エロ本くらい誰だって読むだろう。
年齢制限があるとは言え、ネット環境があれば簡単にアクセス出来てしまう今の時代、健全な青少年に見るなという方が難しい。
だから、わざわざ買う必要は無かったんだ。
古本屋で見つけた一冊の本。
店に入ったのも偶然だったのなら、この本を見つけたのも偶然だと言える。
商店街の裏路地。近道をしようとたまたま入った通りに見つけた古本屋。
店の外観よろしく中の本も古そうなものばかりで、大衆向けの書籍よりも、学術書みたいな雰囲気の本が多いような印象を受ける。
だからだろう、この一冊が浮いて見えたのは。
この書店からすれば物珍しい一角だった。学生が好みそうな漫画やラノベが収められた一角にこの本はあった。
成人向け。黄色い枠の中に書かれた文字が、僕の心を刺激する。
そりゃあ見るだろう。特にビニールに巻かれている訳でもなければ、店員が座っているカウンターは本棚の向こう。監視用のカメラも無ければ鏡だってついてはいない。
キョロキョロと辺りを見回して、他に人がいないのも確認すれば、本棚からそれを抜き取るのにためらいは無くなっていた。
「おぉぉ…」
最初に目に入った表紙の絵に僕は堪らず息を漏らした。
理想の美少女、そう言って差し支えない。
銀色の髪に白い肌、こちらを見つめる紫色の瞳はどこまでも美しい。
優等生かお嬢様。深と、その美少女が纏う落ち着いた雰囲気は、僕を虜にしながらも、不思議と心を落ち着かせてくれるものだった。
こんな綺麗な子が、今からどんな姿を見せてくれるのか。
想像しただけで僕の股間のモノは反応し、ズボンの中が窮屈になった。
「イケないんだ? 成人向けって書いてるでしょ?」
「うっ。で、でも…カバーとか無かったし」
表紙を開き、最初のページをめくろうとした所で声を掛けられる。
綺麗な人だった。だというのに、どうしてか印象に残らない不思議な人。
どこにでも居る黒猫みたいで、見かければそう言えるのに、いざ特徴を思い浮かべようとすると全体の印象がぼやけていってしまう。
「どれどれー、キミはどんな本を読んでるのかな?」
「まだ、読んでは…ちょっ、みないでくださいっ」
「うちの売り物を手にしといて、見ないではないでしょう?」
その店員さんと思しき美人は、僕の肩越しにエロ本を覗き込むと、人好きのする笑みを浮かべて微笑んだ。
「ああ、コレか。こういうの好きなんだ?」
「別に…ちょっと、表紙が気に入ったってだけで」
良い匂いがする。紙と、インクと、たぶん本の匂いだと思うのに、その匂いにドキドキさせられた。流れ落ちる黒髪に頬を撫でられ、どうにもそれがくすぐったくて気持ちがいい。
「それ、幾らだったら買ってくれる?」
「え、いや、でも。売って良いんですか?」
「みたいんでしょ?」
「そりゃぁ…まぁ」
「青少年の味方なんだよ、お姉さんは。ま、今の時代ネットでいくらでもみれるしね、紙媒体の良さも知ってほしいのさ」
「じゃあ、タダで持ってっちゃいますよ…なんて」
「構わないよ。それが君にとっての価値ならね。タダ同然のエロ本で興奮するのもまた少年の特権だよ」
そう言われると流石にモヤモヤする。
持っていっても怒られはしないだろう。初対面の筈なのにそんな確信はあった。ここで読んでいったってきっと、からかわれはするけど何もされないはずだ。
まあ、流石に知らないお姉さんの前でエロ本を読む度胸はなく、人目を気にした僕は、早急にこのエロ本に価値を付けないといけなかった。
「でも、内容もわからないし…幾らかなんて。表紙は、そりゃ綺麗だけど」
「当然だね、ではこうしよう。つまらなかったら返しに来ると良い。キミの払ったお代はその時に返却しようじゃないか。もちろんそれも面倒なら、10円でも100円でも、拾ったエロ本だと思って持っていってくれて構わないよ」
「いえ、状態もいいのにそれは流石に…えっと、それじゃあ…」
財布を開き中身を覗く。
