私に種を蒔いて。 性暴力で孕まなくなったJKと慰めえっちする話 作:黒宮魚
「──ヤらせてやっても、いいけど」
放課後、屋上への扉前の踊り場に霜月沙織の声が小さく響いた。薄暗いその空間の中、冷たい床に座り込んだ彼女の目が優一を見上げていた。快感の残滓があるその瞳には、どこか挑発的な色があった。
「……はぁ? どういうつもりだよ」
「だから、セックスさせてやるっつってんだよ。ドーテー野郎」
「本番はナシとか言ってたじゃねぇか」
「うっさい。知らないし」
目を逸らす沙織。だがすぐに顔を上げ、また強気な態度で言葉を続ける。
「てか、あたしのことこんなぐしょぐしょにしといてほったらかすとかサイテーでしょ」
「結局霜月がヤりたいだけじゃねーか」
「あんたもでしょ。そんなちんぽ勃起させてさ」
優一の膨らんだ股間を目で指しながら、沙織は得意げな顔を見せた。
言い返したかったが、優一も図星だった。上手い言い訳を考えるが、沙織の口は止まらない。
「女がすっきりさせてやるつってんだから素直にしたがっとけよ。それともなに? 結局ヤる度胸はない臆病童貞くんだったってわけ?」
わざとらしく見下すように沙織は嘲笑する。その顔はわずかに赤い。怒りなのか興奮か、とにかく気分が高揚しているのは確かのようだった。
「この……」
あれだけはしたない姿を見せたのにまだ煽ってくる沙織に、優一の額に青筋が立つ。つかつかと沙織の前に歩いていき、彼女を見下ろす。
「わかったよ。やってやるけど途中でお前が何言ってもやめないからな」
「あんたこそソッコーで出したら一生笑ってやるから」
沙織はブラウスを捨てて腰をあげると、優一に背を向けた。そして壁に手をついて尻を軽く突き出す。
「ほら、挿れてみなよ」
顔をこちらに向けて、にひ、と沙織が笑う。
「言われなくても」と優一は強気に言い返し、制服のベルトを緩めた。カチャカチャと無機質な音を立てて外し、すとんと床に下着ごと落ちる。
「うっわ、デッカ……」
嘲笑と、興奮が入り混じった声。沙織の目は露出された優一の剛直を見つめている。
優一はその視線にくすぐったさを感じながらも、彼女のスカートの中に手を入れた。そして、先刻の潮でぐしょぐしょになった下着をするするとおろしていく。
「あ」
膝上あたりまで脱がせたところで、優一は何かに気づいたように声をあげた。「ん?」と沙織が振り向くと、優一は気まずそうな顔で答えた。
「ゴム、持ってないんだけど」
「はぁ?」
沙織は呆れたような顔を見せた。
「準備わっるいなぁ」
「仕方ねーだろ。こんなことになるって思ってなかったし」
「男だったらそれくらい持ち歩いとくのが普通じゃん」
「普通じゃねぇよ。付き合ってるやつもいねんだから」
「なんだ、やっぱ童貞じゃん」
「それ関係ないだろ」
互いに下半身を露出させ、情事の一歩手前という状況で言い合いをする二人。
だが、避妊具なしでやるわけにもいかない。優一にもそれくらいの常識はある。
なんだか負けたような気持ちになるが、やっぱりやめようと、優一はそう言いかけた。が、先に口を開いたのは沙織だった。
「じゃあ、別にいいよ」
「は?」
「だから、ナマでもいいっつってんの。ちゃんと外に出してくれれば」
優一に顔を向けつつも、その目は伏せられている。だが、隠しきれないほどの頬の赤さが、彼女の興奮を伝えていた。
「それ、は」
「なに、ビビってんの? ダッサ」
「ちげーよ」
「じゃあなに躊躇ってんの」
「っ……わかったよ。……ほんとにいいんだな」
「そう言ってんでしょ。くどい」
