私に種を蒔いて。 性暴力で孕まなくなったJKと慰めえっちする話 作:黒宮魚
「はいそれでは皆さん、夏休みだからって羽目を外しすぎないように。以上ー」
開け放たれた窓から蝉の声が飛び込んでくる正午過ぎ。決められた文句を口にする担任教師の声が二年三組の教室に響いた。
話の終わった担任と入れ替わるように、日直が号令をかける。起立、礼といつも通りの挨拶をして、一日の授業が終わった。
その直後から、教室は一気に喧騒で満たされる。それもこの日はいつもより三割増しといったところだ。
生温い空気が肌に絡みつく今日は、夏休み前最後の登校日だった。眩しい白のシャツを身にまとった生徒たちは、早速今からどこにいくかといった話を楽しそうに始めている。
そんな中、誰の会話にも混ざらず、また誰からも話しかけられていない男子生徒。内田優一は、既にまとめていた荷物をもって椅子から腰を上げた。
ひっそりと教室を出た彼の足は、昇降口とは逆方向に向かった。彼の二つ隣の教室、二年一組。そこは三枝美咲がいるクラスだった。
「口止め料」を受け取った日から一週間。彼は放課後こうして彼女のクラスに足を運ぶようになっていた。
だが、彼がその教室のドアをくぐることはない。三枝美咲と言葉を交わすことさえも。
ただ教室前の廊下をゆっくりと通り過ぎるだけ。彼女がいつも座っている、教卓の目の前の席にちらちらと目をやるだけだ。
あわよくば、彼女がこちらに気づいて話しかけてくれるのでないかという期待を抱きながら。もちろん、それが実ったことなどただの一度もないのだが。
「ん」
今日もいつもと同じように、目が合うことすらなく通り過ぎるだろうと思っていた。だが、彼の足が止まった。
教室の中に三枝美咲の姿が無い。談笑しているどのグループを見ても、あの眩しい笑顔は見つからなかった。
疑問に思いつつも、あまりジロジロ見ていると変な目で見られそうと思い、そこを離れた。
そのまま彼は図書室へと向かった。一年生の頃に図書員だったからという短絡的な理由だが。
「そりゃいないか」
図書室の扉を閉めた後、優一はため息とともに呟いた。
もう図書委員ではないのか、三枝美咲はいなかった。それを確認した後、すぐに出ていくのも憚られたので、ぱらぱらと適当な本を読んでから出てきたところだ。
なんとなく借りてきた恋愛心理学の本をカバンにしまいながら、何をやっているんだとバカバカしくなった。まるでストーカーじゃないかと。
優一自身は認めようとしていないが、既に美咲のことを好きになっていた。屋上の件は少なくないショックだったが、口止め料のことは刺激的な記憶として優一の脳内に鮮明に焼き付いている。
夏休みになってしまえば会う機会は殆どなくなってしまう。優一は最後のあがきとして、屋上に向かった。
だが、もし屋上にいたとしたら何をしているか。それを考えかけて嫌になった。
悪い予感とは当たるものだ。いつも期待は裏切られてばかりなのに、何故こういう時ばかり的中してしまうのかと、優一は顔をしかめた。
立ち入り禁止の掲示がされている階段を登った先の鉄扉。それを開ければ彼のホームポジションだ。しかし、彼の手がドアノブを回すことはなかった。
「ねぇ、学校でするのやめようよ。もし誰かに見つかったら──」
「うるせえ。また口答えか?」
男と女の声。言葉や口調から、険悪な空気が伝わってくる。一週間前と同じ、三枝美咲とその兄の声だった。
「そういうつもりじゃ……。先生にバレたらお兄ちゃんだって大変じゃない」
「なんだお前、脅してんのか?」
「だから、そうじゃないって──」
どん、という音に美咲の言葉が遮られた。大方、兄が壁を叩いた音だろう。
「お前はそんなこと言える立場じゃねぇだろ。さっさと股開けよ」
高圧的な言葉だった。その後に美咲の言葉は続かなかった。
