※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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これはエピタイをつけるのが楽でした……w
エロシーンはありません。


賭けは俺の勝ち!

「ああああああ、振られちゃったよぉ」

 

 しくしく、と言いながら順は冷たいマホガニーの机の上に顔を乗せた。嘆く順の正面に座っていた透が呆れたような顔をする。もう透の身体は男性のものに戻してある。

 

「あっさり諦めるなんてあんたらしくないな」

 

 順の勧めに従って透はバーボンの入ったグラスを傾けていた。人々のざわめきに包まれたこの店は順が昔から気に入りで利用している場所だ。静かなジャズがかかっている店内に客の姿はまばらだ。

 

「だって水輝ちゃんが怒るんだもん怒るんだもん」

 

 唇を尖らせて言いながら順はテーブルにのの字を書いてみせた。

 

「アタマ使えよ……」

 

 呆れきったように言って透が残っていたバーボンを飲み干す。むー、と言いながら順は腕を上げて指を鳴らした。するとカウンターの中に居たバーテンが何にします、と穏やかな声で順に問う。順はのろのろと身体を起こして透の握ったグラスを指差した。

 

「同じヤツ二つね」

「はい、すぐにお持ちします」

 

 少し離れたカウンターからバーテンが返事する。ほどなく二人分のバーボンが運ばれてきた。背の低いグラスを取り上げて順は深々とため息をついた。

 

「だってさあ。かたっぽはこっちに引き受けさせてくれるって読んでたんだよぉ。なのに水輝ちゃん、土壇場で翻すんだもん」

 

 口の中でぼやくように言いながら順はバーボンを舐めるように口にした。新しいグラスを取りながら透がため息をつく。

 

「両方、カバーし通せるわけないじゃん。つけこむ隙はあるだろうさ」

「お、やけに優しいじゃん、とーるくん。……あっ、サラダとか食べない? オレ、朝から何も食ってなくてさあ」

 

 だらしない笑みを浮かべて順はテーブルに寄りかかった。けっこうな量を飲んではいるのだが頭は妙に冴えている。対する透は順の半分以下も飲んではいない。

 

「あのへたれのほうは、まだまだ脈ありだろ」

 

 辛辣に言いながら透が琥珀色のバーボンの入ったグラスを手の中でもてあそぶ。そうだねえ、と間延びした返事をして順は勝手にサラダをオーダーした。判りました、と頷いてバーテンがキッチンに向かう。

 

「隙だらけだからねえ。転換期だし」

 

 肩を揺らして笑いながら順はテーブルに残っていた皿からナッツをつまみ、口に放り込んだ。

 

「その割には、ガードも手ぇ抜いてるしな」

「けっこー、ちゃんと見てるんだねえ」

 

 感心して言って順はエライエライ、と透を誉めた。すると透があからさまに仏頂面になる。

 

「俺は海鮮スペシャル毛蟹サラダくれ」

「はいはい」

 

 小さく笑って順は追加オーダーした。するとバーテンが苦笑してまたキッチンに向かう。戻ってきたバーテンは先に順が注文した野菜サラダを運んできた。わーい、と声を上げた順にバーテンがフォークでなく割り箸を差し出す。ここに来ると順はいつも食事は箸でとることにしているのだ。

 

「狙うならそっちに集中しとけ。必ずチャンスは来ると思うぞ」

「んー……でも孕んだ後じゃつまんないしねえ」

 

 サラダをつつきながら順は笑って言った。綺麗に盛られたサラダには薄目のドレッシングがかかっている。

 

「なら、早めに動いとけ。むこうが気ぃ散らしてるうちにな」

 

 そう言って透がグラスを傾ける。サラダをつつきながら順は目だけを上げた。

 

「どしたの? 嫌に積極的にアドバイスしてくれるんだねえ」

 

 小さく笑って言ってから順は身を起こした。透が注文した海鮮サラダが運ばれてくる。順の頼んだものの二倍はあるかという大きな硝子の器に盛られたサラダが透の前に置かれる。それからバーテンは透に首を傾げて訊ねた。

 

「フォークとお箸、どちらになさいますか?」

 

 順の連れだということでわざわざ訊ねているらしい。

 

「箸くれ」

 

 そう告げた透に割り箸を差し出してバーテンは静かにテーブルを離れた。山盛りになったサラダの真ん中にでん、と置かれた毛蟹を早速透が分解し始める。

 

「あいつの一人勝ちなんて、つまんねーだろ」

「あれー? もしかしてとーるくん、水輝ちゃんのこと気に入らないの?」

 

 サラダをつつく手を止めて順は箸で透を指し示した。すると透が嫌そうな顔をして順を睨む。ごめんごめん、と軽い口調で詫びて順は箸をテーブルに乗せた。

 

「俺の処女も、あいつが食いやがったんだよ」

 

 むかつく、と続けて透がもの凄く嫌そうに顔をしかめる。順はあはは、と笑って首を傾げた。バーボンを半分ほど飲んでから再びサラダを切り崩しにかかる。透は器用に毛蟹の殻を外して蟹肉をほぐし始めている。おお、なかなか上手いね。そう順が誉めると透がまあな、と平然と告げる。