500円玉でもあればよかったけど、あいにくと手持ちには無かった。
100円か、1000円か。流石に雑多な小銭で済ませる気は起きず、僕は自分の許せる金額を一枚引き抜くと、お姉さんに差し出した。
「1000円…これで、どうですか?」
「奮発するんだね」
「そうですか? 相場…くらいだと思うんですが」
「新品ならそうだろうが。まあ、預かっておこう。後でつまらなかったと嘯いても構わないさ、気楽に楽しみなよ」
「はい。それじゃあ、失礼します」
なにか、狐に摘まれたとでも言うような感覚だった。
現実感が酷く薄い。自分がどうやって帰ったのかすらあやふやで、ひらひらと手を振るお姉さんに見送られた後、気づけば僕は、自分の家の前に立っていた。
ーーーー
部屋に戻った僕は、荷物を放り出すと、持ち帰ったエロ本に夢中になっていた。
ページをめくる手が止まらない。逸る気持ちを抑えるのだって大変だ。
瞼は開きっぱなしで、閉じる一瞬さえ惜しく、ページの一枚一枚に描かれた光景が僕を捉えて離さない。
銀髪の美少女があられもない姿を晒して、乱され、犯されていく。
男のモノを握って、咥えさせられて、最後には処女さえ奪われていた。
嫌だ、嫌だと、口では言っても、身体はどうして言う事を聞かず、少女の意思に反して快感を深める身体に流されていく様は、堪らない興奮を僕に植え付けていた。
催眠ジャンル
主流でもないが珍しくもない。
元々が都合の良い展開に進むエロ本の中でも、とりわけ都合のいい部類の話し。
催眠なんてあるわけない。
いや、あるにしたって相手を意のままに操るなんて、もはや魔法と同じだろう。
だからこそ夢を見てしまう。物語の中に描かれた理想に憧れる。
僕もこんな風に可愛い女の子を好きに出来たらって、思うほどに手は止まらず、高まってきた射精感を耐えることすら難しかった。
「うっ、くぅぅぅっ…!! はぁっ、はぁっ。す、すごいな…これ」
受け止めた手の平に広がる熱さ。
包み込んだティッシュの一枚二枚では吸いきれず、グズグズになったティッシュを溶かす様に、握りしめた僕のモノから精液が溢れてくる。
そんなに溜め込んだつもりはないんだけど。
2、3日。精々その程度だったのに、今までの自慰の中で一番吐き出してしまっていた。
気がつけばページも最後。もう終わりかと惜しむ反面、次のページに期待が募る。
そうして、散々に犯され、汚されて、口だけの抵抗をしていた少女の瞳から涙が溢れる。その頃にはもう、清楚だったお嬢様はすっかりと、スケベな女に変わってしまっていた。
「1000円…は、良いかなぁ」
学生の身。唐突な出費としては決して安くは無かったけれど。
思いがけない満足は、それ以上の体験を与えてくれた。
一体誰が書いたのだろう?
同じ作者の本が他にもないかと気にかかり、ページの裏をめくって奥付に目をやった。
QRコード。
そこには作者も、日付も、連絡先も何もはなく、合ったのは四角の縞々。なんの変哲のないそれでしかない。
それだけというのには、流石に警戒させられる。
商業誌ならあり得ないし、同人誌だったら多分作者のページに飛ばされるんだろうけど、それにしたってサイト名やらアドレスやらは横付けされてるはず。
果たして僕は、誘惑に負けたのは確かだった。
これが悪質な悪戯というの線も無くはないとは分かっていても、もっと読みたいという欲求には抗えない。気づいた時にはもう、パシャリとコードをスマホのカメラで読み取っていた。
しかしだ。切り替わった画面は僕に何の要求もしてこないまま、直ぐにもダウンロードからインストールへと進んでいく。
「あーあ。これ、あのお姉さんに文句言えるのかな」
古本屋に文句いっても仕方がない気もするけど、さっきまでの興奮の最後がこれでは、興ざめというかなんというか。
まあ幸い、個人情報的なものも特には無かったはずだし、初期化すればいいだろうと軽い気持ちで、インストール完了と表示された画面に指を置いていた。