そのやりとりから、彼ら二人の関係は決して対等ではないことは明らかだった。恋人同士などもってのほかだ。
少しもしないうちに、乾いた音と男の荒い呼吸が聞こえ始める。何をしているかなど見るまでもない。
「ほんとお前は体だけは最高だよな。親父が毎日毎日お前のこと使ってるのもわかるわ」
興奮気味な吐息に交じりに、嘲笑うような声が聞こえてきた。
その言葉に、優一はびくりと反応した。親父が使っている、という言葉の意味。
三枝美咲という女が置かれている状況は、優一がしていた想像の数倍酷い境遇なのではないか、という不安が頭をよぎった。
ドアの向こうで行われている行為は合意の上のものとは思えない。それが家でも、そして父親にまでも、と考えたところで吐き気を覚えた。それと腹が煮えくり返るような怒りも。
今すぐにでも二人の前に出て行って美咲を助けたいという思いに駆られ、ドアに手を伸ばす。
しかし、ドアノブを握った手はそれ以上動かなかった。変わらず性的行為の音は聞こえてきている。だがどうしても手が動かせなかった。
そのまま数十秒ほど固まる。が、やがて優一は背を向けて、逃げるように階段を下りて行った。
結局彼は怖いだけだった。憧れていた三枝美咲が、形はどうあれ誰かのものになっていることが。
内田優一はほとんど他人と関わりを持たない。それは家族でさえ例外ではない。
今時珍しいことでもないが、優一は高校二年生になってから一人暮らしをしている。学校からはそれなりの距離はあるが、静かな住宅街のアパートの一室が彼の住居だ。
夜八時半過ぎ、優一は居間のベッドで寝転んでスマホをいじっていた。そこには三枝美咲とのトーク画面が映っていた。やり取りは一週間前の「ありがとう」という彼女のメッセージが最後だった。
それを数秒見つめてから、動画サイトのアプリを立ち上げて適当な動画を見る。だが頭に入ってこないし、面白くも感じられない。またトーク画面を出したと思えば、今度はSNSのタイムラインに目を通し始める。その繰り返し。
「あー……何やってんだ俺」
スマホをベッドに放り投げながら、優一は一人つぶやいた。その声が静かな部屋に空しく響く。
高校生にしては上等な彼の部屋は、隣室の音をほとんど通さない。だが、今ばかりは騒音でも聞こえてくれば気もまぎれるのにと思った。
頭の中を濁流のように渦巻いているのは、三枝美咲のことだ。一週間前の屋上のこと、口止め料の刺激的な光景。そして今日聞いた兄との会話。
なんとか助けたい、いやそんなのは偽善だ。見返りを求めてるだけじゃないか。いやそもそも今日のは三枝なのか、本人だったとしてもあれが無理やりだった証拠なんかないだろう。そういうプレイだったとか──
優一の中でいくつもの考えが交錯する。美術の授業でぐちゃぐちゃになったパレットのように混沌としてわけがわからなくなる。
「……もう知るか。寝よ」
いい加減疲弊してきて、自然とそうこぼれる。
電気を消そうと体を起こす。その時、ベッドの傍のローテーブルにおいてあった本が目に留まった。
気まぐれで借りてきた恋愛心理学の本。一時間ほど前まで読んでいたが、そんな本を読んでる自分がなんだか恥ずかしくて止めたのだ。
──相手が自分のことをどう思っているかは気にしすぎないようにしましょう。心理学云々の前に、心構え的なこととして書かれていた一文だ。ふとそれを思い出した。
「……まぁ、どうせ夏休み終わるまで会わないし」
たとえ変に思われてもいいだろう。もともと関わりなどなかった相手なのだから。
優一はそう思い直し、ベッドの上のスマホを手に取った。開きっぱなしだったトーク画面から、勢いに任せてメッセージを打ち込む。
送信の矢印アイコンをタップする指が一瞬だけ躊躇ったが、迷いを捨てて送信した。
『今日の放課後屋上にいた?』