 

「まー……今のトコ、男は三人だけだからねえ……。キミ、水輝ちゃんに食われて運が良かったと思うよ。他の誰かに食われてたら、今ごろすっごく不安定になってたと思うし」

 

 少しだけ押さえた声で順は言った。すると透が蟹をばらしていた手をぴたりと止める。

 

「正攻法なら文句はいわねーよ。だがあいつは騙し討ちしやがった」

 

 いつか三倍返しにしてやるから覚えてろ。憎々しそうに言って透が大きな蟹肉を口の中に放り込む。順は苦笑して透の皿から蟹の殻を箸でつまみあげた。ナッツの乗っていた皿にそれを乗せてから自分のサラダをつつく。

 

「そーんな気にすることかなー。オレなんてもっと卑劣な真似するし。ヤク漬けにしたりとかねえ」

 

 へらへらと笑って順はそう言った。すると透が眉を強く寄せて順を上目遣いに睨む。

 

「お前からは被害は受けてないからな。何かしやがったら三倍反しだからな」

「あれ? オレ、絵美佳ちゃんの時に嵌め技使ったよ? 覚えてない?」

 

 低い声で言った透に順は笑い混じりに告げた。すると眉間にしわを寄せた透が箸を握った手をこぶしに固めて順の額をどつく。痛いなあ、とぼやいて順は額を手でさすった。

 

「嵌めたのは俺じゃなくて、同居人だったからな」

「おー。何て寛容なオコトバ」

 

 だらしなく笑って順は細い背もたれに身体を預けた。グラスをつかんで一気に残っていたバーボンを煽る。おかわりを注文してから順はテーブルに乗り出した。淡々とサラダを食べていた透が不審そうに順を見る。

 

「でもクロチャンに持ってかれるよかマシっしょ? もしクロチャンにやられてたら、今ごろ冥界でがんがん子供産まされてるよ?」

 

 そう言って順は一人、うんうんと頷いた。

 

「あんなボンクラに落とされるほどおちぶれてねーよ」

 

 平然と透が言い切る。順はあはは、と笑って手を叩いた。

 

「すっごい自信だねえ。オンナノコにはやさしーのに」

 

 要ちゃんに負けちゃったもんねえ。そう言って順は人の悪い笑みを浮かべた。すると透がふん、と鼻で嗤う。

 

「あれは見事だったよ。あいつは命賭けて立ち向かって来たのに、俺はそうじゃなかったからな。負けても仕方ない」

 

 あっさりと言って透が頷く。どうやら透は戦いに負けたことについては特に何も思ってはいないらしい。潔いねえ、と苦笑して順はそっと目を上げた。ちらりと店の入り口に目をやる。ドアを押し開けて入ってきたのは一人の若い女性だ。仕事の帰りなのだろう。派手な化粧をして、着ているものも見栄えがするよう配慮されている。この時間の仕事だ。きっとこの界隈のビルのどこかで客を取っているのだろう。

 

「……あら?」

 

 その女性が店の奥に座っていた順と透の席を見て小さな声を上げる。順は近付いてくる女性に苦笑して静かにスツールを下りた。バーテンが運んできたバーボンを一気に飲み干してグラスをテーブルの端に乗せる。どうぞ、と順は女性に一礼して椅子を引いた。女性が戸惑ったように順と透を見比べる。

 

「おおおっ。俺の勝ち?」

 

 嬉しそうに笑って透が言う。すると女性は困ったように笑って肩を竦め、順の引いた椅子に腰掛けた。ありがとう、と笑顔で言う女性に順はいえいえ、と答えた。それから改めて女性が透に笑みかける。

 

「そうみたいね。坊や、元気だった?」

「元気、元気! そっちは?」

 

 くすくすと笑って女性が首を傾げる。順はそっと透に片手を上げて席を離れた。静かに歩いてバーテンの納まるカウンターに移動する。順はしくしく、と言いながらカウンターについて突っ伏した。

 

「うう、振られちゃったよぉ」

「木村さん。何かけます?」

 

 慣れた調子で順をあしらいながらバーテンが穏やかな声で訊ねる。そうだなあ、と肘杖をついて順は指を鳴らした。

 

「ビリー・ジョエル」

「……いつものですね」

 

 困ったように笑いつつもバーテンが店の隅にあるジュークボックスに移動する。順の指定した曲がやがて店内に流れ始める。順は小さく笑って透たちの座る席を横目に見た。

 

「子供はいつまでも子供じゃないってねえ……。あの女、かなり上等だなあ」

 

 女性の気配を読んで順はくすくすと笑った。カウンターに戻ってきたバーテンにバーボンをロックで注文する。ほどなく出されたグラスを一気に空けて、順は支払いを済ませて店を出た。あの調子だと透はすぐには戻らないだろう。店を出て冷たい風を浴びながら順は大きく伸びをした。

 

「さーて。忠告通り、早めにコナかけとくとするかな」

 

 そう言いながら順は夜の街に歩き出した。




歌手名出したりすると、これは違う世界です、と言っても通じなくなるような気がしますが……。
笑って許してもらえると嬉しいです。
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