刺々しい沙織の言葉だが、その声色はどこかおとなしい。囁くような声で、けれども急かすような早口。
優一も腹を決める。それに、正直なところこんな生殺しで帰るのもつらいものがあった。
「じゃあ、挿れるから」
「……好きに、すれば?」
お互いに抑えた声。自らの欲望を隠すようなそれだったが、かえって二人の緊張を煽ってしまう。
優一の手が沙織の腰に触れる。びくりと震える彼女の身体には構わず、腰を落としてソレをスカートの中へと。
「んっ……」
ぴと、と張りつめた亀頭が彼女の濡れた場所にキスをする。腰を動かして入り口をくちゅくちゅと滑らせると、粘ついた雫が数滴床へ落ちた。
「焦らすな、って……早く挿れなよ」
手をついている壁を向いたまま、沙織が苛立ちを込めた声で口にする。その口からはふー、ふー、と荒い吐息が漏れ出ていた。
優一は沙織の言葉に従い、一気に先端をナカへ突き入れた。
「ぅあンっ……!」
途端、甘い声とともに沙織の背中が反った。尻から頭までのラインが綺麗な曲線を描いている。
「霜月、平気か?」
「んっ……うっさい……こんなん何でもない、し」
そう言いつつも、彼女の脚はがくがくと震えている。が、先端を入れたまま我慢できるほど優一も辛抱強くない。
細い腰を掴む両手に力を入れ、一思いに奥まで挿入した。
「ンお──っ!」
ずぷん、と亀頭が子宮口に到達した瞬間、階段に響くほどの声が沙織の口から放たれた。沙織は慌てて片手で口を塞いだが、それでも「ンっ、んっ……」と可愛い声が漏れ出ている。
「ぅあ……霜月のナカ、やっばい……」
沙織の膣内はまるで処女のような締め付けだ。両手で強く握られているような圧迫感。
それだけでも気持ちがいいのに、我慢の効いていない沙織の腰がかくかくと揺れているせいで勝手に快感が与えられてくる。
「霜月、動いても大丈夫か?」
「いち、いち……っん、きいて、くんな……ウザイんだよ──っく、ぁ、あんたの好きなように、すれば、いいじゃん……っ」
沙織はもう余裕がないようだった。はぁはぁと熱い息を何度も吐きながら、小刻みに体を震わせている。
完全に発情状態の雌を前にして、健全な男である優一の我慢が効くはずもない。ゆっくりと陰茎を引き抜き、完全に抜けるぎりぎりのところで一気に挿入した。
「あっ……! んっ、おっ……ふ、んっ、んンっ! あっ、これ、やばっ……ふぅ、っん、ぁん……っ!」
どちゅ、と奥をえぐってから、また引き抜いて挿入。それを激しく何度も繰り返す。
先の愛撫でとっくに奥まで濡れそぼった沙織の膣内に、その動きを妨げるものは何もない。ただ膣肉がいやらしく絡みついて、抱きしめるような締め付けで愛撫してくるだけだ。
「霜、月……っ、めっちゃキツい……っ」
「っお……、おっ、うっさいっ、ヘンタイ……んっ、ぁ、オっ……だまって、ぁ、んぉ……腰振ってろ……っ、ぁく、んんっ……!」
沙織の言葉は変わらず反抗的だが、合間に喘ぎ声が挟まるせいではしたなさが強調されている。それは、もっと乱してやりたいという嗜虐的な欲望を燃え上がらせてしまう。
優一の腰の動きがさらに激しくなる。沙織の膣奥に向けて絶え間なくピストンを繰り返し、ばちゅばちゅと音を立てる。
すると沙織の身体はさらに痙攣し、一緒に膣穴の締め付けまできつくなった。どくん、と睾丸の奥にねばついた液体が汲み上げられ始める。
「ぁ、あっ、おっ……アっ、あっ、すっご……っ、おっ、んぉっ──ちんぽ、なっが……っ、あっ、ほ、ぉ……っ!」
その激しい性交に、沙織は容易く乱れた。甲高い可愛い喘ぎ声ではなく、獣のような下品な声を漏らしながらよがっている。
