軽く呻いて白銀が耳を手で払う。微かに眉を寄せた白銀はだがすぐに元の表情に戻ってしまった。要は払われた手を何となく見つめてから改めて白銀に触れた。今度は耳から首筋を指先で撫でてみる。すると白銀はくすぐったそうに首を竦め、寝返りを打った。背もたれに向いていた白銀の顔がよく見えるようになる。
顔立ちは悪くないのに。要はしげしげと白銀の容姿を観察した。白銀の面立ちは水輝や多輝より柔らかい。どことなく頼りない感があるのもそのためだろう。目のきつさが先の二人とはまるで違うのだ。だが身体つきの方はあくまでも無駄な肉のなさそうな水輝と比べると、若干丸みがあるだろうか。だがそれでも決して太っているということはない。よく言えば白銀は特徴らしいもののない、ごく普通の体型をしているのだ。
白いシャツとセーターを着た白銀の胸は一定間隔で上下している。要はソファを静かに降りて白銀の前に膝をついて座った。ソファは高さのないタイプで、座ると足が真っ直ぐに伸ばせるようになっている。毛足の長いじゅうたんに直に座り、要はぼんやりと白銀を見つめた。女性のものとは明らかに違う、幅のある肩から平たい胸、細い腰から長い脚に目をやる。
白銀は要を極端に拒絶はしなくなった。が、やはり今でも嫌がりはしないまでも、性交に関しては気乗りはしないようだ。女性体であれば要に組み敷かれることを好む白銀でも、やはり男性の際はそうはいかないらしい。だがそれでも要に言われると白銀は大人しく従うようにはなってきている。
でも何か物足りませんわ。要は床に手をついて身を屈め、間近に白銀を見た。シャツの襟元からはみ出している首輪だけが、異彩を放っている。広々とした部屋なのだからもっと身体を伸ばして寝ればいいものを。要は八つ当たり気味にそんなことを考えてから視線をずらした。
ふと、白銀が眉を寄せて寝返りを打つ。仰向けになった白銀は丸めていた身体を伸ばし、膝を曲げた格好になった。片方の足だけを伸ばして肘置きに乗せている。だがまだ穏やかな寝息を立てている。これでは起こすまで起きないのではないだろうか。何となく自分から起こすのは癪で、要は諦めてその場から離れようとした。
でも何かむかつきますわ。要は理由の判らない苛立ちを覚え、上げかけていた腰を戻した。そもそも白銀は昨日から今日にかけて、忙しく動き回る要とは対照的にのんびりと過ごしていたはずだ。なのに今もまだ眠っている。要は苛立ちに目を吊り上げて睨むように白銀を見た。明日は大事な決戦だ。心静かに夜を過ごし、絶好調で朝を迎えなければならないのに、何故こんなに苛立つのだろう。
白銀は八大と呼ばれる龍神の一人だという。その情報を要は優一郎から入手した。だがこうして見ている分には白銀はどことなく見劣りする感がある。身体の作りが、ではない。まとう雰囲気が水輝や立城と比べると圧倒的に劣っているのだ。
そういえばあれもそうでしたわよね。要は白銀を見ながらぼんやりと順のことを思い出した。優一郎の言によると順は実は火龍神と呼ばれる龍神だったらしい。しかも、先の件で火龍神の長の座が火藍から順に移行したのだという。が、優一郎ははっきりと順のことを八大とは言い表さなかった。その裏には恐らく表現し難い何かがあるのだろう。だがそんな順と比べても、目の前の白銀はそれらしく見えないのだ。
水輝や立城、順に共通しているのは、絶対的な強さを感じさせる何か、だ。その何かの正体は要のセンサーを駆使しても計測することは出来ない。つまり、目に見えない、しかも計測不明な何かを彼らは持っているのだ。なのに白銀にはそれがない。要は腕組みをして考えを巡らせた。
単純な力の大きさを測定すると、彼らには純然たる順位がある。ぶっちぎりのトップにいるのが水輝だ。次いで立城、順、そしてその後に優一郎と多輝が続く。要は知っている限りの龍神を思い浮かべた。もしかしたら栄子もかなりの力を持っているのかも知れないが、生憎と栄子は要の前に姿を見せないため、測定は不可だ。だが彼らの力はいつも垂れ流しになっている訳ではない。特に上位三人に関しては通常はほぼ人間と変わらない。順は眠っているところしか見たことはないが、恐らく目覚めていても同じだろう。
