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「火藍さんの全てを受け継いでいらっしゃるのに、それだけではご不満ですか?」
真剣な面持ちで奈月が告げる。順は苦笑して腕に抱いた立城を見下ろした。脱力した立城が気づく様子はない。
「……火藍ちゃんのだけじゃないんだけどね」
ぼそりと呟いてから順は顔を上げた。ずれていたサングラスを指で押し上げて笑う。
「なに? お嬢さんとしては、コレが水輝ちゃんとくっつくのほーがいいの? こーんな、ふらふらしてんのにさあ」
からかうように言って順は奈月を横目に見た。
「紫さん。お気を確かに」
懸命な表情で言って奈月が順の前に身体を伸ばし、立城の肩を揺する。順はにやにやと笑って片手で奈月の胸をこっそりと撫でた。すると奈月が素早く順の手を叩き落す。うわあ、と情けない声を上げて順は打たれた手を目の高さに持ち上げた。
「わたしは水輝さんのものです。そのような真似はやめてください」
「いやあ、お嬢さんくらいはっきりしてれば、コレもぐるぐるしなくて済むんだろうにねえ」
そう笑って告げて順はやんわりと奈月を押し戻した。
「それよりほら。始まるよ。見なくていーの?」
にやにや笑って順はグランドを顎をさした。グランドの中央に引っ張り出されていた朝礼台を数名の生徒が片付ける。それと共にテントの一つに控えていたバンドが曲を演奏し始めた。体育祭などによく使われる、テンポの速い曲だ。
「これ以上、紫さんに不埒な真似をしないと約束していただけますか?」
生真面目に告げた奈月に順はへらへらと笑ってみせた。
「だって失神してるんじゃ、悪戯してもつまんないじゃん」
そう言いながら順はしっかりと腕に立城を抱きなおした。ぐらりと傾いだ立城が順の胸に無防備に身体を預ける。失神していると判っていても、間近に気配を感じるとぞくりとしたものが背を伝う。器の内側に渦を巻く、強大な力を食いたいという欲求がこみ上げてくる。だが順は平然とした態度で奈月にだらしない笑みを向けた。
「それも充分不埒です!」
びしりと順を指差して奈月が言う。えー、と眉を寄せて順は素早く立城の長い髪に唇を落とした。するとそれまでどよめいていた来賓席が水を打ったように静まり返る。順はついでとばかりに左隣に座る奈月の肩にも手を回した。
「両手に花! うわあ、オレさま大らっきー」
へらへら笑って言う順の様子にほっとしたように、来賓席にざわめきが戻る。順は脚を組み替えてにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「らっきーじゃありません!」
奈月が声を潜めて告げた途端、順の左手にびりりと痛みが走る。電気に撃たれたような痛みを感じつつも順は奈月の肩をしっかりと手に握った。
「オレね、痛いのけっこー好きなの。知ってた?」
だらしない笑みを浮かべて順は奈月に囁くように言った。焦ったように目を上げた奈月が何事かを言う前に順は小声で告げた。
「……ここに来た時からね。ヘンなのがコレに熱視線飛ばしてんの。あの指輪が隠れ蓑になってたコト、このヒト自身は知らなかったらしいけど」
早口で言いながら順はグランドに目を向けた。赤と青、それぞれの巨大ロボットがゆっくりと動き始める。
「紫さん、どうして指輪を外したりなんか……」
悲しそうな声で奈月が呟くように言う。順は苦笑してちらりと立城を伺った。失神した立城の横顔に苦しみはない。が、その思惟は伝わってくる。
「んー……嫉妬、なのかなあ。まあ、不安定ってのはオレも知ってたけど、ここまでとはね」
結局のところ、立城は拠り所がないと思い込んでいるのだ。だからこれまでしてきた通りに同じことをやろうとする。その結果、力の質が変わってしまった立城は失敗し続けているのだ。そのことを順は端的に奈月に説明した。
「紫さんは紫さんで、立城さんじゃないのに……」
困惑した顔で奈月が告げると同時に二体のロボットが互いに歩み寄った。大きな地響きを立ててロボットがゆっくりと進む。
「紫にはまだなりきれてないっしょ。かと言って前のこのヒトとは違うしね」
それまでのだらしない笑みを納めて順は静かにそう告げた。ロボットの登場で観客達の間にどよめきが走る。はしゃいだ声を上げているのは生徒たちだろう。
だからやっぱり、気分転換も兼ねて旅行に行って。奈月が口の中でそう呟く。順は苦笑して奈月に目を落とした。いつの間にか奈月の肩に乗せた手に加えられていた攻撃は収まっている。
「とりあえず今日は業腹だけど虫除けになってあげるよ。フェロモン出しまくりのこのヒト放置したら、どんなムシも一発昇天間違いナシだしね」
敵が萎えてるのもつまんないけど、クズがそれ脅かすのはもっとムカツクしね。順はそう付け足してため息を吐いた。
「敵、なんですか?」
「敵だねえ。オレ、水輝ちゃんが好きなのよ」
順はにやにやと笑ってさらりと告げた。すると奈月が呆れたような顔になる。順はへらへらとだらしなく笑いながら首を傾げてみせた。距離を置いて向き合ったロボットの片方が片方の腕を持ち上げる。
『おおっと! 如月選手、勝利宣言です!』
放送席に退避した小池が声高らかに解説を入れる。見ると赤いカラーリングのロボットは天に向かって手を突き上げていた。ちなみに要の駆るロボットは赤、巴の乗っているのは青色だ。デザインも二者は全く異なる。青いロボットはどちらかといえば寸胴で、ドラム缶に手足がついたような格好だ。それに比べて要の駆る赤いロボットはデザインそのものはとても人に近い。手足がすらりと長く、胴も細い。しかも何故か乳房までついている。
お約束の勝利宣言から入りましたw