急ぎで直しているので、変なところがあったらすみません!!!><
「水輝さん、失礼しました」
にっこりと笑って奈月は手を引っ込めようとした。その手を横から水輝がつかむ。
「謝ることはないだろ? 頼みたいことがあるっておれが言ったんだし」
「あ、あの?」
やり取りの意味が全く判らないらしい、店員が戸惑いの声を上げる。そこで初めて水輝はああ、と苦笑して店員を真っ直ぐに見た。
「デザインはこれで。サイズは彼女のよりワンサイズ大きいもので」
そう言いながら水輝が握っていた奈月の左手を店員の前に出す。奈月は水輝の意図を察して指がよく見えるよう、少し開き気味にして店員に見せた。店員が驚いたように奈月の手と水輝の指に握られた指輪を見比べる。水輝はそんな店員の前に握っていた一つの指輪を置き、スーツのポケットに手を入れた。
小さな宝石箱を二個、水輝が取り出す。
「オーダーメイドでエンゲージリングとマリッジリングをワンセット。残った石はそちらで処分していただくということで、どうですか?」
そう言いながら水輝が目の前の指輪の入った箱をテーブルの脇にずらし、手にしていた宝石箱を二個乗せる。蓋を開いた宝石箱を店員の方に向け、水輝はにっこりと笑った。
水輝の開けた宝石箱には二種の宝石が入っていた。片方は目の覚めるような青いサファイアだ。もう片方は。
「こっ、こっ、これは!」
素っ頓狂な声を上げて店員が立ち上がる。ちょっとお待ちください、と猛烈な勢いで言ったかと思うと店員は店の奥に向かってすっ飛んでいった。それを目で見送った水輝がくすくすと笑って椅子に深く寄りかかる。奈月もテーブルに乗せていた手を引っ込めて小さく笑った。
「水輝さん、わたし、本当に今日ほど幸せな日はありません」
「あー? 何でだ?」
誰もいないことで緊張が緩んだのだろう。水輝がいつもの口調で言う。奈月は片方の宝石箱をそっと取り上げて微笑みを浮かべた。小さな箱の中には丸いままの美しいアレクサンドライトが入っている。
「わたしよりも一号大きいということは、紫さんに贈られるんですよね」
奈月は喜びに目を潤ませながら言った。すると水輝が顔をしかめ、照れくさそうに頭をかく。だが水輝はいつものように奈月の言ったことを否定しない。
「まあ……な」
殆ど聞こえないくらいの小声で水輝が答える。だから水輝はこの店に奈月を連れてきたのだろう。そのことも奈月にははっきりと判っていた。指輪のサイズは人それぞれに違う。奈月の指よりほんの僅かだけ、立城が女性体を取った時の指が太いのだ。
「いや、渚を連れてこようかとも思ったんだが、あいつの場合は……その、何ていうか」
しかめ面のままで水輝がぼやくように言う。奈月は手にしていた宝石箱を静かにテーブルに戻した。
「わたし、水輝さんと紫さんが結ばれる時が来るのをずっと夢見てきました」
喜びを満面に表して奈月は言った。水輝がほんの少し顔を赤くしてそっぽを向く。そうかー? と間延びした声で問われて奈月は力強く頷いた。
「ほんとうに嬉しいです!」
「いや、判ったから。照れるから力説しないでくれ……」
俯いて顔を覆った水輝が低く呻く。だが胸の前で手を組み合わせ、うっとりと天井を見上げる奈月の頭には一気にゴールインする水輝と立城の姿が思い浮かんでいた。
「結婚式はいつくらいを予定されてるんですか?」
皆に祝福される幸せなカップル像を思いながら奈月はそう訊ねた。うわあ、と水輝が力なく声を漏らす。だがそこで奈月ははっと気付いた。結婚と言えば花嫁はウェディングドレスを着なければならない。やはり指輪同様、ドレスも一生ものなのではないだろうか。いや、もしかしたら神前結婚かも知れない。そうなると花嫁は白無垢になる訳だが、その場合にもやはりしっかりと婚礼衣装を仕立てた方がいいのではないか。妄想に耽る奈月の頭には次々と花嫁のビジョンが思い浮かぶ。
「水輝さん、わたしにできることなら全力で協力しますから、なんでもおっしゃってくださいね!」
力強く言いながら奈月はいつの間にか立ち上がっていた。それまで俯いていた水輝が力なく笑って奈月を見る。
「あ、とりあえず奈月にいま出来ることは」
大人しく座ってくれ。そう言われて奈月は慌てて椅子に座り直した。
「ごめんなさい」
しょんぼりとする奈月の頭を水輝が撫でる。いいって、と苦笑されて奈月は唇を引き結んだ。やっぱりあんまり派手にするのは良くないのかも知れない。が、やはり祝い事とは皆で盛大に喜びを分け合った方がいいのではないか。奈月はそんなことを一人、悶々と考え続けた。
数分後、立ち去った時と同様、凄い勢いで店員が戻ってくる。その後ろからは年配の男性店員もついてきた。どうやら店長らしいその男性と水輝はやがて、綿密な打ち合わせをし始めた。その合間に水輝がふと、奈月に目をやる。
「奈月。指のサイズは測ってもらったし、暇だろう? 店内の指輪を見せてもらったらどうだ? 気に入ったのがあったら一緒に買おう」
そう言って水輝がにっこりと奈月に笑みかける。どうやらまだ仕事は残っているらしい。奈月はそう判断して水輝に頷いた。話からあぶれていた女性店員が奈月を連れてフロアに戻る。