何が違うのかしら。要は思案しながら白銀を見た。それからふと気づく。そう言えばあの奈月も金龍神となったらしい。それを思い出して要は首を傾げた。奈月が要の前で人外の力を発揮したのは、あの戦いの折くらいだ。だがその時、何故か要のセンサーは無反応だった。婚約パーティで会った時の奈月は他の人間と比べてもその力が劣っていたくらいだ。勿論、水輝たちのようにわざと力を出していないというケースも考えられる。だがその可能性を要は胸中で否定した。測定出来ないなにか。彼らが共通して持つそれが、どうも奈月のイメージにそぐわないのだ。
小さく唸って要は眉を寄せた。金龍神と言えば八大の一人にカウントされている。しかもどうやら先の金龍神の力は強かったらしい。なのに今の奈月からはそれを感じることが出来ないのだ。
要は難しい顔でひとしきり考えを巡らせた。だが優一郎から受け取った情報をどれだけ探っても、答えらしいものは見当たらない。やれやれとため息をついて要は肩にこもっていた力を抜いた。要は他のヒューマノイドより頻繁に機体メンテナンスが必要だ。特に今日のように膣に制御スティックを挿入してロボットの操縦などをすると、ある一定時間しかまともに動くことが出来なくなる。機体内にあらゆるセンサー等を積まれた要はどうしても他より脆いのだ。今日も何度も周藤と野木に機体のメンテナンスをしてもらった。ここに戻る直前にももちろん診て貰っている。その弱点がある故に要はいざ戦闘を行う段になると、全力で三十分動ければいい方なのだ。
力がある者とない者。力はあっても使えない者。ないように見えて使える者。そして力もなく、戦うことも出来ない存在。要は心の中で呟きながらそっと身体を倒した。伸びた白銀の腿に頭を乗せる。白銀はだが、要の重みを乗せられても熟睡したままだ。要は白銀の寝顔を見つめて苦笑した。
せっかく好みの男なのに勿体無いですわ。要は何となくそう呟いて白銀の腿に寄りかかった。
不意に股間がむず痒くなる。要は驚きに息を飲んで慌てて身を起こした。次いで、背筋にざわりとしたものが伝う。要は焦ってスカートをたくし上げた。剥き出しになったクリトリスが異様な光を放っている。見覚えのない閃光に要は思わず呻いてスカートを戻した。
得体の知れない恐怖がこみ上げる。それを感じ取った要の身体は無意識に震え始めていた。一体、何が起こったんですの? そう呟いて要は白銀を見た。いつの間にか白銀が目を開けている。
「……なんだ?」
小さく呟いて白銀がやけに真剣な顔をして身を起こす。
「判りませんわ。先ほどから……身体が」
要は弱々しく言って立ち上がろうとした。が、膝が砕けて座り込んでしまう。立ち上げたどのセンサーもメーターは振り切られている。測定不可の声が機体内に響く。震える要を庇うように腕に抱きこみ、白銀が目を走らせる。
「何か、やばいものの気配がするな」
そう告げた白銀の髪と瞳が一気に銀色に転じる。要は息を飲んで白銀を見た。が、白銀は胸に要を抱いたまま、どこかを見つめている。その視線を追った要は訝りに眉を寄せた。白銀が見ているのは部屋の一角、何もない場所だ。要は素早く白銀の視線の先、壁の向こうに何があるかを思い出した。
「メンテナンス室……?」
呟いた要の機体内にエラー音が響く。要は焦って胸を腕で抱きしめた。豊かな乳房の先端で乳首が動き出す。何も操作していないのに。呆然と呟いた要の乳首は激しく出入りし、終には独りでに分解してしまった。その瞬間、要は襲ってきた酷い痛みに悲鳴を上げた。慌てた声を上げて白銀が要を抱きしめる。白銀の腕の中で要の意識は闇に飲まれた。
あれ……?
機械的にはちょっとエロ?w