エロシーンはありません。
要から見た彼らの印象 1
最後のロボットの演習を終えた要はデータ整理作業に集中する二人に声をかけ、先に研究施設に戻った。操縦していた要には問題点は特には感じられなかった。今日、収集したデータは確認のために使用されるだけだ。
戻った要を地下一階に居たヒューマノイドたちが会釈をして出迎える。要は明日の打ち合わせのために真っ先に保美の許を訪ねた。カレンに燃料を補給してもらっていた保美は、要が訪ねていくと性交渉を中断し、乱れた髪を指で整えながら微笑んでみせた。
「お疲れ様です、要様。何か問題点はございますか?」
要の差し出したディスクを受け取りながら保美が穏やかに告げる。要はいいえ、と答えて保美の背後にいるカレンに目をやった。カレンは裸でベッドに横たわり、のんびりと煙草をふかしている。ベッドの手前に立つ保美も裸のままだ。
「明日の来賓については先にお知らせした通りで構いませんか?」
「ええ。問題はなくてよ」
明日はいよいよ絵美佳との決戦だ。だが、ただ互いのロボットを戦わせるだけではつまらない。どうせなら盛大にイベントにしてしまおうというのが要の狙いだった。この清陵を取り仕切る吉良瀬の首脳陣は勿論、様々な他の企業にも声をかけてある。そして絵美佳の側も当然、客の一人や二人は連れてくるだろう。要は無意識のうちに俯いてこぶしを握り固めていた。
「いよいよですわ! わたくしも今年度は卒業の身! 最後の勝負ですわ!」
勢いよく顔を上げて天井にこぶしを突き上げた要に保美が笑顔で拍手する。燃えてるねえ、と笑いながらカレンも同じように拍手してみせる。要はひとしきり高く笑って当然ですわ、と答えた。
要は保美とカレンの部屋を出て、私室を横目に過ぎた。今日は地下一階の要の部屋には誰もいない。白銀は地下の二階に先に連れていった。要はエレベーターを待ちながら口許に笑みを浮かべた。
初めて交わった時から比べると、白銀は格段に物分りがよくなっている。しかも要が望む通りに自分で性別を変更することを理解してきたようだ。最初は酷く嫌がっていた男性体での要との性交も、今では特に嫌がる素振りを見せない。
白銀がかつて要の母、栄子に恋焦がれていたことを要は白銀から直接、聞いた。その話をした時、白銀はとても切なそうだった。振られたのですから仕方ありませんわよね。そう言って高笑いする要が気に入らなかったのか、あの時の白銀はやけに不服そうな顔をしていた。
お母様にあなたは不釣合いでしてよ。要は不満いっぱいの顔をする白銀にそう諭した。白銀はその話をした後、要を抱くことをとても嫌がった。元々、白銀はヒューマノイドの女性を毛嫌いしていたようで、要がそうと知ると途端に拒絶反応を示したのだ。
だが面白いもので、白銀が激しく嫌がっていたのは最初だけだった。要が黙って服を脱ぎ始めると途端に借りてきた猫のように大人しくなってしまったのだ。どうやら要の容姿が栄子に似ていたことが原因らしい。だがそれでも白銀は要を抱こうとはしなかった。女性体で嬲られたことにより要を易々と受け入れた時とは異なり、白銀は自分から進んで行為に及ぼうとはしなかったのだ。
俺、紫さんが好きだから。
白銀は要に強く迫られた後、そう白状した。だがそんな白銀の決死の告白を要は笑い飛ばした。
あなた、本気でそんなことを言っていますの? 彼女があなたを相手にする筈がないでしょう。
だがあけすけな要の言葉を聞いても白銀は頷かなかった。それでも俺は構わない。最初は紫を抱きたいという肉欲に囚われた思いも、やがて本当の気持ちになったのかも知れない。その可能性が絶対にないとは言い切れない。が、要には白銀の紫に対する想いがどうしても本当のものだとは思えなかった。
そんなに好きだと思うなら、何故告白しませんの? 要の質問に白銀は言葉を濁した。確かに相手を好いているからと言って、その想いを口にすることだけが正しいとは限らない。が、白銀の場合は怯む理由はないのではないか。要は性交するという最初の目的をすっかり忘れ、白銀に真剣にそう言った。
結局のところ、白銀は想いを紫に打ち明けることもせず、かと言って諦めることもしない。そんな宙ぶらりんなことでどうしますの、という要の叱責にも白銀ははっきりとは答えなかった。
白銀はこれまで何度も失恋してきたらしい。もっとはっきり言ってしまうと、白銀の恋はただの一度も実ったことがないのだそうだ。記憶を失う以前からそうだったのかも知れない、というのが白銀の弁だ。それを聞いた要は呆れると同時に憤りを覚えた。何故、そんな甲斐性のない真似が出来るのだ。男とはやはり、甲斐性がどれだけあるかが勝負だろう。萎縮する白銀に要はそう断言した。
最初は頑なに要を拒んでいた白銀も、次第に拒絶反応を示さなくなった。白銀が要のどこを気に入ったのか、要自身にはよく判らなかった。要は本来、甲斐性のない男は好きになれない。いや、逆に好きになった男が甲斐性なしだったら、根性を叩きなおしてでも甲斐性を身につけさせる。それが要の正義であり、自論だった。
だがどうもこの白銀を相手にするとそんな気が起きないのだ。最初に優一郎にペットとして預かったからかも知れない。白銀が童貞だったことは驚きだが、要はそれ以上の感想を抱けなかった。
まあ、玩具に近いのかも知れませんわねえ。エレベーターから降りながら要は一人、呟いた。自分の部屋に向かう途中、要はキッチンに寄った。中で忙しく夕食の支度をしている梨恵に声をかけてから部屋に向かう。要は私室のドアをノックしてから開いた。
部屋に入った要はまずソファに向かった。丸くなって眠っていた白銀の傍に腰を下ろす。白銀は眠っていると起きている時より幼く見える。あどけない寝顔をしばし見つめてから要はそっと白銀の頭に手を伸ばした。柔らかな癖のない髪を指先で撫でてみる。だが白銀が起きる気配はない。
主人の帰宅というのに、眠っているというのはどうなんですの? 要は胸中で呟き、じっと白銀を見つめてみた。が、白銀はよく眠っており、要が傍に座っているのに全く目覚めない。しかも女性体の時と同様、白銀はソファで丸くなっている。もしかしたらベッドで眠るのは嫌なのかしら。そう考えながら要は何気なく白銀の耳に触れた。
時々、要は解説役にされますねw