これは別ですね。
エロシーンはありません。
「わたし、夢の中でお姉さんのことも大好きだったんです。楽しく遊んでる夢だったのに、そのはずなのに何かひっかかることがあったんです」
夢の中では感じてたはずなのにどうして忘れてしまったの? そう呟いて奈月が首を傾げる。水輝は苦笑して奈月を両腕に抱えて立ち上がった。滑らないように注意してバスタブの外に奈月を下ろす。続いてバスタブから出ながら水輝は告げた。
「そうだなあ。きっと覚えてなくてもいいことだからじゃないのか?」
水輝は奈月の背をそっと押して脱衣室に促した。奈月は大人しく水輝に従ってバスルームの扉をくぐる。水輝もそれについてバスルームを出た。
「そうですね」
屈託なく笑う奈月の身体をバスタオルで拭く。水輝はそれからしばらく、黙していた。互いの身体を拭いてから部屋に戻る。そこでようやく水輝はまた口を開いた。
「ま、疑問は早急に解決するに限るかな」
下着を選んでいる奈月の背後で水輝はそう呟いた。え、と奈月があどけない笑みを浮かべて振り返る。水輝は笑みで答えて天井を仰いだ。
「渚」
名を呼んだ瞬間、間近の空気が揺れて渚が現れる。その顔は不機嫌そうにしかめられている。水輝は現れた渚の肩を軽く叩いて奈月を見やった。奈月は唖然としている。その目は真っ直ぐに渚に注がれていた。
「渚って言うんだけどな、こいつ。おれの新しい女になったから」
そう奈月に言った瞬間、渚が水輝のわき腹を肘で打つ。いてえ、とぼやいて水輝は顔をしかめた。渚はそれまでの不機嫌さが嘘のように穏やかな笑みを浮かべ、奈月に優雅に一礼した。
「金色の姫君。再びお会いできて光栄です」
渚が優しい声音で告げる。どうせならおれとやる時もそういう声出せよ。水輝はしかめっ面でそうぼやいた。
「お、お姉ちゃん!?」
奈月が唐突にそう漏らして渚に駆け寄る。今度は水輝と渚が呆気に取られ、奈月を凝視した。奈月は渚に抱きついている。水輝は渚と顔を見合わせて首を傾げた。幾らリンクしていたといっても、もう奈月の身体に莢花はいない。なのに奈月は何故、こんな反応をするのだろう。
「……もしかして意識がまだ残ってるのか」
「それはないと思うけど……」
水輝は小声で渚とやり取りをした。すると奈月が渚の胸に押し付けていた顔を上げる。
「あっ、あの! すいません! あれ、あたし、いえ、わたし、なんで? あれ?」
慌てたように渚から離れて奈月がうろたえたように言う。どうやら奈月にも事態が飲み込めていないらしい。水輝は腕組みをして低く唸ってから奈月の額に手をあてがった。
「残り香かなあ……。それにしては嫌にはっきりしてるな」
呟くように告げて水輝は試しに奈月の思惟を覗いてみた。が、そこに特に莢花の気配はない。水輝は眉を寄せて渚をちらりと見た。渚も理由が判らないのだろう。困惑した面持ちをしている。
「ごめんなさい。夢で見たお姉さんにそっくりだったから。歩いて通うわたし達を自転車で追い抜いたりとか」
こちらも困惑した顔で奈月が言う。水輝は鼻の頭をかきながら苦笑した。
「まあ、おれと渚と莢花は兄弟として育ったからな。そういうことも実際にはあったんだが」
仕方ない、と肩を竦めて水輝は端的にかつて三人で暮らしていたことを奈月に話して聞かせた。それは奈月が生まれるずっと以前のことだ。水輝の話を聞いているうちに奈月の顔が強張っていく。奈月にとってそれは単なる夢でしかなく、現実にあった話とはまさか思っていなかったのだろう。
「結局、おれは渚を犯して妹に手をかけた。二人分の夜叉の力を得ようとした時点で多分おれは狂ってた」
そう語るうちに自然と水輝の表情は暗く沈んだ。決して思い出さないよう、想いごと闇に葬ろうとしていた記憶だ。そう水輝は言って言葉を切った。渚にとってもいい思い出ではないからだろう。渚も水輝の隣で少し顔を歪めている。
それまで俯き加減でいた奈月が顔を上げる。胸の前で手を組み合わせて奈月は涙の浮かんだ目をして言った。
「あのっ! わたしは死にませんから! 水輝さんが必用としてくださる限り、傍にいますから!」
だから。次第に奈月の声は小さくなって中途で消えてしまう。水輝は苦笑して奈月の頭に手を乗せた。撫でると奈月がまた俯く。
「ごめんなさい。水輝さんに何かを強制するような、我儘を言ってはいけませんね……」
「いや。嬉しいよ。ありがとう」
そう言って水輝は心の底からの笑みを浮かべた。奈月が顔を上げて驚いたような表情を見せる。水輝の隣で渚も仰天したように息を飲んだ。二人の反応をそれぞれに眺め、水輝はばつの悪さに顔を歪めた。
「んだよ。おれが笑ったらそんなに変か?」
何となく照れくさくて水輝はそれだけ言って二人から離れた。たんすに寄って下着を取り上げ、身につける。そこで水輝は二人を振り返った。
「水輝……。ああいう笑い方は不気味だからやめた方がいいわ」
そう言って渚が疲れたように首を振る。何だと、と声を荒らげつつ水輝はたんすに向き直った。
機械とはいってもまだちゃんと書けてないので……(泣)