※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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立城がのんびり温泉入ってます……w
となると、まあ、色々寄ってくるわけで。


温泉宿でくつろぎたかっただけなのに 1

 のんびりと手足を伸ばしてから立城は透明感のある湯をすくって顔を洗った。あまり人に知られていないこともあって、この温泉宿はとても静かだ。周囲を山に囲まれかなり冷え込む土地柄だが、宿の作りがしっかりとしているため、寒さに凍えてしまうことはない。露天風呂にゆったりと浸かりながら立城は周囲の景色を眺めた。

 

 はらはらと雪が落ちてくる。湯に落ちるそれを眺めて立城は小さく笑った。こんな風に一人きりで旅行をするのは初めてだ。いや、旅行そのものにしても学生の時に皆で修学旅行などに参加したことくらいしかない。

 

 立城は清陵高校を出てから一人で電車を乗り継ぎ、気がついたら随分と山の置くまで来ていた。たまたま通りかかった宿がここだった訳だが、どうやらこの宿は当たりだったらしい。宿の主人であるおかみは立城のことを細かく問わないし、要らぬことを勘ぐったりもしない。他に数人ほどいる客たちもそんな宿の雰囲気が気に入っているのだろう。やはり立城と同様、幾日もかけて温泉を堪能しているようだ。

 

 頭に巻いたタオルを直しながら立城はぐるりと周囲を見た。岩で出来たこの露天風呂はとても広く、一人で入っているのが勿体無いくらいだ。雪や雨を凌げるよう、風呂の一部分には竹で組まれた屋根もつけられている。少し行くと打たせ湯なども設えてあり、そこからは外の景色が一望できるようになっている。この季節だからなのか、周辺の山々は雪で真っ白に染まっている。だが夜のため、いまはその様子も見えない。そのかわり空が晴れていたらきっと満天の星を望めるはずだ。

 

「いいよね。こういうところって。水輝も好きそうだな」

 

 料理は美味しいし、おかみは美人だし。何気なくそう呟いてから立城は顔をしかめた。岩の一つに寄りかかりながら立城は深々と息をついた。離れていても考えてしまうのはひょっとして病気の一種なのだろうか。自分のことをそう勘ぐりながら立城は小さく首を横に振った。考えても無駄だ。どうせ今ごろ、水輝は奈月や渚と仲良く楽しい時間を過ごしているに決まっている。

 

 急に温泉を堪能する気分ではなくなり、立城は露天風呂を出た。硝子扉を通って室内にある風呂に戻る。この宿は室内風呂と露天風呂が扉一枚で繋がっているのだ。ちなみに室内に作られた風呂は檜風呂で、露天風呂とはまた違う趣がある。だが立城はその風呂を素通りして脱衣室に戻った。

 

 ここの風呂は二十四時間、いつでも入れるように整えられている。天然の温泉の効能は確か美肌効果と打ち身、切り傷だっただろうか。そんなことを思い出しながら立城は手早く身体を拭いた。

 

 もう少し。そうしたらきっと力が戻る。それから宿を移りつつ姿を変えればいいのだ。子供の姿がまずいなら、女性の姿を取ってもいい。立城はぼんやりと考えを巡らせながら浴衣を身につけた。

 

 今日は食堂で頂きます。部屋に戻る途中、立城はおかみにそう声をかけた。するとおかみが笑顔で頷く。立城は部屋に戻って服を置くと、すぐに食堂に向かった。この宿では個室か食堂のどちらで食事を取るかを客の自由に決められる。一人で静かに部屋で食べるもよし、食堂で山の景色を見ながら食べるもよし、客の自由だ。

 

「さすがに部屋で食べるのは飽きたし」

 

 それにそろそろ、限界だしね。立城は内心でそう付け足しながら食堂に入った。さすがに泊り客そのものが少ないからなのか、食堂にいたのは男性客が一人だけだった。立城は目が合ったその客に会釈をしてから離れたテーブルについた。ほどなく食事が運ばれてくる。

 

 地物の野菜を使った漬物や煮っ転がし、豆腐鍋などを中心に立城の頼んだ料理は肉や魚が殆ど見当たらないものだった。使われる出汁など用いられている程度だ。立城は手酌で徳利に入った日本酒を味わいながらのんびりと料理を口にしていった。

 

 ふと、視界が暗くなる。立城は目を丸くして振り返った。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

 さっき見かけた年若い男性が頭をかきながら言う。立城は少し迷ってから笑顔でなんでしょう、と答えた。年の頃は二十代半ば。人にしてはまあまあの容姿をしているだろうか。どちらかというと運動の得意なタイプではなく、机に向かっている方が好きそうなタイプに見える。素早く男性をそう検分して立城は首を傾げた。照れているのか頬を薄赤く染めた男がそわそわと視線を逸らす。

 

「じ、実はちょっとお願いがあって……あ! ええと、俺は大下弘一って言います。あなた、少し前からここに泊まってる人ですよね?」

「ええ、そうですけど」

 

 そう答えてから立城はちょっと迷った。ここで名乗っても大丈夫だろうか。だが宿帳を調べれば容易に名前くらいは見つけられる。立城は大丈夫だよね、と内心で呟いてから弘一ににっこりと笑みかけた。

 

「ぼ……わたしは神崎紫といいます」

 

 つい、癖で僕と言ってしまいそうになった立城は慌てて言い換えた。だが立城の様子の変化には気付かなかったのだろう。弘一が嬉しそうに笑って神埼さんですか、としみじみと言う。特に珍しい名前じゃないよね。立城は余りにも弘一が嬉しそうに笑っているので自分で言った名を心の底で繰り返した。




色々堪能するなら、そっちも堪能しようかな、という感じでしょうか(棒
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