※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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この程度はエロではない!w
なので、エロシーンはありません。


本当の魂の座 1

「仕方ないなあ。一個だけホントのことっていうか、オレのホンネ教えてあげるよ」

 

 ため息を吐きながら言って順は立城を指差した。

 

「アンタじゃ水輝ちゃんの運命ってヤツについてけない」

「……何でそう思うんですか」

 

 真剣な表情で言った順に立城はすぐさま切り返した。すると順が口許に嫌な嗤いを浮かべる。立城はじっと順の嗤いを見つめてからカップをテーブルに戻した。

 

「肉の器が壊れてからアンタが使ってた魔法。誰のおかげで使えたと思う?」

「おかげって」

 

 だってあれは宝珠を元に。そこまで言って立城は凍りついた。あの頃、立城は自分の宝珠を一つも持っていなかったのだ。立城は自分のではなく、真也の宝珠を使っていたということになる。が、本来、龍神は他者の宝珠を使うことは出来ない。そんな真似が出来るのは、水輝と目の前に座る順だけだ。

 

 愕然と目を見張った立城に順が薄く嗤う。

 

「アンタには断罪の印は降りない。おとーとクンが受け持っていた分は許容量いっぱいになっちゃったからね。はみ出した分は全部、水輝ちゃんが引き受けてたんだよ」

 

 立城は目を見張ったまま、順を見つめた。順は事もなげに肩を竦め、言葉を継ぐ。

 

「水輝ちゃんのカラダ、見たことある?」

「あ、ええ。ありますけど」

 

 そう答えてから立城ははっと息を飲んだ。あの時。確かに水輝の身体には傷があるように見えた。かつては当り前のように見えていたのに、そういえばどうしてこのところ見えなくなっていたのだろう。水輝は全身に古いものから新しいものまで、それこそ無数の傷を負っているのだ。

 

「あれね。断罪の印を事前に察知した水輝ちゃんが、強引に引き受けた結果なの。オレも自分がこーなるまで知らなかったんだけどねー。で、アンタが使ってた魔法はね。ホントはアンタには使えないもんなの」

 

 すらすらと説明する順の声は次第に遠くなっていった。愕然と目を見張る立城は順の声を妙に遠くに感じながら考えを巡らせた。水輝は転換期は危ないのだと言っていた。だがもしもその転換期がとっくの昔に迎えるべきものだったのだとしたら。

 

「……だからね。そんなことにすら気づけないんだから、水輝ちゃんには絶対についてけないよん。アンタに苦しい思いをさせないよう、水輝ちゃんがわざと進行速度を抑えてたんだもん」

「……僕は……何も」

 

 知らなかった。立城は震える声でそう呟いた。すると順が目を細めて低い声で言う。

 

「知らなかったじゃ済まない。知ろうとしない者はどんな情報も得る事は出来ない。逆に言えば、アンタは何も知ろうとはしてなかったんだ。情報は簡単に手の届くところにあったのに」

 

 冷ややかに言われて立城は伏せていた顔を上げた。思わず殴りたくなる。だがその衝動を立城は必死で堪えた。この怒りは恐らく図星を突かれた証拠だ。

 

「魔法ってのはつくづく便利だからねぇ。使いたくなるのも判るよ。実際、水輝ちゃんやあのお嬢さんはいとも簡単に使うしね」

 

 まただらしない笑みを浮かべて順が言う。立城はじっと黙って順の言葉に耳を傾けていた。順がお嬢さんと言い表したのは奈月のことだろう。

 

「コッチの世界の力じゃないじゃん? 元々。でも、何であんなことが出来るかってゆーとね」

 

 そう言って順が軽く床を踏み鳴らす。立城は訝りの眼差しで床を見つめた。

 

「星の力なの、彼らが使ってんのは。この世界の認めた座に就いてる二人だから、星も力を貸してんの。例えばオレなんかが使ってごらんよ。一発昇天間違いナシよ?」

 

