優一郎ほどではないのですが、二章を丸々間違えていたので原稿入れ替え頑張り中!(泣)
電話を切った優一郎は深々とため息をついた。立城は何事もないだろうと言っていたが、その言葉には何の保証もなかったのだと優一郎は改めて思い知らされた。まだ耳には電話の向こうの泰蔵の楽しそうな声が残っている。疲れたため息をついて優一郎は立ち上がった。
それまでのんびりと優一郎の隣で編物をしていた斎姫も不安そうな顔で手を止めている。
「とりあえず、母上については、定時連絡までは待ってみるとして、こっちですぐに動くしかないね」
そう言いながら優一郎は自室の奥にある机に向かった。斎姫が小さなかごの中に網掛けのセーターを置いて、優一郎の後を追う。
「優くん、動くって?」
まだ不安そうにしている斎姫に傍の椅子を勧めてから優一郎は机についた。端末を立ち上げて現在稼動中のヒューマノイドの数を調べる。どうやら保美はかなり早く仕事をしてくれているらしい。秘書型のヒューマノイドも辛うじて一体は稼動試験に入っている。
「戸籍だよ。もうこの際だからきっちり都合のいいように決めてしまおう」
吉良瀬グループの所有するコンピュータの中でも頂点に位置しているメインコンピュータにアクセスする。優一郎は慣れた手つきでメインコンピュータから情報を引き出しつつ、片方で保美に連絡を取った。保美もどうやら吉良瀬当主が婚約するという騒ぎになっていることは知っていたらしい。すぐに情報操作をします、と応えて通信を切ってしまった。優一郎は受話器を一旦、置いてから今度は総一郎に電話をかけてみた。
繋がればいいけど。そう思いながら優一郎は懐かしい番号に連絡した。だが案の定、相手が出ない。どうやらあの研究所付きの吉良家は放置されたままのようだ。優一郎は受話器を置いて仕方なく渚を呼んだ。
「何か用?」
酷く不機嫌な面持ちをした渚が傍に現れる。相変わらず優一郎に対しては特に敬愛の情を抱いてはいないらしい。だが今はそんなことを気にしている余裕はない。マスメディアの動きは恐ろしく速いのだ。
「父さ……吉良総一郎博士に至急で確認してきてほしいことがあるんだ」
まあ事後でも怒ったりはしないと思うけど筋は通さないとね。そう優一郎は続けて渚を見た。渚はこれ以上はないというくらい、不機嫌のようだ。もしかしたら怒りを感じているのかも知れない。が、渚はそう、と言っただけで他には何も言い返さなかった。
「僕の戸籍を、総一郎博士と紫さんの子供だと書き換えていいか確認して来てほしい」
「……判ったわ」
凄まじく嫌そうな顔をしつつ渚が姿を消す。幾らかつて風龍神の使い魔だったとは言っても、渚も一気に総一郎の元に跳ぶことは出来ないだろう。返事を貰うには多少の時間がかかる。その間に優一郎は別の人物の戸籍を見た。
そもそも神埼紫、というのは立城の別の名前でその名を持つ人物は戸籍上には実在しない。
「吉良瀬ゆかりとでもしてしまうか」
優一郎は画面を睨みながら呟いた。どちらしろ、立城が婚約するとなると相手は水輝以外の何者でもないだろう。が、水輝は生憎と女性体になることが出来ない。水輝の女の部分は完全に切り離されているからだ。それに立城には斎姫や奈月といった、養女的な間柄の娘がいる。その上、多輝の育ての親も立城になっている。吉良瀬当主が立城の名のままだと戸籍上では酷く面倒なことになってしまうのだ。
幸い、吉良瀬当主という仮の名だけが一人歩きしており、実際に立城の名を知る者はごく限られている。それと同時に吉良瀬当主の正体そのものが謎とされていたりもする。立城という名が当主だろうが、紫がそうであろうが世間的には大した差はない。
「君は施設から引き取られた養女という今の設定でかまわないかい?」
どうせ操作するなら一人分も二人分も変わりない。優一郎が問い掛けると斎姫は静かに頷いた。
「奈月さんは、故木村武氏と真琴さんの娘で吉良瀬結花さんの孫だと言う縁で引き取られたということにして」
戸籍を慌ただしく調べながら優一郎は次々に操作を加えていった。本来ならば奈月は木村武という人物の妹として作られた。が、そのまま戸籍を残すと厄介なことになる。何しろ武はこの世から去っているが、その妹である奈月は現役の高校生のような容姿をしているのだ。どう考えてもありえない。