奥へ突き入れると、その声とともに白い背中がびくんと反る。傷一つないその肌とコントラストになっているスカートが淫らな美しさすら演出している。
そして、そのたった一枚の布の下では、雄と雌の象徴がいやらしく絡み合っていることを想像すると、ぞくぞくと興奮が上ってくる。
「霜月っ……よすぎて、もう出そう……っ」
「おっ……んっ、ぉ、あっ……うちだの、っお、ん、ちんぽっ……やっばいっ……ん、ぉ、あっ……イキ、そ……っ」
沙織はもう優一の言葉など耳に入っていなかった。淫らに緩んだ顔で快楽まみれの声をあげるだけの雌になり下がっている。
優一は最後の快感を貪るように、彼女に抱きついて両胸を鷲掴みにした。まるで計算されたように優一の手にぴったり収まるサイズの乳肉。それを好きに揉みしだいて揺さぶる行為は、実りかけの果実を弄ぶようで背徳的だ。
「んあっ! ぉ、んぉ、オ……っ、おっぱい、は……っ、あっ、だめっ……あっ、へんたい、やろぉ……っ、ほ、ぉ……っ、あっ、だめっ、いぐ、イっぐ……っ!」
びくびくと彼女の身体が痙攣しだす。口の端からは涎が床まで垂れ、細い両脚は崩れ落ちてしまいそうなほどがくがくと震えている。
そこへ容赦なく腰を打ち付ける優一。細い体を後ろから抱きしめ、逃げ場のない沙織を犯すように。
「あっ、ァ、おっ、お……っ、あっ、むりっ……イク、いっく……っオ、ぁ、んっ……いぐ、イッグ──イグっ……!」
瞬間、沙織の中で何かが弾けたように背中がのけ反る。それと同時に、ぷしゅ、と沙織の秘所から勢いよく潮が吹き出した。
「あっ……ぁ、あ……っお、ほ……っ、ぉ、あっ、イってる……っ、お、あっ……すっご、ぉ、きもち、ぃ……」
ぷしっ、と何度も小刻みに潮を吹きながら、沙織は絶頂を貪っている。膣肉はもともときつい締め付けが一層増し、そのまま中で出せとせがんでいるかのよう。
その誘惑に名残惜しさを感じつつも、優一はずるりと射精寸前のモノを引き抜いた。
「く、霜月……っ」
抜いた瞬間の刺激がトリガーになって、そのまま白濁があふれ出す。当然それは、つい今まで挿入された膣穴めがけてどぴゅどぴゅと発射されていく。
「っあ……せーし、あっつい……ぉ、あっ、ん……」
うっとりとした声で沙織が呟く。まだ絶頂の最中にいるようだ。
そんな彼女に甘えて、残った精液を吐き出す。どっくん、どっくん、と鈴口から塊が出ていく快感もたまらないが、それが彼女の雌穴を容赦なく汚しているという事実が余計興奮させた。
「は、ぁ……は──」
幾ばくか立ち、沙織も優一も快感の波が引き、段々と冷静になってくる。特に沙織は強気に煽っていた癖にあれだけ乱れてしまったことが恥ずかしいのか、無言で息を整えている。優一もそんな彼女の様子を察して何も言えなかった。
だが、いつまでもそうしているわけにもいかない。優一は床に落としていたズボンから青地のハンカチを取り出した。
「その、結構汚しちまってごめん。拭くよ」
ハンカチを持った手を股座に近づける。ぼた、と重い液がハンカチに落ちてくる。それが何なのかなど見るまでもなかった。
そして躊躇いつつも、どろどろになった秘所にハンカチをそっと触れさせた。
「っ……触んな! それくらい自分でできる」
がし、と手首を沙織の右手がつかんだ。そのまま「よこせ」とハンカチを奪い取られる。
優一には背を向けたまま、スカートの中でもぞもぞ彼女の手が動いている。それを呆然と見つめていたが、沙織の目が鋭く睨んだ。
「……何見てんの。さっさと帰れ」
すねるような口ぶりでそう言うと、また顔を壁に向けた。これ以上の会話はお断り、という態度の彼女に、優一は従うしかなかった。
