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「段違いになってんぞ」
煙草をくゆらせつつ水輝は優一郎を見つめた。シャツのボタンをきっちり留めてから床に落ちていた下着とズボンを取り上げる。ほら、と水輝が差し出すと何故か優一郎は怒ったような顔でそれを乱暴にひったくった。
「ありがとうございますっ!」
水輝に背を向けて優一郎がそう言い放つ。おいおい、と苦笑して水輝は頭をかいた。何事かを口の中でぶつぶつ言いながら優一郎がのろのろと男物の下着とズボンを身につける。
「奈月ぃ。そろそろ出来たか?」
優一郎が着替えるのを見届けてから水輝は肩越しに振り返り、奈月に声をかけた。
「ちょっと待ってくださいっ」
懸命の面持ちで言う奈月の手の中で水輝の精液は力と化し、青い光を放ち始めていた。水輝は苦笑しつつ奈月に近付き、その手から渦を巻く力を取り上げた。
「ちょっと奈月には今は無理だったか。金の属性が強すぎるしな」
困惑した面持ちになった奈月にそう言ってから水輝は手のひらの上に力を乗せ、手首を捻った。すると力が放っていた光が急激に強くなる。光が納まった後、力は一個の宝石になって水輝の手の中に落ちた。深い青色をした宝石を指の間に挟み、水輝はそれを蛍光灯の光にかざした。
「まあ、こんなもんか」
丸い宝石を左手に握り、水輝は右手の上に銀色の龍宝珠を現した。どうやら優一郎に借り受けた力のおかげで宝珠の出し入れが容易になっているらしい。へえ、と笑って水輝は優一郎を振り返った。男物の制服は今の優一郎の身体にはまるでサイズが合っていない。ぶかぶかの制服と白衣に身を包んだ優一郎が困惑した目で水輝を見つめている。
「あの、水輝さん。戻していただけますか?」
ためらいがちに優一郎が言う。ちょっと待ってろ、と応えて水輝は右手の龍宝珠を刀に変えた。左手の宝石を軽く放り投げて刀を揮う。縦横無尽に揮った刃が青い宝石の表面に美しいカットを施す。落ちてきた宝石を左手に受け止め、水輝は刀を消した。
「ほら。やるよ、祐」
そう言いながら水輝は優一郎に歩み寄り、左手に握っていた宝石を差し出した。戸惑いの表情で出された優一郎の手に宝石を乗せる。
「これは?」
「お近づきの印ってやつだな。サファイア、嫌いか?」
微笑みを浮かべて告げて水輝は優一郎の手に乗った宝石に指を乗せた。静かに宝石の縁をなぞる。するとプラチナの台座が出来上がり、その先に細い鎖が出来上がった。ネックレスの形になったそれを優一郎が困惑気味に見つめる。
「あの、いただきます」
しばし迷うように視線を彷徨わせてから優一郎が小声で言う。水輝はくすくすと笑って優一郎の頭を撫でた。
「力がこもってるから、色んなことに使えるぞ。ま、その場合は代償としてそれは壊れるがな」
そう言ってから水輝はおもむろに優一郎に向かって指を鳴らした。すると優一郎の身体が男性のものへと変化する。元通りに戻った身体をしばし見下ろしてから優一郎が深々とため息をつく。
「あの、宝珠を翠さんにお渡しするのはいつになさいますか? 今日の夕に、行ってしまおうと考えているんですけど」
「ああ。例の決戦とやらが済んでからだな。……っておい。それ、つけないのかよ」
淡々と語って手の中のネックレスを白衣のポケットにねじ込もうとしていた優一郎に水輝は声をかけた。するとまともに優一郎が引きつる。何だよ、と水輝は低い声で言った。
「いえ。確かに失礼ですよね」
そう言って優一郎がネックレスを首につける。よしよし、と頷いてから水輝は奈月に声を投げた。
「おい、奈月。おれ、ちょっと女食ってくるわ。代わりに観戦しといてくれ」
そう言いながら水輝は歩き出そうとした。だがそこで後ろからコートをつかんで引っ張られる。
「水輝さんは、吉良瀬当主の婚約者としての責任をきっちり果たしてください」
にっこりと笑って優一郎が告げる。あー、と間延びした声を漏らして水輝は頭をかいた。
「立城のヒューマノイドの器だけ引っぺがして、影に立てる案に賛成の人」
水輝はそう言って優一郎の目を覗き込んだ。すると優一郎がつかんでいた水輝のコートを離す。
「中身はどうします?」
「それはお前が探すに決まってんだろ。つーわけで……って、奈月。何してるんだ?」
振り返った水輝は今度は奈月に訝りの声をかけた。ベッドの上で奈月は焦った様子で服を脱ぎ始めている。
「あ、あのっ! 奈月さん!?」
焦った声を上げて優一郎が慌てたように後ろを向く。どうやら奈月は着替えようとしているらしい。が、着るべき服がないので困っているようだ。水輝はやれやれと苦笑して奈月に向かって指を鳴らした。すると奈月が瞬く間に淡い色のスーツを身にまとう。
「水輝さん、ありがとうございます」
奈月がにっこりと笑って脱いだ服をいそいそと畳み始める。おう、と笑って応えて水輝は振り返った。後ろを向いていた優一郎が恐る恐るの態でこちらを向く。水輝は煙草の灰を灰皿に落としながら囁くように言った。
「器分離の技はけっこう力を消耗するもんでな。処女食って溜めないときついんだよ。……で? 中身は何とかなりそうか?」
「水輝さん、さっき頂いたばかりなのに失礼します」
水輝の問いかけには答えず、優一郎はそう言って首にかけていたネックレスを服の中から取り出した。手のひらに宝石のついたヘッドを乗せてじっと見下ろす。それを横目に水輝は口許に笑みを浮かべた。
小さなサファイアが光を帯びる。それに続いてサファイアは音もなくその姿を消した。かわりに優一郎の手の上に光の珠が出来上がる。ふわふわとした光にはごくごく薄い色が乗っている。その色はだが角度によっては目には見えなくなる。
「君の名は縁。これからよろしく」
優しく光に語り掛けて優一郎が微笑む。上等、と笑って水輝は踵を返した。
「じゃ、後は頼む。夕方までには戻る」
二人にそう声をかけて水輝はその場から姿を消した。
次は八章です。