※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

27 / 174
エロシーンはありません。
奈月がふわふわしてますけどもw


奈月の夢のような時間は続く 4

 奈月が濁った力のこもった宝石を片っ端から浄化し、水輝が店長との打ち合わせを終えたのは夕方近くになった頃だった。相当の上客と判断されたらしい水輝と奈月を店員が全員揃って見送る。度肝を抜かれたように目を見張る学が恐る恐る奈月に耳打ちする。

 

「な、何事?」

 

 もしかして水輝君、しくじったの? ドアを開けてくれた学に言われ、奈月は小さく首を横に振った。

 

「あの、水輝さん、紫さんと婚約されるんです!」

「うお!?」

 

 学が声を上げて水輝を凝視する。しまった、という顔になった水輝が慌てて学の口を手で押さえる。その意味が理解出来ないまま、奈月はなし崩し的にロールスロイスの後部席に放り込まれた。続いて水輝が乗り込み、自分でドアを閉める。慌てたように運転席に乗り込んだ学が車を発進させる。

 

「絶対、言うなよ! お前、もし誰かにばらしたらリンチだからな!」

 

 走り出した車の中で水輝が運転席に座る学に喚く。だが学はにやにやと笑ってミラー越しに奈月に目配せする。奈月もにこにこと笑ってその視線に応えた。

 

「きゃああああああああああっ。やっとよ、やっと覚悟を極めたわ、このオトコ! んまあ! 早速みんなにメールをしなきゃ!」

「するなっつってんだろが!」

 

 怒鳴る水輝の声を無視して学が甲高い声を上げる。

 

「あれね! 結婚式は盛大にばばーんとやってちょうだい! ご祝儀はずむわよぉ!」

 

 どうせなら吉良瀬グループのホテルにしなさい。一方的に言いながら学が機嫌よくハンドルを切る。何を言っても無駄と悟ったのだろう。水輝が情けない声で呻きながらシートに身を沈める。

 

「はーい、アタシよ、アタシ! 明日の仕事、全キャンセルしてちょーだい! ……え? 大事件なのよぅ!」

 

 嬉しそうに学が大声で話を始める。どうやらどこかに電話をかけているらしい。それに気付いた水輝が慌てたように運転席に取りすがる。

 

「ロールス転がしながら携帯で喋るの、やめろ!」

「それがねー! ……って、え? あらやだ。……ふむふむ」

 

 途中まで歓声を上げていた学が急に声を沈める。異変に気付いたらしい水輝も学を怒鳴るのをぴたりと止める。奈月は不思議な気分で二人の様子を伺った。

 

「そりゃあ、まずいことんなったわね……。アソコには潜入作戦中のコたちがいるのよ?」

 

 そう言って学がちらりと室内ミラーを覗く。その目にはさっきまでのはしゃいだ色はない。

 

「まあ、通信士のコたちに伝令飛ばして緊急召集かけてちょうだい。……そう。一応、こっちでも網は張ってたつもりだったんだけどねぇ……」

 

 ひとしきり話をしてから学がため息をついて電話を切る。

 

「何事だ」

「木村インテグレーションが逝っちゃったわ。今から三十分前、会社に警察が乗り込んだそうよ」

 

 低く呻くような声で言ってから学が深いため息をつく。それを聞いた水輝が目を吊り上げる。

 

「何で木村に手を出したんだよ! 出すなっつったろうが!」

「仕方ないでしょ! 内部調査も兼ねてたんだから!」

 

 水輝に負けない勢いで学が怒鳴り返す。それを聞いた水輝は舌打ちをしてシートに戻った。ネクタイの結び目に指を入れて一気に解く。奈月ははらはらしながら学と水輝とを見比べた。どうやら学の仕事先でトラブルが起こったらしいということは判る。

 

「七面倒だ。そいつらのデータ寄越せ。おれが直接、乗り込んで跳ばしてやる」

「は?」

 

 運転しながら学が大きく目を見開く。だから、と水輝は苛立たしそうに声を上げて学の頭を帽子ごとつかんだ。

 

「お前は情報操作してろ。その程度はお手のもんだろ」

「ち、ちょっと待って! いやぁん! 頭の中覗かれると、蛆虫が大量に通ってるみたいな感じして嫌なのよぉ!」

 

 悲鳴を上げて学が嫌がるように頭を振る。だが水輝は頑として学の頭を離さなかった。数秒後、水輝がよし、と頷いてぱっと手を開く。ううう、と情けない声で呻いて学がハンドルに身をもたせかける。

 

「これって強姦よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「やかましい!」

 

 そう言った直後、水輝の姿がその場からかき消えた。奈月は何が何だか判らず、ただ驚きに目を見張って周囲を見回した。

 

「あの、何があったんですか? 水輝さんは!?」

 

 焦って言いながら奈月は運転席に座る学にとりすがろうとした。が、それまでしくしくと口で言っていた学が唐突に笑い出す。

 

「なーんちゃって。全く、水輝君もそそっかしいわよねー。深層心理まで読めばアタシの考えてることくらい、わかるでしょーに」

 

 楽しそうに言いながら学が片手で携帯電話を操作する。奈月はえっ、と息を飲んで学の顔をミラー越しに凝視した。

 

「アタシが保険かけてないとでも思ってんのかしら? ……あー! アタシよー! 元気してるー?」

 

 学が明るい声で電話に向かって言う。それを聞きながら奈月は恐る恐る後部席に戻った。もしかしたら学は最初から水輝がいないこの状況を作るために騒いだのではないだろうか。が、全くの嘘なら幾らなんでも水輝は気付く。恐らく学の言ったことそのものは嘘ではない。ただ、水輝がわざわざ出向く必要性はないということだ。

 

 不意に隣の空気が揺らぐ。身構える間もなく、奈月の真横には見知らぬ青年が現れた。

 

「っと! さっすが伝説の人だなあ。速いや」

 

 感心したように言ってから青年が奈月にぺこりと頭を下げる。

 

「すんません、お邪魔します。見知らぬ人」

「はじめまして、わたし、吉良瀬奈月と申します」

 

 青年ににっこりと笑って奈月は自己紹介した。するとおお、と青年が目を見張って奈月に再度、頭を下げる。

 

「これはご丁寧に。ええと、俺は渡部って言いまして」

「ちょっと耀クン! 奈月ちゃんに挨拶もいいけど、アタシにも報告しなさいよっ!」

 

 っていうか、声くらいかけてよぉ! そう喚いた学に耀が笑ってまあまあと声をかける。その名に妙に覚えがある。奈月はしばし眉を寄せて考えを巡らせた。

 

「おっ! なに、学さん! ロールスロイスじゃん、これ!」

 

 奈月の乗る側とは反対の窓に張り付いて耀が歓声を上げる。あの、と声をかけようとした奈月の目の前の空間が再び揺らぐ。身構えた奈月の横に今度は若い女性がスーツ姿で現れる。続いて何人も人が空間を跳んでくる。あっという間に広々としたロールスロイスの車内は人の賑わいでいっぱいになった。

 

 お祝い事だから大勢で祝った方がいいに違いない。そう確信しながら奈月は一人、力強く頷いた。




学もノリノリですw
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。