エロシーンはありません。
「こりゃ、決まったかな」
口許に薄い嗤いを貼り付けて順は呟いた。
『おお! 巴投げです! おおっと、続いて四の字固め! ジャイアントスイング! 如月選手、多彩な攻撃です!』
熱の入った解説がグランドに響く。観客達は一斉に立ち上がった。
「あの……放り投げてしまうんですか?」
「上にね」
そう笑って順はテントの向こうに見える空を目でさした。すると奈月が少し眉を寄せてせっかく捕まえたのに、と呟く。
「遠心力があるから、あの投げ方では横に飛ぶのでは?」
ハンマー投げみたいな感じですよね? 思案顔で奈月が言う。順は笑って首を傾げた。
「斜めに回して重心を変えて、勢いだけ活かして放り投げるつもりじゃないかなあ。ただ、そこまでの動きを出来るかどーか……生身じゃないしねえ」
だらしなく笑って順は赤いロボットを見た。青いロボットの短い足をつかんだ赤いロボットは膝を曲げて回転を斜め向きに切り換えている。
「あの、こっちに飛んで来たりしませんよね?」
不安そうな顔で奈月が呟く。あはは、と笑って順は肩を竦めた。両手に立城と奈月を抱き寄せてだらしない笑みを浮かべる。
「悪い予感は当たるってね」
そう順が告げた直後、赤いロボットの腕から青いロボットの足がすっぽ抜けた。もの凄い勢いで青いロボットが頭から来賓席に突っ込んでくる。悲鳴を上げて逃げようとする来賓たちを尻目に、順は軽く右手で立城の肩を叩いた。
唐突に不可視のシールドがテントの前に現れる。飛んできた青いロボットはもの凄い音を立ててシールドに激突した。
「早いですね」
結界を展開していた奈月が呟く。あはは、と笑いで応えて順は失神したままの立城の肩をぽんぽんと叩いた。
「本能に勝るものはないってね」
腰を上げて逃げようとしていた来賓たちがおっかなびっくりといった態で席に戻る。その間に地面にへたり込んでいた青いロボットはのろのろと動き始めていた。赤いロボットは反動でグランドの向こうに放り出されている。
「丈夫ですね」
「いちお、要ちゃんのロボットのほーもだいじょぶだろね。ただ……中身が」
そう呟いて順は目を細めた。シールドにぶち当たったにも関わらず、青いロボットはよろよろとした足取りで進み始めている。対する赤いロボットは起きようとしているらしいのだが、腰が立たないといった感だ。
『おや! どうしたのでしょう! 如月選手、立ち上がることが出来ないようです! その間に木崎選手、復活です!』
けたたましい歓声に混ざって小池の解説が加わる。
「要さんっ! 止めないと!」
焦ったように奈月が言う。順はのんびりと笑って首を振った。
「意地でもリタイアはしないだろうねえ。ガンコだからなー。要ちゃんて」
のんびりとした順の声を追うように要が叫ぶ。
『煙が! 視界がゼロですわ! このっ、何で見えませんの!?』
要の叫びがグランドに響く。赤いロボットを遠巻きにし、青いロボットが静止する。赤いロボットは四つんばいの格好で手足をでたらめに振り回している。
『アホ生徒会長! さっさと降参しなさい!』
唐突に透の声がグランドに響く。するとそれまでじたばたと手足を動かしていた赤いロボットがぴたりと動きを止めた。
『……絶対に負けませんわ! 全操作手動に切り換え!』
透の声に応えて要が叫ぶ。その途端、静止していた赤いロボットが弾かれたように身体を起こした。グランドの端に立っていた青いロボットが慌てたように走り始める。要の駆る赤いロボットはもの凄い勢いで一直線に青いロボットに向かってダッシュした。
「……あらら。こりゃ、要ちゃん、ヤバイなー」
ぼんやりとロボットの戦う様を眺めながら順は呟いた。一定以上の負荷が要にかかるとあのロボットは動きを止めることになっている。だが要は全動力の操作を手動に切り換えてしまった。つまり、要が止めない限り、あのロボットは動き続けるということだ。
順は奈月の肩に回した左腕をちらりと見た。手首に嵌った時計を読む。戦闘開始から二十分が経過している。残り十分で要は巴を畳むつもりだろう。
「あの青いロボット凄く頑丈です。力場に激突したのにまだまだ元気ですよ」
赤いロボットからさっさと逃げている青いロボットを見つめ、奈月が感心したように言う。そうだねえ、と同意しながら順は頷いた。
「さすが絵美佳ちゃんだねえ……」
突っ込んだ赤いロボットが青いロボットを捕まえ損ねて横転する。だがすぐに赤いロボットは身を起こした。地面に突き刺さった赤いロボットの腕が肘部分から取れてしまう。どうやら要の動かし方にロボットがついていけなかったらしい。だがそれでも要は執拗に青いロボットを追う。
「あの赤いロボットは、要さんの座としては足りませんね」
少し悲しげに奈月が言う。順は苦笑して呟いた。
「……あの子にはまだ修行が足りないからね」
赤いロボットが真横にダッシュする。急激な動きに耐えかねたロボットが激しい軋みを上げてその場に引っくり返る。
『おおっと! 如月選手、転倒です! その隙に木崎選手、逃げまくりです!』
すっかり前のめりになった観客席から大きな歓声が沸き起こる。マイクを握った小池も放送席から乗り出している。
書いてる自分もどっちが勝つのか判らなかったのです、実は。