「じゃあ、帰るよ。……今日は、その、いろいろ悪かった」
煽られたとはいえ、色々と沙織に好き勝手したことへの罪悪感がそう言わせる。が、「うっさい」と沙織は一蹴した。そんな彼女を一瞥し、優一は服装を正して階段を降りて行った。
翌日。曇天だった前日が嘘のように晴れ、西日がじっとりとした暑さを主張してくる放課後。
授業の終わった優一は下駄箱で靴を履き替え、昇降口を出た。後はいつものように帰って家で映画を見るだけ、のはずだった。
「……あれ」
校門付近で談笑する生徒たちに紛れて、知った顔があった。ショートカットにした艶のある茶髪。
霜月沙織は、誰と会話するでもなく一人で校門に寄りかかっていた。まるで誰かを待っているような様子。
その相手には偶然ながら心当たりがある。優一はその予想が当たっていないことを祈りながら、そっとその横を通り過ぎる──。
「おい」
ことはできなかった。優一の予想は当たっていた。
声のしたほうに目を向けると、泣き黒子が印象的な沙織が優一を睨んでいた。
「あー……なんか用か、霜月」
「なんか用ですよ。なに知らないふりして通り過ぎようとしてんの」
腕を組んで、不満げな表情を優一へ向けている。
「昨日のことか?」
「それ以外にあるかっての。あんたと私に」
沙織は寄りかかっていた壁から離れ、優一へつかつかと向かってくる。そして目の前まで来ると、口を開いた。
「ちょっと付き合ってよ。あんたに拒否権ナシね」
それだけ言うと、優一に背を向けて校門の外へと歩き出した。しばしそれをぼうっと眺めていたが、はっとして早歩きでついていく。
勝手にも程があるが、あのまま校門で話し込むよりはマシだ。ストーカー野郎とヤンキーかぶれが会話しているなど悪い意味で目を引く。実際、周囲にいた生徒たちの奇異の視線を既に集めていた。
「で、なんだよ」
彼女に追いついて横に並ぶ。通りに面した歩道には同じ高校の生徒のほかに、小中学生や犬の散歩をする老人が歩いている。
優一の問いかけに沙織はすぐに答えず、肩にかけたバッグのジッパーを開けた。そして中から一枚の布切れを取り出すと、優一に差し出してきた。
「ん」
それは、昨日沙織に貸した──というより奪い取られてそのままだったハンカチだった。正直なところ、優一はそんなことなど忘れていた。
あっけにとられて何もできずにいると、沙織は不機嫌そうに「ほら」と優一の胸に押し付けてきた。
「あっ……おう」
落としそうになりながら慌てて受け取る。そこで優一は一つ気が付いた。
「これ、洗濯してくれたのか」
渡されたハンカチは綺麗に畳まれているだけでなく、すぐにわかるほど手触りがよかった。
「当たり前でしょ。あたしだってそれくらい常識あるよ」
物珍しそうな顔をする優一に、沙織は拗ねた口調で答えた。
「そっか。ありがとう」
「うっさい」
フェンス越しに見える学校のグラウンドに目を向けながら、沙織は小さな声で呟く。変わらず棘のある態度だが、幾分か昨日よりも親しみがあるようにも思えた。
「それで、用ってこれだけか?」
返されたハンカチをポケットにしまいながら尋ねる。
「これだけで付き合えって言うわけないでしょ」
「じゃあ何だよ」
「えっと、だから、その」
ずけずけと物を言う沙織にしては珍しく、気恥ずかしそうに言い淀んでいる。優一が律儀にその先の言葉を待っていると、やがて観念して口を開いた。
「昨日は、ごめん。あたしちょっと言い過ぎたし、調子乗ってた」
それは謝罪の言葉だった。
さすがに照れくささがあるのか、視線は斜め下を向いている。左手は所在なさげに肩口で揃えられた髪をいじくっていた。
