※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


吉良瀬の宝物庫 2

 一階のドアを開く。ドアの内側に滑り込んでから立城はおもむろに手を伸ばした。あらかじめ用意しておいた懐中電灯を点ける。足元を用心深く照らしながら立城は無人のアパートの部屋に入った。畳張りの部屋の奥に土足のまま進んで壁の一面に手を触れさせる。すると立城の触れた場所が四角く切り取られたように壁の中に沈んだ。それと共に軽い音を立てて壁の一角が床に沈む。立城は慎重に細い入り口を通り、壁の中に伸びた通路側から入り口を閉じた。真っ暗になった長い通路を懐中電灯の光を頼りに進む。

 

 ほどなく細い通路の先に階段が現れる。立城は転ばないように用心しながら階段をゆっくりと降りて行った。小さな踊り場で切り返して更に地下に進む。やがて立城の前には一枚の金属製の扉が現れた。

 

 スーツのポケットから鍵を出す。立城はドアノブの下の小さな鍵穴にそれを差し込んだ。かちり、という音を立てて錠が外れる。ドアをくぐり、立城は後ろ手にそれを閉じてから内側から鍵をかけた。そしてドアの横を照らして小さなスイッチを入れる。その途端、周辺は昼間のような明るさに包まれた。地上の古びたアパートからはとても想像出来ないほど、綺麗な壁と床がそこにはあった。硬質な床にヒールの音を立てながら立城はゆっくりと進んだ。広々とした空間の先に一枚の大きな扉がある。

 

 立城は無言でその扉の前に立った。その瞬間、仕掛けられていた術が展開する。扉から溢れた光が立城の身体を舐めるように頭からつま先まで撫でる。立城は定められた呪文を詠唱した後、吉良瀬当主が自分に変更されたと術を書き換えた。

 

 一気に光が扉から溢れる。まばゆい光に目を細めた立城の目の前で、扉は静かにその形状を変えた。不透明な白い扉が半透明へと変わる。どこから見ても金属にしか見えなかった扉の表面が不規則に揺れる。立城はためらう事なく扉に向かって足を進めた。感触のない扉は立城を内側に通した直後、再び元の形状に戻った。

 

 宝物庫には様々なものが保管されている。立城は明るい光に照らされたその中をゆっくりと歩いていった。迷う事なく歩く立城の目の前に、一際厳重に保管された一つの箱が現れる。透明な硝子のケースに囲まれたその箱の前で立城は足を止めた。立城がケースに触れると、どこからともなく光が現れ、立城の身体を扉の時と同じように頭からつま先まで撫でて過ぎる。やがて硝子ケースは静かに浮き上がった。布張りの台に置かれた箱を立城は静かに取り上げた。すると硝子のケースが静かに元の位置に戻っていく。それを見届けてから立城は踵を返した。

 

 入ってきた時と同様の手順で扉の外に出る。箱を腕にしっかりと抱え、立城は来た道を戻って行った。古ぼけたアパートを出て待ち構えていたハイヤーに乗り込む。それから立城は運転手に清陵高校に向かうように告げた。快く返事をした運転手が車を出す。

 

 夜が明けかけた頃、ハイヤーは清陵高校に到着した。車を降りた立城を冷たい空気が包む。立城は無言でスーツのポケットから携帯電話を取り出した。ハイヤーが校門前で切り返して走り去っていく。背後にその音を聞きながら立城は携帯電話を耳にあてがった。

 

 やはり起きていたのだろう。コール二回ほどで相手が出る。立城はそびえ立つ校舎をぼんやりと見上げながら挨拶した。

 

「こんな早くからごめんね。頼まれていた物を持ってきたんだけど」

 

 立城は校門のところに佇んだまま、軽く身震いした。幾ら冬物といってもスーツだけの格好では冬の寒さは身に染みる。

 

『大丈夫です。母上こそお疲れ様でした』

 

 少し疲れを感じさせる声で優一郎が応える。君ほどではないよ、と言ってから立城は首を傾げた。

 

「誰かに取りにきてもらっても構わないかな?」

 

 まさかここに置いておく訳にもいかないしね。立城は平坦な声でそう付け足した。

 

『斎姫をそちらに転移させます』

 

 優一郎が告げた直後、立城の傍の空間が揺れた。判った、と告げて立城は電話を切った。ほどなく傍に斎姫が現れる。立城は携帯電話をポケットに納め、手にしていた頑丈な箱を斎姫に差し出した。

 

「はい。お願いするね」

「おじ……、紫さま。お預かりします」

 

 会釈をした斎姫によろしくねと微笑んでから立城は踵を返した。誰もいない車道にゆっくりと歩き出す。白いもやに包まれた坂道を立城は静かに下っていった。

 

 斎姫に渡した箱には金龍神の残りの宝珠が三つ入っている。そしてもう一つ、箱には別の物を入れておいた。本当なら決して戻す気のなかったものだ。立城はぼんやりと思い起こしながらゆっくりと歩を進めた。

 

 龍宝珠と共に入れられているのは亮からかつて奪い取った、記憶だ。それを優一郎がどう使おうと自由だし、捨てるのも勝手だ。どのみち役に立つかどうかすら怪しいものだが、少なくとも宝物庫に納めておくよりはましだろう。奪われた方の亮にしても、その覚えすらなかったかも知れない程度のささやかなものだ。

 

 いや、もしかしたら当時の亮にはそれが全てだったのかも知れない。記憶というよりは想いに近いそれを立城は戦いのどさくさに紛れて亮から奪い取った。その後、亮は水輝の手にかかって龍神の座から退くことになった。

 

 遊歩道を行きながら立城は小さく笑った。水輝は下らない感傷に囚われるな、と言った。本当にね、と呟いて立城は道端に薄く積もる雪を横目に進んでいった。

 

 歩いて屋敷に戻った立城は真っ先にシャワーを浴びた。冷え切った身体を熱いシャワーで温めてから私室に入る。適当に服を選んだところで電話が鳴る。道代のスケジュール確認の声に応答しながら立城は真新しいストッキングの袋を開いた。執務机に寄りかかってストッキングを身につけ、ショーツを穿く。道代との電話を切った後、また立城の携帯電話が鳴った。今度は今日の来賓として要に招かれている客の一人だった。朝から元気な市議会議員に適当に返事をしてから立城は仏頂面で電話を切った。何故、直通の電話番号を知っているのだ。不満を込めて電話を見つめてから立城はため息をついた。この携帯電話はもう使えない。新しいものを用意する必要があるな。そう呟きながら立城はまっさらのブラウスを身につけた。スーツを着込んだところでふと手を止める。

 

「何だ。けっこう、元気だな。僕も」

 

 淡々と朝の準備をする自分の様子に苦笑して立城は着替えを再開した。




ちょっと具合が悪くてダウンしてました(泣)
すみません。
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