あ、エロシーンはありません。
ロボット対戦、開戦前 1
深呼吸して精神統一をしてから要は閉じていた目を開けた。のんびりとソファに寝そべっていた白銀が雑誌をめくる手を止める。
「大丈夫なのか? 本当に。昨日の今日なのに」
気遣いの言葉を零した白銀に要は高笑いをしてみせた。
「当り前ですわ! 何しろ、今日は待ちに待った決戦の日ですのよ!?」
そう言いながら要はその場に立ち上がった。こぶしを突き上げる要をはいはい、と白銀があしらう。だがそれを無視して要は天井に向かって吼えた。
「待っていなさい、吉良絵美佳! 今日こそ、ずたずたのぼろぼろにして差し上げますわ!」
「どーでもいいけど、パンツ見えてるぞ。ちゃんとファスナー上げろよ」
感慨のない声で言って白銀が要のスカートを指差す。あらあら、と言って要はスカートのファスナーをきっちりと上げた。白銀がやれやれと言いながら立ち上がり、大きく伸びをする。今日も白銀は男性の身体をしている。どうやら昨日の流れでそのまま男性でいるらしい。
昨日に起こった出来事を要はあまり覚えていない。機体が何らかの力で破壊された後、意識を失ってしまったからだ。気づいた時には心配そうな顔で白銀がメンテナンス台の傍に立っていた。要の修復作業を主に行ったのは周藤と野木だ。最終的なチェックのみ、優一郎が行っていた。その間、白銀は何故か嫌がることもなく要の傍にずっとついていた。
どういった心境の変化かしら。そう胸中で呟いて要はまじまじと白銀を見た。何だよ、と視線を感じたらしい白銀が怪訝そうに声を上げる。白銀はヒューマノイドを毛嫌いしていたはずだ。なのに何故、昨日は嫌がりもせずに修復作業を見守っていたのだろう。壊れた部品を取り替えたりといった作業の際には、いつもは見えない筈の機体の内部を目の当たりにすることになる。なのにそれでも白銀は要から離れようとはしなかったのだ。
「もしかしてあなた、ヒューマノイドを好きになったんですの?」
要はいつものようにストレートに白銀に訊ねた。すると白銀が顔をしかめてそっぽを向く。
「……別にそういう訳じゃない。でも、身体がどうであれ、お前はお前だって思ったから」
言いにくそうに言って白銀が俯く。まあ、と笑って要は白銀の頭をよしよしと撫でた。すると嫌そうに顔を歪めて白銀が要の手をやんわりと退ける。
「ほら、さっさと行けよ。決戦なんだろ?」
仏頂面で告げて白銀がドアに向かって顎をしゃくる。そうでしたわ、と頷いて要はドアに向かって歩き出した。手を振っていた白銀を振り返り、要は告げた。
「何してるんですの? あなたも来るのよ」
「は!?」
要の言葉に白銀が素っ頓狂な声をあげる。確かに白銀が驚くのも無理はない。白銀はここに来て以来、施設外に要と共に出たことがない。要が白銀を連れ歩くのを好ましく思っていなかったからだ。それに白銀は清陵高校の生徒ではない。
「わたくしの勇姿を見たくないんですの?」
なんてもったいない。そう続けて要は口許に手を当てて笑った。すると白銀が困ったように眉を寄せて頭をかく。だがほどなく白銀は苦笑して歩き出した。要は当り前の顔で白銀と共に地下二階の私室を出た。エレベーターに乗り込んで地下一階に移動する。慌ただしく準備をするヒューマノイドたちに会釈をして挨拶をし、要は白銀を連れて地上に出た。待ち構えていた野木が招待した来賓の名と出席者を列挙する。要は一人一人に対してコメントをつけ、最後の一人の名を耳にしたところでぴたりと足を止めた。
「……何ですって?」
「間違いありません。先ほど、執行部に直接連絡が届きました」
野木が携帯端末を操りながら口早に告げる。要はしばし思案してから小さく笑った。久しぶりの対面ということか。そう胸中で呟いて要は野木に判りましたわ、と頷いた。
「ご来場ありがたく存じます。本日はごゆっくりとご観戦くださいませ。……そう伝えなさい」
「畏まりました」
そう返答して野木が慌ただしく去っていく。ふう、と息をついて要は長い髪を背に払った。横にいた白銀が感心したような声を漏らす。
「なんか偉く見えるな」
「ばかを言っちゃいけませんわ! 見えるのではなく、偉いのです!」
きっぱりと言い切って要は高笑いした。それまで感心したように要を見ていた白銀が一転して呆れたような顔になる。だがそれを気にせず、要は学校の玄関に向かった。今日は休日ということもあって、学校に来る生徒たちは制服を身につけてはいない。が、出席率はいつも以上なのではないだろうか。ゆゆしき問題ですわね。そう呟きながら要は生徒たちに混ざって校舎に入った。
来賓の詰めている応接室に向かい、要はふと振り返った。白銀を連れて入っていいものか逡巡する。すると要の意図を察したのか、白銀は応接室のドアの脇の壁に寄りかかって片手をあげた。
「俺はここにいる。行って来ればいい」
「判りましたわ」
にっこりと白銀に微笑んでから要は応接室のドアを開けた。腰掛けて談笑していた来賓の面々に笑顔で挨拶する。すると彼らは口々に要に挨拶をした。が、一番奥の席に腰掛けていたそれだけが気軽に手を上げて笑う。
「やっほー、要ちゃん。元気してた?」
ひらひらと手を振ったそれの格好を見て要はひくりと頬を引きつらせた。だらしなくスーツを着崩した順が人の悪い笑みを浮かべている。
「はい、わたくしはこの通りですわ」
楚々と笑いながら要は目だけでぎらりと順を睨んだ。サングラスをずらして直に要を見た順が嬉しそうに笑う。
「んじゃ、頑張ってねー」
それでは、と笑顔で一礼した要に順が呑気に声をかける。どうも来賓の面々の顔が硬いと思ったら、順が原因だったらしい。しかも順はわざとらしく立城の横に陣取っていたのだ。あんな美形の二人が並んだ場所に来賓たちは到底近づけなかったのだろう。二人の席はどことなく他の来賓から離れていた。
やっとメカバトルが始まります。
長かった……w