「んっ…あれ、私」
慣れない布団の感触に目が覚める。
寝苦しかったわけじゃない。むしろ、何時もより清潔すぎて、それが逆に落ち着かなくさせていた様に思う。
「ここ…ホテルに、そっか、彼と…あ」
体を起こし、掛け布団が剥がれていくと、自分が裸だった事を思い出す。
それは同時に、彼と肌を重ねていた感触をも呼び起こして、かぁっと顔が熱くなってしまった。
着替えと、スマホと、慌てて荷物に駆け寄って、毎日の手癖か、あるいはその行為を恨んだかもしれない。
どうせ時間の問題だったのに、その瞬間に、スマホの画面を開いたのは迂闊だった。
画面には、私を心配する恋人からのメッセが数件。
それだけのこと、たったそれだけの事に、嬉しくなるどころか、私の背筋は冷えていった。
だって、おかしい。
昨日、私は彼とデートして、ホテルに泊まって、二人で過ごして…。
心がチクリと痛んだ気がする…。
考えちゃダメ、考えちゃダメ。心臓がバクバクと胸を叩き、思考を逸らそうと警笛を鳴らす。
「え…。いや、なんで…」
だけど、私は見てしまった。
そこに居るはずの彼の姿を求めてベッドを見る。
昨日はあの後二人で眠った。だからそこに彼がいないとおかしいのに。
「峯岸…くん」
その瞬間に、私は自分の口元を抑えていた。
喉元にまでせり上がってきたモノを必死に堪えると同時に、洗面台へと慌てて駆け込んだ。
「けほっ、かほっ…うぇ、ぉぇ…んぅ、くぅ…いや、いやぁぁ…なんで、私」
違う、あれは、違う、あんなのぜったい嘘。恋人と二人で居るはずだった。
なのに、あそこで寝ているのは峯岸 透で、好きも嫌いもなかったはずのクラスメイト。
記憶が蘇ってくる。
二人で過ごした夜の記憶。抱き合って、キスをして、身体を重ねて。
行為に慣れない身体は、今更思い出したかのように、鈍い重さを下腹部から伝えてくる。
その重さに酷く気分が悪くなり、お腹を抑えながら、突っ伏すように洗面台の前で体勢を崩した。
「あ、ぉ…っ、い、や、わた、し…なんで、うぇぇっ」
えづいて、吐き出して、それでも不快感がなくなってはくれない。
恋人と初めて過ごした夜の筈だった。幸せ一杯に目を閉じたはずだった。
だけど、思い返せばどうだ。あんなのに抱かれて、絆されて、中にまで出されて。
下腹部に掛かる鈍い痛みは、未だに彼の精液を抱え込んでいるみたいで気持ちが悪い。
「そんなの、なんで、わかんないよ…誰か、たすけて…あ」
恋人の名前を呼びかけて喉が詰まった。
今の自分に助けてもらう価値があるのかさえも分からない。
なんて言い訳すれば良い。どうやったら許してもらえるの。
キスだけならまだ、脅されただけだって言えたかもしれない。
なのに、こんな風に汚されちゃって、レイプされたんなら、まだ良かったのに。
焼け焦げた私の記憶はそれを否定していた。
期待した胸の高鳴り。身体を縛る快感と、心を満たす多幸感。
身体を許し、明け渡して、彼のモノを受け入れた時の幸せは、鈍い重さとなって今でも身体を苛んでもいる。
「にげ、なきゃ…じゃないと、私、これ以上…一緒にいたら」
彼の前で嘘が付けない。彼の言うことに逆らえない。
それどころか、知らないうちに、自分の意思とは無関係な所で、次はどうなるのか分かったものじゃない。
怖い、と…。仮初めの幸せは、心を満たす恐怖に代わる。
着替えもそこそこにカバンを掴んだ私は、ホテルの部屋を飛び出していた。
ーーー
「くくっ、あははは…スゲーな、このアプリ」
部屋から飛び出した なずなを見送った後、僕は思わず笑い転げていた。
軽く言うことを聞かせられるだけ、まあ少しくらい良い思いが出来たら良いと思って始めた事ではあったが。
朝霧 なずな。深度 5
アイテム獲得:動画・初夜
気づけば、深度は随分と進んでいた。おまけに動画まで手に入ったんなら、次はもっと彼女の心を揺さぶれる事だろう。
いちいち深度を上げていくのも面倒かと思っていたけど、それもゲーム間隔に思えば段々と楽しくなってくる。
彼女が望むような初体験。
無理をやって、途中で催眠が途切れては敵わないと、初めての夜を演出したのは正解だったようだった。
振り返れば、なかなかに恥ずかしい事まで言わされたが、その手間以上に彼女を抱いた興奮は、今も僕の心臓を高鳴らせていた。
次はどんな風に言うことを聞かせようか。
それが、どれだけ彼女の心を傷をつけようとも、さらに深度を上げるためには、そっちの方が都合がいい。傷口に塩を塗るみたいに僕の言葉を染み込ませてやる。 そのためには、もっともっと彼女を貶める必要があった。
「ただのクラスメイト。僕だってそうだったんだけどな」
ただ可愛いだけの女の子なら他にもたくさんいた。
けれど、一度抱いてみれば、彼女なりの魅力があり、一夜をともにした情とも言える感情も湧いてくる。
だけどそれは、ここまで手をかけた愛着も手伝ってだ。
どうせ同じ手をかけるなら、クラス1の、学年1の、学校1の女の子でも全然よかったんだけど。彼女たちとは接点がなさすぎて、ただ単に、なずなを選んだのは、二人きりの時間が作りやすかっただけのこと。
アプリの力は本物だった。これだけの効果があるのなら、彼女の役目はもう十分に思う。今度は誰に催眠を掛けてやろうか、そう思いアプリの画面を覗いていると、少しそれが気にかかる。
「深度…10か。つまり、完落ちって事だよな、多分」
アプリの画面には 5/10の文字と、円グラフの半分までが埋まっていた。
左側の数字が増えていっている事を見れば、最終的には10が上限なのだろうとは予想がつく。
試してみたい。そう思うのは当然の好奇心だった。