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地下鉄のホームに降りてパネルを操作して電車を動かす。ほどなく無人のホームに電車が滑り込んできた。明るく照らされた車内に乗り込む。立城一人を乗せた電車は静かに動き出した。
立城は吉良瀬の屋敷の地下の駅で電車を降りた。そこで電車を操作するための小部屋に入ってパネルを操作する。全ての電源を落として立城は急いで地上に出た。誰もいない屋敷は暗い夜空に不気味にそびえて見える。立城は寒さに身を震わせながら庭を突っ切った。鍵を開けて屋敷に入り、とりあえず玄関の電気を点ける。立城は次々と屋敷の中の明かりを灯していった。応接室の暖炉に火を入れたところで呼び鈴が鳴る。立城は急いで玄関に向かい、ドアを開けた。
「……なに。アンタ、使用人くらい雇いなよ」
開いたドアの向こうに立っていた順が挨拶もなしでそう言う。立城はため息をついてどうぞ、と順を屋敷の中に促した。順の後ろを一人の女性がついて歩く。その姿を見た立城は声をかけたくなるのを懸命に押し殺した。順の後ろに続いているのは桜だ。が、桜は微笑を浮かべて立城に他人行儀に挨拶をするだけだ。
二人を応接室に通してから立城は三人分の茶をいれて運んだ。ソファに腰掛けた順と桜に茶を出し、最後に自分のそれをテーブルに乗せる。立城は並んで座る二人の前に静かに腰を下ろした。
「執事不在、使用人ゼロ。使い魔もなし。……アンタ、ちゃんと管理しないとこのサイズの家はすぐにボロがくるよ」
茶を飲みながらさばさばと順が言う。立城は順を睨むように見つめ、大きなお世話ですと低い声で答えた。
「このたびはどうもありがとうございました」
儀礼的に言って立城は順に頭を下げてみせた。すると順がへらへらと笑いながらソファに寝そべるようにしてもたれかかる。
「そうそう。謙虚な態度ってのは肝心よん」
「……でも、どうやら桜……さんは……僕の使い魔ではないようですから」
苦しい気分でそう言いながら立城はゆっくりと頭を上げた。順の隣に腰掛けていた桜が微笑みを浮かべて告げる。
「わたくしはそろそろおいとまいたします。木龍神様がご不在で、それでもわたくしが存在しているということは、その座を護れという意味ですから」
そう言って桜が立ち上がる。立城は俯いて唇を噛んだ。それでは、と涼しい声で告げて桜がその場から唐突に姿を消す。立城は桜の気配が消えたのを感じ取って思わず顔を上げて微かな声を漏らした。桜色の淡い光だけがその場に残っている。だがそれもすぐに空気に溶けて消えた。
「これで、引渡しは済んだでしょう? お引き取りください」
震える声で言いながら立城は順を見た。順はだがのんびりと座ってティカップを傾けている。
「いいじゃん、ちょっとくらい。アンタだってこーんな広い屋敷で一人なんて寂しいしょ?」
へらへらと笑って順が言う。立城は硬い声でお構いなく、と答えた。えー、と間延びした声で言って順が含み嗤いする。立城は無言でそんな順を睨みつけた。
「アンタさあ。ホントに水輝ちゃんのこと、スキなの?」
唐突に順が言う。立城は目を細めて順を見つめた。それから何をばかなことを、と苦笑する。
「好きでなければプロポーズなど受けたりしませんが?」
「それってアンタの本音って証拠はどこにもないしさあ。もしかしたら魂でずるずる記憶を引きずってるだけかも知んないっしょ?」
のんびり言って順が軽い掛け声をかけて身を起こす。唇を引き結んだ立城に順が畳み掛けるように言う。
「それに水輝ちゃんだってそーじゃん? 水輝ちゃんってふっるーい龍神だからさあ。オレやアンタの知らないこともいっぱい知ってそーだし、だからアンタにコナかけたってことも考えられるんじゃないのお?」
「そんなことは」
紫翠は本当に潰えたのだろうか。かねてからの疑問が立城の脳裏に閃く。あの時、立城は渚に埋まっていた記憶を水輝に放った。あの時の立城にはその記憶を読む暇はなく、そうすることが精一杯だったのだ。考え込む立城の声は自然と尻すぼみに消えた。
「オレにしとけば?」
「はい?」
急に思考を現実に引き戻されて立城は訝りをこめて言った。すると順がへらへらと笑いながら自身を指差してみせる。
「だからオレにしとけばって言ったの。オレさー。火藍ちゃん死んじゃったしさー。すっごく寂しいんだよねー」
消沈した面持ちになって順が言う。あ、と立城は小さな声を上げた。順の態度が余りにもだらしないものだったからすっかり忘れていた。順はあの時、火藍を自身の手で断罪してしまったのだ。その原因が自分にあることを思い出し、立城は言葉をなくした。
「恨みつらみはないけどね、その点に関してはさ。それに、結局はどう足掻いてもああなったと思うし」
そう告げた順の顔に寂しい笑みが浮かんでいる。立城は小さな声でごめんなさい、と詫びた。するとあはは、と順が気楽そうに笑う。いいのいいの、と手を振って順はティカップを傾けた。立城は少しだけ緊張を解いて自分の前に置いてあったカップを取り上げた。
「オレはアンタが誰と結婚してよーが、それこそ誰にやられようがぜんっぜん気にしない、超絶楽なオトコだよん? けっこ、お買い得だと思うけどなあ」
調子のいいことを言う順に立城は苦笑してみせた。おまけに財力あるしね。そう付け足して順が自分の胸をこぶしで軽く叩いてみせる。
「それにさー……。アンタ、オレに自分から跨ってたっしょ?」
唐突に指摘を受けて立城は思わず紅茶を吹き出しかけた。慌てて口許をハンカチで拭って咳き込む。今の拍子に気管に紅茶が入ってしまったのだ。
「きゅ、急に変なことを言わないで、くださいっ」
咳き込みつつ立城はそう言った。あの時は歪みの力を吸うためにそうしただけで、他に意図はなかった。立城は苦しい息を吐きながら途切れ途切れの言葉で順にそう説明した。すると順が少し顔をしかめて頭をかく。
やっぱり長いですね……(汗)