を支配している。優一はなんとか力を入れて、美咲を自分の上に寝かせた。
美咲は心地よさげな吐息を吐くと、安心したように優一の胸に顔を埋めた。
「……ね。内田くん」
「うん?」
「好き」
「俺も好きだよ」
互いの体温を感じながら、甘い言葉を交わす。本当に恋人同時になったような感覚だった。
それ以上の言葉はなかった。繋がったまま、抱き合ったまま、二人は呼吸が落ち着くまでそうしていた。
「内田くん」
三十分ほどだろうか。何も言わず抱き合っていると、ふと美咲が呟いた。
「そろそろ、帰らなきゃ」
美咲自身は抑えたつもりだったのだろう。だが、名残惜しい気持ちが声に出ていた。
だが、その気持ちを振り切るように彼女は体を起こした。
しかし。
「内田くん……?」
優一の手が美咲の肩を掴んで止めていた。
「わぶっ」
そのまま優一は彼女の背中に手をまわして強引に抱き寄せた。どん、と美咲の頭が胸に押し付けられる。
「三枝。今日、本当はなんかあったんだろ?」
「ないって。内田くんは心配性だなぁ」
「じゃあなんでこんな時間に来たんだよ。お父さんとお兄さんはどうしたんだ」
「君に会いたかったからこっそり出てきたの。だから起きてくる前に帰らないと」
美咲は優一の胸に顔を埋めたまますらすらと答える。まるで最初から答えを用意していたみたいに。
「三枝、大丈夫じゃないときっていつも無理やり笑ってるよな。そん時さ、まず口から笑うんだ。それから目が笑う。……今日、『遊びに来た』って言った時もそうだった」
美咲が息を吞んだ音がした。
それから、三十秒ほどして、彼女は一つため息を吐いた。
「ちゃんと見てるんだ。……君は結構鈍感だと思ってたんだけどなぁ」
観念して、美咲は悔しそうにそう呟く。
「うん、ちゃんと話すよ」
美咲はそれからゆっくりと口を開いた。
「私さ、人……刺しちゃった」
その言葉に、優一はさっと血の気が引いた。
それに構わず美咲は続ける。
「君が霜月さんと来たあのカフェ。私、あの店長からも色々されてて、さ」
どくどくと優一の心臓が速くなる。
抱き合っている美咲にもそれは当然伝わる。彼女はそんな優一をあやすように、そっと胸に頬ずりをした。
「今日、君とDMしてるの見られて……それで、あの人にレイプされてる動画を君に送られそうになって。……それで、気づいたら刺してた」
優一は、美咲が言っていることが信じられなかった。だが、彼女がこんな嘘を言う人間でないこともちゃんとわかっている。
だから、彼女の言葉は真実なのだと、強制的に理解させられる。
「私、犯罪者なんだ。……だから、もう行くの」
そこで初めて美咲の目が優一を見た。
「内田くん。──私のことを好きって言ってくれてありがとう。最後に思い出をくれてありがとう」
そう言って美咲は笑った。唇も瞳も一緒に笑った。
そして、彼女はまた体を起こそうとする。
「内田くん。離して」
しかし、優一の腕がそれを拒んだ。背中に跡ができるほど強く美咲を押さえつけている。
「嫌だ」
「離して」
「嫌だ」
「離してってば!」
彼女らしからない、明確な怒りの込められた口調だった。
だが、優一は声のトーンを変えずに続けた。
「ずっとここにいればいい」
「なに、言ってるの……? そんなことしたら君も犯罪者になっちゃう。そんなの私は絶対嫌」
美咲も毅然とした物言いでそう返す。だが、優一の耳にはまともに届いていなかった。
「バレなければいいんだ。そしたら三枝は犯罪者なんかにならない」
優一は何かに憑りつかれたように、恐ろしいほど冷静な口調でそう告げた。そんな彼の様子に、美咲の顔が引きつる。
「なに、バカなこと──」
「それに」
優一の腕にさらに力が込められる。
「俺はもう三枝がどこかに行っちまうのはイヤだ。……だから、ずっと一緒にいてくれないか」
優一はあの夏休みのことを思い出していた。
夕焼けに染まる彼女を引き止められなかったあの日。次に会った彼女は、もう前の三枝美咲ではなくなっていた。
それが、今でも優一の胸に後悔として残っていた。
「っ……ぁ、わた、し、は……」
美咲から反論の言葉は出てこなかった。何か言いたげにしていながら、喉につかえているように上手く声を発せられていない。
まるで溺れるように何かを言いかけてはやめて、と彼女は繰り返す。しかし、やがて諦めて優一の胸に顔を埋めた。
「っ……ごめん、なさい」
ぽた、と雫が落ちる。何滴も美咲の頬から零れ落ち、優一の胸を濡らしていく。
「わたし、も……っ、きみと、いたい」
震える声で、三枝美咲はそう告げた。