まずはその確認。父親がどうとかはその後だ。
送信して十秒待つ。が、既読は付かない。
別におかしなことでもないのだが、優一は不安になった。煙たがられて無視されるかも、という気持ちが浮かんでくる。
そのまま画面を見ていることができなくて、ロックしてテーブルに置いた。そのままキッチンに行ってお湯を沸かす。
コーヒーを入れて戻ってくる。ロック画面から通知一覧を見るが、なにも来ていない。
不安感から逃げるように、オンラインゲームを始める。だが、一マッチ毎にスマホを確認している上にプレイ中も美咲のことを考えているせいでマッチ結果は散々だ。
そして、五試合目で敵と撃ち合いをしている時だった。
ぶぶぶ、と目の前に置いていたスマホが振動した。びくんっ、とまるで幽霊に遭遇した時のように体が跳ねた。
コントローラーを投げ捨ててスマホのロック解除すると、美咲からの返信が届いていた。
『いたよ』
やはり本人だったのか、という納得と落胆が同時に来る。
優一がそれを確認すると同時に続けて送信されてくる。
『内田くんもいたの?』
こちらへの問いかけにどくんと心臓が鳴る。ふー、と息を吐いて自身を落ち着かせ、返信を打ち込む。
『いたっていうか屋上行こうとしたらもう三枝がいたから』
『そうなんだ』と相槌が返ってくる。
『一個聞きたいんだけどさ』
そう前置きをして、優一は本題に入った。
『お兄さんには無理やりされてるのか?』
変にオブラートに包むようなことはせず、直接そう問う。もとより、優一は気を遣って回りくどい言い方ができるほどの対人経験がない。
とはいえ、いざ送信した自身の文面を見るとストレートすぎだろ、と後悔した。しかし、優一の心配に反して美咲からのリターンはすぐに来た。
『そうだよ』
『なんでわかったの?』
肯定と、予想外とばかりの質問。
優一としては普通わかるだろといった所感だ。美咲にとっては不思議なことなんだろうかと疑問に思いつつも返答を打つ。
『三枝とお兄さんが話してる感じからそう思った』
すぐに返信が来る。
『そっか』
『わかっちゃうものなんだね』
優一は違和感を覚えた。違和感というより不気味さとでもいうのか。
美咲は自分と兄のやり取りを客観視できていないように思えた。あるいは、普通の感覚からずれているのか。
その気持ちはひとまず置いておき、次の確認を投げる。
『それで聞いちゃったんだけどさ』
『お父さんにもされてるのか?』
その問いかけにも美咲の返答はすぐに来た。だが、ほんの少しだけ先ほどよりも遅かった。
『うん』
優一は背筋がぞくりとする感覚を覚えた。
先ほどから美咲はあまりに淡々とありのままを答えている。文面のみという形式であることを差し引いても、躊躇いがなさすぎるようにも思えた。
優一が一段落置こうとコーヒーをすすったときだった。美咲から続けてメッセージが来た。
『口止め料ほしいなら最初からそう言ってくれればいいのに』
ひゅっ、と血の気が引いた。
冷静に考えれば、いきなりこんな話を始めたらそうとられられてもおかしいことではなかった。
『ごめん、そんなつもりじゃなかった』
慌てて釈明する。しかし、これだけではただの言い訳だ。さらに続けた。
『何かできることがあればしたいって思って』
送信ボタンをタップした瞬間に、これはダメだと思った。優一自身、力になりたいと思っているのは嘘ではないのだが、疑われている状態でこう言ったところで逆効果だ。
事実、即時で返されていた美咲からの返信はそこでピタリと止まった。既読はついたが、それ以上のアクションがない。
終わった、と思った。完全に対応を間違えた。
やっぱりやらなければよかったと後悔しながら、ぱたんとベッドに体を放り出す。数秒そのまま天井を見上げていたが、やがて立ち上がってバスルームに向かった。