 あはは、と気楽に笑って順が言う。立城はしばし床を見つめてからのろのろと顔を上げた。でも、と呟いて立城はカップを取り上げて乾ききった喉を紅茶で湿らせた。

 

「でも、魔法は本来龍神の力を導く鍵のような」

「そう。鍵だ」

 

 立城の声を遮って順がにやりと嗤う。立城はそれを聞いてようやく理解した。鍵の座にいる水輝はだから魔法を使うことが出来るのだ。そして奈月は恐らく水輝と共に生きるための座に就いているからこそ、魔法で力を導くことが出来るのだろう。龍宝珠界に生きる人々の使う魔法は、その素養がなければ絶対に使えないという。

 

「それでもアンタは使った。その代償は水輝ちゃんが支払ったんだよ。澱みを受け入れるって形で」

 

 だからアンタにゃ絶対、無理だって。そう言ってへらへらと笑う順を立城はぼんやりと見つめた。受けた衝撃が強すぎて思考の巡りが酷く鈍い。

 

「僕は一体、何なの?」

「えっとね。すっごくむかつくけど忠告だけはしてあげるね」

 

 やはりだらしなく笑いながら順が首を傾げる。

 

「自分の存在意義を決めるのは自分だよ。形を決めるのも、その道を選ぶのも自分以外にはいない。人に形をぜーんぶ決めてもらうなんて、そりゃあんまりにも横着ってもんでしょ」

 

 順が告げた言葉の一つずつが胸に突き刺さる。俯いた立城に順が間延びした声をかける。

 

「だからさあ。そーんな面倒なこと考えなくて済むんだしさあ。早いトコ、オレに乗り換えたら? 水輝ちゃんの行く道に付き合うなんて、辛くて苦しいだけだよん。女食いまくってるしね」

 

 嫉妬深いアンタには耐えられないしょ。そう言って順がからからと笑う。立城は訝りを覚えて顔を上げた。

 

「嫉妬深い?」

「……なに。もしかして気づいてないの!? アンタ!」

 

 呆れたような顔で順が叫ぶように言う。うわー、と情けない声で言って順が頭を抱える。言われた方の立城も低く呻きながら額を押さえた。

 

「そうか……僕は嫉妬深いのか……知らなかった」

「何でこんな鈍いのがいいんだろ。水輝ちゃんの趣味ってヘン」

 

 二人の声が重なる。立城はしかめ面をして目を上げた。するとのろのろと順が頭を上げて乾いた声で笑う。

 

「あなただって僕に手を出そうとしたでしょう」

「オレは単純にアンタの身体に興味があるんだってば。っと、今はヒューマノイドじゃないけど、生にももちろん興味津々だよ」

 

 口早に言って順がにっこりと笑う。立城はやれやれとため息をついて肩を竦めた。

「つまり僕の身体だけが目的ということですか。残念ながら、僕はあなたの身体には興味はありません。それに取引の形にするとしても、僕にはメリットはないですね」

 

 そう言って立城は微笑んでみせた。すると順がにやにやと人の悪い笑みを浮かべて顎をしゃくる。

 

「慰めてもらいたくないの? そのカラダ。肉の器吹っ飛ばされて、欲情しまくりなんしょ? でも、水輝ちゃんはただいま、優一郎くんとイイコト中。アンタまで面倒みてらんないし」

 

 すらすらと言われた立城は硬直した。その場に凍り付いて動けなくなった立城の隣に順がするりと身を滑らせる。立城の肩を腕で抱きながら順が耳元に囁く。

 

「水輝ちゃんは全力投球中。でないと、優一郎くんに負担かかるからねぇ。よっぽど大事なんだろうなあ」

 

 順がそう言いながら耳元でくすくすと笑う。立城はぼんやりとした目をテーブルに向けた。震え始めた立城の身体を順が抱き寄せる。




このエピソードで九章は終わりです。
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