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やがて勝利宣言を終えた赤いロボットがじりじりと間を詰める。手を伸ばせば届く、というところに近付いた瞬間、唐突に青いロボットはくるりと赤のロボットに背を向け、短い手足を動かして走り始めた。
『なっ……!?』
どうやら音声を外部に出力しているらしい。要の声が聞こえて来る。青いロボットが脱兎のごとく赤いロボットから逃げる。それを見た順は容赦なく笑い飛ばした。
『おっ、お待ちなさいぃぃぃぃぃいいい!』
ヒステリックな要の叫びがグランドに響く。それから赤いロボットは青のロボットを追いかけ始めた。大きなトラックに沿って青いロボットが逃げ続ける。
「鬼ごっこなんでしょうか?」
不思議そうな面持ちで奈月が言う。思う存分に笑い飛ばしてから順は乱れた息を整えた。観客達は一様に唖然とした面持ちでロボットを見守っている。
「いやあ、さすが絵美佳ちゃん。考えたねえ」
操縦技術はかなりのものだろうし、何しろ要は体術の類は幼い頃から叩き込まれている。いくらスペックで勝っているとはいえ、そんな要の駆るロボットにまともに向かっていっても巴では勝つのは難しい。だから絵美佳は巴に逃げるように命令したのだ。
『この、待ちなさいと言っているでしょう!? 吉良絵美佳! 卑怯ですわよ!』
要の悲鳴じみた声がグランドに響く。それまで場の空気に飲まれていたのだろう。慌てたように小池が解説を再開する。
『木崎選手、逃げております! ですが、この勝負は三十分一本勝負! 逃げてばかりでは勝負にならないと……おおお!?』
激しい地鳴りのような音が響く。トラックのコーナーに差し掛かったところで要が唐突にロボットの向きを変え、トラックの内側にダッシュしたのだ。ひたすら走っていた青いロボットがわたわたと手を振り回してトラックの外側に逃げようとする。観客席に突っ込む寸前でコースを変え、青いロボットがいきなりバックする。
「……あー。突っ込んだ」
のんびりと言いながら順は無責任に笑った。要の駆る赤いロボットはものの見事に観客席に突っ込んでいた。悲鳴を上げて観客達が逃げる。突っ込んだ位置がよかったのだろう。どうやら怪我人はいないらしい。
『ぅおのれ、吉良絵美佳! わたくしを愚弄してえええええ!』
そう叫びながら赤いロボットが身体を起こす。距離を置いて様子を伺うように止まっていた青いロボットは再び逃げ始めた。
「あの、逃げたらだめなんですか?」
不思議そうに首を傾げて奈月が言う。あはは、と笑いながら順は二体のコミカルな動きを目で追った。
「フツー、この手の勝負っつったら取っ組み合いって誰もが思うよねえ。まあ、観客の皆様方もそう期待してたみたいよ?」
言いながら順は目で来賓席を示してみせた。奈月が順に促されるままに来賓席におさまる客の面々を見る。どの客も唖然としたように口を開けっ放しにしている。
「あっ、転がってる」
感心したような奈月の声に誘われて順はグランドを見た。ドラム缶を思わせる胴を最大限に活かし、青いロボットが要の攻撃を避けている。それを要の駆る赤いロボットが走って追う。
『おおっと、木崎選手! 上手いです! 逃げまくりです!』
小池の解説には相変わらず熱が入っている。ずるいですわ、という要の悲鳴に順は無責任に笑い声を上げた。
「こりゃあ、ウチの陣営、おおわらわだろうなあ」
のんびりと言いながら順は遠くに見える大きなテントに目をやった。社員たちの慌てる様子が目に浮かぶ。
要がジャンプして青のロボットに膝蹴りを叩き込もうとする。が、グランドを転がっていたロボットが急に起き上がり、真横に飛ぶ。空振りした赤いロボットの膝がものの見事にグランドに突き刺さる。切れてる切れてる、と笑いながら順は脚を組み替えた。どうやら観客席におさまる人々もこの戦いに慣れてきたらしい。二体のロボットが動くたびに歓声を上げ始めている。
「要さん、あれでは駄目ですね」
捕えられない。ぽつりと奈月が呟く。そうだねえ、とのんびり言って順はロボットの動きを目で追った。
「んでも、要ちゃんも悪運、強いからねえ」
笑いながらコメントして順は右腕に力をこめた。脱力した立城の身体を抱え直して顎をしゃくる。それまで逃げまくっていた青いロボットがいきなり躓いて転んだのだ。
『おおっと、木崎選手! コケました! この期を逃す手はありません! おおおお! 如月選手、猛ダッシュです!』
小池の叫びに観客席が色めきたつ。
「転がって!」
懸命に言いながら奈月がこぶしを握る。どうやら奈月は巴を応援しているらしい。その声が届いたのか、青いロボットがゆっくりと転がり始める。だが遅い。ダッシュした要の駆る赤いロボットは逃げる寸前に青いロボットの腕を捕まえた。
ここを書くまで、まさか順と奈月の組み合わせで観戦になるとは思ってませんでしたw