エロシーンはありません。……これはエロ以前な気がします。
「製作者と所有者は別でしょう。我が僕、渚よ。汝の生殺与奪権は誓約に基き青龍王にあり。我、汝を青龍王の下に引き渡す事を約せども、いま交わりしものに引き渡すことは約さず。我が元に戻れ」
驚きを綺麗に隠して優一郎は渚に向かって手を差し伸べた。だが力を使っても渚が引き寄せられない。優一郎は今度こそ驚きに息を飲んだ。渚を組み伏せていた水輝がおかしそうに笑う。小刻みに身体を揺すって笑う水輝のシャツの間から何かがベッドに転がり落ちる。優一郎は慌てて横たわる渚を見つめた。器の消失は女性器や恥丘だけには留まっていない。じわじわと渚の腰が消えていく。シャツに包まれていて見えないが、恐らく水輝の器もそうなのだろう。
「そう。この人形の生殺与奪の権はわたしにある」
笑いながら水輝が渚の身体の上に横たわる。だが渚は何の反応もしない。思惟が読めないため、生きているのか死んでいるのかすら優一郎には判らなかった。
「少なくともこれはいただいておきますね」
そう言って優一郎は手を胸のところに掲げた。すると手の中に黒い渦が巻き始める。やがて優一郎の手の中には青いサファイアの粒が幾つも落ちてきた。それを見たのだろう。ほう、と感心したような声を漏らして水輝が身を起こす。
「お前はわたしの人形をどうするつもりだ?」
小さく笑いながら水輝が左腕を伸ばす。水輝が指を鳴らした直後、優一郎の手の中から斎姫の手の感触が消えた。一瞬で斎姫がその場からかき消えてしまったのだ。
「どうするも何も、まず、製作者であるあなたが今も所有権を保持している根拠を提示ください」
どうやら水輝は斎姫を一時的にこの場から退けたようだ。遠くに斎姫の気配を感じながら優一郎は目を細めた。
「人形をわたしは誰かに譲ったつもりはない。魂の欠片でしかないが、それはわたしのものだ」
くすくすと笑って水輝が優一郎の右手を指差す。優一郎の手の上に現れていた渦は消え、サファイアの欠片だけが残されていた。
「渚さんは僕が風の貴婦人から譲られたものです。善意の第三者として、あなたの主張を却下します。どこの誰かは知りませんが、まず渚さんを盗まれた方と交渉ください」
サファイアを手の中に握りこみながら優一郎は淡々と告げた。すると唐突に水輝が笑い声を上げる。どこかがずれたような笑い方だ。優一郎は息を潜めてじっと水輝の様子を伺った。
「そうか。これは渚と言うのか」
まだ笑いながら水輝が告げる。その後、水輝は渚の上から退いた。水輝が離れるとはっきりと渚の機体の腰部分が消失していることが判る。身を起こし、ベッドから降りた水輝の腰部分もやはり消えてしまっている。
「イレギュラーばかりでわたしは楽しいよ。ただの人形でしかない者たちがこうもあっさりと予定を覆すのだから」
笑い混じりに言って水輝が自身を見下ろす。
「あの、水輝さんの中の方。水輝さんとお話したいことがあるのですけど、どうすればよろしいでしょう?」
あなたが占有している限り、水輝さんと話せないような気が。優一郎はためらいがちに言葉を紡いだ。すると水輝が小さく笑う。
「わたしはお前、お前はわたし。紫翠と呼ばれるモノと水輝と呼ばれるモノは本来は一つのモノだった。わたしがその話を聞くのは不満かな?」
笑いながら言って水輝が優雅に身を折ってみせる。だがその身体は徐々に消失しつつある。放置しておけばじきに水輝は完全に消えてしまうだろう。
「今はもう違いますから。青龍王よ。我、汝を呼ばん。ただ一度の誓約。我が大切に想う者を救わんために。汝を今こそ呼ばん」
力をこめて言葉を解放した優一郎を水輝が苦笑して見つめる。その直後、その場に凝っていた不気味な気配は一気に消失した。目を閉じた水輝の髪の色が一瞬で青に染まり変わる。そして水輝は床に崩れ落ちた。
とりあえず退散したのでここで切りました。