「いや、その……俺も大人げなかった。悪かったよ」
「別にあんたは──まぁいいや。そう、あんたも悪い。女の子にあんなガン攻めするとかマジありえないから」
ぴ、と指さしながら沙織は幾分か威勢を取り戻した。優一は「やれって言ったのはお前だろ」と言い返したくもなったが、また言い合いになりそうなのでやめておいた。
そのまましばらくはお互い無言のまま歩いていたが、「あのさ」と沙織が口を開いた。
「それで、その。お詫びにさ、ちょっとお茶でもいかない?」
予想外の提案に、優一は思わず足を止めた。「え」と気の抜けた声を出して。
それを見た沙織がくすりと笑う。
「何その間抜けな顔」
「は、はぁ? お前がいきなりらしくないこと言うからだろ」
「うーわ。そうやってあたしのこと決めつけるんだ。あたしが何言おうとあたしの勝手ですー」
優一はまた言い返したくなるが、ぐっとこらえた。せっかくの沙織からの厚意を無下にはできない。
「……で、お茶だっけ」
「そう。あたしの奢りで。……どう?」
平坦な口調だったが、最後の尋ね方だけ遠慮がちだった。
断る理由もなかった優一は「いいよ」と首を縦に振った。加えて、純粋に女子とお茶というシチュエーションを魅力的に思う気持ちもあった。
「じゃ、決まりね」
「いらっしゃいませー!」
からんからんとドアを開けると同時に、爽やかな男性の挨拶が飛び込んできた。店内の涼しいエアコンの空気を浴びていると、少しもしないうちに声の主が奥から出てきた。
「お、沙織ちゃん、いらっしゃい。随分久しぶりだね」
「あはは、夏休みの間はあっつくて引きこもってて」
「そっかそっか。お、今日は彼氏とデートかな?」
「違いますよ店長。ただの同級生」
カフェの制服を来たその店長は、身長の高いイケメンだった。二十代後半といったところか。
彼も沙織も親しげな様子。道中沙織が話していた通り、ここは彼女の行きつけとのことだ。
「おっと、ごめんごめん。それじゃ、席はお好きなところにどうぞ」
「はーい、ありがとーございます」
軽く手をあげて挨拶しながら、沙織は迷いなく店の奥へ入っていく。優一がそれに続こうとすると、「頑張ってね」と店長が激励をしてきた。何か勘違いされているようだが、「あざす」と適当に返事をして沙織に付いていった。
「いいとこ知ってるんだな」
向かい合わせになったソファの二人席に腰をおろし、優一はそう言った。
沙織が案内したこのカフェは、街中からはほんの少し外れたところにある。それほど大きくない通りに面した、隠れ家的なカフェだった。店内もシックなデザインの内装を必要最低限の灯りが照らしている、落ち着いた雰囲気だ。
「そうでしょ? 伊達にいろんなところ行ってないからね」
「好きなのか? こういうところ来るの」
「あたし、友達とかとつるんで騒ぐの好きじゃないんだよね。だからこういうカフェとかイケてるレストランとかよく行ってんの」
「ふーん。なんか、霜月って見た目より大人なんだな」
「見た目よりってなにさ。あたしはあんたみたいなガキとは違うの」
「同い年のくせして何言ってんだか」
ふん、と昨日の彼女を真似るようにわざとらしく優一が嘲笑うと、「あ?」と目が笑ってない笑顔で足を蹴とばしてきた。
と、そうして二人でくだらないやり取りをしていると、先ほどの店長が席まで歩いてきた。
「ご注文はもう決まってるかな?」
爽やかな笑顔を見せる彼に、「えーっと」と沙織は広げていたメニュー表に目を走らせた。
「アイスカフェラテと、宇治抹茶パフェで。あんたは?」
「え、あ、俺?」
初めて来た上に碌にメニューも見ていない優一は当然何も考えていない。
