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「立城さん。組織のほうはどうされるおつもりなんですか?」
静かな問いに立城は振り返った。優一郎はいつの間にか作業の手を止めて立城を見ている。その目には少し心配そうな感情がこもっている気がする。立城はそうだね、と呟いて鈴に目を戻した。
「どうしようかと考えているところだよ」
吉良瀬と木村の力は大きくなりすぎてしまった。現実の人間社会に多大なる影響力を持つ二つの財閥は、今の世界にはなくてはならない存在にまで成長した。だがそれが必ずしもこの世界に役に立っているかと言えば、少々疑問がある。結局のところ、この二者の財閥があるが故に成長の遅れている分野が必ずある筈なのだ。
真也はもう、当分は世界に帰ってこないしね。立城は内心で呟いてじっと鈴を見下ろした。あの時、如月の別荘で見た鈴には間違いなく真也の魂の欠片がこもっていた。もし、それを集めて元の形に戻すことが出来たなら、白銀の命と引き換えに蘇らせることが出来るのではないか。白銀は銀龍神だ。銀龍神の司るのは命。自身の命と引き換えに他者の命を蘇らせることが出来る。反魂の力を持つのが銀龍神なのだ。
だがそれは結局、甘い夢だった。夢は夢だからね。立城は心の中で呟いて苦笑した。今はもう、鈴からは真也の気配は感じない。
「歪みが蔓延し、災害が頻発している今、吉良瀬はさらなるリーダーシップを求められています。今のこの国は吉良瀬と木村の存在で成り立っていますからね」
淡々と優一郎が告げる。立城は苦笑を浮かべて振り返った。既に作業は終了したのだろう。斎姫の股間は元通りにされている。
「木村には絵美佳さんが行っているらしいね。どうする? 君もあちらで尽力するかい?」
そう訊きながら立城は手近な椅子に腰を下ろした。白衣の裾が割れて白い足が覗く。
「僕は、母上の息子ですから」
「そして彼女には木村の血が流れている。……結局、誰も血には逆らえないということかな」
苦笑しながら立城は足を組んだ。ミニスカートから伸びた白い脚が惜しげもなく晒される。腕組みをして吐息をつき、立城はかけていた眼鏡を外した。これももう用なしかな。そう呟いてみる。
「水輝さんのおかげで、マテリアルが数十体ぶん集まりました。春までには全て、ヒューマノイドとして完成させるつもりです」
そう言いながら優一郎が席を立つ。立城はゆっくりと壁沿いに歩く優一郎を目で追った。金属製の棚の中から優一郎が大きな宝石箱を取り上げる。立城は組んだ足の上に肘杖をついて口許に淡い笑みを浮かべた。
「買い叩けば良かったのに。闇市場に流れる前に水輝から直接買えば、もっと安かったと思うよ」
優一郎が空いた机に箱を乗せて蓋を開く。そこには色とりどりの宝石が詰まっていた。中でも一際鮮やかなのは淡い紅色をしたピンクサファイアだ。
「裏の流通に大口顧客として繋ぎをとっておいて損はないでしょう?」
笑い混じりに言いながら優一郎が箱の中から大きなルビーを取り上げる。どこから入手したのだろう。それは恐らく門外不出の品、決して日の目を見ることのなかった筈のものだ。
「まあね。昨今では龍宝珠そのものも出回りつつあるらしいからね。……全く、世も末だよ」
冗談を言いながら立城は立ち上がった。机に寄って箱の中を覗く。ルビー、サファイア、ダイヤ、真珠、中には金や銀の塊もある。立城は大小の輝きをしばしぼんやりと見つめた。
化け物じみているね、本当に。今はいない水輝にそう心の中で囁いてみる。どこまでもごく当り前に水輝はこういった石を力で構成してしまう。だがその技は誰にでも出来るものではない。
「でも、龍宝珠は良く公園とかに落ちてましたし」
「いや、そういうケースは極稀。……というか、君の周囲に限られる環境じゃないかな、それ」
立城は横目に優一郎を見ながら深いため息を吐いた。恐らく総一郎の周囲にそういったモノが寄ってくるのだ。だがその本質については総一郎はさして気にしていないようで、今も呑気に龍宝珠界で何かの研究をしているらしい。
「そういえば、ドラゴンレーダーはまだあるのかな?」
感慨深いもののこもった優一郎の言葉に立城はくすくすと笑った。
「あの博士は本当にアニメーションが好きだった……いや、今でも好きなのかな? この間は怪盗セットだといって僕に面白いものを送ってくれてね」
どうやら総一郎は今度は新しく怪盗もののアニメーションに目覚めたらしい。立城の屋敷宛てには様々なアイテムが送られてくる。郵便配達をする者もきっと不思議に思っているのではないだろうか。何しろ差出人の住所は読めない文字で書かれているのだ。きっと宛名書きをしているのは龍宝珠界に住まう誰かなのだろう。
「でも、今の時代、スカウターもドラゴンレーダーも充分実用性があるような気がするかも」
顎に手を当てて思案顔で優一郎が呟く。そうだね、と立城も考えながら答えた。
「どこかの誰かはきっと懸命に金龍神の宝珠を探しているしね。何なら作って売りつけてみる?」
くすくすと笑って立城は言った。宝石箱の中から淡い紅色のサファイアを取り上げる。美しいカットの施されたそれには水輝の力がこめられている。明かりを煌びやかに反射するそれを立城はしばし見つめた。
「それ、気に入られましたか?」
「あ、ごめんね。ちょっと見ていただけだから」
にっこりと笑って立城は宝石箱にピンクサファイアを戻した。優一郎がそんな立城の手の動きを目で追う。立城は隣に立つ優一郎に柔らかい微笑を向けた。
「まだ、水輝さんに会う気は無いんですか?」
静かに優一郎が問う。立城は口許に浮かべていた笑みを苦笑に変えた。それから少しだけ俯く。
「ごめんね。我侭を言って。でも出来るだけ手伝いはするから」
そう言いながら立城は再び宝石箱に目をやった。色とりどりの宝石の中に一つだけないものがある。立城は無意識に寂しい笑みを浮かべていた。
こう……立城が執着してる部分の説明的な感じになってます。