エロシーンはありません。
エピソードが長いので切ってあります。
薄く目を開けて水輝は小さく息をついた。見慣れない天井をしばしぼんやりと見つめ、次いで水輝は静かに腕を伸ばした。自分の身体に寄りかかって眠っている奈月の頭をそっと撫でる。穏やかな寝息を立てている奈月の頭を優しく撫でながら水輝はここがどこなのかを思い出そうとした。が、寝起きだからなのかどうしても頭がはっきりしない。
ふと、人の気配が近付いてくる。水輝はのろのろとそちらを向いて苦笑した。どうやらここは優一郎の部屋だったらしい。近付いてきた優一郎に片手を上げ、水輝は静かに身を起こした。ベッドを降りて眠ったままの奈月をそっと抱え上げる。奈月をベッドに横たえたところで水輝は優一郎を振り返った。
「水輝さん、ここにお休みいただいたのは、誓約の履行を求めるためだったんですけど、今回はキャンセルということでよろしいでしょうか?」
そう言いながら優一郎が部屋の奥に水輝を促す。水輝はそれに続きながら苦笑した。ベッドに眠る奈月を起こさないよう、小さ目の声で告げる。
「ああ。……というか、また迷惑かけちまったか。悪いな」
部屋の奥の優一郎の机に歩み寄りながら水輝は頭をかいた。机についた優一郎が傍に立ち止まった水輝を見上げて苦笑する。
「迷惑だなんて、そんな。僕の術が甘かったから……」
尻すぼみに優一郎の声が消える。随分と消沈した面持ちになった優一郎に水輝はそんなことはない、と声をかけた。すると俯きかけていた優一郎が顔を上げて水輝を見る。机に寄りかかろうとした水輝はそこで自分の格好に気がついた。なるほど、あの後に自分はそのままここに跳んだらしい。道理で記憶がない筈だ。目を細めてから水輝は軽く指を鳴らして服を引き寄せた。シャツ一枚だった水輝の身体に別の服が纏わり付く。真新しいシャツとジーンズを身に纏った水輝はついでに、と煙草を自分の部屋から引き寄せた。
「あと、母上をひっぱたいてしまいました。臍を曲げられるだけだと判っているのに」
そのおかげで、宝珠は予定よりも早く揃いましたけど。苦笑を浮かべて優一郎が言う。煙草を咥えて火を点けながら水輝は優一郎と同じように苦い笑みを浮かべた。
「その辺は仕方ないだろ。叩きたくなるのも判る」
そう言ってから水輝は舌打ちをした。シャツの袖口のボタンを外してめくりあげる。枷の嵌っていた部分には赤い痣が残っている。両手首についたそれを確認してから水輝はやれやれとため息をついた。
恐らく立城は意図的にベッドに水輝を拘束したのだ。その後、快楽に狂った水輝がどういう行動を取るかを確かめようとしたのだろう。
「母上は僕を買いかぶっています。いつもいつもこんな風に上手く事を収められるわけないのに」
優一郎が疲れたようなため息をつく。水輝はため息をついて優一郎を横目に見た。咥えていた煙草を指に挟み、その先端で優一郎を指し示す。
「お前も人のことは言えないだろ。立城を買いかぶりすぎだ」
きっぱりと言って水輝は煙草を咥え直した。宙に手を差し伸べて自分の部屋から灰皿を引き寄せる。伸びた灰を硝子の小さな灰皿に落として水輝は深々と息をついた。
快楽に狂った自分がどういう行動を取ったか、記憶はなくてもはっきりしている。渚を求めて自分はここに跳んだに違いない。渚が起きていようがいまいが、恐らく自分は強引に交わっただろう。それ故にこれまで水輝は渚との深い接触を避けてきた。
まあ、無駄だったがな。胸中でそう呟いて水輝はちらりと優一郎を見た。
「その可能性は考えました。しかし、昨日の件を報告した時の態度などから、母上はすべて承知の上で……母上の掌の上で僕は踊らされている可能性が高いと判断しています」
淡々と語りながら優一郎が水輝を見上げる。水輝はやれやれと肩を竦めた。
「どうなるかまでは予測してなかったろうな、あいつは。ただ単純におれがどういう反応をするかを知りたかったんだろ。……相変わらず疑り深い奴だ」
仏頂面で呟いて水輝は頭をかいた。
「掌の上って意味では、あいつもお前も、そんでもっておれも、等しく何者かの掌の上だ」
煙草をふかしながら苦い気分で水輝は告げた。すると優一郎が少しだけ眉を寄せる。
「予測もせずにあんな危険なことを行ったのなら、母上はただの無能だということになります」
それはあり得ない。皆、誰かの掌の上だという意見には賛成しますけど。そう続けた優一郎を水輝は横目に見つめ、次いで深々とため息をついた。
「最悪の事態は想定してたろうが、まさかおれが渚と心中しかけることまでは考えてなかったろ。それに本来ならおれが狂った時はすぐに察知できる筈だしな」
疲れた顔で言ってから水輝は短くなった煙草を灰皿にねじ込んだ。腰を机に寄りかけ、膝を曲げて腿の上に灰皿を乗せてから新しい煙草に火を点ける。硝子の灰皿を取り上げながら水輝は何となくジーンズに包まれた自分の腿を見つめた。きっと手首と同様、そこにも痣が残っているに違いない。
「悪い。あいつのサーチ能力、おれが封じてるんだ」
ぼそりと告げて水輝は煙を細長く吐き出した。それまで腕組みをして考え込むような顔をしていた優一郎が目を見張って水輝を見上げる。
「そう、なんですか? ですけど、それは理由になりませんよね。以前の、立城さん、なら、水輝さんにその能力を封じられる事は無かったはずです」
「いんや、封じたんだよ。木龍神として立つべき存在だった真也より秀でてる部分が奴にはあったんだ。それがその力だ」
それ故に水輝と交わしたあの誓約は成立する。どんな時も、水輝が狂うようなことになったら、例え殺してでもそれを止める。その誓約は真也の力では成し得ない。立城が本来持っている、敵の動きをいち早く読み、危険を回避するという能力がなければ成立しないのだ。
立城がブレブレな理由が判明します。