「えーっと、ホットコーヒーで」
「そんだけ? 甘いものは? ここのおいしいんだから」
「いや、俺まだメニュー見てないし」
「えぇ? 相変わらず準備悪いんだから」
呆れ顔を見せながら、またメニュー表をめくる沙織。
「じゃあ店長、スペシャルイチゴパフェで」
「えっ」
「かしこまりました」
優一が口を挟む間もなく勝手に注文が決まってしまう。優一は気づかなかったが、スイーツの中で一番高いものだった。
「コーヒーに砂糖とミルクはお付けしますか?」
「あー、不要で」
「かしこまりました。それでは少々お待ちください」
丁寧に礼をして、店長はカウンターの奥へ消えていった。
「なに、あんたブラック? かっこつけちゃって」
「そんなんじゃねーよ。家でもいつも飲んでんだよ」
本当は中学生の頃に見たハードボイルド映画を真似していたら習慣になってしまっただけだが。
「……そういえば、霜月。その、昨日あの後大丈夫だったか?」
昨日、沙織自身に促されたとはいえ、彼女を放置して帰ったことがずっと気がかりだった。
「んー別に? 普通に家に帰るくらいはできますよそりゃ。ま、あんたが散々やってくれたせいでしばらく脚がっくがくでそりゃもう大変だったけど?」
「う……それは、その、悪かったよ」
「結構。……まぁでもあたしも自業自得なとこはあったけどさ」
そう言って霜月は満足そうに笑った。
「……あんたさ、童貞じゃないんだよね」
「そう言ってるだろ」
眉をひそめて優一はそう返す。が、それを気にも留めず、沙織は興味津々といった顔で尋ねてきた。
「教えてよ。初めてって誰だったの?」
「なんで教えなきゃなんだよ。ってか昨日プライベート詮索すんなって言っただろ」
テーブルに両肘をついて、沙織は品定めするような目を優一へ向ける。
「なんかさー、気になるんだよね。付き合ってる奴もいないし、サボってるからって外で女作ってるようにも見えないし」
最後に「あんた陰キャだし」と余計な一言を付け加えて沙織は言う。
内面まで見透かされたようで思わずどきりとするが、三枝美咲のことを口にするわけにはいかなかった。
「嫌だ。教えたくない」
「はー? ケチ野郎」
「どうとでも言え」
優一はぴしゃりと否定して窓へと目を向ける。その態度に、「そうですか」とため息を吐いて沙織はソファに体を預けた。
「じゃあ、そういうお前はどうなんだよ」
しばし外を歩くまばらな人の流れを見ていた優一だったが、ふと興味が沸いてそう尋ねた。
「ん? 何が」
「霜月だって昨日が初めてじゃないんだろ」
昨日の彼女の煽りは、引くに引けなくなったとかではなく、普通に勝ってバカにしてやる気満々だった。沙織に色々としているときも、乱れてこそいたが初めてという感じでもなかった。
「うっわー……女の子にそういうこと聞くとか引くわ」
当然といえば当然だが、沙織は身を引きながら冷ややかな目線を優一に向ける。
「そりゃ悪かったな。別に言いたくないなら構わないよ」
優一自身、元から答えを期待していないことだ。おとなしく引き下がった。
が、沙織は意外にも素直に口を開いた。
「別にいいよ。……まぁ、普通に彼氏」
「えっ。それは、今も付き合ってんのか?」
「付き合ってたらあんたとデートみたいなことしないっての」
「馬鹿なの?」とでも言いたげな視線を沙織は送ってくる。
「高一の時にコンビニでバイトしててさ、そこの先輩の大学生と付き合ってた。まぁ、色々あって半年以上前に別れたよ」
彼女にしては珍しく、真面目なトーンで淡々と語っていた。真面目、というよりは無感情のほうが近いか。
