※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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ちょっと長いので切り分けました。
エロシーンはありません。


突然の電話

 ふわりと浮き上がるような感覚と共に意識が戻る。立城はぼんやりと目を開けてしばし天井を見上げた。見覚えのある天井に思わずああ、と掠れた声で呟く。どうやら自分は優一郎の施設内の例の客室に運ばれたらしい。

 

 立城はしばしベッドの中でまどろんでからのろのろと身体を起こした。覚えはないのにいつの間にか着ているものがパジャマに変わっている。もしかしたら奈月さんの趣味かな。淡い桃色の水玉模様のついたパジャマを見下ろして立城は苦笑した。何気なく髪を背中に追い払う。そこで立城は目を見張った。

 

 慌てて背中に伸びた長い髪を指に取る。立城の髪の色はいつの間にか薄くなっていた。嘘、と呟いて立城はベッドを飛び降りて部屋の隅にあるドレッサーに駆け寄った。かけられていたカバーを払い落として鏡の中を覗きこむ。

 

 透き通った淡い紫色の瞳が自分を見つめ返している。それを見た立城は硬直し、その後、力なくその場にへたり込んだ。明らかに髪と瞳の色は以前より薄まっており、紫色というよりはどちらかと言えば藤色に近い。

 

「何で」

 

 俯いて呟きながら立城は左手の薬指に嵌った指輪を見下ろした。指輪につけられた宝石は深い紫色をしている。失神する前までは確かに同じ色をまとっていたのに。立城は震える手をそっと胸に引き寄せた。

 

 座格に異変が生じている。そのことを立城は遅まきながら理解した。以前ならはっきりとわかっていたものが全てぼやけた感覚でしか捉えられない。意識を伸ばしてみてもその限界がすぐに訪れる。立城は左手をそっと右手に包み込み、胸に抱き寄せてため息をついた。

 

 降ろされたのか。そう呟く。地上の王の座が明らかに自分にないことが判る。そして同時に木龍神としての格もなくなっている。立城は床にへたり込んだまま、身を震わせた。

 

 不意に耳障りな電子音が鳴る。立城はびくりと身を竦めて慌てて音のした方を見た。立城の着ていたスーツがベッドの傍の椅子の上に畳んで置いてある。音はそこから聞こえているのだ。立城はため息をついて立ち上がり、スーツのポケットから携帯電話を取り上げた。二つ折りの携帯電話を開くと小さな液晶画面に公衆電話の文字が表示される。訝りを覚えつつ、立城は受話ボタンを押して携帯電話を耳に当てた。

 

「はい」

 

 小声で答えると電話の向こうに車の走る音が聞こえる。

 

『やっほー! オレだよ、オレ。木村順でーす』

 

 嫌に浮かれた声を聞いて立城は無言で電話を切ろうとした。すると耳から離す直前に順の慌てた声が響く。

 

『うわ! 待った! 切らないでよぉ!』

「……何故あなたが僕に電話を」

『桜ちゃん! ほら、桜ちゃん預かっててさ!』

 

 不機嫌極まりない立城の声に順が慌てたように言う。立城は目を見張って息を飲んだ。切るタイミングを逸してしまったことを感知したのか、順が一転してのんびりした声で言う。

 

『ちょおっと悪いんだけどさあ。オレ、そこに入れないから、引き取りにきてくんないかな』

「今、何時だと思っているんですか。夜が明けたら改めて伺います」

 

 淡々とした口調で答えてから立城はそれに、と続けた。

 

「桜なら自力で戻れるでしょう」

『……ちょっと、そりゃないんじゃない? アンタが作り損ねたのを、こっちはわざわざマトモにしたげたんだよ? ツラ見せて礼言うってのが筋ってもんじゃない?』

 

 それまで浮かれていた順の声に厳しい響きが混ざる。立城は目を細めて壁にかかる時計を見た。時計の針は午前二時を指している。しばし時計を見つめて立城は黙考した。今、この部屋には誰もいない。だがもしも引き取りに行くなら水輝か優一郎にひと言断った方がいいだろう。それでなくとも前のように龍神としての力は殆ど使えないのだ。

 

「非常識な時間に電話をかけてきているのはどちらですか」

 

 順が自分にしたことを思い出して立城は身震いした。気持ちの悪い感触が甦る。あれは性交などというものではなかった。一方的に侵略されたのに近い。思い起こす立城の顔には険しいものが浮かんでいた。

 

『えー。だって、これでもオレ、けっこ忙しいんだよぉ? それに出来たっての、真っ先に報せた方がいいと思ってさあ』

 

 これでも親切のつもりなんだけどね。順が笑いながらそう続ける。立城は深々とため息をついて告げた。

 

「判りました。今からそちらに……そういえばどこにいらっしゃるんですか」

 

 ふと、気づいて立城は告げた。するとえへへ、と笑って順が言う。

 

『清陵センター街の外れだよん。すずらん通り』

「……まさか僕にそこに来いと言うつもりじゃないでしょうね?」

 

 順の示した場所は清陵の中でも有名な大きな歓楽街だ。人々が欲求不満を解消し、欲望のままに遊ぶ街……言わば、色町なのだ。立城は低く呻いて額を押さえた。だが電話の向こうで順はあっけらかんと言う。

 

『だーいじょぶだって。アンタいま、例の指輪してんでしょ? それなら変なオトコに絡まれたりはしないしさあ』

「自覚していますか? あなたがその筆頭なんですよ?」

 

 半ばうんざりしながら立城は一応、そう言葉を挟んでみた。順がえー、と笑ってそれは気付かなかったとわざとらしいことを言う。立城は深々とため息をついて眉間を指で押さえた。

 

「やはり、僕一人で行動するのは危険ですね。明日、木村邸にお伺いします。それでいいですか?」

『あ、オレ、明日から出張』

 

 立城の言葉に順がさらりと言い返す。対応に困りながら立城は頭をかいた。順の言う、出張の件が本当か嘘かは判断出来ない。が、順が退く気がないことだけは判る。こんな時に水輝が居てくれれば。そう考えてから立城は頭を振った。あんな術を使った後だ。きっと水輝は疲れ果てているだろう。それに渚の件もある。

 

「……仕方ないですね。ですが、少し移動してください。僕の家で落ち合いましょう。それで文句はないですか?」

 

 立城は諦め気分でそう告げた。するとりょーかい、と順が気楽に言う。待ち合わせの時間を決めて立城は電話を切った。どうやら順はタクシーを使う気らしい。立城は手早く身支度を整え、そっと部屋を出た。廊下に出てもやはり水輝の気配は感じられない。相当、力が落ちているな。そう呟いて立城は廊下を一人で進んで行った。

 

 もしかしたら優一郎くんは居るかも。そう思いついて立城は途中、優一郎の部屋に寄った。そっとドアをノックする。だが待ってみても応答がない。立城は試しにドアに手を当てて部屋の中の様子を意識を通して見てみた。が、優一郎の部屋には誰もいない。そのことを確認してから立城は諦めてドアから離れた。




そろそろこの話も終わりです。
あ、そういえば人物紹介を挟んでいませんでしたね……(汗)
最後に付け足すことにします。
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