「僕の戸籍を操作したのは保険だ。最悪の場合」
そこで言葉を切って優一郎は手を止めた。隣に座る斎姫を真剣な表情で見つめる。
「君と僕が婚約するという発表をする」
かまわないかい? 斎姫を真っ直ぐに見つめながら優一郎はそう言葉を継いだ。すると斎姫が目に見えて慌てる。
「えっ! あのっ! その、わたし!!」
真っ赤になって斎姫が視線を彷徨わせる。優一郎は斎姫につられて頬を赤くした。頭をかきながら少し小さめの声で言う。
「とりあえず、いつかはそうなるという事は覚悟しておいてもらうとして、今回は水輝さんがしくじった時の保険だということで」
そう言ってから優一郎ははっとした。これはプロポーズなのでは。言った優一郎本人がその言葉にびっくりして目を見張った。が、優一郎を見つめる斎姫は目を潤ませている。
「優くん、わたし……あっ」
力なく椅子からずり落ちた斎姫が床にへたり込む。その直後、斎姫のスカートの裾から白い蒸気が上がった。どうやら緊張と興奮により、機体内部の熱が一気に上がったらしい。優一郎は落ち着いて、と声をかけながら斎姫の手を引いて立ち上がらせた。改めて椅子に腰掛けた斎姫が真っ赤な顔で優一郎を見つめる。
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていいから、開脚して股間を冷却するんだ」
それならこっちの方がいいかな。そう思いながら優一郎は斎姫にメンテナンス台を勧めた。すると斎姫が大人しく頷いて台に上がる。スカートをめくり上げた斎姫の股間を隠す下着はない。
「セックスしてあげたいけど、こういう事態だから……ごめん」
晒された斎姫の股間は濡れそぼり、尿道口からは時折、微かに蒸気が上がっている。斎姫は目を潤ませつつ首を小さく横に振った。
「多輝は今の雨宮姓のまま、遠縁のゆかりさんが後見人ということにして」
口の中で呟きながら優一郎は端末に向き直った。背後で時折、斎姫が蒸気を噴く音がする。優一郎は斎姫を見たいという欲求を抑えて、端末を操作した。多輝の場合は父や母といった戸籍が残されていないのが幸運だ。都合のいいように幾らでも書き足すことが出来る。それらの戸籍をでっちあげてからふと、優一郎は多輝の戸籍の性別を示す欄が長男になっていることに気付いた。その場所を長女に書き換え、ついでに年齢を優一郎たちと同じに直してから登録し直す。
問題は水輝だ。水輝はかつて三兄弟として池田の戸籍を持っていたが、事態が解決した折に立城によってその戸籍は完全に消されている。その後、水輝の戸籍は吉良瀬の養女とされたままこれまでずっと放置されていたのだ。
「池田家はまるごとでっちあげるしかないな」
優一郎はそう言って頷いて水輝の戸籍を作った。ついでに渚を水輝の姉に設定する。そこまで優一郎が作業を終えたところでタイミング良く渚が戻ってきた。
「行って来たわ」
渚はやはり不機嫌なままだ。低い声で言った渚に優一郎は笑みかけた。渚がちらりと優一郎の背後の斎姫に目をやる。
「ゆかりさんを三十五にするから、ぎりぎり年齢の釣りあいと容姿を考えて二十九と、渚さんは申し訳ないけど三十だな」
「私、そんな歳まで生きたことはないわ」
仏頂面で渚が言う。優一郎は申し訳なく思いながら渚に軽く頭を下げた。
「申し訳ないですけど、書類上のことですから」
「……吉良博士の伝言を伝えるわ。『うむ』ですって」
眉をこれ以上はないというほど強く寄せ、渚が言う。それを聞いた優一郎は判りましたと頷いた。
「もう、用はないわね? じゃあ」
そう言って渚が儀礼的に優一郎に礼をする。優一郎は渚に首を振ってみせた。
「待ってください。水輝さんのところに一緒に行きましょう」
そう言いながら立ち上がり、斎姫に向き直る。まだ赤い顔をしている斎姫を見つめ、優一郎は告げた。
「斎姫。申し訳ないけど、電源切らせてもらうよ」
放置しておくと壊れそうだし。そう続けて優一郎は斎姫のへそに手を滑らせた。頷いた斎姫が目を閉じたところで電源を切る。すると斎姫は股間を晒した状態で完全に静止した。
「先に行くわよ」
愛想も何もない声で言って渚がその場から姿を消す。
「相変わらずだなあ」
やれやれとため息をついて優一郎は机の下からトランクを取り上げた。渚を追って転移する。
途中なのですがかなり長いのでここで切りました。