優一は「そっか」とだけ答えた。これ以上は無暗に詮索するべきではないと、なんとなく感じ取っていた。
そうしてしばらく雑談に興じていると、カウンターの方からかつかつと足音が近づいてきた。
「お待たせいたしました」
その声は店長ではなく、女の声だった。それも随分若い。
「あっ……」
不意に霜月が小さく声を漏らす。見ると、自分の前にカフェラテとパフェを置く女性店員を見上げていた。
それを不思議に思い、優一もその店員に目を向けた。その瞬間に固まった。
「さ……」
そこにいたのは、黒を基調としたカフェの制服を身にまとった三枝美咲だった。いつかの夜のように、長い黒髪を後ろで結んでポニーテールにしている。
それを認識したと同時に美咲と優一の目が合う。美咲は一瞬大きく目を見開いたが、すぐに元に戻った。
美咲は淡々とメニュー名を読み上げながら優一の前にカップを置くが、優一はそれを呆然と見ていることしかできない。
そして、料理を置き終わった彼女が「失礼いたします」と口にしようとしたとき、その背後から店長が現れた。
「ごめんごめん、ちょっと失礼するね」
相変わらず爽やかな笑顔のまま、少しすまなそうな顔で話しかけてくる。
「彼女、最近知り合いからの紹介で入った三枝ちゃんって言うんだけど、多分沙織ちゃんと同じ高校なんじゃないかなって思って」
「え、あ……はい、そうです」
沙織が答えるが、優一がいる手前ぎこちない。
「やっぱり、制服が同じだからそうだと思ったんだよ。同級生だったり?」
「あ、はい。あっ、でもあたしもこいつもクラス違うんであんま三枝さんとは話さないんだー……」
若干引きつりながらも笑顔を浮かべて、沙織は上手い具合に誤魔化す。その間、優一は黙ったままだった。というより、下手に口を挟める状況じゃなかった。
「そうなんだ。じゃあ良ければこの機会に仲良くなれるといいね」
「あはは、そうっすねー。三枝さん、よろ~」
らしくない愛想笑いをしながら、沙織が美咲に手を振る。美咲も軽く微笑みながら「よろしく」と会釈した。が、おそらく彼女も愛想笑いだ。
そんなやり取りをしたのち、店長が「ごゆっくりどうぞ」と言って美咲を連れて去っていった。
「うっは。やばかったね」
二人の姿が見えなくなってから、沙織は面白そうな顔でそう口にした。
「良かったね。こいつストーカー野郎ですぅーとか言われなくて」
「シャレになんないからやめてくれ」
わざとらしく演技がかった口調でからかう沙織に、優一はかぶりを振った。
「あんたも大変だよねー。サボリーマンのストーカー野郎とか言われちゃって」
「霜月だってヤンキーかぶれとか言われてるだろ」
「あたしはそんなの気にしてないし。そもそも、あたしのこと碌に知りもしない奴に何言われようと関係なくない?」
「それは、確かに」
沙織の言葉は、優一にも当てはまるものだった。彼女がそれを意識して言ったのかはわからないが。
「でしょ?」と沙織は得意げな顔をして、カフェラテをストローで啜った。それにつられて、優一も手を付けていなかったコーヒーを一口含んだ。
「あんたさ、なんで授業サボってんの?」
くるくるとストローでグラスをかき混ぜながら、沙織が口を開いた。
「なんだよ急に」
「いいから。あたし気になること全部確かめないと気が済まないタイプだから」
「いや普通に授業全然わかんねーし、やる意味ないなって」
「嘘」
適当に誤魔化した優一だったが、間髪入れずに沙織は見抜いてきた。頬杖をついてこちらを見る沙織の大きな瞳は、心の奥まで見透かしてくるようだった。
「あんたほんとは頭いいでしょ。この前の補習終わらせるのめちゃ速かったじゃん」
