エロシーンはありません。
(今のところ)
大きな来賓用のテントの下には異様な雰囲気が漂っていた。ロボット同士の戦いがよく見える最高の位置に二脚のパイプ椅子が並び、それを遠巻きにするように他の椅子が並んでいる。その二脚の片方に腰掛けた順は機嫌よく笑いながらサングラス越しに前方の朝礼台の上を見た。
「うわあー。多輝ちゃん、元気そう」
へらへらと笑う順を隣に座る立城が無言で横目に睨む。だがその視線に気づかない振りをして順は多輝ちゃんふぁいとー、と無責任な声援を送った。すると順のわき腹を立城が鋭く肘で突く。
『それではお待たせしました! 二体のロボット起動中に、ゲストのイチゴちゃんのマジックショーをお楽しみください!』
小池と名乗った小柄な男子生徒が意気揚々と告げて朝礼台に立った多輝を手で示す。今日の多輝は女性体をとっており、ピンクの可愛い衣装に身を包んでいる。突かれたわき腹を押さえ、さっさと痛みを取り除いてから順は多輝に向かって拍手した。するとそれにつられたようにグランドにたくさんの人々の拍手が鳴り響く。ついでに駆け出してきたカメラ小僧たちが多輝の愛らしい姿を熱写する。いやあ、元気だねえ、と無責任に笑って順は椅子にだらしなく身体を伸ばした。多輝は恥ずかしそうに真っ赤に顔を染めている。だがためらいがちな視線を周囲に飛ばした後、諦めたように両手を前に掲げた。
『星の力を秘めし鍵よ』
多輝の装着したヘッドバンド式のマイクからスピーカーを通して声が聞こえてくる。緊張のためか、多輝の声は震えている。あはは、と遠慮なく笑って順は指を鳴らした。
「なるほど、今は懐かしいアニメーションのコスプレなんだねえ」
「……少し落ち着いたらどうです?」
嬉しそうな順の声の後に隣で立城が低い声で言う。あれ? と笑って順は立城の顔を覗き込んだ。薄化粧を施した今日の立城もやはり女性体を取っている。
『真の姿を我の前に示せ』
掲げられていた多輝の手の中で何かが光を帯びる。それを見た観客達が一斉に歓声を上げる。
「アンタの方こそ落ち着いたら? さっきからそわそわしてさー」
歓声に紛れるほどの小声で順は立城に言った。すると立城が身体を硬く強張らせたまま、嫌そうに顔をしかめる。
「ぼ……わたしは落ち着いています」
立城が嫌そうな顔をしたまま身を捩る。話になりませんね、と腰を上げようとした立城の肩に順は無造作に腕を回した。すると立城が息を飲んで順を見る。順はのんびりと笑いながら立城の細い肩を抱き寄せた。
「いーから落ち着いてなよ。ほらほら、多輝ちゃんの芸もなかなか凝ってる……ははあん。アレ、水輝ちゃんか」
力の色を呼んで順はくすくすと笑った。多輝を見つめる観客達は総立ちになっている。多輝の掲げていた手から光が宙に浮き上がり、呪文に応じて光が別の形にとって変わる。現れたピンク色の杖を手にした多輝はそれを器用に回転させ、その場でターンしてみせた。それと同時に男子生徒らしい者たちの構えていたカメラが一斉にフラッシュをたく。
「離してください。一体何を考えているんですか」
呆れたような怒ったような声で立城が言う。順はまあまあ、とのんびり笑って腕の中に立城の身体を強く抱き寄せた。背後に並ぶ来賓たちの目は多輝に向いており、こちらを見てはいない。両脇にいる客たちもそうだ。気にしているのは立城一人なのだが、そのことを立城自身は判っていないらしい。
『花よ! この場に祝いの花を飾れ!』
もしかしたらやけくそなのだろうか。多輝が裏返った声で叫んで杖を高々と掲げる。ピンク色の杖の先端には大きな黄色い星の飾りがついている。ピンクの丸い枠の中で星飾りが回り、枠についていた白い可愛い羽根が伸びる。
不意に空から淡い桃色の花びらが舞い落ちてくる。おおー、と感心の声を漏らしながら順は立城の耳元に唇を寄せた。
「ねえ、水輝ちゃんから貰った指輪、どうしたのさ? こないだテレビに映った時は嬉しそうに見せびらかしてたじゃん」
そう言いながら順は立城の左手を素早くつかんだ。細い立城の指に指輪の姿はない。立城が目を見張り、息を飲んだ後、やんわりと順の手を退ける。
「なくしたら困りますからね。家に置いてきたんですよ」
グランドに小さな桜の花びらが落ちてくる。立城は素っ気無く告げてから舞い落ちる桜をぼんやりと見つめた。順はそんな立城に苦笑して前を向いた。今度は多輝は別の魔法の呪文を詠唱している。
「バカだなあ。アレ、守護の力がこもってたのに」
のんびりと言って順は指を鳴らした。意識を這わせて不可視の力で立城の身体を撫で回す。順の腕の中でびくんと身体を竦め、立城が慌てたような声を漏らす。だが順はしっかりと立城の肩を抱えて離さなかった。
多輝の魔法に観客達は夢中になっている。グランド中が歓声に包まれる中、多輝は次々に魔法を展開した。現れた風が降り積もった桜の花びらを優しくさらう。かと思うとグランド一面を一瞬で木が覆う。現れた水が陽光を反射して煌きながら色んな動物の形を纏い、地面が揺れ、土で出来た巨大な獣が咆哮をあげる。
順は薄笑いを浮かべて意識を這わせ続けた。服の中の身体を直接探られた立城が声を殺して震える。自身の身を両腕にかたく抱きしめ、立城は苦しそうに息を吐きながら言った。
「……僕を……どうする、つもり、ですか」
「べっつにー。ただ、ちょっとヒューマノイドの身体ってのに興味あってね」
のんびりと言った順の声も観客の歓声にかき消される。だが立城の耳にはしっかりと届いたらしい。震えながらも立城は顔を上げ、横目に順を鋭く睨む。
一瞬、カーソルが出なくなってびっくりしました(汗)