あっ、若干オナニーシーンがあります。でも描写がないのでエロはないかも。
「わたしの治療を受けていただけませんか? もしかしたら、気休めにしかならないかもしれません。あるいは、大変なことになるかもしれません。でも、わたし……」
奈月は泣きそうに顔を歪めて唇をきゅっと結んだ。下手に喋ると本当に泣いてしまいそうだったのだ。そんな奈月をしばらく無言で見つめた後、学がため息をつく。
「んもぉ。あのボウヤも困ったものよねえ」
小声で言いながら学がスーツのポケットを探って先の手紙を取り出す。それをテーブルに乗せながら学は小さく笑った。
「水輝くんの手紙にも似たようなことが書いてあったわ。アタシが女の子に弱いのを知ってて、書いて寄越したんでしょうねぇ。あのコ」
苦い笑みを浮かべながら学が呟くように言う。奈月は泣きそうな顔のままでテーブルに乗せられた水輝の手紙を見つめた。水輝がどんな内容を手紙に記したのかも奈月は知っていた。水輝は先に手紙の内容を奈月に教えてくれていたのだ。水輝の手紙には学の身体を治せる方法があるということだけが記されていた。だがそれは賭けに近い方法で、下手をすると学が学でなくなる可能性がある。その賭けに乗るか乗らないかはお前次第だ。そう、水輝は手紙に書き記したのだ。
「学さん。わたしが術を使える刻限はもうすぐです。お返事をお願いします」
水輝は恐らく学は提案には乗らないだろうと言っていた。だがそれでも水輝は可能性を示すために学に手紙を書き、そして奈月に託したのだ。奈月は真剣そのものの顔で学をじっと見つめた。
やがて困ったわねえ、と学がため息をつく。
「この間までなら即刻、お断りしていたと思うのね、アタシ。いちかばちかの勝負なんて、リスクが大きすぎるし」
一応、これでもたくさんの人のお給料を払っているし。そう言って学が小さく笑う。学は自分の胸に手をあてがって顔から笑みを消した。
「アタシはこの身体に誇りがある。病んでいても、アタシの人生そのものに誇りがあるの」
だから、と呟いて学が言葉を切る。それから学は唐突に妙に低い声で言った。
「あー、もう、何でこんな時にそんな話くるかな!?」
頭を抱えて叫んだ学の声は、紛れもなく男性のそれだった。奈月は多少、面食らって少しだけ身体を引いた。しばしあー、と叫んでから学が奈月に向き直る。妙に真剣に学はずい、とテーブルに乗り出した。
「それって副作用とかある?」
指を一本立てて、学が低い声のまま言う。
「あの、健康な身体で、学さんの身体であることは保証できますけど。後はどうなるかわたしにもわかりません」
半泣きになって奈月は言った。やり方だけは理解は出来ているのだが、実際に試したことがないため、奈月にも術がどのように展開するのかはっきりとは把握出来ないのだ。
「あああ、アタシのプライドがぁぁぁぁ」
涙目になった奈月の前で学も同じように涙目になる。だが声は男性のもののままだ。どうやら学も相当に動転しているらしい。
「あの、もし私のためだとか思ってらっしゃるのなら、やめてください」
唐突にリビングのドアから入ってきた文がそう叫ぶ。その声は殆ど悲鳴に近かった。慌てたように奈月が顔を上げた前で学が身を乗り出した姿勢を保ったまま、違うのよぉ、と半泣きになる。
「アタシのワガママなのよぅ! それは判ってるのよぉ!」
うわあん、と学が情けない声で泣き、涙をハンカチで慌ただしく拭く。奈月は戸惑った目で学と文を見比べた。慌てたように文が学に駆け寄る。
「学さんの人生は学さんのものです。他の誰のものでもありません」
学の背を宥めるようにさすりながら文が言う。すると学が判ってるわよぉ、と涙声で言う。
「仕方ないじゃないのぉっ! 可愛くて可愛くて、どーしようもなく可愛いから、文ちゃんとエッチしたいって思ったんだもぉん!」
子供のようにわんわんと泣きながら学が喚く。それを聞いた奈月は真っ赤になった。学を宥めていた文も焦ったように目を白黒させる。
「学さん」
文が硬直してぎこちなく学に呼びかける。
「ううう、そうよぉ。もしかしたら水輝くんとか奈月ちゃんなら、治してくれるかもって思ってたわよぉ。ついでに副作用でナニが戻ったららっきーとか考えてたわよぉ。でも、そんなことになったら文ちゃんに嫌われるぅぅぅぅうううう」
早口でまくし立てながら学が一際大きな声で泣く。奈月は真っ赤になったまま焦って学と文とを見比べた。すっかり度肝を抜かれたのか、文は唖然とした面持ちになっている。
その後、文はえへん、と咳払いして妙に真面目な顔になった。
「私が好きなのはこれまでの人生を重ねて来た、学さんの魂です。学さんがどんな身体になられても、私は学さんのものです」
「ホント?」
しゃくりあげながら学が不安そうに言う。ハンカチを握りしめた学に文は笑みかけた。どうも学と文は互いに一目惚れしてしまったのではないだろうか。そんなことを思いながら奈月は目のやり場に困って視線を彷徨わせた。
「あの、学さん。申し訳ありませんけど自慰をしてかまわないでしょうか? 予想外の事態で動揺してしまって」
至って生真面目な顔で文が言う。それを聞いた学はんまあ、と目を見張った。
「いいわっ! 全然おっけーよ! ああ、今日も可愛いわ、文ちゃん」
一転してうっとりとした面持ちになって学が胸の前で手を組み合わせる。ありがとうございます、と礼をして文がその場にぺたん、と座り込む。奈月は慌てて文から目を逸らした。
「学さん……はしたない私を見てください」
衣擦れの音がした後、文の弱々しい息遣いが聞こえて来る。奈月は真っ赤になったまま、ちらりと学を見やった。学はうっとりした顔でテーブル脇で自慰をする文を見つめている。
「んもお、我慢出来ない!」
しばし文を見つめていた学がそう叫んでいきなり立ち上がる。学は身を屈めて手を取ると、奈月を引き起こした。奈月は真っ赤な顔をしたままうろたえつつ立ち上がった。
「奈月ちゃん! 思い切ってやっちゃってちょうだい!」
奈月の手を取って引き寄せながら学が叫ぶ。
「あっ、はい!」
慌てて返事してから奈月はちらりと床に座す文を見やった。文は腿を大きく左右に開き、微かな声を漏らしながら股間を弄っている。パステルカラーに囲まれたいやにメルヘン調のリビングで自慰をする様は、かなり違和感がある。
「で!? アタシはどーすればいいの!? 何なら脱ぐ!?」
勢いよく言いながら学がスーツのジャケットに手をかける。奈月は焦ってそれを止めた。術を行使する対象が身につけている衣服は関係ない。
「体型が極端に変わることはないと思いますから、大丈夫です。だと思います」
不安を覚えつつ奈月はそう告げた。判ったわ、と力強く学が頷く。床に座して自慰をしながら文が学さん頑張って、と色っぽい声で言う。それを聞いた学が任せて、と胸を叩く
奈月の前で脱ぐんじゃねえ(by.水輝)