「……よく見てるんだな」
優一は沙織への認識を改めた。元々の風評や昨日の会話からガサツな人間だと勝手に決めつけていたが、存外色々なところに目を向けている女性なのだと。
「別に誰にも言わないし教えてよ。あたし嘘つかれるのキライ」
彼女の目は真面目だった。声は抑えているが、僅かに怒りもにじんでいるようだった。
そんな彼女の様子に、「ごめん、わかったよ」と優一も観念した。優一自身、思い出したくないことだったが、不思議と沙織にであれば話してもいいと思った。
「行きたかった私立の高校に落ちてさ。でも、弟はそこに受かっちゃってよ。それで、なんかもうどーでもいいなってなって。それだけだよ」
「ふーん」
適当な相槌を打って、沙織はパフェを一口含んだ。それをゆっくりと味わってから飲み込むと、再び優一を見て口を開いた。
「くっだらね」
吐き捨てるような言い方だった。だが、昨日の嘲笑するような口ぶりとは違うものだった。
「それくらいでいじけてるとかクッソダサいんですけど」
「バカにしてんのか」
詰め寄った優一を見ながら、沙織はソファに寄りかかって脚を組みなおした。
「バカにしてるよ。いじけてたらマジで惨めで弟クンの勝ちじゃん。見返そうともしないでウジウジしてる奴とかあたし大キライだから」
罵倒する言葉が来ると思っていた優一の予想とは裏腹に、沙織の言葉は前向きなものだった。当然、煽り癖がある彼女らしくひねくれたものだが、本意は彼女なりの激励なのだろうと優一は受け取った。
「じゃあ今のままのほうがいいかもな。お前に嫌われてたほうが」
それに素直に返すのが気恥ずかしくて、優一は冗談っぽくそう口にした。当然、沙織は不満げな顔を向ける。
「は? なに、どういう意味」
「ストーカー野郎とヤンキーかぶれがつるんでたらヘンな目で見られるだろ」
「あー? 内田あんたぶっとばずぞ?」
沙織はぽきぽきと指を鳴らしながら、怖い笑顔を見せてくる。
「ごめん、冗談だよ。まぁ、じゃあちょっとは見返せるように頑張ってみてもいいよ」
「なにそのえらそーな言い方。腹立つんだがー?」
言葉とは裏腹に、明るく顔を綻ばせて沙織は言う。それを見て、優一は何となく温かい気持ちになっていた。誰かとこうして変な気を遣わずに話すことなど、しばらくしていなかった。
その後も二人は他愛もないやり取りをしながらお茶をして、店を出たのは陽が沈みかけるころになっていた。ちなみに会計は全部奢るという沙織を押し切って割り勘となった。優一も、男としてそれくらいのプライドはあった。
「それじゃ、あたしはここで」
カフェから徒歩十分ほどの駅の改札前で沙織は優一に振り返った。彼女は電車通学をしているらしく、駅まで二人で一緒に歩いてきた。
「おう。今日はありがとな。美味しかったよ」
「そーでしょ? もっとあたしに感謝してよね」
にひ、と白い歯を見せながら沙織は笑った。
「霜月。またどこか行かないか? 今度は俺が店探しておくから」
駅までの道中に考えていたことを優一は思い切って口にした。決して長い時間ではなかったが、沙織といて楽しいと思う自分に気づいていた。
沙織は優一の言葉に面食らったように目を丸くした。そして、口を隠して少し考えるそぶりを見せた後、口を開いた。
「あんたにいい店見つけられるなんて思わないけど、まぁ考えてあげてもいいよ」
意地悪そうに、だけれど柔らかい笑顔を見せて沙織はそう答えた。
優一がそれに「よろしく頼む」と返すと、沙織は「それじゃーね」と手を振って改札を抜けていった。人混みに紛れ、その茶髪の姿が見えなくなるまで、優一は彼女を見送った。