「わたしの為すべき事が、わかりました」
にっこり笑って奈月が言う。優一郎は奈月に頷いて告げた。
「それでは斎姫を呼びましょうか?」
「ちょっと待て」
そう言って唐突に水輝が席を立つ。何事かと優一郎が見守る中、水輝は何故か部屋を出て行ってしまった。数分後、水輝が戻ってくる。その腕には色とりどりの龍宝珠が抱えられていた。
「真也のだ。これもついでに還してくれ」
「了解しました。斎姫が持っている分もありますので、ちょうどいいですね。では」
そう答えて優一郎は斎姫を転移させて引き寄せた。エプロンを身につけ、右手におたまを持っていた斎姫が慌てたように頭を下げる。どうやら夕飯の準備中だったらしい。
「斎姫、いきなりごめん。調理用具は梨恵さんに戻すね」
そう言って優一郎は斎姫の握っていたおたまだけをキッチンにいる梨恵の元に転送した。奈月が微笑みを浮かべて斎姫の横に並ぶ。水輝が両腕に抱えていた龍宝珠を天井に向かって放る。ふわりと浮かんだ龍宝珠は奈月と斎姫を取り囲んだ形で中空に静止した。
「斎姫。宝珠をリリースして」
優一郎が声をかけると斎姫が頷いて目を閉じる。胸の前に両手を組み合わせ、祈るような形で斎姫はじっと静止した。するとその胸から立城から吸い上げた宝珠が飛び出す。浮かんでいた龍宝珠に金色のものと紫色のそれが混ざる。
「それでは、いきます!」
奈月が気合のこもった声で告げて天井を仰ぐ。水輝がのんびりと胸ポケットから煙草を引っ張り出し、一本咥えて火を点ける。その間に奈月の身体から一気に宝珠が飛び出した。同時に斎姫の身体からも宝珠が飛び出す。
「常磐さん、おつかれさまでした」
漂っていた龍宝珠の一つに奈月がにっこりと笑って話し掛ける。すると奈月の目の前に浮かんでいた翠色の宝珠が一瞬、輝きを増した。その後、くるりとその場で回って一気に天井に向かって飛び上がる。翠色の宝珠に導かれる格好で、浮かんでいた宝珠は次々に天井の向こうへと消えていった。最後に残っていた紫色の宝珠がゆらりと中空を漂い、水輝の前で静止する。
「あー、うぜえな。判ってるっつってんだろ!」
いいから行け! そう喚いて水輝が強く床を蹴る。すると紫宝珠が輝きを増した。その瞬間、どこからともなく声がする。
この女たらし。
皮肉いっぱいの声を残して紫宝珠が天井の向こうに消え失せる。咥え煙草で天井を見上げていた水輝がうあー、と情けない声を漏らす。
「どなたですか?」
笑いながら優一郎は水輝に訊ねた。すると水輝が頭をかいて唇を嫌そうにへの字に曲げる。何でもいいだろ、と喚いて水輝はそっぽを向いた。
不意に空間が揺らぎ、その場に一人の少女が現れる。それを見止めた瞬間、水輝が引きつった。少女が笑顔で会釈して奈月にひらひらと手を振る。
「やっほー! 奈月さん!」
はしゃいだ声で言って少女が奈月の手を取り、上下に振り回す。淡い水色の髪と瞳を持つ少女を優一郎は首を傾げて見つめた。
「あの、この方は?」
「二藍さん! お久しぶりです!」
優一郎のせりふと奈月の嬉しそうな声が重なる。どうやら少女は奈月と知り合いらしい。少女はしばらく奈月と再会を喜び合った後、優一郎たちに向かって頭を下げた。
「アタシ、二藍です! よろしくっ」
元気いっぱいの挨拶をして二藍が奈月の肩をばんばんと叩く。
「奈月さん、立派な青宝珠あるしさ! 全然大丈夫だよね!?」
からっと明るい笑い方をしつつ二藍が言う。肩を叩かれるままに奈月が不思議そうな顔で首を傾げる。すると二藍はずい、と奈月に顔を寄せた。
「要らないよね!?」
「あっ、あの、何がでしょうか?」
戸惑ったように奈月が呟く。すると二藍は奈月の両肩をがしっとつかんで更に顔を寄せた。
「青宝珠、それだけでじゅーぶんだよね!?」
にこにこと笑ってはいるが二藍には妙な迫力がある。
「あっ、はい」
圧される格好で頷いた奈月に二藍がうんうん、と何度も頷く。
「そんじゃ! そゆことで!」
そう言って片手を上げたかと思うと、二藍の姿は溶けて一気に龍宝珠へと転じた。驚きに息を飲む奈月の周囲をくるりと回って青い宝珠が天井に向かって飛び上がる。天井の向こうに消えた宝珠を見送っていた優一郎は苦笑した。もしかしたら先の少女は奈月の宝珠だったのではないだろうか。だが奈月には今現在、水輝の強大な力がこめられている。
「あの爆弾娘……無茶しやがる」
水輝がささやかな声で呟く。隣に立っていた優一郎はその声を聞き取って苦笑した。二藍は特に何も言わなかったが、水輝は恐らく彼女のことを知っていたのだろう。もしかしたら最初から奈月の宝珠は別にあるということにも気づいていたのかも知れない。
梨恵と斎姫、それに多輝の作った料理をみんなで食べた。その後、多輝は蒼と共に試験場に向かっていった。どうやら少しは鍛えようと思い始めたらしい。責任を取って鍛えますので、というのが蒼の言だった。いそいそとそれに由梨佳もついていったから、多輝の世話はしてくれるつもりなのだろう。
梨恵は掃除や洗濯がありますから、と早々に退散した。それの手伝いをすると斎姫もついていった。要はまだ修理中で、その傍に白銀が張り付いている。何度言っても白銀は要から離れようとはしないのだ。まあそれもいいだろう、と優一郎は白銀に決して要の機体に触れないよう忠告してから工作室を出た。
奈月は立城の世話をすると客室に引っ込んでしまっている。スーツケースを引きずって行ったから、きっと立城が目覚めたらすぐに水輝と旅行に向かわせるつもりなのだろう。
水輝、宝珠からも女たらし認定をうける。