エロシーンはありません。
「すいません。内々の家族会議ですので」
にっこりと笑う優一郎に拗ねた声を上げた順は、だがすぐに諦めたように笑って肩を竦めた。
「それじゃあ、仕方ないよねぇ。んじゃ、オレは退散しますか」
そう言って優一郎に片手を上げて順が歩き出す。立ち止まっていた立城の脇を過ぎる時、順は耳元にまた今度ね、と囁いた。目を見張って振り返った立城の目の先で順が歩きながらじゃあねー、と片手を上げる。立城は目を細めてそれを見送ってから優一郎に従って歩き出した。
「話ってなに? ここですぐに聞けることじゃないの?」
地下二階の客室の一番奥の部屋に案内された立城は真っ先に優一郎にそう告げた。この間まで立城が使っていた部屋は新品同様に掃除されている。
「すみません。水輝さんが戻られるまで、お待ちいただけますか。梨恵、紅茶とコーヒーを」
部屋にいた梨恵に命じて優一郎がソファに腰掛ける。立城は立ったまま部屋を出て行く梨恵を見送った。
「僕に話があるんじゃないの? 何で水輝が関係あるの」
平坦な声で言って立城は腕組みをした。
「もともと水輝さんから相談を受けて、僕は仲介的な役割ですので、直接話を聞かれたほうが良いと思ったんですけど、お聞きになりたいならお話します」
膝の上で手を組んで優一郎が穏やかに微笑む。立城は腕組みをしたまま小さく息をつき、首を傾げた。
「聞くよ。なに?」
「まず、前置きしておきますが、僕が話したことだけで判断して帰ったりしないでください。あくまで伝聞ですので、誤解が生じる可能性がありますから」
ゆっくりとひと言ずつ確かめるように優一郎が言う。立城はしばし考えた後、判った、と頷いた。
「母上の身体を機体のままにしておくことはまずいのではないかと水輝さんから相談を受けたんです。水輝さんは生身の宿体に移る手伝いをしたいようなことを仰っていました」
静かな優一郎の声が耳に届く。その瞬間、立城の頭はまたずきん、と痛んだ。だが立城はそれを無視してふうん、と呟いた。
「それで? 生身の方が都合がいいから戻るようにと?」
痛みを隠して立城はそう告げた。すると優一郎が少しだけ眉を寄せる。
「そのあたりの話は水輝さんから聞いてください」
「なるほど」
平坦な声で言って立城はドアに向かって歩き出した。ノックの音がする前にドアを開ける。すると驚いたような顔をして梨恵が立城を見上げた。どうぞ、と笑顔で促すと梨恵が部屋に入ってくる。梨恵はトレイに乗せていたコーヒーと紅茶を応接セットのテーブルに乗せるとすぐに部屋を出て行った。立城は閉じたドアに寄りかかって優一郎を見た。
「母上、水輝さんとのコミュニケーションはきちんととれていますか?」
心配そうな面持ちで優一郎が告げる。立城は腕組みをして横を向いた。乾いた声で少しだけ笑って告げる。
「そんなもの必要ないだろう。生身になった僕が孕めばそれで水輝の目的は達成されるのだろうし」
それだけのためならわざわざ余計に接触する必要もない。立城は横を向いたまま告げた。
「孕めば終わりだと、母上はそう考えてらっしゃるんですか?」
先ほどより少し低い声で優一郎が言う。立城は顔を戻して優一郎を見た。その顔には先ほどまで浮かんでいた笑みはない。立城はにっこりと笑って答えた。
「正確に言えば孕んで産めば終わりだ。育てることについては僕より他の人が向いているだろう? 僕に任せると何をするか判らないしね」
笑顔で告げて立城はドアに寄りかけていた背中を剥がした。ベッドサイドの背の低い椅子に腰掛ける。
「そんな、自己卑下しなくても……」
「自己卑下のつもりはないよ。事実を述べただけだ」
立城はそう言いながら足を組んだ。コーヒーカップを持ち上げていた優一郎が眉を寄せてじっと立城を見つめる。
「子を為せば、母上の今の不安定な状況は改善されると僕は思っているんですけど。とりあえず、少し長い目で考えたほうがいいと思います」
「……欲しくなくても孕めと、そういうことだね。まあ、僕の役目はそれだけらしいから、どうせ嫌でもそうなるね」
話はそれだけ? 立城はすらすらと告げて優一郎を睨むように見た。
「僕が知っていることは一部ですから。とりあえず、水輝さんを待ちましょう」
そう言って優一郎がコーヒーカップを傾ける。立城は無言で立ち上がり、静かに優一郎に近付いた。ソファの後ろに立ってじっと優一郎を見る。不思議そうに顔を上げた優一郎を立城は指差した。
「それ、なに?」
立城は低い声で言って優一郎の首筋を指差した。コーヒーを啜っていた優一郎が眉を寄せて目を細める。
「キスマークですけど」
「……ふうん」
目を細めて呟いて立城は手を下ろした。ソファの前に回りこんで優一郎の正面に腰を下ろす。置かれていたティカップを持ち上げて立城は小さく笑った。
「随分と激しい性格のヒューマノイドがいるんだね」
まさか痕が残るほど吸うなんて。立城は笑みを浮かべて告げてティカップを傾けた。すると優一郎が静かに立城を見つめ、コーヒーカップを下ろす。
「これをつけたのは水輝さんです」
「そう。……だろうね」
笑みを納めて呟き、立城は紅茶を啜った。ずきん、とまた頭が痛む。こんな感情なければいいのに。そう胸中で呟いて立城はそ知らぬ顔で紅茶を啜った。すると優一郎がため息をつく。立城は知らん顔で紅茶を啜ってティカップを下ろした。
自虐が入ってる立城。
まあ、いろいろ不具合というか……出てるんですけどね(汗)