ガラス戸の横に据え付けられたパネルを操作して、風呂を沸かす準備をする。その時だった。
ぶーぶー、と唸るような音が耳に入った。メッセージの通知音に似ているが、微妙に違う。飛ぶようにベッドに戻って、放置していたスマホを手に取る。
電話がかかってきていた。
「……もしもし」
スマホを耳に押し当て、そう口にする。
「三枝です」
一週間ぶりの声が聞こえてくる。スピーカー越しでも、透き通るような声色に違いはなかった。
「会えないかな。今」
都内、と一言に言っても全域が都会という訳でもない。住宅街はそれなりに静かであるし、都心から離れればそれはより顕著となる。
優一達が通っている高校はまさにそこに位置している。電車に十数分乗れば都会に出るが、そうでなければ変哲もないのどかな所だ。
時刻は午後九時半。通りに面した校門に立っている優一は、まばらに通り過ぎる車両を眺めていた。
唐突に美咲から会ってくれと言われ、二人で決めた待ち合わせ場所がそこだった。
「おまたせ」
じっとりと肌に纏わりつく熱帯夜を洗い流すように、通りのいい声が優一の耳に入った。そちらへ視線を向けると、彼女が立っていた。
「あ……三枝」
よう、と軽い挨拶をした優一に、美咲は右手をあげて会釈をした。
学校ではストレートにしている黒髪が、後ろでポニーテールに結われていた。露わになった白い首筋が夜の暗闇に美しく映えている。
「ごめん、私のほうから呼び出したのに遅れちゃって」
「あ、いやいいよ。今来たところだし」
待ち合わせの定番文句を口にする。
すまなそうに微笑んでいる彼女は、白のブラウスに紺のスカートという見慣れた制服姿だった。Tシャツに短パンといういかにも部屋着ですという優一とは対照的だ。
今日は学校があったとはいえ、こんな夜までその姿であることに優一は些かの疑問を覚えた。
「また突然呼び出しちゃったね。ごめん」
「謝んなくても。俺、暇してたし」
そっか、と美咲は少しばかり安心した様子を見せた。
「とりあえずさ、少し歩かないか」
美咲を待ちながら考えていたセリフを口にする。そうだね、と同意した美咲に、優一はよかったと安堵した。
「その、三枝」
「うん?」
整備された歩道を二人並んで歩く。コンクリートを照らす黄色がかった街灯の周りを夏の虫が飛び交っていた。
「本当なのか? さっき言ってたことって」
なるべく平静を装って、優一は尋ねる。
あれ、とは当然つい小一時間前のやり取りのことだ。さすがに直接言葉にするのは憚れた。
「うん。本当だよ」
美咲はなんでもないことのように答える。ちらりと優一が彼女の顔を盗み見ると、すました顔を前へ向けていた。
「それは、いつから」
「そうだね──お兄ちゃんには一昨年からかな。私が中三の時だったから」
メッセージのやり取りと同じように、美咲は淡々と答える。優一はそんな彼女がどこか恐ろしく感じて、その顔を見られなかった。
「お父さんは……五年前から」
美咲の声色は変わらない。教師からの質問に答えるのと同じようなトーンで、ただありのままを話していた。
優一は声も出せなかった。五年前、といえば彼女はまだランドセルを背負っている年だ。そんな年端もいかない時から、それも父親からなど、考えただけでぞっとした。
「…………」
沈黙が流れる。二人の静かな足音と、車が通り過ぎていく音だけが満たす。
優一は美咲になんと言葉をかければ良いか考えていた。大変だね、辛いね、酷いな──。どれも彼女にとっては軽薄な言葉にしかならないと思った。
「誰かに相談とか、してないのか?」
「うん。してないよ」
「お母さんとかにも?」
「離婚したからいないんだ。まぁ、原因は私だけど」
自嘲するように、美咲はくすりと笑みを浮かべた。
その言葉に、優一はどういうことだ、と問うた。
