※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


本当の魂の座 2

「まだ妊娠してないんだ?」

 

 そう囁いて順がするりと手を伸ばす。服越しに下腹部を撫でられた立城は悲鳴を上げて身を捩った。間遠になっていた感覚が戻ってくる。

 

「離してください!」

 

 必死で叫んで立城は順の腕から逃れ、立ち上がった。あらら、と情けない声を上げて順が肩を竦める。立城は警戒しつつ順から離れた。壁際まで離れてから立城は声を荒らげた。

 

「僕はあなたに抱かれるつもりはありません!」

「何で? オレ、アンタのことけっこースキよ? 前のアンタは癪に障るヤなヤツだったけど、今のアンタはそれなりにカワイイし」

 

 おいでおいでと順が呑気に手招きする。絶対に嫌です、と断言して立城は首を横に振った。仕方ないなあ、と順がゆっくりと腰を上げる。立城は蒼白になって慌てて駆け出した。今の自分では体力でも、龍神としての力でも対抗することが出来ない。立城は小走りにかけて応接室のドアに飛びついた。

 

 そこで真っ青になる。ドアが開かないのだ。

 

「結界で封印。ま、よく使う手だけど……気付いてなかったんだねえ」

 

 人の悪い笑みを浮かべて順が立城に向かって歩く。立城は歯軋りしてドアから離れ、暖炉の上に置いてあった花瓶を取り上げた。空っぽの硝子の花瓶を順目掛けて投げる。だが順はあっさりとそれを手で叩き落した。手当たり次第に物を投げつけ、立城は迫ってきた順の横をすり抜けて部屋の奥に向かって駆けた。だが攻撃に使えそうな物は残っていない。立城は舌打ちをして大きな窓に向かって走った。慌ただしく鍵を開けようとする立城に順がにやにやと笑う。

 

「無駄だってばー。だってココ、二階よ? 外に出てどーするの」

「あなたに触られるくらいなら、飛び降りた方がましです!」

 

 のんびりとした順の声に喚き返して立城はバルコニーに続く窓を開け放った。うわ、と慌てた声を上げて順が立城に駆け寄る。だがそれに構わず、立城はバルコニーの手すりを身軽に飛び越えた。地面に落下する寸前、立城の手首を順が捕まえる。

 

「離してください!」

 

 宙吊りにされながら立城は叫んだ。身を乗り出して立城の腕を捕らえた順が困ったように笑う。

 

「イ、ヤ」

 

 そう言って順が軽々と立城を引っ張り上げる。立城は順の顔が見えた瞬間、自由になる左手を振った。飛ばした立城の平手を順が右手できっちりと遮る。空振りした左手をバルコニーの手すりにつき、立城は身を屈めて強引に足を振った。飛ばした膝蹴りがきまる。小さく呻いた順が手の力を緩めた隙に立城は捕まれていた手を振り払った。バランスを欠いた立城の身体が不自然な格好で落下する。受身を取ることも間に合わず、立城はかたく目を閉じて衝撃に備えた。

 

 だがいつまで経っても衝撃が襲ってこない。恐る恐る目を開けた立城は絶句した。咥え煙草で水輝が楽々と立城の身体を受け止めていたのだ。

 

「……ったく、人が目を離した隙に」

 

 そう呟いて水輝が地面を蹴る。立城を両腕に抱えたまま、水輝は二階のバルコニーに飛び乗った。唖然とした顔をしていた順がうろたえ始める。

 

「てめえ。人の嫁に手を出すたあ、いい度胸だ」

「あ、いや、あのね? 水輝ちゃん?」

 

 あはは、と笑いながら順が後じさりする。水輝はそっと立城をその場に降ろして指を鳴らしながら順に歩み寄った。

 

「覚悟は出来てんだろうなあ? え? 順」

「あははははははははははは! や、やだ! 水輝ちゃん、目がマジ!」

 

 乾いた声で笑いながら順がじりじりと後退する。壁際まで追い詰められた順はそれじゃ! と声を残してその場から転移した。追い詰めようと歩いていた水輝がふん、と鼻を鳴らす。窓辺にへたり込んでいた立城は呆然と水輝を見つめた。

 

「……忙しいんじゃなかったの?」

「あー?」

 

 立城は冷ややかな目で水輝を睨んだ。すると水輝がしかめ面で頭をかく。水輝は立城に近付いてその手を取って引き起こした。立城はため息をついて立ち上がり、やんわりと水輝の手を退けた。

 

「助けてくれてありがと」

 

 小声で言うと水輝が別に、と低い声で言う。立城は開きっ放しになっていた窓を閉め、荒れた室内を片付け始めた。床に転がった調度品を一つずつ戻す。中には割れて使い物にならなくなってしまったものもある。立城は黙々とそれらを片付けた。水輝は壁に寄りかかって煙草をふかしている。

 

「旅行でもするか」

 

 ふと、水輝が言う。立城は戸惑いの目で水輝を見た。水輝が肩を竦めてコートのポケットから何かを取り出す。放り投げられたそれを受け取り、立城は畳まれたそれを開いてみた。

 

「温泉だと。手配は奈月がしてくれてる。あー……ええと、つまりだな」

 

 口を濁して水輝が頭をかく。立城はじっとパンフレットを見下ろしてから苦笑して顔を上げた。

 

「うん。僕、水輝と行きたい」

「うあ?」

 

 素直に言うと水輝が目を丸くして不思議な声を上げる。立城は丁寧にパンフレットを畳み直して小さく笑った。

 

「大丈夫。僕、そんなに無茶は言わない……あ。そうか」

 

 しばし思案してから立城は静かに水輝に歩み寄った。訝るように眉を寄せた水輝の手を取る。

 

「出来るだけ早くこの座に慣れるように努力するね。ちょっとむかつくけど、水輝が誰かと交わるのも我慢する」

「いや、あの、そうこられると……」

 

 困惑したように呟いて水輝が真っ赤になる。

 

「だから最後にはわたしの所に戻ってきてくれる?」

 

 そう告げると水輝が息を飲む。にっこりと水輝に笑みかけて立城……紫は首を傾げてみせた。

 

「ちょっ、ちょっと待った」

 

 焦ったように言って水輝がそっと手を解く。口に咥えていた煙草を傍の暖炉に放り込み、水輝はえへん、と咳払いした。

 

「覚悟、決めたんだな?」

「うん」

「後戻りは出来ないぞ? おれは相当ろくでなしらしいし」

 

 真剣な目で言って水輝がそっと手を伸ばす。引き寄せられるままに水輝に身を寄せ、紫は微笑んだ。

 

「知ってる」

 

 女たらしだし、ふらふらしてるし、一つ所に落ち着かないし。ずらりとそう並べ立ててから紫は小さく笑った。水輝があー、と間延びした声を漏らして顔をしかめる。でも水輝がいいから。紫は水輝に自分から抱きついてそう囁いた。水輝が紫の腰を抱き、身を屈める。

 

「子供、作るぞ。紫」

 

 間近で囁かれて紫は小さく頷いた。深い口づけを交わした後、水輝が紫を抱えたまま転移する。寝室に現れた二人は口づけを交わしながらベッドに倒れこんだ。




次はエピローグです。
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