エピタイを他に思いつきませんでした(汗)
「大丈夫だよ。孕んで産めば僕は消えることになるだろうし。そうしたら君の心労は取り除かれる。うざったい計算なんてしなくても良くなるよ」
そう言って立城は微笑みを浮かべた。その方が気楽でいいでしょ。そう言って立城は首を傾げた。
「母上は、僕にどうして欲しいんですか? 切り捨てろと、見限れと、そうして欲しいんですか? 違うでしょう?」
「君は……いや、君たちは一つ勘違いをしている。君たちは既に僕を見限り切り捨てているんだ。僕の願いはとっくの昔に潰えてしまっているんだよ」
最後の用件である子を為す事のみが僕に残された役目だろう。そう言って立城は真っ直ぐに優一郎を見つめた。
「ですから、母上が子を為すのが嫌だと言うなら、協力します」
「役目を放棄した龍神に断罪の光が降りないと本気で思っているの? どちらにしろ潰えるなら同じ事だ」
それに子を為す以外のことは出来そうにないしね。小声で続けて立城は息を吐いた。
「それでは、とりあえず水輝さんとの間に子を為す事に異議は無いわけですね?」
優一郎が感情の失せた声で言う。立城はそれを受けて両手を軽く広げてみせた。
「異存はないよ。……僕は最初から嫌がってはいないと思うけどね」
そう告げて立城は立ち上がった。振り返って微笑を浮かべて言う。
「そういうことだから君も何も気にせず好きにすればいい」
いつの間にか部屋の中には水輝が現れていた。コートのポケットに手を突っ込んだ水輝が半ば睨むように立城を見つめる。立城は静かにソファを離れ、水輝の脇を過ぎた。
「み、水輝さん!?」
「おう」
低い声で返事して水輝が大股でソファに近付く。身を投げるようにソファに座り、水輝は仏頂面で振り返った。離れた場所にあるベッドに腰掛け、立城は腕組みをしてその視線を受け止めた。
「途中から水輝は僕達の話を聞いていたよ」
「まあな」
不機嫌な声で言って水輝が正面を向く。
「気づかなかった」
愕然とした面持ちで優一郎が言う。立城は肩を竦めて告げた。
「闇討ち、不意討ち、暗殺の類は水輝の得意技だからね。気配を殺して近付くなんて造作もないよね?」
「……まあな」
不機嫌極まりない低い声で言って水輝が煙草を咥える。
「それで、水輝さん。どうされますか? 僕は席を外したほうがいいですか?」
戸惑ったように優一郎が水輝と立城とを見比べる。立城は腕組みをしてじっと水輝の後姿を見つめていた。どこかで人間の女性を抱いてきたらしい。水輝の身体にはべったりと複数の人間の気配がこびりついている。
「いんや、いい。そういうことなら端的に言った方がいいだろ?」
そう言って水輝が振り返る。
「その身体、引っぺがして影に立てるぞ。お前、役に立ってないから当主の座から降りろ」
至極、判り易く水輝が言う。立城は鋭い水輝の表情と焦ったような優一郎の顔とを見比べた。ふうん、と口の中で呟く。
「その後、お前は勝手にしろ。おれも嫌がる女を孕ませる気はない」
そう言った後、水輝は正面を向いた。立城は目を細めて水輝の後姿をじっと見つめた。確かにそんな真似をしようとするなら、かなりの力が必要になる。
「……本当に虫けらのように扱うんだね」
立城は呟くように告げてため息を吐いた。あー、と不機嫌な声を上げてまた水輝が振り返る。
「孕めば何でもいいって事だよね? それ。つまり、相手は何でもいいからさっさと子を孕んで産めってことでしょ?」
モルモットや虫を故意に交配させるのとどう違うの。立城は小さく笑ってそう告げた。するとしかめ面で水輝が立城を睨む。
「違うと思います。母上、子を為す事は使命では無く、権利ですから」
「……権利? 違うよ。僕の場合は義務だ」
困ったような顔をした優一郎に立城はすらりと言い返した。それからため息を吐いて立城は立ち上がった。
「違います、あのっ!」
「うぜえ女だな。別におれはお前が誰に孕まされても気にしないし、産みたきゃ勝手に産みやがれ」
優一郎の声を遮って水輝が不機嫌そうに言いながら立城を睨む。立城はその視線を受けて口許に笑みを浮かべた。
「それが本音だよね、やっぱり。どうせ君は僕を殺してはくれないし、器を分離するなり、影を立てるなり、好きにすれば?」
その後、好きにしろというならそうするよ。立城は静かにソファに歩み寄り、水輝を見つめて笑顔で言った。鋭い目で水輝が立城を睨みつける。
「あーくそ、何でおれがこんな七面倒なことしなきゃなんねんだよ」
鬱陶しそうに言って水輝が頭をかく。立城は微笑みを浮かべて首を傾げた。
「誰も頼んでいないよ?」
「あー、そうだろうよ!」
叫ぶように言って水輝が立ち上がる。大股で歩いた水輝が立城に歩み寄り、怒声を張る。
「いつまでも寝ぼけてんじゃねえ! くだんねえ感傷なんざ、捨てろっつったろが!」
「……君に言われたくはないね」
間近で怒鳴った水輝に立城は冷ややかに答えた。その瞬間、水輝が目を見張る。
「同情や感傷で人を玩具のように扱っているのはどっちなの? 僕は君のモルモットじゃない」
前世や魂のかつての繋がりなど関係なく想いを抱いてくれているのだと信じていた。だがそんなものはただの夢物語でしかなかった。結局のところ、孕んで産ませるためだけに水輝は誓約を強いたのだ。
「僕も相当、頭が鈍ったみたいだね。一時でも君の言葉を信じた僕がばかだったよ」
静かに言って立城は微笑んだ。その瞬間、左の頬に痛みが走る。水輝に平手で打たれたと理解した立城は唇を噛んで右手を一閃した。だがその手が水輝の頬に届く前に今度は右の頬を強く打たれる。その場によろけてへたり込んだ立城は頬を押さえて唇を噛みしめた。
「……勝手にしろ」
低い声で言って水輝が大股で部屋を横切り、けたたましくドアを開けて出て行ってしまう。
「母上……」
小声で優一郎が呼びかける。立城は頬を押さえたまま立ち上がった。ごめんね、と優一郎に笑みかける。
「そういうことだから、僕、もう帰るね。水輝も君も忙しいんでしょ? 金龍神の宝珠は少し扱い難いから気をつけて」
それじゃあ、と呟いて立城は踵を返した。
10月の最後の日がこの話ってw
でも、まだ終わりではありません。