「始めのころさ、お母さんに相談したんだ。それでお父さんと話し合ったらしいんだけどさ──お父さん、すごい暴れたの。お母さんのこと、殴ったり蹴ったり……。それで、お母さんは逃げちゃった。今はどこにいるのかも知らない」
優一は思わず足を止めた。正確には、動かすことができなかった。
彼は、今聞いたことが自分と同い年の人間が経験したことだと受け入れられなかった。優一とて、辛い経験をしたことくらいあるが、そんなものが砂粒に思えるほど、美咲の境遇は酷いものだった。
「内田くん?」
立ち止まった優一に美咲が振り向いた。不思議そうに首を傾げている。
「なんで、三枝はそんな普通そうにしてるんだ」
「え?」
理不尽な暴力を振るう彼女の父への怒り、というの当然あった。だが、優一の頭を埋めていたのは疑念だった。
「そんな酷いことずっと前からされてきて、なんで三枝は当たり前みたいな顔してられるんだよ」
優一の顔には怒りが浮かんでいた。人とろくに関わらない彼は、当然ながらあまり感情が揺れ動くことはない。ましてや今のように、明確な怒りを露にすることなど。
それを目にした三枝はあっけにとられたように彼を見ていた。
「だって、もう当たり前だもの」
しかし、すぐにいつもの微笑に戻ってそう口にした。
「何年もされてたらさ、酷いことだって普通のことになっちゃうよ」
「だけど、三枝だって嫌なんだろ? だったらもっと怒っていいだろ! 恨み言の一つくらい言ったって間違いじゃないだろ!」
美咲が本来するべきであろう怒りを代弁するかのように、優一は声を荒らげた。
「内田くん、声が大きい。迷惑になっちゃう」
しー、と人差し指を口に当てて優一を諫める。
学校からは離れ、住宅街の中まで歩いてきていた。確かに近所迷惑だ。
優一の頭に昇っていた血がゆっくりと下りてくる。
「あ……悪い」
「いいよ。私のために言ってくれたんでしょ?」
ふわりと柔らかく微笑みながら、美咲は言った。
それは、どこか抜け殻のような受け答えをしていた先ほどと違い、一週間前に資料室整理をした時の三枝美咲だった。
しかし、そこには僅かな影が見える。それを隠すように、彼女は背を向けて歩き出した。それに早歩きで追いついて横に並ぶ。
「内田くんは優しい人なんだね」
優一に向けてというよりは、独り言のように美咲は呟いた。
道の両側に立ち並ぶ家々の窓からは、まだ明かりが見えている。その光で、二人の影がぼんやりとコンクリートに映し出されている。
静まり返った夜の住宅街に、彼ら以外の人影は見えない。二人だけがぽつりと取り残されたような感覚を覚えた。
あのさ、と美咲が口を開いた。
「できることがあればしたい、って言ってくれたよね」
「ああ。……まあ、俺にできることなんてあるかかわかんないけど」
メッセージでのやり取りのことだ。しかし、美咲の話を聞いた今、自分がどうこうできることではないと思っていた。
「一つお願い聞いてくれる?」
美咲は変わらず正面を向いたまま言う。優一はそれを一瞥して、同じように視線を前に向けたまま「いいけど」と返した。
「本当のエッチ、教えてくれないかな」
静かな声だった。舞台袖でひっそりと話をするような音量で。だが、隣にいる優一にだけわかるほど僅かに、声が震えていた。
「私、乱暴で一方的なセックスしか知らない。だから、教えてくれないかな」
彼女の歩く速さと視線が落ちている。それに合わせて優一もゆっくりと隣を歩く。
「教えるって……俺、経験ないからできるかは──」
「いいの。君なら優しくしてくれると思うから」
何の根拠もなく、美咲はそう言い放った。柔らかく、親しみのある口調。しかし、その顔にはどこか諦めたような色があった。
「それが、少しでも三枝のためになるなら」
戸惑いながらも、優一はそう答えた。美咲は優一を一瞥した後、またすぐに視線を落とした。そうして、「うん」と小さく頷いた。